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校舎の屋上で大半を過ごす内向的な高校生藤島鳴海。声をかけてきた同じクラスの彩夏に連れられ、ナルミはNEET探偵を名乗る少女アリスと出会った。アリスから手酷く扱われたナルミだが、信じられないような事件が起きたことでアリスと彼女を取り巻くニートたちの力を借りることに・・・ アニメ化も決まった『神様のメモ帳』の第一巻。『さよならピアノソナタ』を楽しんだ割には随分間を空けてしまったのですが、予想していた以上におもしろい作品でした。 設定としてはニート探偵アリスを中心とした少年探偵団のよう。「探偵」なんてついていても全くミステリじゃない作品もあるのですが、これはしっかりミステリしてくれました。真っ当に。部屋から出ようとしないアリスは、『GOSICK』のヴィクトリカのようなイメージです。一言で表現するなら傲岸不遜。もちろん、そんな面だけではありませんが。 物語は思いもよらない形で事件が発生し、ナルミを非日常へと巻き込んでいきます。ともに事件を追いかける仲間はヒモだったり元ボクサーだったり少佐だったりという一癖も二癖もあるような顔触れです。しかし、彼らもそれぞれに秀でたスキルを持っていて、まさに「やる時はやる」といった人ばかり。アリスを含めた彼らニートたちとの出会いが、降りかかる事件が、無気力の塊のようだったナルミにどんな変化をもたらすのか気になるところではあります。 事件そのものは悲しくせつなく、そして心がいたくなるようなものですが、いざという時の熱さがとても印象的でした。やればできるんじゃないか。そう言って誉めてあげたくなります。 それにしても、思いもよらない形で退場した(といっていいのか?)人物には大いに驚きました。本当に、「まさかっ!」って感じです。いきなりそこに行き着くなんて。2巻以降、どうやって穴を埋めていくのか、興味津津だったりします。2011年3月10日読了
2011.04.10
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サンフランシスコで発生した女子大生霜村瑠衣の失踪事件。彼女の父は厚労省の元官僚で、そのパイプを使って領事館に娘の捜索を依頼してきたのだ。彼女が行動を共にしているとみられるボリビアからの留学生ロベルトは市警からテロ関係者として疑われている。このままでは彼女の立場も危惧されるが、肝心なところで霜村は何かを隠したまま。邦人保護担当領事・黒田の次の手は・・・ 『アマルフィ』の続編にして、テレビドラマ『外交官 黒田康作』の原作小説。ですが、ドラマと原作の関係としてはあまりにも遠くかけ離れ、もはや別物です。黒田の設定以外は辛うじて登場人物の名前ぐらいしか一致しません。どうしてこういう違いが生じたのか、気になるところです。 ということで、ドラマを楽しんだ人が読むと違和感が大きいと思われる作品なのですが、これ、どこをどう見ても小役人シリーズです。どんどん大きくなる疑問、省益のために奔走する怪しい小役人たち。外務省と警視庁の対立だけでなく捜一と外事の主導権争いなどの要素も加わり、複雑な人間関係が形成されています。このあたり、いい意味で真保さんらしい仕上がりかなあと。事件の真相も、そのあたりがしっかり絡められたものになっています。 ただし、構築された物語世界の大きさと比較すると、事件の真相はやや小さく、拍子抜けした部分もあります。大山鳴動して鼠一匹というような印象は拭えません。あ、一匹というのは言い過ぎかな。 『アマルフィ』同様に黒田の活躍は凄まじく、小役人という言葉が持つイメージの域を逸脱しているようにも思えます。ついでに言えば、捜査権のない外交官の権限からも逸脱しているのではないかと。警視庁への捜査協力ということが盛んに強調されていますが、それを差し引いてもやり過ぎという印象です。 次回作は『アンダルシア』とのことですが、またも海外で大活躍する黒田を目にする日も近いようです。映画も小説も楽しみにしたいと思います。関連作:『アマルフィ』2011年3月5日読了
2011.03.29
