エタ-ナル・アイズ

エタ-ナル・アイズ

2023.11.15
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「走れ走れ走れえっっ!!」

 シートスの命令が響く。

「1人でも多く少しでも早く門に滑り込めっ!」

 テッツェの伝令は必死に辿り着いた。

 だが、南門が解放され、アリオを放り出した一団が現れた時点で、シートスは撤収を命じていた。ましてや、アリオが切られジーフォ公が駆け付け、テッツェがなおも外へと戦線を押し出そうとした動きで、全てを察した。

 ぐったりしたパルスを拾い上げたユカルを先頭に、野戦部隊(シーガリオン)は泥を蹴立ててラズーン南門へ駆け戻る。平原竜(タロ)は馬を蹴散らし人を踏み潰すのには十分だが、どの獣よりも速いというわけではない。アリオを放り出した一団は、扇形に南門へ集結していく野戦部隊(シーガリオン)を嘲笑うかのように、見る見る南門内側へ戻って行く。

 南門が閉じられれば終わりだ、と戦場に残されていた誰もがわかっていた。

 どこから入り込んだ兵かは分からぬが、ラズーンに味方するものではないのは火を見るより明らか、アリオひとりを餌にジーフォを崩し『鉄羽根』をラズーン外へ貼り付けたまま、野戦部隊(シーガリオン)も外壁から放り出して南門を閉める意図は、既にラズーン内部に十分な戦力を引き入れている証拠、南門が閉じられたが最後、ラズーンは残された守りの兵だけで応戦する事になり、遠からず蹂躙が始まる。ましてや、『氷の双宮』に守られているのは無力な民なのだ。

「うおっ!」

 吠え声と共に槍が投げられた。紅の房飾りが乱れる。続いて数本、その槍に身を貫かれても良いとばかりに突っ込み先行する中にシートスが居る。戦列の一番外縁まで押し出していたはずだが、もう既に南門近くに迫っている。

「閉じろ閉じろ閉じろおおおっ!」

 予想外に素早く対応した野戦部隊(シーガリオン)に、余裕綽々で退却していた一団に焦りが生まれた。速度を上げて南門内に駆け込み、並行してゆっくりと門が閉じられ始める。平和な時代を守っていた、近年では開け放し出あったことさえある門だ、動きは緩やかだった。

「させるかあっ!」

 シートスが槍を投げる。力の限り投げられた槍の狙いは逃げ込んだ一団の背中ではない、閉められ始めていた門の下方の大地、槍は巨大な門を食い止めるには足りなかったが、締め切ろうとする力に砕けながらも抵抗する。シートスの意図を理解した面々が、次々と門の隙間めがけて槍を投げ入れる。斜めに突き立ち、地面に刺さってすぐに抜けても次に飛び込む槍に引っ掛かり、閉門を阻む。

 ラズーン外壁の周囲に堀が掘られていたならば、野戦部隊(シーガリオン)とて進入するのは難しかっただろう。しかし、この200年、ラズーンは外敵の襲撃を受けたことがない。籠城するような作りにはなっていないのだ。

「飛び込むぞ! 覚悟しろっ!  オーダ・シー ガル ! オーダ・レイ!」

「オーダ・シートス! オーダ・レイ! レイ、レイ、レイ、レイ!」

 シートスの声に怒号が応じた。

「ぎゃあっ!」

 命知らずに南門開口部で迎え撃とうとした数人が平原竜(タロ)に蹴散らされた。槍を引き抜き南門を何とか閉めようとする決死の試みが続く。外から次々に雪崩れ込んでくる野戦部隊(シーガリオン)の後続を断ち切ろうとしているのだ。

 シートスは素早く周りを見渡した。幸いに乱戦となっているのは南門付近のみ、当然配置されていると思っていた兵の姿は周囲にはなく、火の手が上がっている様子もない。

 だが、侮るな。

 シートスは自分に言い聞かせて振り向いた。後方彼方の土煙の中で、『鉄羽根』は次々屠られており、その向こうにいる『運命(リマイン)』軍も時を置かずに進軍してくるだろう。開門していた方が有利なはずだが、この一団は死に物狂いで南門を閉めようとしている。ラズーンを締め切った方がいい『理由』があるのだ。

「シートス、門が!」

 必死の乱戦の中、ついに南門が閉じられた。数騎仲間が取り残されたかと案じたが、何とか生き残ったものは南門内に滑り込んだようだ。

「奴らが逃げる!」

「追うなっ!」

 南門を締め切った途端に四方八方に飛び離れて逃げ去っていく一団、シートスは狼狽えた顔で動こうとする配下を叱咤する。

「追うな! 固まれっ!」

 死に物狂いで南門へ駆け戻った興奮、卑怯な手管でジーフォ公を屠ったことへの怒り、仲間を失いつつもラズーン内へ戻れた安堵、それらに突き動かされて散ろうとする周囲を鋭く見渡した。

「ユカル!」

「ここに居ます!」

「数人連れて索敵しろ」

 シートスは目を細めて、ゆっくりと慣れ親しんだはずのラズーンの街並みを眺める。確かにほとんどの住民は避難し、兵達も『氷の双宮』周辺に集められているから、外壁近くに人気がないのはわかる、が。

「静かすぎる。おかしい」

「わかりました」

 ユカルは向きを変えた。数人に合図して合流し、ゆっくりと平原竜(タロ)を進ませていく。

「水分補給、武器確認、怪我の手当てにかかれ!」

 荒い息を吐きながら頷く男達の中、シートスはじっとユカルの背中を見守り続けた。

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 今までの話は こちら 。(ラズーン用)

 まず2030000ヒット、誠にありがとうございました!連載も途切れ、過去の作品しか残っていない状況なのに、来て下さっている皆様には感謝しかありません。
 そして、大変申し訳ありません。
 10000ヒットごとの作品掲載が、遅れに遅れております。既に2000オーバーです。ようやく上げられた本文も、いつもなら1章分あげるはずの一部です。このままでは2040000ヒットが先に来てしまう、どうしよう。
 メルマガ1回/週に3本が既にキャパオーバーなんだろうとは自覚していますが、それでもようやく『猫たちの時間』は最終話まで漕ぎ着けたし、ショートストーリーの方もぼちぼち手持ちを吐き出し終わるし、残るのは『ドラゴン・イン・ナ・シティ』の連載のみになるだろうと思うのに、『猫たち』の後は『闇』か『これは』の連載をするかとか考えるあたりが終わってる。かと言って、このままで時間制限切られないで、残りに2作品を完成させる自信がないし(こらこら)。
 うん、頑張ろう。地道に。

 今はただ、ありがとうだけをいっぱい言いたい。
 ありがとうございます。
 読んで下さってありがとう。
 楽しんで下さることを祈ります。






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Last updated  2023.11.15 23:11:11
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