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【執筆ノート】
『アフリカ哲学全史』
三田評論 ONLINE より 転載
河野 哲也 (こうの てつや)
立教大学文学部教授・塾員
本書は、日本初のアフリカ哲学の研究書です。
まず、古代ギリシャ・ローマ期から近代に至るまでの哲学者を紹介します。たとえば、古代のアウグスティヌスは、ベルベル人の家庭に生まれたアフリカ人であり、その哲学はエジプト的な要素抜きにしてはあり得ません。17世紀のデカルトと同じ時代には、エチオピアに、ゼラ・ヤコブやワルダ・ヘイワードという傑出した哲学者がでました。ヤコブは同時代の西洋人を超えた、徹底した宗教批判を行います。18世紀のアントン・アモはドイツで活躍し、先駆的な有機体説を提示しました。
西洋による植民地化が進むと、ブライデン、クランメル、ホートンといった19世紀の哲学者たちは、西洋文明の暴力性を鋭く批判します。アフリカの文明は、人類のスピリチュアルな要素を解放して、世界に平和を構築すると言うのです。彼らは、抑圧と差別に苦しみながらも、人類への貢献という志向を手放すことがありません。しかも、アフリカの哲学は、その表現媒体を狭義の哲学書だけではなく、詩歌や口承文学、対話、さらに音楽やダンスなどに見出します。世界の中で、これほど即興性とコミュニケーションを重んじた哲学はありません。アフリカ人の芸術は、そのまま政治思想の表明であり、ジェイムス・ブラウンやボブ・マーリーはその継承者なのです。
現代のアフリカ哲学者たちは、伝統的概念を打ち鍛えながら、新しい倫理観を提示します。他者への思いやりとしての人間性(ウブントゥ)、懲罰や排除ではなく「和解」による補償と関係修復を目指す道徳・司法観、徹底的な対話による民主的な意思決定方法(パラヴァー)などがそうです。ノーベル平和賞を受賞したケニア人の故ワンガリ・マータイ氏は、「もったいない」という日本語に感銘を受け、これを環境保護のスローガンにしたことはよく知られています。アフリカ哲学には、日本の考えとどこかで共鳴する部分があります。アフリカ哲学に接することで、私たちも自分たちのこれまで隠されていた部分が揺り動かされるのではないでしょうか。アフリカに関心のある方には、どなたにもぜひ、読んでいただきたく存じます。
『アフリカ哲学全史』
河野 哲也ちくま新書
480頁、1,430円(税込)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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