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1980年代生まれのミステリ作家が集まった。まさに新しい時代を担う才能の持ち主である。そんな彼らに課された競作。舞台は学園・・・ 彼らの作品がコンスタントに出版されれば、ミステリ界の先行きは明るい、なんて思わせてくれる学園アンソロジー。●似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」 DVD化のために送ったビデオテープが戻されてきた。だが、梱包を開くと一部が入れ替わっていて・・・なかなか意外で、納得のいく動機でした。確かにあの人はいないので、ファンの方は残念かも。●鵜林伸也「ボールがない」 100あったボールが練習後には99球に。すべて揃わなければ監督のカミナリが落ち帰れないのだが・・・青春を感じさせる一編。オチにやや拍子抜けしたものの、そこに至るまで推理し続ける過程におもしろみがあります。次に期待。●相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」 ドキドキのバレンタインデー。集会で留守の教室で、みんなの荷物からチョコを抜き出し、教卓に積み上げたのは・・・なんともキュートなお話。ミステリとしておもしろいだけでなく、初と須川の関係が楽しく、そしてどきどきします。『サンドリヨン』もそうですが、相沢さんの作品が持つ雰囲気がとても好きです。がんばれ須川!●市井豊「横槍ワイン」 自主制作した映画の観賞会でのこと。暗くなった場面で、参加していた女性に突然ワインがかけられた。どうしてこんなことに・・・〈聴き屋〉シリーズの作品。注釈とか家系図とか見取り図とか、そんなものが入れられたミステリは大好きなので、かなり嬉しい作品でした。このシリーズ、もっと読みたいなあ。●梓崎優「スプリング・ハズ・カム」 15年前、卒業式の最中に起きた放送室ジャック。その真相は同窓会の場で明らかになるのか・・・いやあ、まいったなあ。見事に逸らされました。現在と過去、ふたつのパートを使った巧みな構成で、トリックをきれいに隠してしまいました。このタイトルが絶妙ですね。ラストシーンの切なさ、美しさが素晴らしい。 もう「とにかく読め!」と言いたくなるアンソロジー。素晴らしかったのは梓崎さん。楽しかったのは相沢さん。先物買いが好きな方も、そうでない方もぜひご一読を。収録作:似鳥鶏「お届け先には不思議を添えて」、鵜林伸也「ボールがない」、相沢沙呼「恋のおまじないのチンク・ア・チンク」、市井豊「横槍ワイン」、梓崎優「スプリング・ハズ・カム」2010年12月5日読了
2011.01.24
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いよいよ普門館への第一歩を踏み出したハルタやチカたち。まずは地区予選から。弱小吹奏楽部はいったいどこまで歩を進めることができるのか・・・ 『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』に続くシリーズ第3弾。なんでも「ハルチカシリーズ」という名前がついているそうですが。●「ジャバウォックの鑑札」 高価な大型犬チベタン・マスティフ。迷い犬となったこの犬に飼い主だと名乗り出たのはふたり。本物は・・・迷い犬の飼い主を断定するだけ。それだけですが、秘められたものが心を打つ一編です。●「ヴァナキュラー・モダニズム」ハルタのアパート探し。見つかった物件は間取り図に存在しない五部屋目があり、幽霊が出るという・・・ここまでするか、と思わされる執念。ですが、これもまた心の暖かさが伝わってくる作品です。ちょっと想像できてしまったのが残念でした。●「十の秘密」 県大会の有力校清新女子高。ギャル集団の彼女たちには十の秘密があった・・・1から10までの並べ方が、ストーリーとうまくかみ合わされ、きれいに消化されています。とくに出だしが効いていました。●「空想オルガン」 振り込め詐欺組織の一員の男は、上司からの指示もあってある人物を騙しにかかった・・・「ジャバウォックの鑑札」からの流れをきれいに引き継ぎ、まとめあげています。