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女性が、編み棒で毛糸を拾って輪の中を通す姿を見ていると、理彩は、どうしても母親がそこにいるとしか思えなかった。『編み棒を持つ手の形がお母さんの手だわ。』理彩の視線は、女性の手先から離れなかった。このセーターは、2月に家族でスキーに行く時に理彩の母親が雄太に着せたいと編んでいたものだった。「ちょっと休んだらどうだい?」男性がお茶を入れてきてくれていた。「時間が経つのを忘れていたわ。」「随分、進みました。」「頂いた水ようかんを食べよう。」「もう、水ようかんの季節ね。雨は、まだ、降っているみたいね。」窓の外に雨だれが落ちる陰が見えている。ふと、時計を見ると3時近くになっていた。「そろそろ、おいとまします。雄太が帰ってくるので。」理彩は、慌てて、セーターを紙袋に入れようとした。「ねえ、少し編んでおくから、おいて行きなさい。」「でも・・・」「いいから。ね。」「ありがとうございます。」「さあ、急いで帰らなくちゃね。雄太君が帰って来ちゃう。」理彩は、傘を開くと夫婦に会釈をして浅草の駅に向かった。いつものように、理彩が細い道を大通りに向かう途中、振り返るといつまでも二人は理彩を見つめていた。雄太は、家の呼び鈴を何度も鳴らしたが、理彩は、出てこなかった。『あれ?また、帰っていない。世田谷の家に行くって言ってたけど。全く!ちょっと行ってみようかな。』雄太は、ランドセルを玄関脇に置かれている自転車のかごの中に入れると、何かの時にとランドセルのポケットに入れてある千円札を握りしめて駅に向かった。30分ほどで世田谷の理彩の実家に着いたが、雨戸も閉まっていて、理彩が来ている様子はなかった。ポストには、チラシが無造作に突っ込まれていた。『本当に来たのかな?』雄太は、家の周りをぐるりと回ってみた。すると、隣の家の女性が丁度、買い物から帰ってくる所だった。「あら、雄太君?」「あ、こんにちは。」「どうしたの?」「ああ、あの、今日、お母さんが、片付けに来るって言っていたので。」「あら、そうなの?今日は、ずっと雨戸が閉まったままだったような気がしたけれど、理彩ちゃん来ていたのね。」雄太は、会釈をすると、駅に向かった。『お母さん、一体どこに行っちゃったんだろう。』家に帰ると、理彩は、すでに家にいた。「雄太、お母さんより先に帰っていたのね。ごめんね。」「この間もだよ。どこに行っていたの?」「ごめん。世田谷の家よ。今朝、言ったでしょう?」「僕も、今行ってきたんだよ。」「そうなの?だめじゃない。勝手に行っちゃ。」「だって、まだ帰っていなかったから。」「ごめん。でも、何も言わないで、勝手に行っちゃだめでしょう?」雄太は、怒った顔で、理彩を見た。「本当に世田谷の家に行っていたの?」「え?」理彩は、言葉に詰まった。「だって、隣のおばさん、来ていないって言ってたよ。」「気がつかなかったんじゃない?今日は、リビングの雨戸しか開けなかったから。」そう言われても雄太は、理彩の言葉が信じられないという顔をしていた。『雄太。』人気ブログランキングへ
2009/03/26
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「こんにちは。」いつも鍵の閉まっていない玄関の戸を開けた。「いらっしゃい。あらあら、雨になったのね。もう梅雨かしら。」「そうですね。朝から、どんよりした雲行きだったから。」「細かい雨ね。でも、ぬれていない?タオルを持ってくるわ。」「大丈夫です。」「そう?さあ、中に入って。お父さんも待っていたのよ。先週は来なかったから、ちょっと心配していたの。」「裕太が、熱を出しちゃって。」「まあ、風邪?お天気がこんなだから。」「ええ、38度の熱があるって学校から電話が掛かってきて。」「そうなの。大変だったわね。で、もう、大丈夫なの?」「2日ほどで熱は下がって、直ぐにピンピンしていました。」「男の子はそうよね。でも、直ぐに治ってよかったわ。お父さん、理彩さんよ。」奥の茶の間の襖が開いた。「いらっしゃい。」いつもの穏やかな笑顔だった。『お父さん。』「今日は、カツサンドを買って来たんです。」「まあ、久しぶり。じゃあ、お紅茶入れようかしら。」「それに、これ。もし、編み物ご存じだったら、教えて頂こうかと思って。」理彩は、紙袋から編みかけの裕太のセーターを取り出した。「え、何かしら?セーター?」そう言うと、一瞬、顔の表情がこわばったように見えたのは、理彩の思い過ごしだろうか。「いいわよ。これ、裕太君の?」「ええ。母が、編みかけていて。」「そうだったの。いいわよ。今年の秋までには、できそうね。」「そうですね。」二人は、一緒にいたずらっぽく笑った。カツサンドを食べてから、理彩は、セーターの編み方を教わった。「全部表編みね。それで、ここと、ここと真ん中に縄編みが入っているのね。じゃあ、こうやって持ってみて。」「こうですか?」「そうそう。それで、毛糸を編み棒で拾ってこの穴の中を通して。」理彩は、女性の体温が伝わって来そうな程近くに座っていた。何とも穏やかな気持ちになるのだった。人気ブログランキングへ
2009/03/25
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「すみません。ご迷惑をおかけしました。」理彩は、息を切らせて、雄太の待つ保健室に入って行った。「いいえ。大丈夫ですよ。」理彩は、ベッドに横になっている雄太の所に行った。「大丈夫?」雄太は、少し、ふくれっ面をして、小さな声で答えた。「うん。」「熱が、38度ほどありますので、お宅に帰った方がいいと思いまして、お電話しました。」「はい。夫から聞きました。どうもお世話になりました。遅くなりまして、申し訳ありませんでした。」理彩は、養護教諭と雄太の担任に挨拶をして雄太を連れて、保健室を出た。「どこ行っていたんだよ。」「ごめんね。おじいちゃんとおばあちゃんの家に行って片付けをしていたの。ごめんね。具合は、どう?」「なんだか、ふわふわする。」「お医者さんに寄って診てもらった方がいいわね。」かかりつけの小児科に寄って、二人は、家に帰った。雄太は、ただの風邪だろうと言うことで、薬をもらってきた。家に帰ると雄太は、昼食も摂らずにそのままベッドで寝てしまった。理彩は、実家から持ち帰った、母親が編みかけていた雄太のセーターを紙袋から取り出した。紺と白のボーダー柄で所々縄模様が入ったセーターだった。後ろ身頃は、もう編み終わっていて、前身頃を編み始めた所だった。『これを一緒に編んでもらおうかな。』二日もすると、雄太は、すっかり元気になり、週明けから雄太は、学校に行くことにした。翌週の火曜日の朝、雅史と雄太が一緒に家を出る時、理彩は、二人に言った。「雄太も元気になったから、今日、また、世田谷の家に行って片付けをしてこようと思うの。」「わかった。気をつけてね。」「お母さん、ちゃんと僕が帰ってくるまでには帰ってきてよね。」「分かっているって。」二人を見送り、洗濯物を干すと理彩は家を出た。今日は、世田谷の実家には寄らず、あの夫婦の家を目指した。理彩は、編みかけの雄太のセーターが入った紙袋を持っていた。そろそろ、梅雨の走り。今にも雨が降ってきそうな空模様だった。『雨が降りそうね。』浅草の地下鉄の駅から階段を上って外に出ると、小雨が降り出していた。理彩は、あの夫婦の家に急いだ。大通りを渡って細い路地には行っていった所にあの夫婦の家が見えてきた。小雨の中に静かに佇む小さな家が。人気ブログランキングへ
2009/03/24
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翌週、また、理彩は、雄太と雅史を見送って、掃除を済ませて、あの夫婦の家へと出かけた。理彩が出かけた後、リビングの電話が鳴った。何度か繰り返し、電話が鳴ったが、誰もいない家にその音は響くだけだった。「お母さん、お留守のようだね。携帯電話の番号分かる?」「はい。」「じゃあ、掛けてくれる?」「はい。」雄太は、担任教師から、受話器を渡され、理彩の携帯電話の番号を押した。でも、電話から聞こえてくるのは、呼び鈴の音だけで、理彩は、電話に出なかった。「出ない?どうされちゃったのかな?もう少ししてから、また、電話してみるわ。とりあえず、ここで、横になっていて。」雄太は、学校に来て、38度近い熱を出してしまっていた。3時限目が終わったところで、また担任教師が保健室に来た。「どうでしょうか?」担任は、保健の先生に尋ねた。「風邪だと思うけれど。熱が高くならないうちに帰った方がいいわね。」担任は、理彩の携帯と自宅に電話したが、やはり、応答がなかった。「出ないわね。」雄太は、理彩に電話が通じないことに腹が立っていた。『何で、出ないんだよう。』「今日、お母さん、どこかに出かけるとか行っていなかった?」「別に・・・。」「お父さんに連絡してみようか?」教師は、緊急連絡先の欄に書かれている雅史の携帯電話に電話を掛けた。「はい。山村です。」「あ、私、山村雄太君の担任の大木ですけれど。」「いつもお世話になっています。」「こちらこそ。あの、お宅とお母様の携帯にお電話したのですが、お出にならないので、お仕事中、申し訳ないのですが、お父様の携帯にお電話させていただきました。実は、雄太君、2時間目が終わった頃、熱があると言うことで、計りましたら、38度くらいまで上がってきていまして、お母様にお迎えに来ていただけたらと思うのですが。」「雄太は、風邪でしょうか?」「ええ、少し、咳も出ているようなので。」「妻と連絡が取れないのですね。こちらから、連絡を取ってみます。折り返しお電話します。念のために、学校の電話番号を教えていただけますか?」雅史は、学校の電話番号を聞くと、一旦、電話を切り、机を離れて廊下に出た。そして、理彩の携帯に電話した。何度か目に、理彩が電話口に出た。「もしもし、あなた?」「理彩。どうしたんだ?」「え?何が?」「学校から何度も君に電話が行っているはずだよ。」「そうなの?気がつかなかったわ。ごめんなさい。あなたにかかってきたの?」「ああ、雄太が、8度の熱を出したそうだ。迎えに来て欲しいって、担任が。」「分かったわ。ごめんなさい。」「理彩、今、どこにいるんだ?家にも掛けたけれど、出なかったって。」「あ、あの、今、世田谷の実家に来ているの。片付けものをしていて、電話に気がつかなかったわ。すぐに学校に電話して、雄太を迎えに行くわ。」「大丈夫かい?」「え?何が?」「いや・・・。」「じゃあ、学校に電話するわ。」「ああ、じゃあ、頼んだよ。」理彩は、携帯を切ると、学校に電話を入れた。理彩は、あの夫婦の家に行く前に世田谷の実家に寄っていた。母親が、編みかけていた雄太のセーターを取りに来ていたのだった。理彩は、そのセーターと残りの毛糸を紙袋に押し込むと、雨戸を閉めて、駅に小走りで向かった。人気ブログランキングへ
