できるところから一つずつ

できるところから一つずつ

2017年



「元気よ」とことさらに言ふ齢となる元気はむしろ非日常にて (四句目の 元気 に 傍点)

雨霽れて風の冷たき秋の朝あざみの穂絮銀にかがやく

ピカソ展見終へて入る売店にジグソーパズルのゲルニカならぶ

ゲルニカの絵より出で来てバラバラのジグソーパズルとなれり牛馬は



コスモス 2月号

ゴルフ場で貰ひ受けたり季過ぎしラベンダーざつとひと抱へほど

ラベンダーと絹の端切れで作りたり五十余りの匂ひ袋を

ゴルフ場の女性庭師にまづ贈る紅羽二重の匂ひ袋を

わが歌集読みし息子のコメントは「オレの出番はあまりないねえ」

わが歌集ながめる孫のリクエスト「ファミリー・タンカは英訳してね」



コスモス3月号

本殿に祝詞をあげゐし山伏が高下駄を履き足早に過ぐ

安産も学業成就も卒業し「足腰健康守り」拝受す 

健脚のお守り受けて下り始む参道二千四百余段

緩やかな石段なれどまだ続く羽黒山神社表参道


コスモス4月号  

祝ひ箸の袋に家族それぞれの名前を記す 明日は元旦

嫁の名の〈アン〉は漢字を当てて書く安心の〈安〉安らぎの〈安〉

彫るやうに起筆鋭く決めて書く物理学者の長男の名は

4Bの鉛筆持ちて孫が書くわれの名前は〈おばあちやん〉なり


コスモス5月号  

彼岸との距離

傘の雪落として入りぬ行きずりに心惹かれし塗り物の店

サックスのジャズゆるやかに流れゐき雪降る午後の漆器店には

照明を抑へし店に並べられ塗りの汁椀しつとり光る

音低くささやくやうなサックスに誘はれて買ふ塗り箸二膳

通夜の席辞して見上げる三日月に彼岸との距離少し縮まる


コスモス6月号

年下のオトシヨリ増えいつしかに集合写真は撮らなくなりぬ

レモン色の薄手のコート勧めらる「桜のころまで着られますよ」と

サトウさんにゆかりある地を巡るらし「サトウさん用ミステリーツアー」

縁ありてある日「サトウ」になりし我今は殆んどSATOで暮らす


コスモス7月号

六十年の師弟の縁(えにし)頼むべし訃報は海を越えて届けど

どうしても筆を持てない日が続く書の先生の逝きましてより

書けなくば書かずともよし筆架より筆を外して箱に収めぬ

充分に悲しめばまた墨の香の恋しくなる日戻り来るべし

老境にありて再び読み耽る野村清の歌集『老年』


コスモス8月号

空に鷲地にコヨーテの目が光り鴨は姿を消してしまへり

天籟のやうに澄みたる鷲の声五月の空の青を深くす

五十年共に住みても異なれり夫の「フツウ」とわたしの「ふつう」

バラバラと豆撒くやうな音を立て雹が車の屋根を叩けり

アスファルトに落ちては跳ねる雹の粒小動物のやうな身軽さ


コスモス9月号

戻り来し燕が低く飛び交へりニアミスあまたくり返しつつ

思春期の少年のごと不機嫌にわがパソコンがぐづぐづ動く

「今朝二時にGreat Grandmaになつたの」とシーラはお茶に招んでくれたり

「今日中にGreat Grand-daughter(グレイト ・グランド・ドーター)に逢へる」とシーラ走り出しさう

<Great>も< Grand>もつく< daughter(むすめ)>なり生れしばかりの小さきひまごは   (ひまご に傍点)



コスモス10月号

アルス社の『白秋全集』第五巻スティヴストンの古書店で買ふ
     註 スティヴストン(Steveston)は、カナダ、バンクーバー近郊の漁港の町、初期の日系移民が多く住み、漁業に従事していた。