意表を突くラストには驚かされました。 まずは地方予選から始まった普門館への道。それにしたがって進む連作短編集です。 非常におもしろくハルタやチカの活躍と成長を読んだのですが、読み終えて、ミステリ的、謎解き的な部分でのおもしろさが薄く感じられます。シリーズが進むにつれ、その傾向が強くなっている気がします。また、シリーズの既読者向けに見えるのも残念でした。 反面、リーダビリティは高く維持され、さくさくとテンポよく楽しませてくれる仕上がりです。シリーズ既読者であれば読んで損はしないはず。次のステップも楽しみです。収録作:「ジャバウォックの鑑札」「ヴァナキュラー・モダニズム」「十の秘密」「空想オルガン」関連作:『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』2010年12月2日読了
2010.12.31
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七海西高校の文化祭の最中、校舎屋上からの墜落事件が起きた。美術部の展示が行われていた屋上へ上がった人物は数名に限られている。わたしは、春、夏、初秋、晩秋に起きたいくつかの出来事を振り返りながら、屋上ではいったい何が起きたのか、考えていこうと思う・・・ 第18回鮎川哲也賞受賞作『七つの海を照らす星』の続編。ですから、未読の方にはまず『七つの海を照らす星』からお読みいただきたい。その方が、きっと楽しめるから。 諸々の事情で親元を離れなければならない子どもたちが集う児童養護施設の性格上、七海学園では様々な出来事が起こります。春、夏、初秋、晩秋の4つの出来事を遡る合い間に、文化祭での出来事を解き明かす構造になっています。●「春の章―ハナミズキの咲く頃―」 春菜が担当する界は、時々暴力を振るう。彼が保護されたとき、母親は近くの崖で亡くなってらしい。界は、母親に殺されそうになったと語る・・・母親がどうしてそんな行動に出たのか。意外な人物が語りだす内容が母親のおかれた状況の厳しさと同時に行政の問題点をあぶりだします。●「夏の章―夏の少年たち―」 施設対抗のサッカー大会。応援の女の子たちは城青学園目当てだが、彼らは試合後の混乱の中、姿を消してしまった・・・春に続き、またしても児童養護と行政が抱える問題が明らかに。選手消失の謎と巧みに絡められています。●「初秋の章―シルバー―」 樹里亜が大切にしていた寄せ書きがなくなった。瞭は真相に気づいているようで、開けられないCD-ROMの謎を解いたら話すという。そのCD-ROMは・・・どこでもあり得る悪意とそれに対応しようとする善意。それぞれについては目を惹くような謎解きとは感じませんでしたが、背景、舞台といったものとの組み合わせが絶妙。●「晩秋の章―それは光より速く―」 服役していた望の父親が出所したという。彼は刑務所からも望の状況に干渉していたのだ。夜になって、娘に会わせろという男がやってきて・・・春菜の奮闘劇。望の父親が出した答が非常に納得のいくものでした。 収録されている4つのエピソードがそれぞれ墜落事件の真相への伏線としてうまく機能しています。それぞれの出来事の中で重要なカギを握る部分が、全体としても二重に機能している感じです。相変わらず子供たちにはあたたかい視線が注がれ、同時に大人の醜さのようなものを浮き彫りにしています。 前作『七つの海を照らす星』と同じような形式をとっていますが、ミステリとして今回の方が出来栄えがよいのは確実でしょう。非常に高い技術が読者を待ち受けています。各エピソードので提示された謎の解決はもちろんですが、最後に明らかになる事実は厳しく非情で、そして衝撃的でした。 後の展開が非常に気になる結末で、読者としては3冊目の刊行が待ち望まれるところです。あまり間を空けず、読むことができたらうれしいなあ。収録作:「春の章―ハナミズキの咲く頃―」「夏の章―夏の少年たち―」「初秋の章―シルバー―」「晩秋の章―それは光より速く―」「冬の章 1~6」関連作:『七つの海を照らす星』2010年12月2日読了