2009/03/19
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「もうそろそろ、失礼します。雄太が帰ってくる時間になるので。」「あらあら、もうそんな時間?」「ご馳走様。」「こちらこそ、ご馳走様。美味しかったわ。」理彩は、玄関で二人に見送られた。「もうそろそろ、梅雨の走りかしら。今にも雨が落ちてきそうな雲行きね。」「そだね。家に着くまで、お天気が持つといいけれど。」夫婦は、揃って空を見上げた。「気をつけてね。」「ありがとうございます。では。」「またね。」「はい。」理彩は、振り返り振り返り大通りに向かった。夫婦は、いつまでも理彩を見つめていた。『また。』理彩は、心の中で、つぶやいた。理彩が、家に着くと、雄太がすでに帰ってきていた。雄太は、理彩の姿を見つけると口をとがらせて言った。「お母さん、どこに行っていたの!?雨が降ってきそうじゃないか。」「ごめん、ごめん。随分、待った?」「今、帰ってきたところだけど。雨が降ってきたら、徹の家に避難しに行こうかと思ったよ。」「ごめんね。」理彩は、慌てて玄関の鍵を開けた。雄太は、二階の自分の部屋へ駆け上がっていった。夜、雅史が帰ってきた時、雄太は、今日の出来事を話していた。「今日、僕が帰ってきた時、お母さん、家にいなくて、外に閉め出されていたんだよ。雨も降ってきそうだったから、どうしようかと思ったよ。」「ごめんね。帰ってくるのが少し遅くなっちゃって。」「どこか、出かけていたの?」「久しぶりに銀ブラ。あっちこっち見ていたら、時間が経つのを忘れちゃって。ごめんね、雄太。」「大丈夫?余り、長い時間、歩き回らないほうがいいんじゃないの?」「もう大丈夫よ。」「なら、いいんだけど。気をつけてね。」「分かった。」理彩は、雅史にも雄太にも内緒であの夫婦の所へ行っていることを黙っているのが少し心苦しかった。『でも、言えない。言っちゃいけないのよね。』人気ブログランキングへ
2009/03/18
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まだ、入梅前だったが、夏を思わせる気温の高さだった。家に着くと、理彩は、疲れがどっと出てくるのだった。『まだ、本調子じゃないみたいだわ。いつになったら、よくなるのかしら。』理彩は、洗面所に行って手と顔を洗った。そして、ベッドルームに行き、洋服を脱ぎ、そのままベッドに入り、少し眠った。30分ほど眠ったところで目が覚めた。『そろそろ雄太が帰ってくる時間だわ。』理彩は、着替えてキッチンへ行き、雄太のおやつにほっとケーキを焼いた。「お母さんどうしたの?ぼーっとして。」「あ、何でもない。ちょっと疲れたのかな。ね、美味しい?ほっとケーキ。」「うん。美味しいよ。久しぶりだね。」「今日、徹るたちとサッカーしに行くから。」「あんまり遅くならないようにね。宿題あるんでしょう?」「分かっているって。もっとある?ホットケーキ。」「あるわよ。」「ああ、いい、自分で取ってくるから。」『あの女性、絶対に、雄太の写真を見て、涙ぐんでいたわ。それに二人ともバラを愛おしそうに見つめていた。あの時、私の手を力強く握ってきたし。あれは、分かっているって言うことを教えたかったのよね。』雄太が、お皿にホットケーキを載せて理彩の前に座った。『この子のことを忘れていなかったんだわ。』理彩は、雄太の顔をまじまじ見るのだった。「じゃあ、行ってくるね。」雄太は、あっという間にホットケーキを食べると、席を立って外へ出て行った。「気をつけるのよ。」理彩は、それから、週に1度は、あの夫婦の家を訪れるようになった。それは、理彩にもあの夫婦にとっても当たり前のことのように感じられていた。いつも、理彩は、自分の両親が好きだった物を作って持って行った。「こんにちは。」「あら、いらっしゃい。お父さんも待っていたわ。今日、来るんじゃないかって。」「そうなんですか。嬉しいです。あ、そうだ、電話番号を教えていただけますか?そうすれば、ご連絡できるし。」「あ、いいのよ。好きな時に、来てくれれば。連絡してもらわない方が、いつ来るんだろうって楽しみも増すし。ね。」『電話しちゃいけないのかしら。電話がないのかも。』「そうですね。雄太の学校が今日は6時間なので、だいたい木曜日がいいかなって勝手に決めていて。」「あ、そうなのね。雄太君が今日は、6時間なの。」「これ、今日、お昼にちらし寿司作ってきました。」「わ、ありがとう。嬉しい。好きなのよ。お父さん。」「よかったです。味の保証は、ないですけれど。」「さ、早く、上がって。」最近では、奥の茶の間に通されるようになっていた。6畳ほどの部屋だろうか、それほど広くない部屋に茶箪笥があり、真ん中に座卓が置かれていた。いつの間にか、理彩のために新しく赤いカバーの掛けられた座布団が置かれていた。「ちらし寿司だから、何か、おすましを作るわね。」「じゃあ、お茶を入れようか。」理彩が、赤い座布団に座ると、夫婦は、いそいそと台所へ入っていった。台所と茶の間を仕切っているふすまは開けられたままで、二人の姿を理彩は、じっと見ていた。『実家に行っていた時みたい。お父さんとお母さんもあんな風だった・・・。』「ねえ、お豆腐と三つ葉のおすましでいいかしら?」「すみません。お客様みたいに座っていて。お手伝いします。」「いいのよ。あなたは、体調が不安定みたいだから。座ってらっしゃい。」「はい、お茶をどうぞ。」「ありがとうございます。」「羊羹があったよね。」「茶箪笥の中よ。」「ああ、ここにあった。」「頂き物だけど、あんまり甘くなくて美味しいよ。」「私、羊羹好きです。それに、雄太も。」「あら、男の子なのに、和菓子が好きなのね。お母さんに似たのかしら。」「そうですね。」「さあ、さあ、できたわ。頂きましょうか。」理彩が持って来た、大きめのタッパーの蓋を開けた。「まあ、美味しそうだこと。綺麗ね。」「本当に美味しそうだ。」「ありがとう。」「こちらこそ、喜んでいただけて嬉しいです。」「大皿を持ってくるわね。」大皿に移し替えられたちらし寿司を囲んで三人でとりとめのない話をしながら時間を過ごした。『これは、夢なの?ここは、一体どこなんだろう。』時々、理彩は、少し離れた所から三人を見ているような感覚にとらわれるのだった。人気ブログランキングへ
2009/03/13
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その後もとりとめのない話をした。理彩には、話の内容は、どうでもよかった。ただ、この場にこの夫婦と一緒にいることが大切だった。「この辺は、本当に静かですね。少し行くと大きな通りがあるのに。」「そうね。ここだけ、取り残されちゃったみたいに静かね。住んでいる人たちも年を取っている人が多いから。」「ずっと、ここにお住まいなんですか?」「ええ、もう30年近くになるかしら。」「あの、宮本さんもご近所なんですか?」「ええ、この前の道をちょっと行った所に住んでいるのよ。」その時、少し、女性の表情が曇った感じがしたのは、理彩の錯覚だったのだろうか。理彩は、忘れてはいない。あの宮本という女性との暗黙の約束を。「私、両親をお正月に交通事故で亡くしたんです。」理彩は、自分でも、どうしてその言葉が口から出たのか驚いた。夫妻の方に視線を向けると、二人は理彩の顔を見つめていた。そして、妻の方が、理彩の手を両手で優しく包んだ。「そう。大変だったわね。」その手に力が入った。理彩は、その時、この夫婦もあの宮本という女性との暗黙の約束を知っているような気がした。『あの約束は、この人たちとの約束でもあるんだわ。この人たちも知っているのね。』理彩は、そっと、女性に視線を向けた。女性は、穏やかに笑っていた。「いつでも遊びに来て頂戴。あなたのご両親だと思って。ね。」「え、あ、ありがとうございます。私、変なこと言っちゃって、すみません。」「そんなことないわ。いいのよ。」理彩は、お昼過ぎに夫婦の家を出た。太陽の日差しが眩しく感じられ、一瞬、理彩は目眩を感じた。日傘を差すと、後ろを振り返った。「気をつけてね。また、遊びに来て頂戴。」「ありがとうございます。では、失礼します。」理彩は、後ろを振り返り振り返り、その家から離れていった。夫婦は、いつまでも理彩を見送っていた。大通りに出ると、一気に雑踏の音が理彩の耳に入ってきた。『通りを少し入った所なのに、あの家の周りは、本当に静かだわ。人が住んでいないみたい。』5時間授業で雄太が帰って来るので、理彩は、足を速めて地下鉄の駅に向かった『暑い。』人気ブログランキングへ
2009/03/12