いつ、いかに、誰がカナダに持ち来しか 書き込み多き白秋歌集

枯れ色の野中の一本道を行くツール・ド・フランス第七ステージ

アナウンサーがデイ(day)をダーイ(day)と発音すツール・ド・フランス英語実況


十一月号

湖(うみ)の水汲みあげ日夜(にちや)野火に撒く低空飛行の消防ヘリが

二百キロの彼方の山の火事の煙(けむ)街に居座り今日で十日目

どんよりと鈍き朱色の太陽が薄紫の空に浮かべり

気のせいか朝から気分の冴えぬままのど飴一つ口にいれたり

換気扇から煙の匂ひ入りきて猫も私も燻されてをり


十二月号  

フェイスブックを開けて知りたり東京の従姉の孫が父になりぬと

日蝕の前夜息子に貰ひたり日蝕観測用の眼鏡を

観測用メガネをかけて見る空に三日月型の蝕の太陽

太陽の八割強が欠けし時すつと涼しき風渡り来ぬ

オーロラのライブカメラの映像を独り眺める秋の三更





バンク―バー短歌会 1月

逝きしといふ情報のなきウィキペディアに考(ちち)はことしも齢を重ねる

ウイキペディアに百十歳と記されて今は亡き父齢を重ねる



バンクーバー短歌会 二月
題詠「首」

「手首までしつかり洗へ」と教はりし一年坊主が父母を指導す

クローバーを摘みては網みし首飾り原風景の片隅にあり



バンク―バー短歌会 三月

フォーメーション確と保ちて空渡る火星、金星、そして三日月

ならびたる月と金星南西の暮れ行く空に輝きを増す


バンクーバー短歌会 四月
題 化粧

頬に紅さされてなごむ病みぬきて今朝旅立ちし姉の表情 

なされるがままに化粧をされてゆく意思を捨てたる姉の遺体は


バンクーバー短歌会 五月

わが生のフォルティッシモの確かさに子らを産みたる二十代あり

アンダンテ・カンタービレで終りたしフーガのやうなひと世なりしが


バンクーバー短歌会 六月

コーヒーも酒も飲まずに湯を好む付き合ひ下手な我の胃袋

胃に重きコーヒーなれど注文す人を待つ間の場所代として


バンクーバー短歌会 七月

だんだんに影の薄れるタブレット機能増えゆくスマホに負けて

飛行機のドアが開きて真つ先に日本の空気がカナダに降りる


バンクーバー短歌会八月

大空と森を繋ぎて一閃す怒れる父のやうな稲妻

夜の空をギザギザに裂き稲妻が「ナニヤットルカーッ」と私を叱る


バンクーバー短歌会九月

ブリティッシュ・ミュージアム作「北斎」の映画をカナダのシアターで観る

「レ・ミゼラブル」には満員なりしシアターに「北斎」を見るわづか八人


バンクーバー短歌会十月
題詠 「色」

草叢にアザミの莟色づきぬ陽に透き通る棘に護られ

山火事の烟に街は覆はれて瑠璃色の陽が空に貼り付く


バンクーバー短歌会十一月

保護色の黒きソファーに寝ころびて猫が緑の目を光らせる

訛りある我の英語に反応し猫がひと声「みやあお」と言ひぬ


バンクーバー短歌会十二月
題詠「占ふ(う)」

トランプの一人占ひ繰りかへす 吉凶吉吉吉そして凶

赤き緒の下駄を蹴りあげ占ひき「運動会はきつと晴れだよ」



東京歌会 3月

当然のやうに飛ばして覚えゐき百人一首の第二句、三句

高野氏による添削  関心のなくて飛ばして覚えゐき百人一首の第二句、三句


東京歌会 11月

ラグビーを始めし中学二年生 今日も青痣増やして帰る
 (評 結句が不明瞭。)


GUSTS 25

Like a King
in a fairy tale.
the new President
signs special orders
one after another


Over the snowy field,
a flash of lightning
sped through
immediately followed
by a deafening thunder


“Bon voyage”,
a grade 7 class
took off to Quebec
seemingly well armed
with hard learned French


Gusts 26

“What is the onomatopoeia
for the rolling thunder?”
asking around,
checking books
and still looking for


Hello, little Ken,
welcome to this world!
I am a only cousin
of your great grandma
Very happy to meet you!


My old pc
won’t co-operate
with me any more
… just like a teen-ager
trying my patience


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