2010.12.19
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古典の授業中、教師に鞭で打たれた本間香葉子は、そのショックで平安時代にタイムスリップしてしまった。しかも、「源氏物語」の作者・紫式部の身体に宿ってしまったのだ。とんでもない出来事に対応できず、紫式部として過ごす香葉子だが、四阿で時の権力者藤原道長が殺害されたことから、香葉子も巻き込まれ・・・ こちらも講談社ノベルスの「女子高生ミステリー」フェアの一冊。香葉子とともに、このシリーズのメインヒロイン、麓うららが登場します。シリーズとしては7作目ですね。 同じように紫式部や「源氏物語」を扱ったミステリでは『小袖日記』や『千年の黙』などを読んできたのですが、そのふたつとは異なり、今回は紫式部として道長殺人事件の謎を解くという今までとはちょっと異なるアプローチが興味深いものでした。 さて、肝心のミステリ部分ですが、密室やダイイングメッセージを用いているのですが、その全体像はいたってシンプル。シンプルというといかにも物足りなく感じられそうですが、それを補うのが真相の意外性ではないでしょうか。その意外な真相がこの時代と登場人物にしっかりと絡められているところもポイント。ここが一番の見どころかな。 また、紫式部や藤原道長だけではなく、清少納言や和泉式部、藤原伊周、源俊賢、一条帝といった歴史上の有名な人物も豪華に登場し、史実とされていない殺人事件に挑みます。ユーモアを効かせたミステリでありながら、単純に史実をなぞるのではなく、しっかり活かしているような印象を持ちました。 鯨統一郎、意外とやるじゃん、というのが結論ですね。ちょっと見る目が変わりました。作家も作品も意外でした。2010年11月29日読了
2010.12.14
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5人の女子高生の死体が、左脚と左腕が切断された状態で一ヶ所で発見された。彼女たちの共通点は誕生日。やがて同じように再び5人の死体が発見されるが、そのうち1人も前の5人と同じ誕生日。ユリ、ミリア、仁美そして石崎のミステリィ研究会は、殺人鬼からの避難という名目で、招待された新潟の孤島、深角姿島へ渡った・・・ 「女子高生ミステリー」フェアの一冊。もちろん、櫻藍女子学院高校のミステリィ研究会が登場です。 第18回メフィスト賞を受賞した『日曜日の沈黙』から始まるこのシリーズ、7作目ですが石崎作品自体初めて読みました。ユーモアあふれる本格ミステリを書くタイプだと思っていたのですが、結論から言うと非常に楽しめました。 ユーモアと言ってもその中身はユリ、ミリアというふたりの女子高生と石崎との漫才のような会話が中心。最初は面食らう部分もあったのですが、彼女らのペースに慣れてしまえばどうということはありません。まあ、多少しつこいかな。 もちろん、中心にあったのは女子高生連続殺人事件、とりわけその動機。連続殺人を犯すシリアルキラーの動機がきれいに全体を結びつけていて、それでいて意外性も持ち合わせて秀逸。突拍子もないと言ってしまえばそれまでですが、これが実際の事件にはないミステリの楽しさではないでしょうか。 また、孤島に渡るということは当然次に起こることが想像できるのですが、そちらの方もまたなかなか意外な動機が用意されていて、一粒で二度おいしい感じ。もっとも、「意外」というのは「むりやり」とか「強引」というのと紙一重のような気もしますが。 強引といえば、動機よりもこの二つの事件の結び付け方だとか、そもそも深角姿島へ渡る過程の方が余程強引。それを批判するのは理解できるのですが、ただ、その強引な部分も苦笑いで済ませてしまいたい気分でした。 ということでこのシリーズ、これ以前に6作あるんですよね。徐々に読もうかなあ。2010年11月26日読了
2010.12.11