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二人は、理彩を家の中へと導いた。玄関は、綺麗に掃き清められていた。靴箱の上には、アヤメが細めの壺に生けられていた。その横には、男の子の木目込み人形が飾られていた。この女性の楚々とした立ち振る舞いそのものの佇まいだった。理彩は、この間、横になった部屋に通された。南側の窓は、道に面していて太陽の光が磨りガラスを通して眩しい程だった。「どうぞ。」奥から部屋に入ってきた女性が理彩の前にお茶を差し出した。そして、その横に理彩が持って来たマドレーヌが添えられていた。夫婦の前にもお茶とマドレーヌが置かれた。「どう?体の方は。」「ええ、おかげさまで落ち着きました。」「そう、よかったわ。あの後も心配していたのよ。」女性の横で、男性は、笑みを浮かべていた。「あら、美味しい、このマドレーヌ。ね。」女性は、そう言うと、夫の顔を見た。男性は、やはり、微笑んでいた。理彩は、味を確かめるようにマドレーヌを食べている二人を見つめていた。『私、何をしに来たんだろう?何を期待しているんだろう?』「10歳になる息子さんがいるっておっしゃっていたわよね。」「ええ。」「元気?」「ええ。サッカーが大好きで、家に帰ってくると、近所のお友達と一緒に公園でサッカーをしています。頭の中は、サッカーのことしかないみたいです。」「でも、元気が一番よね。」「そうですね。」「うちの亮もすぐに大きくなっちゃうんでしょうね。」うちの亮という言葉に理彩は、少し、ひっかった。『雄太のことは?忘れちゃったの?』理彩は、バックの中から携帯電話を取り出した。そして、携帯を開けると写真を夫婦に見せた。「これ、息子の雄太の写真なんです。」「あら、お母さん似かしら?しっかりしたお顔をなさっているわね。」「本当だね。」二人の視線がその写真に釘付けになった。理彩は、女性の目にうっすら涙が浮かんでいるのを見逃さなかった。『やっぱり。そうよね。そうだわ。』「すぐに、大きくなるわね。」「そうでしょうね。でも、私は、このままでいて欲しいんです。」理彩は、急に、確信を得たような気持ちになった。「いいお写真をありがとう。」そう言って、女性は、携帯電話を理彩に手渡した。人気ブログランキングへ
2009/03/11
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ここで起きたことは、雅史にも雄太にも内緒にしたままだった。理彩の両親に似た夫婦のことを思い出すと、必ず、あの宮本という女性の視線が理彩の頭の中に浮かんでくるのだった。あの視線が、理彩を口止めしていた。「ごめん下さい。」理彩は、玄関の戸を開けた。鍵がかかっていないこの戸の中には、あの人たちが住んでいる。「ごめん下さい。山村です。」奥から、あの女性がドアを開けて出て来た。「あら、あなた。この間の方。」「山村です。山村理彩です。先日は、ありがとうございました。」「いえいえ。もう、お体は大丈夫なの?」「おかげさまで。先日は、お世話になりました。」「いいのよ。それに、何のおかまいもしないで。」「助けていただいて、助かりました。本当にありがとうございました。これ、心ばかりのお礼です。」理彩は、近所のケーキ屋さんでマドレーヌを買ってきた。「いいのよ。そんな、わざわざ。」「ほんの心ばかりの物です。」「ありがとう。じゃあ、遠慮なく頂くわ。」「それと、これは、実家の庭に咲いていたバラです。」そう言うと、理彩は、バラを女性に差し出した。理彩の視線は、女性の表情の変化を見逃すまいとしていた。「まあ、素敵なバラ。ご実家のお庭に咲いていたの?あなたのお母様が育てていらっしゃるの?」「え、ええ。母が、育てているものです。」「いい香りがするわ。」『あなたが、あなたが、育てていたのよ。違う?』「早速、飾らせて頂くわ。本当にいい香り。」女性は、バラに顔を近づけて香りを楽しんでいた。とても嬉しそうに、とても愛おしいんで。「あ、こんな所で立ち話もなんだわ。どうぞ、上がって。」「あ、でも、今日は、お礼までと思って。」「せっかく、遠い所からいらしたんだし、お茶くらいどうぞ。」「は、はい。」「お父さん。この間の方、この間の方がいらしたの。」女性が出て来た部屋から、男性も出て来た。「ああ、いらっしゃい。もう、お体は大丈夫ですか?」「はい。先日は、ご迷惑をおかけしました。」「いいえ。それより、顔色がよくなったみたいで、よかった。よかった。」「ねえ、お父さん、上がっていただいて。」「そうだね。どうぞ。」「お花をいただいたの。いい香りのバラよ。」「おお、いい香りだ。いい香りのバラですね。」「こちらのお母様が育てていらっしゃるそうよ。」「それは、それは。丹精込めて育てていらっしゃるのでしょうね。見事なバラですね。バラの季節なんだね。」「ありがとうございます。」理彩の視線は、二人に注がれていた。『今年も咲いたのよ。』人気ブログランキングへ
2009/03/06
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理彩は、宮本という女性の自分に投げかけた強い視線を思い出していた。その視線は、理彩に「お母さん。」と言う言葉を発してはいけないと言っているようだった。あの瞬間、理彩は、母親に似た女性に決して「お母さん。」と呼びかけないという約束を宮本としてしまったような気がした。その時、玄関の呼び鈴が鳴った。「ただいま。ただいま。おかあさん。ただいま。」雄太の声に、ハッと我に返った理彩だった。「何していたの?何度も鳴らしたよ。」「ごめんなさい。考え事していて気がつかなかったの。」「大きな声で呼んだのに。」「ごめんなさい。」「今日、剛の家に遊びに行く約束してきたから。」「宿題は?」「今日は、漢字の練習と計算ドリルだけ。帰ってきてからでも大丈夫だよ。」「大丈夫?あまり遅くならないようにね。」「わかってる。」「ねえ、雄太。」「何?」「おばあちゃんとおじいちゃんに会いたい?」「え?二人とも死んじゃったじゃないか。会いたくても、もう会えないよ。」「そ、そうね。」『私、何を言っているんだろう。そうよ、もう、亡くなってしまったんじゃない。』「お母さん、どうしたの?」「どうもしないわよ。」「でも、僕、時々、夢の中で時々おじいちゃんやおばあちゃんに会っているよ。僕、時々、おじいちゃんの目を思い出せなくなってきているんだ。だから、写真を見ているよ。」「雄太。」「絶対に、忘れたくないんだ。絶対に。」「ありがとう。きっと、おじいちゃんもおばあちゃんも喜んでいるわよ。」「じゃあ、行ってくるね。」「剛君のお母さんによろしく言ってね。あ、これ、おやつを持って行って。」「分かった。行ってくるね。」「行ってらっしゃい。」『夢の中で会っているか。あれは、夢なの?うぅん、夢なんかじゃない。』理彩は、雄太の後ろ姿を見送った。一週間後、理彩は、あの細い通りを入っていた角に立っていた。手には、今日、来る前に実家に寄って庭に咲いていたサーモンピンクと黄色のバラを持っていた。それは、理彩の母親が丹念に育てていたバラだった。理彩は、この間、雅史と雄太と久しぶりに実家を訪れた時、母親が育てていたバラとチューリップがまだ枯れずにいたことを思い出したのだった。『あの庭の花を持っていこう。』そして、足が自然に浅草のあの家へと向いた。人気ブログランキングへ
2009/03/05
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理彩は、ゆっくりとソファーに身を沈め、大きく深呼吸をして濃い目に入れたお茶を口に含んだ。『やっぱり、よく似ている。信じられない。違う人だなんて。それに、あの宮本という女性。あの時・・・。』理彩は、宮本という女性の自分に投げかけた強い視線を思い出していた。その視線は、理彩に「お母さん。」と言う言葉を発してはいけないと言っているようだった。あの瞬間、理彩は、母親に似た女性に決して「お母さん。」と呼びかけないという約束を宮本としてしまったような気がした。その時、玄関の呼び鈴が鳴った。「ただいま。ただいま。おかあさん。ただいま。」雄太の声に、ハッと我に返った理彩だった。「何していたの?何度もならしたよ。」「ごめんなさい。考え事していて気がつかなかったの。」「大きな声で呼んだのに。」「ごめんなさい。」「今日、剛の家に遊びに行く約束してきたから。」「宿題は?」「今日は、漢字の練習と計算ドリルだけ。帰ってきてからでも大丈夫だよ。」「大丈夫?あまり遅くならないようにね。」「わかってる。」「ねえ、雄太。」「何?」「おばあちゃんとおじいちゃんに会いたい?」「え?二人とも死んじゃったじゃないか。会いたくても、もう会えないよ。」「そ、そうね。」『私、何を言っているんだろう。そうよ、もう、亡くなってしまったんじゃない。』「お母さん、どうしたの?」「どうもしないわよ。」「でも、僕、時々、夢の中で時々おじいちゃんやおばあちゃんに会っているよ。僕、時々、おじいちゃんの目を思い出せなくなってきているんだ。だから、写真を見ているよ。」「雄太。」「絶対に、忘れたくないんだ。絶対に。」「ありがとう。きっと、おじいちゃんもおばあちゃんも喜んでいるわよ。」「じゃあ、行ってくるね。」「剛君のお母さんによろしく言ってね。あ、これ、おやつを持って行って。」「分かった。行ってくるね。」「行ってらっしゃい。」『夢の中で会っているか。あれは、夢なの?うぅん、夢なんかじゃない。』理彩は、雄太の後ろ姿を見送った。人気ブログランキングへ
2009/03/04
