できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

題詠100*2017



001: 入
悠々と海王丸が入港す波穏やかな初夏の港に

002: 普
食い違い時に喧嘩の種となるあなたの普通と私の普通
→ 推敲後    食い違い時に喧嘩の種となるあなたの<フツウ>と私の<フツウ>

003: 共
共に在る残りの日々の一日が何もせぬうち暮れてゆきたり

004: のどか
峻烈な領域争いするとんび声はいかにものどかそうなり

005 :壊 
気の晴れぬ曇り日の午後子と遊び積み木の塔をガチャーンと壊す

006: 統
アメリカがわけのわからぬ方を向く新大統領選出以来

007: アウト
春の雨眺めてひとり酒を飲むアウトドア派の退屈男

008: 噂 
雪女出ると噂のある町に春の淡雪ほたほたと降る

009: 伊
伊豆大島は東京なりと実感す品川ナンバーのタクシーを見て

010 :三角 
眦(まなじり)を上げて三角眼(まなこ)する 「そんなに怒るとおなかがすくよ」

011: 億 
億年の昔は海の底なりしロッキーの水潮の香りす

012: デマ 
ひたすらに丘に逃げたり津波などデマかもしれぬと思ひながらも

013: 創 
創作を多少交えて返事するクラス会への欠席理由

014: 膝
晩年の母が使ひしひざ掛けを今日は二歳児が昼寝に使う

015: 挨拶
挨拶の言葉もなくて肩を抱く夫を失くせしばかりの友よ

016 :捨
捨てばちに「どうでもよい」と言う時のあなたがどうも好きになれない

017: かつて
かつてまだ見たこともなき大粒の雹が降り来る 屋根に音立て

018: 苛
苛立ちてすぐに大きな声を出す 少しく耳の遠き夫は

019: 駒
厚紙で作りし駒と将棋盤 少年たちの入門準備

020: 潜
潜伏期はもう過ぎたから大丈夫 インフルエンザはうつらずすんだ

021 :祭り
思い立ち猛暑の京都訪れぬ 祇園祭りの賑はいの中

022: 往    
百歳が大往生と言われおり いかに死すとも同じなれども
推敲 ・・ 百歳が大往生と言われおり 客観的には相違なけれど

023: 感
感傷は気を弱くする なかんずく不覚の涙誘うなどして

024 :渦
一陣の風に吹かれて渦をまく 散り始めたる桜はなびら

025: いささか
いささかの自信を持ちて続け来し仕事このごろわからなくなる

026: 干
遠き日の運動会の弁当が干瓢巻きに思い出さるる

027: 椿
花びらの白き縁取り華やげり<光源氏>という八重椿

028: 加
肝心な I love you を書き加ふ ひと呼吸置く追伸として

029: 股
大股にスタスタ歩く若者と我との距離はたちまち開く

030: 茄子
食卓に出せばたちまちなくなりぬ小粒な茄子の青きぬか漬け

031: 知      
あたたかくそつと心を包まれる知人が友に変わる瞬間

032: 遮
遮光カーテンぴちりと閉めて床につく夜勤明けなる六月の朝

033: 柱
今はまだ逢いたくはなき人のいて柱の陰に姿を隠す

034: 姑
亡き姉の姑なりしうめのさん しずかに逝けりと知らせが届く

035: 厚
厚底のサンダル流行したる夏ありてオランダ人のやうに歩みき

036: 甲斐
大掃除せし甲斐のなく翌日は前の通りに居間が散らかる

037: 難
難問はいつも最後にとつておく時間に解決してもらふため

038: 市 
村が町に、町が市になる三十年同じところに住み続けたり

039: ケチャップ 
何にでも醤油を使ふと嗤はるるケチャップを欠かせぬアメリカ人に

040: 敬
お手玉が上手にできてひさびさに孫から尊敬されたり今日は

041: 症
不眠症と言いつつ夫はよく眠る「目をとじているだけだ」そうだが

042: うたかた
うたかたのやうにそのまま消えゆくか我がこの世にありし証も

043: 定
「異常なし」と言わるるものと想定し定期検診申し込みしが

044: 消しゴム
人生に効く消しゴムはなきものか あればあの日を消してしまうが

045: 蛸
蛸焼きをおかずにご飯を食べるのは誰でしたっけ、あなたでしたか?

