運転

私は車、特にイタリア車が好きで、日本に居る時からイタリア車ばかり乗ってきた。
それもオートマティック車ではなくマニュアル車だ。それは何故かと言うと、マニュアル車の方が断然面白いからである。
此処イタリアでオートマティック車を見付けるのは難しく、販売されている自動車はほとんどがマニュアル車である。
私と同じく多くのイタリア人達も、オートマティック車なんぞ運転していて何の面白味も無いと言う。彼らにとって車は一つの玩具とも言えるかもしれない。

その玩具を扱う上で、彼等の運転マナーたるもの凄まじいものがある。
≪皆ちゃんと教習を受けて免許を取得したのかいな?≫と、私は日々運転していて疑問に思うと同時に腹を立てている。
確かにイタリアの運転教習や試験は日本と比較して簡単であるし、裏金を積めば試験をパスさせてくれる悪徳教習業者も多く存在する。

昔、イタリア中古車屋を経営している頃に、レースにも出場しているメカニックを連れてイタリアに来た事があったが、その彼でさえイタリアで運転する事を拒否したほどであるから、イタリア人の運転マナーの悪さは相当のものがある。

自動車の少ない田舎はまだしも、ミラノやローマ、フィレンツェなどの都市の自動車の数は年々増え続け、排気ガス問題や駐車場問題などが浮き彫りになっている昨今であるから、彼等の運転マナーの悪さは益々ひどくなっているのだ。
道路の車線も消えかかったままだし、車線がはっきりしていたって彼等は無視して走っている。
2車線道路に3台4台車が横に並んでいるのも珍しくは無い。
方向指示器も点けずに突然曲がったり停止するのは日常茶飯事、車間距離を十分開けずに走っている後方車にとっては驚かされるのだ。少しでも車間距離が開いているとアッという間に割り込んでくる。

日本でも運転マナーが最低との評判の大阪を走ってきた私にとっても、ここイタリアのひどさには面食らう事しばしば。
都市へ車で行くと、もうそれだけで神経がへとへとに疲れる。
高速道路でも時速100kmなんぞでチンタラ走っていると、後方からドンドンあおられる。
心配性の夫から、しつこいほどにスピードを出さないよう注意されているのだが、こちらがのんびり行こうと思っていても、私のフィアット・パンダをトヨタの車が追い越して行く。そのトヨタの車をアルファロメオが、そのアルファロメオをポルシェが、そのポルシェをフェラーリが次々と追い越して行くのだ。
それらのスーパーカーを横目に見ながら 「かっこいい~!」 と呑気に思いつつも、生来の負けん気の強さが沸々と湧いてきて、ポルシャやフェラーリには脱帽だが、トヨタやアルファロメオなんぞに負けてたまるか!とアクセスを踏み込んでしまう私は、マナーの悪いイタリア人に感化されつつあるのだろうか?

大昔、ローマのホテルからレオナルド・ダヴィンチ空港へタクシーで移動中、飛行機の搭乗時間が迫っていた旨運転手に伝えると、
「よっしゃあ~任しとけ~!」とアクセル踏み込み、 サイレン鳴らしながら走っていたパトカーをあっという間に追い越して 、時速200kmを越えるスピードで飛ばしてくれたタクシー運転手を思い出す。
私のローマの常宿は幅3、5mほどの細い道に面しているのだが、この道路にもイタリア名物違法駐車の車が満杯状態で、私が乗っていたタクシーでは通れないとあきらめたところ、これまた
「大丈夫、任しとけ~!」と 違法駐車の車に自らの車をぶつけながら 目的のホテル玄関に横付けしてくれたタクシーの運ちゃんの事も思い出す。
あっけに取られている私に向かって
「ホラ、通れただろう」と彼は言ったのだ。

一体全体、彼等の運転観念はどういう仕組みになっているのであろうか?
大体、イタリア人にとっての車とは、前にも書いたように玩具感覚であるから、日本のマイカー命!のおじさん達のように、日曜日毎に自宅前で一生懸命車を洗ったりワックスをかけたりなんて行動は、きっと理解できないに違いない。
イタリアの街なかには泥まみれホコリまみれの車は当然のこと、ボコボコへこんだ車、傷だらけの車、窓ガラスの割れた車、それをダンボールやビニールのゴミ袋で補強した車を多く見かける。

イタリア人にとって車とは一つの交通手段であって、それらが傷が付こうが汚れようがお構いなし!だから、運転マナーが悪くて他の車にチョッとぶつかろうが、そんな事どうってことないに違いない。


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