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2011年10月10日

左岸より　倉本聰　1980年代のエッセイ集より

テーマ：今日どんな本をよみましたか?(91764)

カテゴリ：カテゴリ未分類

左岸より
倉本　聰
1980年代のエッセイ集
1991年4月　理論社　発行

昔、男たちは土の匂いがした
昔、男たちは汗の匂いがした
昔、男たちは枯れ草の匂いがした
昔、男たちは焚き火の匂いがした

昔、男たちは太陽の下にいた
昔、男たちは力持ちだった
昔、男たちは自分の意見を持った
昔、男たちは大声で笑った
昔、男たちは神様を畏れた

昔、男たちはロビンソン・クルーソー
昔、男たちは老いてもトム・ソーヤ
昔、男たちはいたずら好きの少年

今、男たちは若くして老成し
今、男たちはコロンの匂いをさせ
今、男たちは自分の意見を持たず
今、男たちは筋力を失い
今、男たちは汗を嫌悪し

　　できるだけ動かず
　　自分のエネルギー消耗を恐れ
　　その分他のエネルギーに頼り
　　ボタン一つで快適な温度、
　　快適な環境に身を置けることが
　　豊かさであると錯覚している

僕は
枯れ草の匂いをさせていたい

左岸より
たとえばとうとうたる流れが一つ。
それが右岸より眺める者と、左岸より見るもの、二つの部族が存在すると、とりあえず思っていただきたい。
右岸に立つ者は批評家たちである。
左岸に立つ者は創る側である。
流れには橋がなく行き来ができない。

見る現実とそこに立つことは極端な距離にはばまれているのだ。
そんなこともあるよ、だから批評はね、誰にだって出来るさ、けど現実には批評するだけさ。俺は川下でも左岸を行きたいね。

北からの手紙
今こそ文化は地方を根ざし、小さな祭りとしてそこに住む人々の小さな喜びとして花開くべきだ。そうして、それらが歴史を重ね、歳月の中で練り上げられたとき、都市は地方にいやでも目を向ける。

旅へ
カナダへ通うこと10年以上、その間かたくなに単語だけの英語で通してきたというムサシの単語に、友人デリックも感染している。
「アアア　マネー　アアア　ノット　ソウエエクスペンシブ」
カナダ人たちは限りなくやさしい。

富良野塾断章
あなたは文明に麻痺していませんか。
車と足はどっちが大事ですか。
石油と水はどっちが大事ですか。
知識と智恵はどっちが大事ですか。
理屈と行動はどっちが大事ですか。
批評と創造はどっちが大事ですか。
あなたは感動を忘れていませんか。
あなたは結局何のかのと言いながら。
　　わが世の春を謳歌していませんか。
塾を開こうと考えたとき、こんな文句を手帳に書きつけた。都会の人間は果たしてどう思うか。飛びついてきてくれた若者たちがいた。
昭和59年4月6日。富良野塾開塾。

一杯の深呼吸
風がヒョウと鳴って森のどこかをざわつかせた。落ち葉が小径を一斉に走り出す。人葉が幼い児のように冬に向かって懸命に駆けてゆく。グラスの氷がコトリと溶けた。
晩秋の森は香りに充ちている。

夏に死す
　追想・石原裕次郎
真夏の太陽がギラギラと光った。
夏がもうすぐそこまで来ている。
石原裕次郎が昨夕世を去り、今その通夜に向かおうとしている。
裕ちゃんとは永いつき合いだった。

「狂った果実」という名作がある。
石原裕次郎二本目の作品。中平康監督のこの名作は、太陽族という流行語を超えて当時僕たちに強烈にアピールした。
まさに僕たちの青春映画だった。

上流の思想　あとがきにかえて
逆らっても仕方ないと黙して語らない。
上流は寡黙である。
だがしかし、寡黙も一つの主張である。
それが現代の上流の思想である。
下流はこちらを理解しているのか。

下流は怪物になってしまった。
そうして怪物は豊かさのツケを、かつてのふるさと　ヒトがそこから生れてきた上流にこれでもかこれでもかと負わせるようになった。

そうした暮らしの十数年。
僕はまだ細々と川の左岸を、上流を求めて遅々と歩いている

1991年春　富良野の森で　倉本　聰

つながっているすべての人に、ありがとうございます。

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