2件目のお店



そこで私の担当をしてくれたのが、Tさん。(男)
明るい彼に乗せられて思い切ってショートにしてパーマまでかけてみた。
彼が髪をカットするのを見ているうちに、なんだか少し、また美容師になりたい思いがむくむくしてくる。ハサミをチャキチャキ言わせる彼に「スゴイですねぇ・・」などと言っているうちに、美容学校は出たものの、今はダラダラしている、と話すと彼はいとも簡単に「うち来る?社長に聞いてあげるよ。」と言う。
「ハァ」と言うと彼は裏へ行き、あっという間に戻ってきた。「オッケーだって。いつから来れる?」
これが2店舗目の面接だった。社長と面識すらなかった。

この店に私は結局4年ほどお世話になる。
ここで本当の美容師にしてもらったのである。

入ってすぐに私は先生(=社長。男)専属のヘルプにされる。
これが気にいらなかったらしく、女の先輩からはとことん、いじめられた。
裏でゴハンを食べていれば先輩同士でさりげなく、でもあからさまに「私がインターンの頃はぁ~」などとやられる。(でも私に向かっては話していないので、話に割り込むこともできない・・・)
私より数ヶ月遅れてはいってきた子はかわいがられてるんだけど、私の「先生のヘルプ」ってのがどうしても気に入らないらしい。
ついでに言っておくと、私は女同士の付き合いと言うのが大変苦手な人なのです・・・。男の人との方が付き合いやすいし、学校とか職場でも絶対男の人との方が仲良くなっちゃうので、他の女の人からはますます嫌われるという悪循環・・・・。
この店でも、結局、最初のTさん(後の店長)や先生、もう1店舗の店長にはとってもかわいがってもらって、プライベートでも遊びに連れて行ってもらったりしたけど、女の先輩とはついに和解することはありませんでした・・・。
結局、最後には鬱病みたいにまでなっちゃったんだけど、ある時先生に「オマエなー。アイツらにごますって可愛がられるのと、俺に可愛がられるのと、どっちが得だと思うよ?」と言われ「そりゃ、先生ですよ」と答えてハッと気がついた。

そこからは強かった。
女の先輩達には「てめえら!いつかあたしのヘルプに使ってやる!」の勢いで練習したし、無視されても、嫌味言われても、こっちが無視してた。
そのうち、彼女達がやめてしまった。
こら~!ヘルプしてからやめろ~!!と思ったけれど、気がつけばいつの間にか私は女の子の中では一番偉い人になっていた。
その時に気をつけたのは、下の女の子たちに徒党を組ませないこと。
こういうことをやるのって、女の子だけよね・・・。
とりあえず、その後は気分的には楽だった。

それでも仕事は大変だった。
はじめ、シャンプーの練習をするとき、店長に「本当に美容師になりたかったら、しばらく、男は諦めろな」と言われたけれど、それは本当にその通りだった。
男なんかとチャラチャラしていて、やっていけるほど、簡単なものではなかったのだ。美容師。
シャンプー1個取ってもこれが大変。
お客さんに「気持ちいい」と言わせるためには血の出るような努力が陰にはあるのである。先輩の背中を濡らしては怒鳴られ、シャワーのノズルが滑ってしまってお客さんを水浸しにし、自分もびしょぬれになり、さぁ、洗おう、と思ったお客さんの頭になぜか尺取虫が尺を取っていたり・・・・。(全て実話)
とにかく、数え切れないほどの失敗を繰り返して、上手になるのだ。
うちの後輩でかわいそうな子がいた。
一応、合格して初めて入ったシャンプー。
終わったとたんにお客(男)が怒鳴った。
「これで金取るのか!」
ごもっともなんだけど、お客さんの気持ちもわかるんだけど、彼女は裏で大泣きして、しばらくシャンプーに入るのが怖いと言っていた。

美容師って喜んでもらえるとそれがじかに伝わって嬉しいけど、怒られるとそれもじかに伝わってきて、結構ドキドキする。
インターン時代に見た先輩(その意地悪な女である)のお客は「アナタ、これでもチャージするわけ??スゴイ根性してるわよね。お名前教えてくださる!?アナタにだけはしてもらわないよに、友達みんなに言うから!」とやられていた。
結構、薄氷を踏む商売なのである。
だって・・・・。これって、みんながこの人は上手!っていっても自分と感覚が合わなければダメなわけで、逆にたいしたことないって言われてる人でも、もし、自分と趣味が同じであれば、自分にとっては最高の美容師になれちゃうわけで・・・。
だから、「ダメな美容師」てのは(基本がちゃんと出来てる人なら)いないんだけど・・・。まぁ、シャンプーはダメだわな。
みんな自分でも髪の毛洗えるんだから・・・・。ちゃんと気持ちよく洗わないとそりゃぁ、お金取れないよね。


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