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理彩の考えを断ち切るように裕美の声が理彩の耳に届いた。ホットケーキを何切れか口に運んだ時、玄関の戸が開いた。「タクシーですけれど。」「タクシーが来たわ。」裕美が玄関に出て行った。「今、出ますので、よろしくお願いします。」理彩は、この家の夫婦に向かってお礼を言った。「色々とお世話になりました。見ず知らずの私にご親切にして下さって、ありがとうございました。」理彩は、そう言いながら二人の様子を伺うように視線を向けた。「袖ふれあうも多生の縁って言うでしょう。またいらっしゃい。お宅からは少し遠いかしら。坊ちゃんの話ももう少し聞きたいし。」「えっ?」「ああ、うちの亮も男の子だし。」「そうですね。」理彩は、少し、期待してしまった自分をいさめるように言った。理彩は、立ち上がると玄関に向かった。「じゃあ、気をつけて。また、遊びに来て下さい。」裕美がそう言って、バックを理彩に渡した。「日傘を忘れているわ。」そう言うと女性は、理彩に日傘を渡した。そして、男性と並んで笑顔を理彩に向けた。タクシーのドアが閉まった。いつの間にか、亮も出て来て、祖父母と母親の前に立っていた。『まるで、雄太があの年頃の時、お母さんとお父さんと実家の前で撮った写真のようだわ。』ふと、理彩は、自分に向けられている強い視線を感じた。それは、四人の奥に経っている宮本から理彩に向けられた視線だった。理彩は、宮本と自分の間に暗黙のうちに交わされた約束を思い出していた。「どちらまで?」タクシーの運転手の声に我に返った理彩だった。「目黒区の中根までお願いします。」タクシーは、ゆっくりと走り出した。理彩は、後ろを振り返った。そこには、手を振る老夫婦の姿があった。人気ブログランキングへ
2009/03/03
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「そう言えば、お名前を聞いていなかったわね。」「あ、すみません。名前も名乗らずにお邪魔してしまって。山村理彩と言います。目黒区の中根と言う所に住んでいます。私にも10歳になる雄太という息子がいます。」理彩は、女性の方に視線を向けた。「あら、そうなの。もう10歳のお子さんがいらっしゃるのね。」その女性が、微笑みながら言った。『覚えていないの?雄太よ。違うのよね。だって、この人には、亮君というお孫さんがいらっしゃる。』「ええ。とても元気です。元気にしています。すっかり、お邪魔してしまって、そろそろ、おいとまします。」「大丈夫?」「ええ、すっかり。ありがとうございます。本当に、ありがとうございました。」「ねえ、タクシーで帰った方がいいんじゃない?心配だわよね。途中で、また、めまいがしたら。」「そうだわ。そうなさい。今、呼んでくるから。」「すみません。」その女性は、奥へ行き、タクシー会社に電話を掛けてくれた。「あら、もう、帰られるの?今、亮とホットケーキを焼いたんだけど。」「ホットケーキ美味しいよ。」「もう、タクシー呼んじゃったし。包んで上げて。」「わかったわ。」奥から、母娘の会話が聞こえてきた。「すみません。」「いいのよ。」「これ、今、子供と焼いたんですけれど、タクシーが来る間、みんなで食べようと思って。どうぞ。そうだ、亮、おじいちゃんも呼んできて。」「うん。」そう言うと、亮は、奥の茶の間へ出て行った。裕美は、部屋の隅に置かれている座卓を持って来た。そして、その上を拭いて、ホットケーキののったお皿を並べた。「どうぞ、こちらに来て、召し上がって下さい。」「ありがとうございます。」「宮本さんもお母さんも。」「わ、美味しそうね。裕美ちゃんと亮ちゃんの手作りね。」理彩は、お皿を持つと、フォークでホットケーキを一口大に切って、口に運んだ。メープルシロップの甘さが口の中に広がった。『よく、実家に帰った時、お母さんと雄太と三人でホットケーキを焼いたっけ。あの時と同じ味。』まもなく、亮が、あの理彩の父親の少し若い頃に似た男性を連れて、部屋に入ってきた。「具合は、どうですか?」その男性は、心配そうな顔をして、理彩に尋ねた。「おかげさまで、よくなりました。ご迷惑をおかけしました。」「いいんですよ。ゆっくりされればいい。」「もう、お帰りなんですよ。タクシーを呼んだところ。」「そうなの。じゃあ、また、遊びにいらっしゃい。」「ありがとうございます。」「こちら、10歳の男の子がいらっしゃるんですって。」「10歳の男の子。」「ええ。」理彩は、伺うような視線を男性に向けた。『あなたも違うの?』「お父さんもどうぞ。」理彩の考えを断ち切るように裕美の声が理彩の耳に届いた。人気ブログランキングへ
2009/02/27
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理彩は、手に収まりのいい少し厚めの先茶碗を口に運んだ。口の中に苦みが広がっていった。お煎茶碗越しに理彩は、その女性に視線を向けた。そして、理彩は、さっき、宮本という女性と自分の間で暗黙の内に交わされた約束事を思い出していた。二度と、「お母さん。」と呼んではならないと理彩は、思った。その時、ふすまの向こう側の玄関の戸が開けられる音がした。「こんにちは。お母さん。お父さん。」「おばあちゃん。おじいちゃん。」その声は、この女性の娘と孫の声だった。「あら、亮ちゃん。」その女性は、すぐに立ち上がって玄関へと部屋を出て行った。玄関から、三人の声が理彩の耳に届いた。「あらあら、亮ちゃん、転んだの?膝が汚れちゃって。今、拭く物を持ってくるから、ここで待っていてね。」「ありがとう。お母さん。」「さっき、転んだ時、汚しちゃったんだね。」「ここね。」女性が廊下を走って奥へ行く音が聞こえてきた。『確か、同じようなことがあったわ。そう、雄太が、幼稚園に行っていた頃だわ。年少さんの時だったはず。幼稚園が終わって、そのまま実家に行った時だわ。あの時のお母さんの心配した顔・・・。』ふと、宮本という女性の方を見ると、さっきと同じ微笑みを理彩に向けていた。その微笑みは、理彩の心の中を全て分かっているということを告げているかのようだった。そんなことを考えていると、男の子が部屋に入ってきた。「亮ちゃん、お客様がいらっしゃるのよ。」男の子を追いかけるように母親が入ってきた。「すみません。」「あら、裕美ちゃん。」「あ、宮本のおばさん。こんにちは。亮、おばさんにこんにちはは?」「亮ちゃんは、いつも元気ね。」「こんにちは。」「はい、こんにちは。」「この人は?」「こちらは、ちょっと、具合が悪くなって、おばあちゃんにお願いして、休ませてもらっているのよ。こちらにもご挨拶してね、亮ちゃん。」その男の子は、怪訝そうな顔をして、理彩を見つめていた。「あ、こんにちは。亮君。」「こんにちは。」そう言うと、亮は、母親の所へ走っていった。「すみません。お加減が悪いのに。」「いえ、こちらこそ、お邪魔しています。」「大丈夫ですか?」「ええ、少し、めまいがして。こちらに助けていただいて、お母様のお言葉に甘えさせていただいて、休ませていただきました。もう、大丈夫です。」「あらあら、すみません。お休みのところだったのに。」そう言いながら、女性が入ってきた。「裕美、亮ちゃんを連れて、あちらの部屋に行ってらっしゃい。こちら、お体の具合が悪いのよ。」「うん。亮、あっちでおやつを頂こう。」「わぁい。おやつだ。」「では、失礼します。どうぞ、お大事になさって下さい。」女性は、すまなそうに理彩を見た。「ごめんなさいね。どうぞ、ゆっくりなさってね。」「ありがとうございます。でも、もう、落ち着いたので、そろそろ、おいとまします。」「でも、また具合が悪くなるといけないわ。もう少し、ね、もう少し、休んでいらして。」理彩は、女性の心配そうな視線を見ると、また、どうしても母親のことを思い出さずにはいられなかった。人気ブログランキングへ
2009/02/26
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その時、宮本という初老の女性が理彩の口を軽く押さえた。理彩は、何が起こったのか驚いて、宮本の方を見た。宮本は、微笑みながら理彩を見つめ、そっと手を口から離した。そして、ただ一言言った。「言わない方がいいわ。」理彩は、宮本に理由を聞きたかったが、その言葉は優しい声で発せられたものの、何か暗黙の約束をさせられたような、強い意味を持っているように感じられた。その後、宮本も二度と同じ言葉を口にしなかった。「大丈夫?少しはよくなった?」「ええ、すみません。お世話になってしまって。」そう言って、起き上がろうとした理彩を宮本は、手を添えてくれた。「起きて大丈夫?」「はい。めまいも収まったようです。」「無理しないでね。」「ありがとうございます。」その時、お茶をもって、あの女性が入ってきた。「あらあら、もう起きて大丈夫なの?」「はい。お世話になってしまって、申し訳ありません。」「いいのよ。気にしないで。どうせ、暇なんだから。お茶でも飲んでゆっくりして頂戴。」理彩の視線はどうしてもその女性を負ってしまう。『さっき、宮本さんは、山口さんって呼んでいたわ。私の旧姓は、栗原。やっぱり、別人だったのね。でも、お母さんの少し若い頃によく似ている。本当に似ている。別人だなんて思えない程だわ。』理彩が見つめているのに気がついたのか、その女性が言った。「どうかなさった?」「あ、いいえ・・・・。ここら辺は、古くからの町なんですね。まるで、別の世界みたいです。」「別の世界?そ、そうね。こんな家並みは、今では、珍しいかも知れないわね。」宮本がその時、口を挟んできた。「今日は、裕美ちゃんは、来るの?」「そうね。亮の幼稚園が終わったら来るかも知れないわ。」「いつも亮ちゃんは元気だね。この間も、ここの前で、サッカーボールを蹴っているのを見たわ。」「もう、やんちゃで。家の中ででもボールを蹴るそうよ。」『あの、娘さんと男の子?裕美さんと亮君っていうのね。幼稚園に行っているのね。』そんなことをぼんやり考えていると、その女性が理彩に声を掛けてきた。「あなたにもお子さんがいらっしゃるの?」「は、はい。小学生の息子がいます。」「そう、元気なのね。きっと。」「ええ、おかげさまで。」女性は、理彩に微笑んでお茶を勧めた。人気ブログランキングへ
