オルフェウスの音楽の世界


ギリシャ神話に登場する竪琴の名手、オルフェウスが、太陽神アポロンから授かった金の竪琴を奏でると、鳥獣はもとより、木石までそのメロデイに惹き寄せられていった、といいます。

このオルフェウスの音楽の真髄が、のちの西洋音楽のみならず、西洋芸術の精神のよりどころとなって、発展していったそうです。
その代表作品がグルックの歌劇『オルフェウス』で、その中に出てくる『精霊の踊り』はあまりにも有名です。

ギリシャ神話のこのオルフェウスの音楽の世界から端を発する、西洋芸術の精神のよりどころについては、西洋音楽を志す音楽大学の学生の講義で、必ず出てくるのかな、と想ってお聴きしてみたら、東京芸大出身の知人は、『初めて聴いたお話だ』というお答です。

もちろんギリシャ神話に登場するオルフェウスの音楽の世界は、音楽の持つ大きな力、聴くヒトを大きく揺さぶり、動かす力を比喩的に誇張したものですが、この『音楽の持つ大きな力』は、いろんな形でコンサートで経験されるようです。

先日、合唱を続けてこられた方から、こんなお便りをいただきました。
『幼いころから陣結核を煩っていた矢澤宰之が21歳と10カ月という短い生涯を終えるまでの7年間に500以上も詩作をしました。中学生のころ、特に<さびしい道>が好きで25年以上経って、その曲を合唱で歌えることの不思議な縁に身震いするほどの感動を覚えたものです。岡梨奈さんはそういうような経験がおありですか?』

そういえば、タイタニックの『愛のテーマ』を演奏した時のこと。
二番目のフレーズに入ると、ホール全体が静まり返り、沈んだタイタニックの乗客を捜索する暗い冷たい海原のように、哀しい静けさと凍り付くような冷たさに包まれる中、漕ぎ行く捜索ボートのカンテラの明かりが、たよりなげに揺れる情景そのものが、眼前に再現されたような錯覚を感じた経験があります。
黒野さんの物悲しくも切ないギター伴奏に乗せて、オカリナの『愛のテーマ』が響き渡る哀しい中にも神を感じさせる妖しささえ持つ音色が、この世のものとは想われないように感じたのですが、そこで演奏している自分自身は至って冷静で、大脳皮質は透き通るような鮮明さを感じるのでした。
その大脳皮質の鮮明さが、眼前に展開されている哀しい深刻な世界とは極めて不釣り合いで、私には不気味にさえ想った程です。

これを知人のひとりで女流ヴァイオリニストの方にお話したら、『私はオルフェウスのお話は初めてお聴きするのですが、、あるコンサートで演奏していて、自分自身演奏が非常に盛り上がった時、ホールの中の椅子が全部、私の演奏に共鳴して,音楽に合わせてガタガタと揺れ、踊りだした経験があります。もっとも本当に椅子が揺れて踊っていたわけではないんでしょうけれど...................。その時の情景が、記憶としてとても鮮明に焼き付いているのです。』

数多くコンサートを重ねていますと、どの演奏家もこの種の経験はお持ちのようですね。
そういうエピソードでの共通点は、とても興味深く想うのですが、演奏者自身は至って冷静で、第三者としてその情景を観察し、鮮明に記憶している点です。





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