046: 比
比較にはならないけれどうらやまし イバンカさんのスタイルの良さ

047: 覇
覇者なりしタイガー・ウッズの寂しさはきっと誰にもわかりはしない

048: 透
週二度の透析受けて待ちいたる友がとうとう移植を受けぬ

049: スマホ
タブレットは過去になりゆく多機能でさらに身軽なスマホに負けて

050: 革
退職し履かなくなりし革靴を時折みがきまた仕舞い置く

051: 曇
北鮮のミサイル発射続きたり曇れる空をさらに曇らせ

052: 路
道路工事を避けて少しのまはり道合歓の花さく坂道をゆく

053: 隊
除隊して帰郷の後の彼の人のその後は知らず 便りも絶えて

054: 本音
自分でも自分の本音がわからない建前ばかりが身にまとひつき

055: 様
様変はりしたる銀座の四丁目ブランドショップばかりがならぶ

056: 釣
旧友と誘いあわせて来し諏訪湖わかさぎ釣りの船に乗り込む

057: おかえり
誰もいぬ昼間の家のドアをあけ自分で自分に「おかえり」と言う

058: 核
核分裂のように三人子(みたりご)結婚し四つの家族がメールを交わす 

059: 埃
軍手はめ辺りをさらあっと触りたり埃の半ばはこれで落ちるぞ

060: レース
誰が一体何位なのかが分からないF1レースは今4周目

061: 虎
忠実にタイガースばかり応援す虎年生まれの夫の場合は

062: 試合   
ぼんやりとテレビドラマを眺めおり眠ればならぬ試合前夜に

063:両
藤井四段が連勝記録更新す両者長考重ねたる後

064: 漢
十三巻揃へる漢和大辞典台湾人の友より買ひぬ

065: 皺
すぐ皺になるが自然の陰影が涼しさうなり麻のドレスは

066: 郷
東京に住みゐし昔「わたしには故郷がない」と歎きもしたり

067: きわめて
世辞なりと知れば虚しも店員の口をきわめてほめる言葉は

068: 索
今の世にプライバシーなど無きごとし誰もがすぐにネット検索

069: 倫
テロのあと誰も歌わぬ遊戯唄「倫敦橋が落ちた、落ちた」は

070: 徹
要求を貫徹せんと言いつのる汝(なれ)の若さが少しまぶしい

071: バッハ
旋律が主も従もなく絡み合いひびき合いたりバッハの曲に (「インベンション」)

072: 旬
十四歳の加藤四段は今が旬三十連勝も夢ではなくて

073: 拗 
拗ねているわけでもないが十三歳スマホに夢中で返事もしない

074: 副
副虹もさらに加わり夕空は神の祭のような華やぎ

075: ひたむき
ひたむきな努力はいつか報われる 「いつか」が「いつ」だかあてにならぬが

076: 殿 
その姿見せねど沼にあまたいて殿様蛙も愛を歌えり

077: 縛
束縛の無き寂しさに気づかずに必要でない人に成り果つ

078: 邪魔
忍び足ささやき声のおとなたちベビーの昼寝の邪魔をしまいと

079: 冒
ユニクロでガウチョパンツを試着する その程度なりわが冒険は

080: ラジオ
ラジオからカーペンターズの声聞こゆ私の昨日ももう一度来よ
(♪Yesterday Once More♪)

081: 徐
鶯の「ホホホ」が徐々に「ホーホケキョ」となりて今年も春は本番

082: 派
社会派の小説家なりしわが友が老いてやさしき愛などを書く

083: ゆらゆら
いつまでも踏み切りつかぬ結婚に心ゆらゆらふらふら動く

084: 盟
若き日にライバルなりし友人が半世紀経て盟友となる

085: ボール
運動をしたような気になりているバランスボールに身を弾ませて

086: 火
山火事の煙に濁る今朝の空オレンジ色の太陽浮かぶ

087: 妄
空想が妄想にふと変わる時心の箍がパラリ外れる

088 :聖
男は入れぬ聖域として女らが厨を護りし時代もありき

089: 切符  
大声で「シニア一枚」と切符買ふいつもは若く見られたいのに

090: 踏
足踏みをしては寒さを我慢せし冬が懐かし 今日の猛暑に

091: 厄
厄年はすべてとっくにクリアーしさらりとくらす七十五歳

092: モデル
汚すのがもったいなくて使えないモデルルームのやうなキッチン

093: 癖 
過意識か 他人と逆な君の癖「嘘をつくとき大声になる」

094: 訳
「おはよう」を猫語に訳し「ミヤーオ」と言い猫から侮蔑の視線を貰う

095: 養
哲学か予防医学か教訓か貝原益軒「養生訓」は

096: まこと
食ひ違ひ時に喧嘩の種となるあなたの普通と私の普通

097: 枠
みずからが作りし枠と知りつつも逃れられなくなりしこのごろ

098: 粒
くやしさを言へない君は一粒の泪にこめてほろとこぼせり

099:誉
「名誉だけいただきます」と賞金を返上せし友 「少し気障だよ」

100: 尽 エネルギー尽き果てて地に座り込む スカーレットのごとき絶望 (「風と共に去りぬ)


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