2009/02/25
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それから三日ほど理彩は疲れが出て、寝たり起きたりの生活を送っていた。「今日もいいお天気だわ。」理彩は、二階のベランダに洗濯物を干しながら晴れ渡る空を見ていた。太陽の日差しを浴びていると、理彩は、どうしてもあの浅草の路地を思い出してしまうのだった。そして、居ても立ってもいられず、出かける用意をする理彩だった。日傘を差して家を出た。「暑いくらいだわ。」理彩は、思わず、日傘越しに空を見上げた。電車を乗り継いで浅草の駅に着いた。地下鉄の改札を出て、地上に出ると、理彩は、一瞬、太陽の日差しにめまいを感じた。『ああ・・・。』理彩は、気を取り直して、先を急ぐように足を進めた。あの路地の角に着いた時、理彩は、肩で息をしていた。そして、めまいがして、思わず、その場にしゃがみ込んでしまった。すると、いつの間にそこにいたのか、うしろから初老の女性が、理彩に声を掛けてきた。「大丈夫?」「はい・・・。」返事をしたものの、理彩は、立ち上がることができなかった。「私につかまって。」「でも・・・・。」「どこかで休んだ方がいいわ。早く。」「すみません。」理彩は、その女性の肩に手を伸ばした。女性は、理彩と同じくらいの背格好だった。理彩を抱えるように、その女性は歩き出した。なんと、あの家の玄関に向かって行った。理彩の鼓動が、どんどん早くなっていった。「山口さん、山口さん、ごめん下さい。山口さん。ごめん下さい。」女性は、あの家の玄関の前で、そう言うと、玄関の戸をガラガラと開けた。丁度、その時、理彩の母親に似た女性が出て来た。「まあ、宮本さん、どうしたの?あ、この人は?」「ごめんなさいね。この人が、そこの角で、うずくまっていたから、連れてきたの。ちょっと、休ませてあげてもらってもいいかしら?本当は、私の家に連れて行けばいいんだけど、少し、距離があるから。具合が、悪そうなのよ。」「そうなの?大変。いいわよ。いいわよ。さあ、どうぞ。大丈夫?あなた?」その女性は、心配そうに理彩の顔をのぞき込んできた。「申し訳ありません・・・。」「いいのよ。汚い所だけど、休んで行きなさい。動ける?」「はい・・・。」「大丈夫?」その時、奥から、理彩の父親に似た男性も出て来た。「どうしたんだ?」「この人が、具合が悪くなって、外でしゃがみ込んでいたんですって。ちょっと、休ませてあげようと思って。あなたも手伝って。」「そりゃ大変だ。大丈夫ですか?」三人がかりで、理彩は、奥の和室に連れて行かれた。母親に似た女性が、急いで、布団を敷いてくれた。そこに理彩は、横になった。「すみません。」「いいのよ。少し、じっと休んで。宮本さん、お茶でも飲んでいって。」「ああ、いいのよ。」「今、すぐに持ってくるから。」「悪いわね。」そう言うと、あの夫婦は、部屋から出て行った。理彩は、二人の後ろ姿を見て、思わずつぶやいてしまった。「お母さん。お父さん・・・・。」人気ブログランキングへ
2009/02/24
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理彩は、雅史の手を握り返して、立ち上がった。「二階の窓も開けてくるわ。少し、風を入れておかなくちゃね。」「そうだね。開けてこよう。」雄太も一緒に二階に上がっていった。階段を上がったすぐのドアを開けた。両親の部屋だった。雅史が先に部屋に入り、雨戸を開けた。この部屋にも初夏の日差しがすっと入ってきた。そして、部屋の中が明るくなると両親の生活していた跡が姿を現した。机に本棚、ドレッサーにタンスにベッド。ドレッサーの鏡にはレースが掛けられていた。そのレースを理彩がめくった。「ここにお母さんは座ってお化粧していたのね。」そう言って、鏡の前に座った。母親の顔が自分の顔と重なって見えた。鏡の中に雄太が入ってきた。そして、笑顔を作った。「お母さん。」そう言って、雄太は、理彩の背中に抱きついた。母親の心の中を心配しているようだった。「理彩の部屋の窓も開けてくるよ。」雅史はそう言って、部屋を出て行った。「この家っていつ建ったの?」「お母さんが、高校生の時に立て替えたの。もう、何年になるかしら。」「結構、経っているんだね。」「そうね。」そう言って、理彩は、天井を見上げた。「お茶でも飲む?」隣の部屋に行っている雅史に向かって理彩が声を掛けた。「そうだね。」理彩と雄太は階段を下りていった。玄関の吹き抜けに下がっている電灯の笠に西日が当たって光っていた。その光を見て、理彩は一瞬立ち止まった。「どこへ行っちゃったのかしら・・・。」そうつぶやいて、理彩は、階段を下りていった。「はい、お茶。」「ありがとう。」「雄太にも。何か、冷たい物を買ってくればよかったね。」「いいよ。お茶で。」「お茶も、コーヒーも捨てておかなくちゃね。」「そうだね。」「結婚前、ここで、こうしてお父さんとお母さんと一緒に日曜日なんかにお茶を飲んだわ。ぼんやりしながら。おしゃべりしながら。」理彩は、涙を流さない。人気ブログランキングへ
2009/02/19
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「お父さん、お母さん・・・。」理彩は、暗いリビングへ入っていた。そこには、両親が生きていた頃の空気が感じられた。理彩が雅史と結婚するまで、ここで親子三人で一緒にテレビを観て、おしゃべりをして、笑った。話し声や笑い声が聞こえてきそうだった。理彩は、庭に面した窓の雨戸を開けた。一気に初夏の日差しが、部屋の中に差し込んできた。『眩しい。』理彩は、少しふらつきを感じ近くにあった椅子にもたれかかった。「あ、おかあさん、大丈夫?」「少し、ふらついただけよ。大丈夫。」雄太が慌てて理彩の所へ駆け寄った。雄太は、自分の母親までもどこかへ連れて行かれてしまうのではないかと、心配でならなかった。「大丈夫よ。雄太。」「そうだよね。絶対大丈夫だよね。」理彩は、心配する雄太の髪を撫でた。「片付けなくちゃね。どうしよう。この家。」「理彩、ゆっくりでいいじゃないか。」雅史が庭からリビングに入ってきた。「そうね・・・。写真とか、アルバムとか人形とか少し家に持って帰ろうかしら。」「いいよ。」「何にも変わっていないのに。本当に何も変わっていないわ。」「そうだね。」「まだ、お父さんとお母さんの匂いが残っている。まるで、二階から降りてきそうだわ。」「そうだね。」「何も変わっていないのに。二人だけがいないのね。」「そうだね。」理彩は、視線を庭のバラに向けた。「二人はいないのに、庭の花はちゃんと咲いている。時間だけが経ったのね。」理彩は、小さく溜息をついた。雅史が理彩の手を優しく握った。人気ブログランキングへ
2009/02/18
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翌日、理彩のふらつきは少し軽くなってきた。「少しよくなったからと言って、無理しちゃだめだよ。」「雄太、ありがとう。気をつけてね。」「本当だぞ、理彩。雄太の言うとおり、無理しちゃだめだぞ。今日も、ゆっくりしているんだぞ。早く帰るから。」「わかったわ。ありがとう。」「ここでいいよ。玄関は、鍵を閉めておくから。」「うん。じゃあ、二人とも気をつけてね。」理彩は、リビングの窓のカーテンを開けた。「今日もいいお天気ね。そう言えば、世田谷の家の庭のチューリップも咲いたかしら。お水も上げていないから枯れてしまったかも知れないわね。お母さんが育てていたバラもどうしたかしら。明日、連れて行ってもらおうかな。」土曜日の午後、雅史の運転で、理彩の実家に親子三人で出かけた。両親の葬儀の後、雅史と雅史の両親が理彩の実家の後片付けをした。理彩の母親は、綺麗付きだったので、部屋の中は年末に二人で大掃除をしたらしく綺麗に片付けられていた。お正月の飾りやおせち料理など、そのままになっていたものを片付ける程度だった。外は、日差しが強くなってきていたが、玄関のドアを開けると、ひんやりとした空気が流れてきた。「ここだけ、まるで冬のままだわ。」「大丈夫か?」「うん。」理彩は、両親の死が余りにも突然だったので、悲しみを感じることを忘れていた。事故の電話を受け取った時はショックを受け、崩れ倒れたが、涙を流すことなくこの四ヶ月を過ごしてきた。心の中では、両親は、長い旅行にでているのだと信じることで悲しみに蓋をしていた。「綺麗にしてくれたのね。何も変わっていないわ。」「窓を開けよう。」雅史が、玄関を上がって、廊下の右側にある和室に入っていた。ガラガラと雨戸を開ける音がした。理彩は、まだ、玄関に立っていた。「お母さん?」隣にいた雄太が理彩に声を掛けた。「あ、中に入ろう。」二人は、靴を脱いで玄関を上がった。「理彩、ほら、チューリップ、咲いているよ。」「本当?」理彩は、雅史の声に心を弾ませた。「本当だわ。あ、バラも咲いている!」「よかったね。」「よかったね、お母さん。」「水をやっておこうか。」「ええ、お願い。」「雄太も上げる。」「他の木も大丈夫みたいだね。時々、水やりに来なくちゃだめだね。」「そうね。」雅史と雄太は、ホースを引いてきて植木や花に水を撒き始めた。「どうしよう。」「何が?」「この家。」「そうだね。」理彩は、まだ窓の開けられていないリビングとの間にあるふすまを開けた。リビングからは、置き時計の時を刻む音が聞こえてきた。「お父さん、お母さん・・・。」人気ブログランキングへ
2009/02/17
