優しく抱きしめて ４２
地下鉄の駅のホームに下りて行く時、急に、美奈は、胸に痛みを感じた。
呼吸が荒くなってきた。
『頓服を飲んできたのに。苦しい・・・。』
美奈の異常な様子に気が付いた秦野有里が美奈に声を掛けた。
「村沢さん、大丈夫ですか？具合悪そうですよ。」
「大丈夫・・・。」
「村沢君、どうした？」
川原が美奈に声を掛けてきた。
「大丈夫です。すみません。」
美奈は、地下鉄に続く階段の手すりにしがみついた。
「秦野君、川村君を会社に連れて帰ってあげて。下のクリニックに連れて行ってあげてくれ。頼んだよ。」
「はい。」
有里は、美奈を抱えるようにして会社に戻っていった。
会社のロビーに入ると、誠二がクライアント先へ出掛けていくところだった。
「おい、大丈夫か？」
「急に、体調を崩されたみたいで。」
「俺に、つかまれ。しっかりしろ。」
「ごめん・・・。」
「喋るな。」
美奈は、直ぐに、クリニックの診療室に通され、ベッドに横になった。
「過呼吸ですね。以前も同じような症状でいらっしゃいましたね。」
医師は、カルテを見ながら、美奈に話し掛けた。
「大丈夫ですよ。早く収まるように注射を打っておきますから。少し、横になっていって下さい。」
美奈は、少し、もうろうとした感じになった。
「お前、やっぱり、体調、戻っていなかったんじゃないか。それなのに、無理して。」
美奈は、薄い眠りの中で誠二の言葉を聞いていた。
部屋に戻ると誠二が美奈の所に来た。
「高橋さんから聞いたよ。病気のこと。俺から川原さんに話す。」
「涼子から？」
「ああ、さっき聞いてきたよ。パニック障害だって。体のことを考えろよ。あんなに残業して。無茶なんだよ。」
「やっとまともな仕事もらえたのよ。」
「分かるさ。お前の気持ち。でも、だめだ。体が壊れちゃうぞ。今は、体調を治すことを考えろよ。また、よくなったら、仕事なんていくらでもできるさ。」
「・・・・・。」
「今日は、帰れ。休むんだ。」
美奈は、誠二に支えられながら部屋を出ていった。
タクシーに乗って、家に向かった。
美奈は、森口からもらった森口の携帯の番号が書かれているメモを取り出した。
「もしもし、村沢です。突然お電話して、申し訳ありません。今、大丈夫ですか？」
「大丈夫ですよ。どうかしましたか？」
「さっき、過呼吸の発作を起こしてしまって。丁度、クライアント先に行く途中で。多分、仕事、下ろされちゃいます。ごめんなさい。お忙しいのに。」
「今、研究室にいるので、大丈夫です。体調は？」
「会社のビルには行っているクリニックで安定剤の注射を打ってもらいました。今、帰宅するところです。」
「そうですか。しっかり、休んで下さい。明日、診察ですよね。」
「はい。」
「何も考えずに、休んで下さい。いいですね。」
「すみません。」
美奈は、電話を切った。
森口の声を聞いて、美奈は、安心した。
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