最初の若い女性客が去って・・・・次の客が来るまで相当な時間がありました。
家路を急ぐサラリーマンが・・・・易者の前に立ち止まることはありません。
またこれから飲みに出かけるような客は、かわいい女の子の待つお店に急いでいて・・・やはり易者には用がないようでした。
しかし暇だからと言って・・・お客様の呼び込みをする易者っていうのは・・・軽そうで信頼できないでしょうから・・・それも出来ず・・・ただただ座って客を待つのみでした。
あとから本職の易者・・・・つまり隣の部屋の住人から聞いたのですが・・・・3~4人の団体で歩いている人がいたら・・・・一番の「福耳」の人を呼びとめることもあるそうです。
「ああ・・・そこの・・・そそあなた・・・・良い相をお持ちですねえ・・・・千人にひとりという福耳をお持ちだ。・・・見料入りませんからここに座ってじっくりと拝見させていただけませんか?」
そこからは・・・・まあ…さし障りのないお話しをして・・・・最後にもう一言付け加えるんですが・・・・
「とても良い相だ。・・・・いやあ良いものを見せていただいた。・・・・しかし残念だなあ・・・これさえ良くなれば問題はないんだが・・・・」
それまでさんざん調子のよい話しを聞かされた客は・・・・この最後の一言に必ず飛びついてくるそうで・・・・
「な、なんなんだよ・・・・その気になることっていうのは?・・・」
「いや、それは私も商売ですからお教えしないわけではないが・・・・ここからは見料をいただきますぞ・・・よろしいかな?」
そういってそこからは普通に商売をするんだそうで・・・・
これは本物の「易者さん」ではなく・・・詐欺師のような「エセ易者」でして・・・・真面目な易者さんに交じって中にはこういう人もいるっていう話なんですけど・・・・
しかし、この時点で私は・・・そんなテクニックもなく、・・・・しょうことなしに手相の本を見ながら・・・自分の手のひらを一生懸命見ていました。
「へえ・・・俺ってけっこう長生きなんだな・・・・」
生命線の長さに満足しながら・・・・・
「ああ・・・これが結婚線か・・・ふ~ん・・・ちゃんと結婚できるようだな?・・・・子供の数は男二人?・・・・これホントかな?」
独り言をつぶやきながら・・・・じっくり見ていたんです。
「へえ・・・・人差し指の付け根に井桁模様がある・・・薬指の付け根にも星印があるのは金運が良いのか・・・・って俺にもあるじゃん」
今度お金があるときに宝くじでも買おうかな?
でその時ある相に行き当たったんです。
それは「生命線・感情線・頭脳線」の三本がどれもくっついて無い手相。
先日テレビを見ていたら・・・お笑いタレントで手相の当たると言う人の番組を見てたんですけど・・・・
「こんな相を持った人はKYの人だ」
なんて言ってましたけど・・・・私が読んでいたその手相の本には「やんちゃな相」と出ていました。
ちなみにうちの長男も次男 も・・・・同じ手相をしています。
閑話休題
お客さんが来なくなって2時間・・・・人通りも少なく・・・飽きてきた私は屈伸運動などをして時間を過ごしました。
「何時までやればいいのかな?」
終了の時間も聞いていません。
「酔っ払いの客が最高のお客さんだって言ってたから12時くらいまででいいのかな?」
それ以降になったら、ますます人通りも少なくなり・・・酔っ払いも度を越したような酔っ払いが出てきたりすると危ないですから・・・自分で勝手に「12時閉店」を決めたんです。
「ノドも乾いてきたなあ・・・・あったかい紅茶かなんか飲みたいなあ・・・」
私が店を出している少し向こうにジュースの自販機がありました。
暖かい飲み物は入っていませんでしたが、とにかく一本買おうと思って席を立ったのです。
その時・・・声がしたんです。
「おい!先生!!・・・・今日はいねえのか?」
振り返ってみると・・・見台のところにどうやら地元の地回りらしき男が・・・・暑くもないのに半そでアロハシャツで立っていました。
「あ、こりゃ・・・・地回りが・・・ミカジメ料ショバ代とかいうのを取り立てに来たんじゃねえのか?」
もしかしたらあの易者の先生・・・・今日集金に来られても困るから・・・それで私にアルバイトを頼んだんじゃないだろうか?