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「理彩、理彩、おい、理彩、大丈夫か?」「あ、あなた?」「うなされていたよ。何か、悪い夢でも見たのか?汗をこんなにかいて。」「え?私、うなされていた?夢?えぇぇ・・・・・。」理彩は、夢で、あの浅草の細い道を入っていった所にある古い町並みを彷徨っている夢を見ていた。でも、雅史には、言えなかった。「大丈夫か?今、タオルを持ってくるよ。」理彩は、雅史が作ってくれたお粥を数口食べて、そのまま眠ってしまったのだった。『夢にまで見てしまうなんて。まるで同じ町だったわ。そして、あの家。』外から、風がゴーゴー唸る音が聞こえてくる。『すごい風。昼間はあんなにいいお天気だったのに。そう言えば、お父さんとお母さんのお通夜の夜もこんな風の強い日だったわ。雲の間から満月が見え隠れしていたっけ。』「風の音が嫌・・・。」タオルを持って、雅史が寝室に入ってきた。「どうした?」理彩は、両手で自分の体を堅く抱きしめていた。「理彩?」「あなた、風の音が・・・。」「すごい風だな。」「風の音が。」「理彩。」雅史は、怯えるような理彩を抱きしめた。「大丈夫だよ。」「あなた。」理彩は、風の音を聞きながら、あの町をまた思い出していた。理彩は、それから3日間ほとんどベッドの中で過ごしていた。うつうつとしながら、あの町の中を彷徨っていたのだった。そして、あの家の玄関の前まで行っては、しばらく立ちすくみ、その場を離れては、また戻る。夢の中で、何度となく同じことを繰り返していた。「余り無理するなよ。ゆっくりしていればいいよ。今日も早く帰ってきて、夕飯の準備は、するから。」「ありがとう、あなた。ごめんなさいね。大変な思いさせちゃって。」「何言っているんだよ。大変なんかじゃないよ。理彩の方が大変じゃないか。雄太、遅れるぞ。早く用意しろ。」「分かったよ。」「じゃあ、行ってくるね。」「おかあさん、行ってきます。」理彩は、二人を見送った後、一人で、トーストとコーヒーの軽い朝食を摂った。『今日もいいお天気ね。暑くなるのかしら。』安定剤の副作用か、ふらつきがひどくなっていた。食事が終わって、一人、ソファーに座り、狭い庭に咲いているラベンダーの花やチューリップをぼんやりと眺めていた。『そう言えば、町の家にもチューリップの植木鉢が沢山並べられていたわ。』どうしてもあの町が理彩の頭から離れなかった。人気ブログランキングへ
2009/02/16
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「大丈夫か?」「ええ。」裕太から理彩の体調が悪いと電話をもらって早く帰ってきた雅史が、ベッドで横になる理彩に声を掛けた。理彩は、起きあがろうとした。「ゆっくり、寝ていた方がいいよ。昨日、ちょっと歩きすぎたかな。疲れが出たんだね。」雅史は、ゆっくりと理彩の体を横にした。「ごめん。今日の夕飯は、レトルトのカレーなの。」「いいよ。理彩は、何か食べたの?」「食欲がなくて。」「何か、お腹に入れた方がいいよ。お粥を作ってやるよ。」「ごめん。」「待っていて。着替えたら直ぐに作るよ。」雅史は、そういうと、着替えて、部屋を出て行った。理彩は、今日、また、浅草に一人で行ったことを雅史に言えなかった。理彩は、自分でもその理由は分からないが、あの夫婦のことを雅史に話すことを躊躇っていた。天上を見つめてぼんやりと見つめ、今日みた光景を思い出していた。あの暑い日差しの向こう側に見た光景を。「おかあさん、大丈夫?」いつの間にか、裕太が理彩の枕元に立っていた。「裕太。ありがとう。心配を掛けちゃったね。ごめんね。ちょっと、疲れただけだから。ゆっくり、休めば大丈夫よ。直ぐによくなるわ。」「うん。」いつも元気な裕太だが、この四ヶ月の間、祖父母の訃報と母親の入院と嵐の中をくぐり抜けてきたのだった。なんと言っても、まだ10歳の少年にとっては、十分に衝撃的であった。裕太は、時々、理彩に甘えて抱きついてきたりするようになった。まるで、自分の中の不安感を消え去って欲しいと訴えているようだった。「おかあさん。」裕太は、跪いて理彩のベッドに頭を載せて、理彩の手を握った。「裕太。」理彩は、裕太の心の中の不安を感じ、裕太の手をしっかりと握りしめ、もう片方の手で、裕太の頭を優しく撫でた。そうしている時でも、理彩は、頭の中で玄関を閉める時、母親に似た女性が理彩の方に会釈をした姿を思い出していた。人気ブログランキングへ
2009/02/13
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理彩は、その場を中々離れることができなかった。差すような日差しの中、斜め前のあの老夫婦の家をじっと眺めていた。たてられてから、三十年、四十年は、とうに経っているような家だった。壁は、塗り替えられているようだったが、窓の枠は、銀色のアルミサッシで、時代を感じる。しかし、家の周りは、きれいに掃除されており、他の家と同じように玄関の両脇にピンクと白のゼラニュウムやまだ蕾のアジサイの植木鉢が並べられていた。その家のたたずまいは、夫婦の人柄を表しているように思えた。理彩は、気がつくと浅草寺前の仲見世通りを歩いていた。『いつの間に、ここまで戻ってきたのかしら。あれは、本当にあったこと?夢?いえ、本当に見たことだわ。』今の理彩にとって、二日続けての少し遠目の外出は、体力的に辛いものだった。帰宅して、直ぐにベッドに向かった。うつうつと薄い眠りの中、今日見た光景を思い出していた。まるで、八ミリビデオを巻き戻して再生しているように。理彩は、細い道を入り、真っ直ぐ歩く自分の後ろ姿を追っていた。そして、玄関から出て来た女性の顔。「お母さん。はっ。夢?ここは、どこ?」一瞬、自分のベッドルームで横になっていることを思い出せなかった。「そうだった。帰って来てから、寝てしまったのね。夢を見ていたんだわ。でも、あれは、夢じゃない。」その時、理彩は、玄関の呼び鈴が鳴っていることに気がついた。「ただいま。お母さん。ただいま。」「あら、もう、こんな時間。」理彩は、起き上がり立とうとした。しかし、ふらついてしまい、壁にもたれかかった。「ただいま。お母さん。」裕太が、外で大きな声を上げている。「今、行くわ。ちょっと待って。」理彩は、ふらつきながらも、壁を伝わって玄関に向かった。「今、開けるから。ちょっとふらついちゃって。」「大丈夫?」「大丈夫よ。」玄関を開けると裕太が理彩を見上げた。「本当に大丈夫?」理彩は、裕太の顔をじっと見つめた。そして、あの角の家に入ってった五歳くらいの男の子を思い出していた。人気ブログランキングへ
2009/02/12
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『お、おかあさん。いいえ、違う。若いもの。でも、あそこが、あの夫婦の家なのね。あの親子は、娘さんと孫?』理彩は、その家へと足を進めて行った。まるで、磁石に吸い寄せられるように、無意識に足が、その家へと向かっていった。気がつくと、玄関の前まで来ていた。『私ったら、何をしようというの?あの夫婦には、雄太とは違う孫がいるじゃない。だって、お父さんもお母さんも死んじゃったんじゃない。お葬式を出したじゃない。』理彩は、そっと玄関の前で、耳をそばだてた。『何しているんだろう。聞き耳たてて、よその家の中の話を聞こうなんて。おかしいわ。私、おかしいわ。』理彩は、その場を離れようとしたが、中々、足が動かない。『そんなわけないじゃない。』この言葉を何度となく、頭の中で繰り返していた。その時、理彩の後ろを自転車に乗ったおじいさんが通り過ぎて行った。我に返った理彩は、その老人の方を見た。その老人も理彩の方を怪訝な顔をして見ていた。『そうよね。おかしいと思われても仕方ないわ。きっと、この辺の人ね。見かけない人間が、人の家を伺っているんですものね。』理彩は、角まで戻って、その家の方を振り返った。どうしても、その場を離れることができなかった。『あり得ない。あり得ない。』そう思い、来た道を帰ろうとしたけれど、はやり、後ろ髪を引かれる思いがした。『違う。そうよ。他人のそら似だわ。だって、お父さんもお母さんも亡くなったんじゃない。』自分に何度も何度も言い聞かせて、理彩は、帰ろうとした。その家に背を向けて歩き出した時、玄関がガラガラと開く音が理彩の耳に入ってきた。理彩は、どうしても振り向かずにはいられなかった。あの親子が家の中に入ってから30分以上はたっただろうか。「今日は、これから、亮のサッカー教室だからね。亮、おばあちゃんに、ごちそうさまは?」「おばあちゃん、ごちそうさま。またね。」「気をつけてね。夏みたいね。暑くなってきたわ。」そう言って、理彩の母親に似た女性が空を見上げた。そして、その視線を下におろそうとした時、通りの反対側で立ちすくむ理彩に気がついた。理彩は、はっきりとその女性の顔を見た。そして、その女性も理彩の顔をはっきりと見つめ、軽く会釈をした。理彩も、会釈を返した。「じゃあ、行くね。お母さん。」そう言うと、娘らしき女性と男の子は、通りの奥へと歩いていった。玄関の戸を閉める時、その女性は、また、視線を理彩に送ってきた。太陽の日差しが理彩の日傘に突き刺さるような昼下がりだった。人気ブログランキングへ
2009/02/11
