「神様・・・・暑いですよねえ・・・」
十二単を着込んだ「お歯黒」の女性が神様に同意を求める。
「そうじゃなあ・・・・マロも暑いぞよ」
神様なら・・・気温なんかも自由自在に変えることが出来るはずなのに・・・・この神様は自由気ままな神様でめんどくさいことが嫌い・・・・
だから暑いときは暑いまんま・・・そのまま乗り切るか・・・どこか涼しいところに旅行に行こうかなんて考える神様でした。
「ねえ・・・こんなときは”あの世”とやらに行ってみませんこと?」
「ああ・・・人間どもも・・・暑いときは”お化け屋敷”に行くらしいから・・・いいかもね?」
「でも、そう聞いたから・・・・この前の神社のお祭りのときも、見世物小屋がたくさんあって・・・その中のお化け屋敷に行ってみたんですのよ」
「ほほう・・・・マロはまだ入ったことがなんじゃが・・・どうだ涼しくなったか?」
「それがゼーンゼンダメ!・・・・涼しいどころか、冷房もなければ締め切った空間で空気もよどんでましたし・・・暑苦しいったらありゃしない!」
「だろうなあ・・・・・怖いものを見ると涼しくなるっていうけど・・・気温が変わるわけじゃなし・・・涼しくなるわけがない」
「だから、・・・・本物のあの世に行きましょうよ・・・あそこならいついっても適温だっていうし・・・ね・・・神様いいでしょ?」
こうして神様とお歯黒女官は「あの世」に旅立つことにしたのです。
目的は・・・「涼みに行くこと」・・・ただそれだけ・・・・
でもとりあえず、自分の職場を離れるときは、神様といえども、「神様連絡協議会」への届出をしなければなりません。
許可は簡単に降りるでしょう。
なぜなら日本には800万人の神・・・「八百万の神」がいらっしゃいますから、ひとりぐらい休んでも・・・なんとかなるんです。
これがキリスト教やイスラム教なんかでは・・・唯一神ですから・・・少々風邪をひいたぐらいでは休めません。
その点、「日本の神様でよかったなあ・・」なんて思う神様でした。
でもとりあえず・・・誰かを代理に残していかなければなりません。
「そうだなあ・・・あの吉田老人なんかどうだ?」
前回の「神様シリーズ」で・・・神様の代役を立派に務めた・・・少々ぼけ始めている老人ですが・・・
「あの方・・・駄目ですわ・・・・だって、神様とお付き合いが始まったら不思議なことがいろいろ起こるんで・・・ボケがいよいよ進行しちゃって・・・」
「ほほう・・・・マロがいろんなことをしてしまったからか?」
「今ならちゃんと神様がいらっしゃる・・・・今なら”神国日本”・・・太平洋戦争をやっても、今度は勝てる・・・なんて言っちゃってるんですもの・・・留守中に太平洋戦争なんか始められちゃったら・・・大変な事になりますわよ」
「そうだよな・・・・前回の太平洋戦争も・・・・マロが遊びで日本を離れ、月にいるかぐや姫に会いに行ってる間に起こったことじゃからな」
「あの時だって・・・ほかの神様と一緒に出雲に行ってれば問題はなかったのに・・・・神様ったら・・・一人ぐらいいなくてもって・・・・月に行っちゃうんですもの」
「そうそう・・・あの時は少々遊びすぎた。・・・かぐやが放してくれなくてのう・・・数年もいたかのう?」
神様はそういうと、ニヤニヤ思い出し笑いをするのでした。
「なにをおっしゃってるんですか?・・・・家具屋が離してくれないって・・・箪笥を買いに行ったわけじゃなし・・・ですから吉田老人はちょっと辞めておきましょう」
「じゃあ誰を留守番にする?」
「どうでしょう?・・・先日おいでいただいた、初代市川団十郎さんとシェークスピアさん・・・・この世は面白いって・・・まだお帰りになってないんですよ?・・・あの2人なら、芸術関係だから・・・戦争を起こすことはないと思うんですけど」
「そうじゃなあ・・・形式美を重んじる団十郎と・・・恋愛小説家のシェークスピアなら・・・万が一にも戦争の心配はないな・・・じゃあそうするか?」
こうして、神様はお出かけになる事になりましたが・・・・それでも万が一、億が一のためにと・・・・以前孫悟空がかぶせられた帽子「緊固児」を2人にかぶせました。
皆さんの中には、孫悟空の頭のワッカ・・・あれは初めからワッカだと思っていらっしゃるかもしれませんが・・・もともとは帽子なんです。
わがままを言う孫悟空を懲らしめるため、三蔵法師が「緊固呪」というお経を唱えると・・・たちまちその帽子の中に入っている金属が頭を締め付ける・・・・我慢できなかった孫悟空はあまりの痛さに、帽子の布の部分を引きちぎって・・・・最後に残ったのが、あのワッカなんです。
でも、団十郎は「ちょん髷」だし・・・今回の「緊固児」は、はじめっからワッカだけになっていました。
「さあ・・・マロは準備ができたぞ」
「お供はどう致しましょうか?」
「う~ん・・・なんか問題があったとき呼び出せばいいじゃろう・・・マロもお供が多いと逆に気を使って疲れるからのう・・・今回はお前だけでよかろう」
自分だけは連れて行ってもらえる・・・・・「お歯黒女官」は思わずにやっとしました。
続く
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