できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

題詠blog 2006


題詠マラソンと同じように、五十嵐きよみさんの主催で、出題された100の題にそって、大勢の人達が歌を詠みました。
実質4年目なので、題が年々むずかしくなるような気がしますが、やってみるとなかなか楽しいものです。

以下は、私の参加作品。(雑なところ、苦し紛れなところもあったりして)

001:風
良寛のひらがなばかりの屏風の字 心をゆつくりじつくりほぐす

002:指
蕗の薹採りて黒土を落とすとき指の先から春に入りゆく

003:手紙
故郷の夜に書きたる絵手紙を赤き筒型ポストに落とす

004:キッチン
退職後料理が趣味になりし夫今日は三度もキッチンに立つ

005:並
シャラシャラと細き箒葉なびかせて棕櫚の並木に海風が吹く

006:自転車
漕ぎ出せばそのまますつと自転車に乗れたり なんと二十年ぶり

007: 揺れ
その父の心の揺れを感じつつバージンロードを歩む花嫁

008:親
哀しくて少しうるさく暖かき親になりたり 我の息子も

009:椅子
揺り椅子にかけて返事をしてゐしが母はいつしか居眠りてをり

010:桜
桜さくら淡紅色の三分咲きぽつてり昨夜(よべ)の雨を含みて

011:からっぽ
からつぽの心にぽとりとおちてきてほのぼの温きあなたのことば

012:噛
どこをどう間違へたのかあなたとの会話なかなか噛みあひて来ず

013:クリーム
沖縄の海を見下ろし君と食むブルーシールのアイスクリーム

014:刻
ほうれん草細かく刻み取り分けるもうすぐ二歳の幼な児のため

015:秘密
母われに秘密いくつか持ち始め娘が少し美しくなる

016:せせらぎ
木洩れ日のチロチロ遊ぶせせらぎに白く浮かべり桜はなびら

017:医 「
早期発見早期治療はこりごり」と術後の母が医師に言ひたり

018:スカート
コーラスに夢中の頃の想ひ出はクローゼットのロングスカート

019:雨
雨はれて東の空にほのぼのと春の虹立つ今日の終りを

020:信号
信号を待つ間三分 ウルトラマンが怪獣退治を済ませる長さ

021:美
人知れず密林に入り死にゆくは象に備はる死への美学か

022:レントゲン
放射線の影響恐れ子を産まぬレントゲン技師マリーの場合

023:結
子ら三人(みたり)それぞれ伴侶にめぐり合ひ 核分裂のやうに結婚

024:牛乳
牛乳を温める間の20秒 をさなと数を唱へつつ待つ

025:とんぼ
お祭りの屋台に買ひし竹とんぼ あれは誰とのデートだつたか

026:垂
頭を垂れて羞らふごとく咲き初めぬ 淡き黄色の小花水仙

027:嘘
もう誰も覚えていない 初めての嘘を言ひたる日の哀しみは

028:おたく
「おたくまでお送りします」と言ひながらアイツは送り狼だつた

029:草
みどり児のひと息ごとに白く咲く 淡く小さき霞草たち

030:政治
自らの嘘を自ら信じ込む 政治家になる必須条件

031:寂
暖かくほのぼのとして寂しきは薄紫の母の想ひ出

032:上海
上海帰りのリルを見かけたキャバレーにアルトサックス聞きし夏の夜
(昔、「上海帰りのリル」という歌がはやった) 

