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November 13, 2010
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カテゴリ: 教授の読書日記



 この本、本業の版画制作に加え、『エーゲ海に捧ぐ』で小説家デビュー、自ら脚本・監督をしてこの小説の映画化も果たし、八面六臂の活躍をしていた頃の池田さんの本。次から次へと舞い込む原稿執筆にてんやわんやだった彼は、毎月、親しい友人に手紙を書く、という体裁で、その友人に語りかける形でさまざまな主題についてエッセイを書く、という趣向を思い付く。この本はそんな趣向の元に書かれた『芸術新潮』での連載をまとめたものです。

 この「友人宛の手紙形式」のエッセイについて、池田さん自身、うまいことを考えついたもんだ、と自賛しておりますが、まあ、こういう趣向が実行できるのも、池田さんの交友関係がスゴイからに他なりません。何しろ、手紙の宛先は、ざっと一部を挙げるだけでも「加藤周一宛」「澁澤龍彦宛」「西脇順三郎宛」「吉田秀和宛」「飯田善国宛」「佐藤陽子宛」「堀田善衛宛」「奈良原一高宛」といった感じですから。

 で、そんな趣向が功を奏したのか、お手軽に思い付いたエッセイのスタイルの割に、内容はかなり充実しております。

 ちょうどこの連載が書かれていた時期は、池田さんが芥川賞を受賞し、それを映画化するというので、当時の生活拠点であったニューヨークと、映画のロケ先のイタリア・ギリシャを行ったり来たりしている時期であり、しばし本業を離れて、映画監督というまったく未知の新しい体験を積み上げつつあった時期に当たります。それだけに、自分のホームである「美術界」をしばし離れ、いわば岡目八目的な立場から、改めて自分がやって来たこと、あるいはライバルのアーチストたちがやっていることを、冷静に見つめ直すことが出来たというところがあるようで、その辺の新たな自覚というのが、非常に興味深く綴られている。

 例えばアメリカでは版画家として認められ、日本では『エーゲ海に捧ぐ』のおかげでむしろ「小説家」として非常な有名人になってしまった池田さんですが、映画を撮るためにイタリアに来てみたら、そんな日米における名声なんぞまったく役に立たず、単に得体の知れない無名の人として映画を撮らなければならない、という状況に投げ込まれるわけ。で、そんな中で彼は、「映画界」という世界では、現代美術のことなんかに興味を持っている人なんか一人も居ない、ということに気づくんですね。そして、そんな環境で馬車馬のように働いている中で、彼自身も現代美術への関心を一時失っていく。

 いや、失うんじゃないんですね。いわばそこで、池田さん自身もどっぷりと関わって来た現代美術なるものが、一度ふるいにかけられるわけ。で、今まで重要だと思ってきたものの中で、本当は大して重要ではなかったものがどんどん忘れられ、本当に重要なものだけが残る。そういう仕分けが行われたらしいんです。

 で、そんな風に一旦現代美術の最先端から離れたおかげで、彼はマチスやモネといったある種の印象派の画家たちの展覧会を、むしろ虚心坦懐に見ることができるようになるんですな。で、今までむしろ嫌いですらあったこれら印象派の画家たちが、如何に現代美術に深い影響を与えていたか、ということについて、池田さんは改めて発見する。特に朝倉響子氏に宛てた手紙の中で語られた、池田さんのモネへの新認識などは、ちょっと感動的ですらあります。

 またこの時期は、私生活の点でも池田さんに大変革が起きていた頃で、具体的にはアメリカでのリランとの生活に終止符を打ち、新たに国際的ヴァイオリニストの佐藤陽子さんとの恋愛が始まっていたんですけど、この本には佐藤陽子さん宛の手紙が2通ありまして、最初の手紙の中では池田さんは佐藤さんに「あなた」と呼びかけているのに対し、2度目の手紙の中では「陽子」と直接名前を呼んでいる。こういうところにも、ああ、ここで二人の関係が決定的なものになったんだなということがよく出ていて、ある種快い感銘を受けます。しかし、その一方、佐藤さんとの関係が決定的になったということは、リランとの決別をも意味する(それは同時にそれまで活動の拠点としてきたニューヨークでの生活への決別をも含む)わけで、またゼロから出発しなければならないということへの恐れと、古いものを捨て去ることの爽やかな決意とを共に表明しているような川島猛宛の手紙もまた、実にすばらしい。

 またこの本の中にはそれまでずっと世話になってきた南天子画廊の青木治男氏に宛てた手紙もあるのですが、どうやらその後、青木氏との関係が悪化したようで、彼に対する決別を表明する内容のことが、先の川島猛宛の手紙の中に書いてあって、その辺の人間関係の変化も、まあ、これはちょっと俗っぽい興味、という意味ではありますが、面白いことは面白い。

 その他、池田さんが同じ版画家の棟方志功を語った海上雅臣宛の手紙なども、(そもそも版画というものをどうとらえているか、あるいは版画が社会的にどういうものとして受け取られているか、ということについて、池田さんがどうとらえているか、も含め)私にはかなり興味深く読めました。

 ってなわけで、この本、小品とはいえ、池田さんのエッセイ集の中でもかなり完成度の高いものなのではないかと愚考いたします。池田さんの書いた膨大なエッセイの大半を読んでいるワタクシが言うのですから間違いない。池田満寿夫の『親しい友への手紙』(新潮社)、もちろん今は絶版ですから、古本として探すしかないわけですが、教授の熱烈おすすめ! と申しておきましょう。





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Last updated  November 13, 2010 10:10:27 PM
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