陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 22




今日は、高校時代からの親友と夕食を食べに行く約束になっていた。

渋谷のハチ公近くの交番の前で待ち合わせ。

金曜日の6時、待ち合わせの人で一杯だった。

丸ノ内線、銀座線と乗り換えて渋谷へ。

待ち合わせ場所へ行くとまだ親友は来ていなかった。

交番前で、人の流れを暫く見ていた。

カップルが多い。

一週間の仕事を終え、デートか。

『あと、一週間。』

翔との約束は、来週だった。

そんなことを考えていると、向こうから、手を振りながら木田祐子がやって来た。

「ごめん、ごめん。待ったでしょ?」

「ちょっとだけ。」

「行こうか。」

「うん。」


恋の相談ごと


木田祐子とは高校1年生の時、同じクラスで、入学当初、席が隣同士だった。

声が大きく、一見サッパリした姉御肌に見られる祐子。

クラブでも部長をしていた。

そんな祐子に彩子は引っぱられて同じ地学部に入ったのだった。

祐子は、外からは強そうに見られていたが、結構、繊細で女らしい性格だった。

それを理解しているのは彩子ぐらいだった。

今日は、祐子が麻布にある老舗のイタリアンレストランに予約を入れてくれていた。

店内は、大人の雰囲気。

周りの客もいつも行くカジュアルな店にいる客とは違う。

ゆったりと構えて、食事とレストランの中に漂う雰囲気と時間を楽しんでいるように見えた。

だから、今日は、少しいつもより、おめかしをして来た。

「どうした?さえない感じの顔だよ?せっかく、いいお店に連れてきてあげたのに。」

「ごめん。そんなに、あからさまに顔に出ている?今の私の心境。」

「もう、めちゃくちゃ出ている。交番前で立っている姿からも充分出ていたよ。」

「そう。やっぱり。」

「何?」


やっぱり親友


「ほら、この間、電話で話したこと。」

「あれ、テニス楽しかったし、デートにも誘われたって言ってたじゃない?もうダメになちゃった?」

「そうじゃないの。その前の。」

「えっ?あれ?何だっけ?イギリスに行って欲しいとかいうヤツ?」

「そう。その人。」

「何だっていうのよ。しつこいの?断ったんでしょ?」

「そうなんだけれど、また、蒸し返してきたの。」

「嫌なヤツだね。それで、なんだって?」

「まだ諦めてないって。でも、また断ったよ。勿論。だって・・・・」

「当たり前じゃない。何てヤツだろう。ほっておきなさいよ。無視していればいいのよ。」

「でも、今日、彼を呼び出したの。何か話したみたいで、その後、険しい顔して戻ってきて。」

「大丈夫だって。だって、なんだっけ、翔さんだっけ、翔さんの方から誘ってくれたんだから、彩子に気があるってことでしょ?彩子も翔さんが好きならそれでいいじゃない。無視すればいいのよ。何度でも断ればいいのよ。関係ないって。」

「ならいいんだけど。同じ部署で、同期で。息が詰まりそう。」

「頑張りなさいよ。」

「大丈夫かな、私たち?」

「大丈夫だって。気持ちを強く持つのよ。」

前菜にも手をつけず、一気に話をしていた二人だった。

食前酒に頼んだシャンパンが少し効いてきた。


アントニオの料理


やっと、一息。

前菜に手をつける二人だった。

オマールエビのテリーヌにマリネされた野菜が添えられている。

ここのレストランは、構えもクラッシクだけど、料理もクラッシクという感じだった。

最近のレストランでは、ちょこちょこ色々な料理を一つのお皿の上にのせたり、コース料理だと、パスタがちょこんと大きなお皿の上にのっていたりするが、ここは、料理が堂々としているという感じだった。

祐子も私もパスタはカルボナーラを頼んだ。

濃厚なソースが何とも言えない。

濃厚だが、くどくない。

その境目の、にくい味。

メインは、祐子は、ラム肉の香草焼きを、私は、ブイヤベースを頼んだ。

もうここまででお腹いっぱいになっていた。

でも、もう一踏ん張り。

デザートは、ティラミス。

ここのティラミスは、口の中で、溶ける感じが何とも言えない。

かなり濃厚でしっかりしたティラミスなのだが、口の中に入れると、トロっと溶けていく。

「でも、その男最低だね。彩子が紹介した友達をこけおろしておいて、今度は、彩子にちょっかい出してくるなんて。きっと、彩子と翔さんが目の前でうまくのが妬ましいのよ。男の嫉妬は、嫌だね。見苦しすぎ。だいたい、自分の嫌な部分をぜーんぶ見せておいて、どうですかって、ダメに決まっているじゃないね~。よっぽど焦っているのよ。そんなヤツに見つかるわけないよね。」

祐子は、シャンパンの後に頼んだ赤ワインですっかり饒舌になっていた。

「そうね。でも、自分で翔さんを私に紹介するって言っていたのよ。変だよね。絶対。」

彩子も祐子につられて語気が少し強くなっていた。

「そいつはそう言うヤツなのよ。それより、翔さんは、大丈夫なの?」

「それが、この間、田中さんに呼び出されて。私の知らないところで色々言われているんじゃないかしら。私にだって言ってくるくらいだもの。」

「ホント、最低だね。自分の思うとおりにならないと、そうやって、人を攻撃してくるなんて。翔さんが、彩子のこと守ってくれるといいね。きっと守ってくれるよ。」

「はっ~。」

「溜め息つかないの。」

「だって。」

「本当に好きになっちゃったんだね。私も早く会いたいな~。どんな人なのか。」

「大丈夫かな。」

「心配しないのよ。自分の気持ちを大切にしなくちゃ。翔さんのことだけを思っていればいいのよ。肌にも悪いよ。そんな後ろ向きな考え方。くらーい顔した女なんて嫌がられるよ。笑顔でいきましょう!」

「祐子ったら。そうだね。それにしても、ここボリュームあるね。でも、スッゴクおいしかった。ありがとう。」

「そろそろ行く?明日は?」

「翔さん、仕事なんだって。」

「じゃ、ショッピングでも行く?買い物は、気分転換に一番よ。」

「そうだね。」


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