架空世界の放浪者ランドの「冒険日記」

「やわやわのぷう」 ぷう著





肩口に唯一の相棒がいる。
シューと呼ばれる鳥形の生き物だ。
あたしと共に戦い成長し、力を貸してくれるために創造主が授けてくれた。

見た目はミミズクのよう。
でも、あまりかわいげがあるもんでもない。
いつも冷静で理路整然としているが、無口で愛想がない。

一度「おまえ、名前つけてあげようか?」と聞いたことがある。
そしたら、

「魔法師のシューはシルだ、みんなそうだ」

・・・ですと。

そのシルに、聞かれた。ヘルマーシュ大陸に来て、間もない頃だ。

「おまえ、強いのがいいか?それとも丈夫なのがいいか?」

そりゃー冒険者だもの、強い方がいいに決まってる。

「それじゃ、装備の好みは? 派手めのやつと、渋めのがある」

あたしゃ派手めが好みだ。

「判った・・・」
「なにそれ?」
「それじゃ、どのくらい強いのがいい?1割?2割?」

・・・あたしの質問を無視しやがったが、ここは見逃しておこう。

「2割以上はないの?」
「そのくらいにしておけ」
「訳わかんない。でも、強くしてくれるんなら2割」
「よし」

何が「よし」なのか判らんが、まあいいか、あたしゃ早く狩りに行きたいんだ。

ヘルマーシュ大陸で暮らす魔法師には敏捷、魔力、生命力、マナという4つのステータスがある。
冒険をすると経験値が増え、一定量たまるとレベルアップの儀式で生命力とマナのポイントが増える。
つまり、ちょっとは強くなれる。
それに加え、レベルアップ毎に6ポイントを敏捷、魔力、生命力、マナに割り振ることが出来る。
割り振りは各自の自由だ。

「あの装備選べ、ステータスは振っておいたから」

レベルアップのとき、シルがそういった。

「なんであんたが決めんのよ!」
「まだこの世界のこと、よく判らんのだろ?」
「そりゃ・・そうだけど・・・」
「強くなりたかったら言うこときいておけ」

一応、選べといわれた装備を見る。悔しいが悪くない。
でも、もっとカッコいいのが他にある。

「あっちのがいいっ!」
「ウンズがたらん」

金か・・・これはしゃあないか。

「ステータス振ったっていうけど、どう振ったの?」
「魔力(攻撃力)が標準の2割増しで強くなる。残りは敏捷(防御力)だ」

こちらの要望は入れてくれてるわけね。
ここは一応納得しておこう。

という訳で、それ以降もシルの言うことを聞いてレベルアップの儀式を繰り返してきた。
おかげで色々なクエストもこなせるようになった。

ステータスの割り振りで、あたしは2割増の攻撃力を持っている。
これで強い魔物でも、比較的楽に狩ることができているはずだ。

でも、狩場と街の往復がずいぶん多いんじゃないかな。
なんとなくそう感じていたのだが、あるとき大変なことが発覚した。

それは”イスクン”という魔物にクリティカルヒットを喰らった時のことだ。
一発で倒れてしまったのだ。

「体力は6割以上残っていたはずなのに、一撃で死んじゃった。どうして?」
「防御力が足らん。攻撃に2割振っている分、防御が薄くなるということだ」

そうか、防御が2割弱いということね。

「それを補うのに、もっと良い装備がいるってこと?」
「そうゆう手もあるが、4割近い防御の薄さをカバーするのは大変だぞ」

なに?・・今、4割って・・・

「防御・・・2割弱いんだよね?」
「4割だ。正しくは3割6分だが」
「なにそれ、どういう計算?」
「強いのがいいんじゃなかったのか」
「そうだけど、攻撃が2割増しなのに、どうして防御が4割近く減なのよ!」

シルはごそごそと紙を取り出した。数字がたくさん書き込んである。
こいつ、どこにそんなもん隠してたんだ。

「これがおまえのステータス。いま敏捷105ポイントで、魔力347ポイントだ」
「その上の数字、敏捷164 と 魔力288 は、なんなの?」
「一般的な標準値」

なに?標準と比べて敏捷が59も違うって・・・レベルに換算すると30も低いじゃないの!!

「計算できないか?魔力2割増しだとこうなる。それに敏捷と魔力の合計は標準と一緒だ、損してるわけじゃない」

するってーとナニかい、ただでさえ弱い魔法師の防御なのに・・・
あたしゃレベル40相当で、それも一人でランデル3階に殴り込みかけてたってー寸法かぁ?

「そうゆうカラクリがあるなら、なーんで早く言わないのよ!!」
「2割以上強くと望んだとき、そのくらいにしておくよう忠告したはずだ」

シルはこのあたしの剣幕に、全然動じない。
えーいもうこの、このこのこの!
このトウヘンボク!!

ヤツの言うのは確かにそうだが、もっと最初から説明のしようってもんがあるだろが。
もう、こいつ売り飛ばしちゃろか!!
そん時は本気で思った。

それ以来、ステータス振りはあたしが担当。
防御ステータスの修復は、幸いなんとかなりそうだ。
シルもレベルが上がって攻撃力と防御力をサポートしてくれてるし、まあゆるしてやろう。

まだ先のことになるけれど、交配したらあいつの性格も良くなるかな?




もう一羽のシューも孵った。こっちはまだちっちゃい。
あたしの経験値獲得をサポートしてくれる。
パタパタ細かく羽ばたいて、あちこち飛び回っている。

な~んて可愛らしいんだろう。自然に頬が緩む。
にっこりと微笑みかけ、問いかける。

「お名前は、何がいいかな~?」

「魔法師のシューはシルだ、みんなそうだ」

・・・・・

がー!!こいつもか。


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