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理彩が、ふと、左を向くと、あの夫婦が丁度、細い路地を右に曲がる所だった。『あ、あそこ。』理彩は、急いだ。自分では、急いで歩いているつもりでも、中々、気持ちに足がついていかない。理彩が、夫婦が曲がった角に来た時、二人の姿はすでに、なかった。『どこに行ったのかしら?せっかく、ここまで追いかけてきたのに、見失うなんて。どこに行ったのかしら?』理彩は、細い路地の入り口で立ち止まった。『この先へ行ってみよう。ここを曲がったのは確かだし。』理彩は、気を取り直して、その細い路地に入っていった。細い路地の両脇は、昭和30年代から40年代くらいに建てられたと思われる二階建ての家がひしめいていた。『下町って感じね。それにしてもこんなに家と家がくっついていて大丈夫なのかしら。』理彩は、右、左と首を動かしながら、一軒、一軒の家を眺めながら前に進んでいった。『どの家も、家の前にお花を飾っているのね。それにしても、静かだわ。』昼間だというのに、前を見ても後ろを振り返っても人の影がなかった。物音一つ聞こえてこないのだった。『すぐ近くに大通りがあるはずなのに、車の音も聞こえないわ。誰も家にいないみたい。人が住んでいる気配を感じないわ。』丁度、T字路に出た時、斜め向かいの家に5歳ほどの男の子を連れた若い母親が訪ねて来たのか、呼び鈴を鳴らしている。『あの男の子、雄太が小さかった頃に雰囲気が何となく似ているわ。』と、次の瞬間、玄関の引き戸を開けて、あの夫婦の妻が出て来た。『あ、あの人だわ。』「健ちゃん、いらっしゃい。おじいちゃんも待っているわよ。今日は、あんみつ買っておいたからね。」「わぁい。早く食べたい。」「健ちゃん、ありがとうでしょう?」「ありがとう、おばあちゃん。」『まるで、何年か前のお母さんと私たちを見ているようだわ。』理彩は、その光景をじっと見つめていた。やがて、三人は、家の中へと消えていった。人気ブログランキングへ
2009/02/10
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理彩は、雷門を目指し歩き始めた。大通り沿いの歩道は、平日にもかかわらず、観光客で賑わっていた。雷門では、観光客が記念写真を撮る姿があちらこちらで見られた。理彩は、仲店通りをゆっくり歩いていった。気温もかなり上がってきて、理彩は、少し汗ばんできた。『暑くなってきたわ。平日なのに沢山の人だわ。もう少し行った所を左に曲がったんだわ。』左右にぎっしり並んだお土産屋さんやおせんべいさん、人形焼き屋さんに観光客が集まっていた。理彩は、ゆっくりとした足取りで仲見世通りを浅草寺に向かって歩いてった。『確か、この角を曲がったはず。』仲店通りから左に曲がり、三人で休憩した甘味処へ向かって歩を進めた。『確か、この交差点で、右側を見た時、あの夫婦が歩いていくのが見えたのよね。』理彩は、その四つ角を右に曲がって歩いて行った。『平行に歩いていたんだから、この道をまた左に曲がるんだわ。』理彩は、交差点で、左を向いた。『でも、ここからどこへ行ったのかしら。まっすぐかしら、あの先の所を右に曲がったのかしら。』T字路になっている所まで来ると、理彩は、まっすぐ行こうか、右に曲がろうか、迷った。ここまで来ると、仲見世通りのような人通りはなかった。どこか、別の世界に迷い込んできたような感じがする。その時だった、まっすぐ行った所にある四つ角をあの夫婦が横切って行くのが見えた。『あの、あの二人だわ。間違えない。やっぱり、よく似ている。』10メートルほど先だったが、理彩は、確信した。『早く行かなくちゃ、見失ってしまうわ。待って。』理彩は、足を速めたが、中々、早く歩けない。いらだちながらも、その四つ角についた。右に顔を向けると、あの夫婦がまっすぐ歩いていく後ろ姿が見えた。理彩も、その夫婦の背中を追いかけて、まっすぐ歩いて行った。『どこまで行くんだろう。やっぱり、少し、お父さんとお母さんよりも若い感じがしたわ。』そう思いながらも、理彩は、何か不思議な力に引き寄せられるようにその夫婦の後を追った。『何なんだろう、この胸のドキドキは。』その夫婦は、まっすぐまっすぐ歩いて行き、少し、大きめの通りを渡り、細い路地へ入っていった。そこは、二階建ての古い家屋が軒先を連ねている昔ながらの住宅地だった。庭も門もなく、道路に玄関が面していて、玄関の両脇に植木鉢が並べられている家が多い。この季節、もう朝顔の蔓を植木鉢から窓の枠に結んだひもに絡ませている家があちらこちらにある。『あれ、どこへ行ったんだろう。確かに、この路地を入っていったはずなのに。』理彩が、ふと、左を向くと、あの夫婦が丁度、細い路地を右に曲がる所だった。『あ、あそこ。』理彩は、急いだ。自分では、急いで歩いているつもりでも、中々、気持ちに足がついていかない。理彩が、あの夫婦が曲がった角に来た時、二人の姿はすでに、なかった。人気ブログランキングへ
2009/02/09
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夕食後、理彩がイチゴを洗って、ガラスの器に牛乳と一緒に入れてリビングのテーブルに並べた。雅史と雄太は、テレビで野球の中継を見ていた。「今年こそ、ジャイアンツが優勝だ。」「そんなこと言っていられるのも今の内じゃないの?今年も中日だよ。」「何だ、野球に興味がないくせに。」理彩はそんな二人の会話を聞きながら、昼間、浅草で見かけた夫婦のことを思い出していた。『あんなに似ている人がいるかしら。しかも、夫婦そろって。でも、少し、若かったわ。』「理彩、疲れたのか?」「えっ、あ、ああ、大丈夫よ。ちょっとだけ疲れたかも。」「後は、片付けておくから、早く、寝た方がいいよ。」「そうするわ。じゃあ、お先にお風呂、頂くわね。」湯船に体を沈めていても、理彩の脳裏にあの夫婦が連れ立って歩いていく姿が浮かんでくる。お湯をすくって、顔に当ててみる。『ああ、頭から離れない。そんなわけないじゃない。』消し去ろうと思っても、消えない記憶。頭の中で、映像を巻き戻しては繰り返し、再生しているようだった。月曜の朝、雅史と雄太を送り出した理彩は、急いで、後片付けをして、洗濯物を干して、出かける支度を始めた。雅史から、一人で、遠くまで出かけることを止められていたが、理彩は、どうしても、確かめたかった。『今日もいいお天気だわ。少し、暑くなりそうね。日傘を差して行こうっと。』駅まで、10分ほどの道のりだった。通勤通学の時間帯が少し過ぎたものの、電車は、座れるほど空いていなかった。渋谷に出て、銀座線に乗り換えた。浅草は、終着駅だ。地下鉄の駅から階段を上っていくと、雷門の近くに出る。太陽は、すでに真上にあり、日差しも夏のようだった。『日傘を持ってきてよかったわ。』人気ブログランキングへ
2009/02/06
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「何年ぶり?浅草に来たの?」「雄太が生まれてから、1度か2度来たくらいだよね。」「そうね。でも、ちっとも変わっていない感じ。」「ここは、変わらない所なんだね。」浅草寺の参道から外れた道へと入っていった。理彩がふと横を見ると、50代くらいの夫婦が歩いていくのが見えた。「お父さん?お母さん?」理彩は、慌てて、そちらの方へ走って行こうとした。気持ちは焦っていても中々、足がついていかない。「理彩、どうしたんだ?いきなり走り出したら危ないぞ。」理彩は、そんな雅史の言葉も耳に入らなかった。早く動かない足をどうにか動かして、その夫婦が通って行った道へと急いだ。理彩がその四つ角についた時、二人の姿はなかった。理彩は、その二人が行った方向へ少し歩いて行ってみた。少し行くと、右に曲がる細い道があった。『この道を行ったのかしら?』その道を入っていこうとした時、理彩の腕を雅史が押さえた。「どうしたんだ?」理彩は、ハッと我に返った。「雄太が待っているよ。」「でも・・・」「どうしたの?」理彩は、自分が見た両親によく似た夫婦のことを言えなかった。いや、口に出そうとしても、言葉が出てこなかった。『この道を行ったんだわ。きっと。この先に。』「さあ、行こう。」「ええ。」雅史は、理彩の腕を取って、雄太が先に行った店に向かった。理彩と雅史が、店に着くと雄太は、すでに席に通されていた。「遅いな~。」「今日は、早く入れたんだね。前、来た時、そとで待ったような気がしたんだけど。」「僕、このフルーツあんみつにする。あ、アイスクリームのついているのね。」「理彩は?」「えっ?」理彩は、さっきの夫婦の姿を思い出していた。「あ、私、あんみつをお願い。」「お父さんは、お汁粉にしよう。」『あんなに似ているなんて。でも、少し、若い感じがしたわ。』人気ブログランキングへ
2009/02/04
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入院してからも、毎日、理彩は、ほとんどベッドの中にいた。起きても窓際の椅子に座り、ぼんやりと外を見ていた。「山村さん、少しは食べましょう。」看護婦が理彩に声を掛けた。でも、理彩は、看護婦の方を振り向くが返事をしない。まるで、時間も空間も固まってしまった世界にいるようだった。トイレに行く時も廊下の手すりにつかまって歩いていた。「理彩。気分はどう?」毎日、会社帰りに雅史は、理彩の所に見舞いに来た。理彩は、何かを言おうとするが、言葉にならない。「悲しい時は、悲しんでいいんだぞ。泣きたい時は泣いていいんだぞ。」そんな雅史の言葉にも理彩は、表情を変えずに黙って雅史を見つめるだけだった。「看護婦さんが言っていたけれど、ほとんど、食事を摂っていないそうじゃないか。少しでもいいから、食べなくちゃ。」雅史がスプーンにおかゆをすくって理彩の口元に持っていった。理彩は、小さく口を開く。「少しずつ食べよう。」理彩は、軽くうなずく。「雄太も君が帰ってくるのを待っている。あいつも頑張っている。ほら、もう一口食べよう。」雅史がスプーンを理彩の口に運ぶ。理彩は、また小さく口を開いて、おかゆを飲み込む。あれから、4ヶ月、理彩は、退院し、まだ精神科に通院している。時々、顔から表情がなくなることがあるが、笑顔を取り戻していた。人の体は、不思議だ。精神的なショックで歩けなくもなる。身体的に異常がなくても、体が不自由になることがある。理彩は、歩行が困難になり、しばらく車いすの生活を余儀なくされていた。今では、歩けるようになったものの、ふらついたり、突然、脱力して、崩れるように倒れることがある。疲れやすく、日常生活も今までのようにはいかなくなった。そして、勤めも辞めた。今日は、五月晴れのいい天気で、久しぶりで家族そろって浅草に遊びに来ていた。「そう言えば、あそこを曲がってちょっと行った所に美味しい甘味処があったはずだね。」「へ~。お父さん、よく知っているね。」「お母さんと結婚前に来たことがあるんだ。」「思い出の地って訳?」「なんだ、そんな言葉知っているのか。生意気になってきたな。」「物知りになってきたって言ってよ。」「ハハっ、物知りか~。理彩、覚えているかい?」「ええ。あなたは、おぜんざいを食べて、私は、あんみつを食べたわ。」「早く行こう。」「雄太、先に行って、席を取っていろ。」「うん、分かった。」人気ブログランキングへ