恐怖心に足がすくみました。
しかし、いつまでたってもその男は見台の前を動きません。
そのうち私と目があったんです。
「おい!何見てんだよ・・・・そんなに珍しいのか?」
いまにも喧嘩を吹っ掛けられそうになりました。
「おい、ここの先生はどこに行ったんだ?」
「い、いや・・・・俺、知りませんけど・・・・」
「知りませんって・・・さっきからみてりゃ、お前ずっとここにいるじゃねえか?・・・・先生がどこに行ったか知ってるんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どこに行ったかって聞いてるんだよ!」
男はさらに声を荒げ・・・・私は少しちびりそうになっていました。
「はっきりしろよ!・・・知ってるんだろ?」
もうひと声張り上げて・・・彼は私を恫喝します。
「すみません・・・・でもほんとに今日はどこに行ったか知らないんです・・・・俺、アルバイトですから」
言わなくてもいいことをペラペラしゃべっちゃった。
「ああ?・・・・お前が代わりか?・・・・それじゃここにきてちゃんと座れ。」
私は震えながら見台のところに戻りました。
男は客用のいすにどっかと座ります。
「先生が帰ってきたら・・・・・これから俺が言うことをよおく・・・伝えるんだぞ?」
「・・・・はい」
「声が小さい!・・・・ちゃんと返事しろ!・・・ついてるもんがついてる男なんだろ?」
「・・・はい!」
「よおし・・・それで良いんだ・・・・じゃ伝言を伝えるぞ・・・・うちのかみさんが、先生の言うとおりにやったら帰ってきやがった。・・・・それだけ伝えてくれ。・・・・お礼は今度会ったときにするってな・・・・あばよ!」
男は肩で風切るように帰って行った。
10時過ぎ・・・・・
ホステスさんに見送られた酔っ払いがひとり・・・・通りの向こうからまっすぐこっちに向かって歩いてくる。
見送りのホステスさん・・・・一度見送ってしまうと・・・そのあと客がどこに行こうと関係ない・・・そんな風情で店に戻っていく。
ええ?・・・・・駅はこっちじゃないよ?・・・・・こっちに来たって何にもないよ!
私は彼がこっちに来ないように祈った。
しかし、足は千鳥足ながら・・・・目はまっすぐ私を睨みつけている。
確実に私を目指してきているのだ。
そして・・・・
「青年!・・・占え!」椅子にどっかと腰を下ろした。
「なにを占えば?」
どっちにしろ・・・・私には占いは出来ないのだ。
「なにを占えばいいのか占え!」
かなり酔っている。
「そう言われても・・・・・全般の運勢とかで良いんですかね?」
「それじゃ、俺の家がどこにあるか占え!」
「そんなことは占いじゃわかりませんよ」
「じゃ何が占えるんだ?」
「そうですね・・・・・・あなたには女難の相がありますね?」
なにはなくても「女難の相」・・・・酔っ払いには「女難の相」である。
「女難の相だと?・・・・・青年・・・いい加減なことを言うな!」
「いい加減って・・・・」
「女難の相がある男が、こんな時間に家に帰るか?」
「いや、そんな意味じゃ・・・・」
「じゃどんな意味だ。・・・・家に帰ればでっぷり肥った関取のような女が待ってるだけ・・・・飲みに行ったってモテルわけじゃなし・・・どこが女難の相だ?」
「あ・・・・だからそんな奥さんと一緒になったから女難の相」
「お前・・・うちのかみさんを馬鹿にするのか?」
「いやそういうわけじゃなくて・・・」
「おい・・・焼き鳥買ってこい・・・・」
彼は突然焼き鳥を注文してきた。
続く・・・まもなく終わるからね・・・・
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