陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

優しく抱きしめて 46



「ちょっといいか?」

「うん。」

「今回のこと・・」

「いいってば。もう言わないで。私の為に、田中君も涼子もしてくれたんだもの。自分勝手に周りの人たちに迷惑をかけるところだったわ。それに、目の前のことばかり考えて、先のことまで考えられなかった私が間違っていたわ。田中君には、お礼が言いたいわ。仕事の負荷も多くしちゃって、ごめんなさい。できるだけサポートさせてね。」

「お前。川原さんも悪く思っていないから、体調さえよくなれば、また大きな仕事させてもらえるさ。今は、俺のサポートだから、遠慮しないで、体のこと言えよ。いいな。」

「ありがとう。」

「とりあえず、これ集計、頼むわ。」

「分かった。グラフも作っておいた方がいいかな。」

「あ、じゃあ、頼む。」

美奈は、6時には会社を出てタクシーで帰宅した。

「あら、美奈、早いのね。最近、また遅くなっていたから心配していたのよ。」

「パパには、心配させたくないから言わないでね。実は、この間、仕事中に発作を起こして、仕事から、外されたの。」

「美奈ちゃん。」

「また、ママの美味しい夕飯が毎日食べられてうれしいわ。今日の夕飯は、何?着替えてくる。」

「肉じゃがと鰺の塩焼きよ。」

「おししそう。」

美奈は、自分の部屋に入り、クローゼットのドアを開けた。

ドレッサーの椅子に座り、鏡に映った自分の顔を見た。

歯を食いしばったが、涙が抑えられなかった。

バックから携帯を取り出し、気が付いたら、森口に電話そしていた。

「村沢さん?」

「森口さん。今、大丈夫ですか?」

「どうかしましたか?」

「昨日、クライアントに行く途中、発作を起こして、プロジェクトから外されちゃいました。」

「そうでしたか。体は、もう大丈夫ですか?」

「ええ、会社のビルに入っているクリニックで安定剤を注射してもらいました。」

「今回は、我慢して下さい。あなたにとって、一番は体を治すことですから。もっと、先を見ましょう。楽しいことも嬉しいことも沢山、あなたを沢山、待っていますから。」

「ありがとうとうございます。お忙しいところをすみません。」

「そんな、とんでもないです。僕でよければ、吐き出して下さい。心に溜めないで。また土曜日に散歩でもしましょう。体調がよければ、美術館でも行きませんか?」

「ええ、楽しみにします。」

「僕も。じゃあ。」

「失礼します。」

「美奈、誰と話しているの?食事が冷めちゃうわよ。」

「ごめん。直ぐに行くわ。」


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