033:鍵
見直ししビデオに見たり一度目は気がつかざりし事件の鍵を

034:シャンプー
乾燥し傷んだ髪へのシャンプーを勧められたり 少し複雑

035:株
切り株に蘖二本見つけたり 光に向かひ背伸びするがの

036:組
もも組の名札をつけたアッチャンは二列目にゐて母に手を振る

037:花びら
透明な白を重ねて咲き満ちる大島桜の八重の花びら

038:灯
寂しさの吹き溜まりなり日暮れても灯の点らない窓のいくつか

039:乙女
虹の橋渡りてゆけよ乙女たち 雲の通ひ路閉ぢたる時は

040:道
曼珠沙華咲く野の道を辿りゆく亡き父母(ちちはは)も姉もゐさうで

041:こだま
君宛のEメールにはたちまちにこだまのやうな返信が来る

042:豆
寄せ豆腐匙に掬へばプルルンと震へて夜の灯に光りたり

043:曲線
ひらがなの「ひ」の字の描く曲線に涙の壷が隠されてをり

044:飛
翼あれど飛べぬ皇帝ペンギンが行列を組み氷原をゆく

045:コピー
ママさんの後を追ひかけチョコチョコと縮小コピーのやうな幼な児

046:凍
少しずつ心が解凍さるるごとあなたに笑顔が戻り始める

047:辞書
少しずつ言葉の定義が食ひ違ふあなたの辞書と私の辞書と

048:アイドル
「ばあちゃん!」と我に抱きつく二歳児は日々重くなる我のアイドル

049:戦争
戦争の終りたる日の蝉の声 庭に干されし梅干の赤

050:萌
白樺の若葉が萌える五月末 一番乗りの燕が戻る

051:しずく
雨上がり通り抜け行く風に揺れしづくをぽつり落とす白樺

052:舞
空砲を撃たれてさあーっと舞ひあがる沼に休める帰雁の群れが

053:ブログ
読み返す我のブログの今日の欄 事実八割と脚色二割

054:虫
なかなかに虫の居所さだまらず 今日もあなたは少し不機嫌

055:頬
一杯のビールで頬を染めてゐた アイツのそんな頃を知つてる

056:とおせんぼ
手をひろげ車の前に「とおせんぼ」 わたしを乗せて行ってください

057:鏡
三面鏡のせめて一面 わたくしを少し細めに見せてくれぬか

058:抵抗
眠気には抵抗できず床に就くまだまだ今日の仕事残して

059:くちびる
くちびるの寒き思ひに噤みたり少し脱線したかもしれぬ

060:韓
韓国のドラマの底に時にある「恨」が心の抵抗となる

061:注射
チクリともせずに注射を終りたり今日のナースは手際最高

062:竹
短冊の祈りを下げて低く立つプラスチックの七夕の竹

063:オペラ  
「オペラ座の怪人」の持つ屈折は仮面の陰に日ごと育ち来

065:鳴
だんだんに大きな渦に成長し鳴門渦潮今が頂点

066:ふたり
「ふたり」より「ひとりとひとり」のごとくをり われら結婚四十五年目

067:事務
「事務的に話しませう」と言ふ君の電話の声が少し震へる

068:報
決算報告書きつつどんどん鬱となる 近年下降をたどる業績

069:カフェ
原宿の欅並木のカフェテラス青葉の色の風に吹かれて

070:章
結末を知るのを惜しみ本を置く 最終章は明日読むべし

071:老人
「老人は朗人なの」と裕子さん七十八歳ニコニコ暮らす

072:箱
抽斗に時々飴の入りゐき祖母の使ひし裁縫箱には

073:トランプ
ディーラーにシュルシュルシュルとシャッフルされトランプカードがサッと整列

074:水晶
水晶の玉に映れるわが未来このごろ何故か不透明なり

075:打
辛口のあなたの返事が戻りくる 「打てば響く」の決心の良さ

076:あくび
あくびしてそつと窺がふ右左 あ、あの人もあくびしてゐる

077:針
嘘つけば呑まねばならぬ針千本棚上げにして「嘘も方便」

078:予想
予定にも予想にもなき辞令出てシンガポールに転勤となる

079:芽
二歳児に反抗心の芽生えたり 足をふんばり「ノーッ!」と叫ぶ

080:響
サイレンを響かせさつと通り過ぐ消防自動車 続きて二台

081:硝子
硝子戸を湯気に曇らせ饅頭屋ほつかり白きぬくもりを売る

082:整
端整な友の人柄そのままに細きペン字の手紙が届く

083:拝
拝観料行く先々に納めつつ古都の観光ひと日を終へぬ

084:世紀
歯に噛めばジューッと果汁が滲み出す二十世紀の爽やかな梨

085:富
「富」といふ名前を嫌ひ自らを「富子」といつも名乗りゐき 母は

086:メイド
PCもデジカメもメイド・イン・チャイナ 気づかずに買ふ中国パワー

087:朗読
朗読の上手な友が指名され「山椒魚」をしみじみ読みき
(昔々の高校の国語の時間の出来事)

088:銀
冷えしるきグランドキャニオンの夜の空 大きく渡る銀河を見たり

089:無理
「無理の利く齢は過ぎた」と言ふ夫もゴルフについては無理を厭はず

090:匂
朝風に秋の匂ひの漂ひて白きコスモス露を零せり

091:砂糖
ザザザッと砂糖を入れて練り上げるそれでも「甘さ控へ目」の餡

092:滑
滑らかに「ごめんなさい」が出る君よ そんなに軽くてよいのだろうか

093:落
マロニエの樹の下に積む落ち葉分け栗によく似たその実を探す

094:流行
幼な児の世界にもある流行に乗りて買ひたり「トーマス」のシャツ

095:誤
「そんなもの誤差のうちさ」とおほらかに笑ひ飛ばして忘れてしまへ

096:器
受話器より聞こえる孫の笑ひ声 今日の私は性善論者

097:告白
告白をするほど深き罪ならず 昨日の日記を今日書いたのは

098:テレビ
わが日々のバックグラウンド・ミュージック つけつぱなしの小型テレビは

099:刺
名詞にはブルーポピーの絵を入れる 花を愛する女のやうに

100:題
詠題に誘ひ出されし歌100首 少し照れつつ今勢揃ひ



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