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2024.11.03
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​岩井圭也「われは熊楠」(文藝春秋社)​
岩井圭也 という人の 「われは熊楠」(文藝春秋社) という、 南方熊楠 という人物の生涯を描いた 伝記小説 を読みました。
岩井圭也 という人の作品を読むのは初めてですが、 直木賞の候補 に選ばれた作品のようです。 南方熊楠 という、 明治 から 昭和 にかけて生きた人物の生涯を追った作品でした。
​​南方熊楠って誰?なんて読むの? ​​
​​ 若い人たちには、まあ、そういう感じで受け取られる人物であり、名前なんじゃないかと思いますが、実は、かなり有名な方で、伝記を小説化した作品では、ボクが読んだことのある作品だけでも、かなり古いのですが、 1980年代の終わりころ の作品で、 神坂次郎 「縛られた巨人 南方熊楠の生涯」(新潮文庫)、津本陽 「巨人伝」(文春文庫上・下) という、それぞれかなりな大作(内容は覚えていませんが)がすでにあります。
 それから、たとえば、 1990年 ころですが、当時、 ニューアカの旗手 の一人だった 中沢新一 というような人も 「森のバロック」(せりか書房・講談社学術文庫) とか、 「熊楠の星の時間」(講談社メチエ) とかで繰り返し話題にしていて、多分、ある種の 熊楠ブーム だったんでしょうね。
 ボク自身は興味を持っていて、結構、読んだ人ですが、ああ、そうそう、 坪内祐三 という方に 「慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り 漱石・外骨・熊楠・露伴・子規・紅葉・緑雨とその時代」(講談社文芸文庫) という面白い評論?エッセイ?にも名前が出てきますね。
 ちょっと話がそれますが 坪内祐三 のこの本は 「明治」 という時代に興味をお持ちの方にはおススメですね。 司馬遼太郎 「坂の上の雲」(文春文庫・全8巻) が、到達点からの振り返りだとすれば、こっちは、 慶応三年 というのは、翌年が 明治元年 ですからね、 明治と同い年の人物たち の生きざまを始まりからの視点で追ったという意味で面白いですね。
 というわけで、 南方熊楠、みなみかたくまぐす、くまくす と読む場合もあるようですが、 慶応3年 生まれの一人である
​​何者だったのか?​ ​​
​  というわけですが、 慶応3年、1867年5月18日 に生を受け、 昭和16年、1841年12月29日 に亡くなるまでの 74年間 坪内風 にいうなら つむじを曲げ続け て、​​ 学問だけを生きた人 です。 天才 とか、 奇人 とか、 孤高の 巨人 とか、 大博物学者 とか、まあ、いろいろの呼び名がありますが、ボクには、その正体を一言でいう根性も知識もありません。だって、 粘菌 とか、 曼荼羅 とか、 大英博物館 とか。 ​​​
​​ ​だいたい、粘菌って、わかります?​(笑)
​  でも、やっぱり気になるんですよね。で、まあ、目の前にこういう本があると読んでしまうわけです。
​ もし、 ウキペディア とかで調べてみて興味がわくようなら、この 「われは熊楠」 を読むと、 熊楠の生涯 のあれこれが、まあ、年齢に沿ってとても分かりよく描かれていて、
​ああ、そうか、面白い人だな!​​
と腑に落ちます(笑)。
 本書は、それぞれ、 第1章「緑樹」 から 第2章「星花」、第3章「幽谷」、第4章「閑夜」、第5章「風雪」、 そして 第6章「紫花」 と題し、 6章立て で、 南方熊楠の生涯 を追っています。
 和歌浦には 爽やかな風 が吹いていた。
 梅雨の名残りを一掃するような快晴であった。片男波の砂浜には漁網が拡げられ、その網で壮年の漁師が煙管を使っている。和歌川河口に浮かぶ妹背山には夕刻の日差しが降りそそぎ、多宝塔を眩く照らしていた。
 妹背山から二町ほどの距離に、不老橋という橋が架かっている。紀州徳川家の御成道として、三十数年前に建造されたものであった。弓なりに反った石橋で、勾欄には湯浅の名工の手によって見事な雲が彫られている。
 その雲に、南方熊楠はまたがっていた。(P5)
​  これが書きだしです。で、ネタバレみたいですが下が結句です。​
人魂となった熊楠は、夏野原を駆けていく。熊楠は世界であり、世界は熊楠だった。
沖の方角から、 爽やかな海風 がふわりと吹いた。
 それは、熊楠が この世に生を受けた日の風であった 。(P128)
 生まれたときから、魂となって飛び去って行くまで 「爽やかな風」 に吹かれて生きた男というのが、この 作家 南方熊楠 です。だからでしょうね、希代の奇人の生涯を気持ちよく読み通すことが出来ます。
 まあ、そこがこの作品のよさでもあり、物足りなさでもあるのでしょうが、ボクは、この 若い作家 が、今時、 南方熊楠 なんぞに挑んで
​「こんな人がいた!」​
​​​​と世にさしだしている姿勢というか、態度に好感を持ちました。なんとなく、一つの時代が終わりつつあることをボクは、実感というか、肌合いというかでは、かなり、リアルに感じています。新しい時代が、新しいはじまりの時代なのか、破滅の時代なのかはともかくとして、とりあえず、 南方熊楠 なんていう、 変人 に関心を持つ人がいることに、何となくな 期待と希望 を感じます。若い人に読んでほしい作品ですね。​​​​

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最終更新日  2024.11.04 01:49:49
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