陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 45



「申し訳ありません。」

美奈は、プロジェクトから外されることを覚悟していた。

「この間のようなことがまた起きると大変だし、君の体調が心配だ。まずは、体調を快復させることが第一だね。君も知っての通り、今回のプロジェクトは、大きなプロジェクトなので、仕事量も大変だ。君の専門分野だったので、君の力を発揮してもらいたかった。でも、残念だが、田中君に君の仕事を引き継いでもらうことにしたよ。いいね。君は、サポートに回ってくれたまい。君には、自分の体調を一番に考えて欲しい。体調さえよくなれば、次のプロジェクトに加わってもらうつもりだから。」

「はい。わかりました。ご配慮ありがとうございます。」

美奈は、川原に一礼して、自分の席に戻った。

ふうっと、大きなため息をついた。

美奈は、トイレの中で1人少し泣いた。

「美奈、涼子。ランチしない?」

涼子から電話が掛かってきた。

「うん。いいよ。」

2人は、少しビルの谷間の通りを歩いた。

小さなカフェ風のフレンチのお店に入った。

「私、Aランチにするわ。」

「私も。」

ウェートレスに注文した。

「美奈、ごめん。私、田中君に美奈の病気のこと話した。話さないって約束したのに。」

「いいよ。遅かれ早かれ、室長に話さなくっちゃって思っていたし。自分では、中々、言えずにいたの。発作を起こしちゃったから、もう、限界だったわ。プロジェクトが進んでいたら、みんなに、大きな迷惑をかけるところだったわ。私の我が儘で。」

「美奈。」

「体を治したら、またチャンスは来るって信じているし。」

「ごめん。でも、分かってね。あんたの為にしたってことは。」

「やだ、涼子ったら、当たり前じゃない。そんなことが分からない程私、落ちぶれてないよ。」

「田中君のことも。美奈の後を継いだんだって。」

「うん。田中君ならちゃんとできるよ。彼にも迷惑かけちゃった。散々、心配させておいて、その上仕事の負荷まで増やしちゃった。」

2人は軽めの前菜にフォークを伸ばした。

「美味しいね。これ揚げた魚のマリネ?」

「何だろうね。でも、おいしい。」

「涼子。心配してくれて、本当にありがとう。」

「美奈。」

涼子はそれ以上美奈に掛ける言葉が見つからなかった。

美奈がどれだけ今まで頑張ってきたか、涼子はずっと見てきた。

女性の社会進出が叫ばれているが、やはり、男性以上に頑張らないと中々、仕事を認めてもらえないのが現状だ。

美奈も涼子もそれをひしひしと感じながら、やってきた。

それだけに、美奈のショックを涼子は痛いほど分かっていた。


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