2009/02/03
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「理彩、大丈夫か?」「うん、大丈夫よ。」5月の連休で浅草の浅草寺の仲店通りは、観光客でいっぱいだった。「おかあさん、僕、これ欲しいな。」「お小遣いで買いなさい。」「ええ~、買ってよ。お土産に。」「誰のお土産?」「僕の。」「そう言うのは、お土産って言わないんじゃないの?いいわよ。」雄太は、歴史が好きな10歳。「ありがとう。こういうの欲しかったんだ。」雄太は、葵の紋の入ったおもちゃの印籠を手にして嬉しそうな笑顔を理彩に見せていた。5月の初めと言っても、もう夏の日差しだった。「どこかで一休みしようか。」夫の雅史が理彩に言った。今年のお正月に理彩の両親が亡くなった。それは、突然の死だった。「えっ?今、何て、何て、おっしゃったんですか?」受話器を持つ理彩の手が震えだした。そして、その場に崩れ落ちた。リビングのソファーで雅史と雄太は、テレビゲームをしていた。理彩のただならぬ様子に雅史が気がついた。「理彩、どうした?」ゲーム機を投げ出して、雅史は、理彩の体を抱えた。受話器の向こう側から、声が聞こえる。雅史は、震える理彩を支えながら、受話器を耳に当てた。「お電話変わりました。」それは、警察からの電話だった。理彩たち一家三人の家に来る途中、理彩の両親が、環八で居眠り運転の大型トラックに追突され、即死したという知らせだった。いつも、年末からお正月二日までは、雅史の横浜にある実家に行って、二日に世田谷にある理彩の実家に行くことになっていた。でも、今年は、年末にサッカーの試合で雄太が足をねんざしたので、元旦に雅史と理彩の両親が、遊びに来ることにしたのだった。突然の訃報に理彩は、そのまま寝込んでしまった。理彩は、一人娘だった。雅史に支えられ、やっと通夜と葬儀に参列することができた。夢の中を彷徨っているかのようだった。一言も言葉を発することができなかった。涙も出てこない。体もこわばっていた。その日から、夜、眠れない日々が続き、とうとう倒れてしまい、救急車で病院に運ばれた。理彩は、まるで自分の世界に閉じこもってしまったかのようだった。入院してからも、ほとんど毎日、ベッドの中にいた。起きても窓際の椅子に座り、ぼんやりと外を見ていた。「山村さん、少しは食べましょう。」看護婦が理彩に声を掛けた。でも、理彩は、看護婦の方を振り向くが返事をしない。まるで、時間も空間も固まってしまった世界にいるようだった。人気ブログランキングへ
2009/02/01
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驚いたようなあなたさっと隠す左手はにかんだ笑顔あの日が蘇った人気ブログランキングへ
2009/01/28
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息を切らしてあなたに追いついた背中に向かって名前を呼んでみる振り返るあなたなんて言えばいいの言葉に詰まる私こみ上げる想い人気ブログランキングへ
2009/01/27
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人の波と一緒に改札口を出ていくあなた戸惑う心とうらはらに私の足はあなたを追いかけるあなたの広い背中を追いかける人気ブログランキングへ
2009/01/26
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あなたの後を追って電車を降りた大勢の人の中に紛れていくあなた見失いそう人気ブログランキングへ
2009/01/25
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電車の揺れる音私の心臓の音スピードが増していくあなたは、新聞を広げているあなたの指の形あなたの手だわ人気ブログランキングへ
2009/01/23
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同じ車輌に飛び乗ったあなたの方を見るけれどあなたは、私に気が付かないあなたよね?ワイシャツのイニシャルあなたのイニシャルあなた人気ブログランキングへ
2009/01/21
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心臓が止まりそうだった見逃さないように階段を小走りに下りて行ったあなたなの?あなたよねあなただわ人気ブログランキングへ
2009/01/20
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会いたい気持ちが合わせてくれたの?地下鉄へ下りて行く階段忘れることのない彼の横顔人気ブログランキングへ
2009/01/19
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東京は、好きじゃないなあなたは、そういって、ビル群の空を見上げた人気ブログランキングへ
2009/01/18
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スケートリンクから見た富士山が浮かぶ冬の空忘れていないでしょう一緒ならどこにいても寒くなかったね人気ブログランキングへ
2009/01/17
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aitaiaitaiaitai日記に何度も書いてみるaitaiaitaiaitai人気ブログランキングへ
2009/01/16
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あなたの名前を呼んでしまうの苦しくなったり悲しくなったりするといつも心の中にいてくれるあなた人気ブログランキングへ
2009/01/14
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運命だなんて言わないで悲しすぎるから心の底にしまっておいた思い出の箱が開いちゃう人気ブログランキングへ
2009/01/11
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久しぶりの声全然変わっていないしゃべり方も私を気遣ってくれる言葉もあなた人気ブログランキングへ
2009/01/07
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あなたは、今、幸せ?幸せになるように努力しているよ。人気ブログランキングへ
2009/01/06
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あなたと一緒に歩いた街に行ってみるのあのカフェに入ってあの席に座ってみるのあなたとのお喋りが蘇ってくるでも目の前にあなたはいないのね人気ブログランキングへ
2009/01/05
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どうして忘れることができないのどうして忘れさせてくれないのどうして私の心をはなしてくれないのどうして人気ブログランキングへ
2009/01/04
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寒い夜、あなたの胸のぬくもりを想うあの胸の中に戻りたいって優しく抱きしめてくれたあの時に恥ずかしくてあなたの顔も見られなかった私人気ブログランキングへ
2009/01/03
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あなたが選んだ道だから私も従うって決めたのだから、わたしから離れていくことにしたのあなたにさよならを言わせたくなかったの
2009/01/02
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この青い空をあなたはどこでみているのこの空の下で二人で過ごした記憶は二人だけのもの私は永遠に忘れない幸せだったのよ 人気ブログランキングへ
2009/01/01
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ドレッサーの中に写る私あなたの瞳の中に映っていた私の笑顔はないあの笑顔はあなたの瞳に永遠に焼き付いているはず私の瞳にも永遠に焼き付いている人気ブログランキングへ
2008/12/31
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