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古賀の「生きる目的」のために「ゼロ年代探偵小説研究部」として復活した完全犯罪研究部。表の名前は変わっても、部室がせまくなっても、やることに変わりはない。裏活動として様々な事件に首を突っ込むうち、またしてもとんでもない状況に行き着いてしまい・・・ 「女子高生ミステリー」フェアの一冊。対象は杉野二号ですね。 意外なほどに以前の事件を引きずらなかった完全犯罪研究部。あまりにあっさりしていて驚きました。あれだけの大立ち回りを見せたあとなのに。 言動の節々から彼らの本気具合が読み取れます。本気で遊ぶのです、彼らは。読んでいる分にはおもしろいのですが、身近にいたらかなりイヤな面々です。 この物語のおもしろさのひとつは彼らの持つ二面性にあります。ひとつは単なるミステリおたくのようで、その知識や技術を活用して悪人を始末する仕事人的な面。もうひとつはエスカレートして歯止めが利かなくなったときの狂気。似て非なるこの二面性のギャップが大きく感じられるほど、読み手を次のページへと強く誘うのです。 また、簡単に真似できそうなギミックも目を惹きます。いくら「よい子はくれぐれも真似をしないように!」と書いても、そういったものが身近に感じられるというのは、やはりちょっとしたわくわく感を誘うじゃないですか。 ポイントは、立場の変わったゆりっぺをどう捉えるか。これが評価の分かれ目かも。その点だけを考えれば、教師という本来無茶のできないはずだった前作の方が上のような気がします。 「THANATOS」シリーズとの緩やかなリンクも保ったままだった今作。完全犯罪研究部の面々があちらに登場する機会もあるのでしょうか。やはり「THANATOS」シリーズも読まねば。関連作:『完全犯罪研究部』2010年11月18日読了
2010.12.06
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ミステリについて語り合う、「推理小説研究部」なんて仮の姿。校内の犯罪や悪事を探り、知識と技術で対抗する。殺人事件だってどんとこい。自慢の暗器でイチコロだ。そんなまじめにふざけたような彼らの名は「完全犯罪研究部」・・・ これはまたとんでもないメンバーが集まったものだ。 「THANATOS」シリーズの汀こるものさんの新シリーズ。おそらく「THANATOS」よりもくせのない作品に仕上がっているはず。 完全犯罪研究部が各々の手にした知識と技術、そして正常とは言いかねる行動力を駆使して自分たちの正義のために暴走する。そんなお話。悪ガキどものお守りをする顧問の女教師もいつしか巻き込まれて、やがては騒動の中心に。そんな物語。早い話、本格ミステリではなく、青春ドタバタ劇。 くせのない作品、とは書いたものの、今回は犯罪や薬物に関する蘊蓄がふんだんに盛り込まれています。たとえばニトログリセリン、あるいはスリングショット。そういったものが盛り込まれても、過剰にならず程よい分量に収まり、むしろ物語の展開を巧みに補足しています。 完全犯罪研究部を取り巻く様々な事件。それらをあの手この手で解決していくパターン。ひとつひとつの事件は短いながらも、きっちりかたが付けられています。これが最後まで一気に持っていく勢いにつながっているようです。 姉を殺され、すっかり姉になりきってしまう妹の杉野二号、メンバーからも謎の人物として扱われる古賀、彼らを教え導く立場にありながら同僚と不倫しているゆりっぺ(由利千早)など、複雑な身の上を抱えた登場人物たちも多く、常識と非常識の間を行ったり来たりしているような人物ばかり。それがなんだか爽快だったり。もっとも、少し中心からはずれた人物になると、書き込みが少ないのかぼやけた印象のキャラになってしまっているのが残念。 とにかく、作者がやりたい放題好きなように書いたというイメージが浮かんでくる楽しい作品。きっと、汀こるものという作家が与えていた先入観を崩すんじゃないでしょうか。2010年11月15日読了
2010.11.30
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『記憶に自信ある者求む』という広告に応募した質屋の跡取り博一。無事採用され、高い給与を受け取りながら、記憶力の向上に励んでいた。だが、主催者側と連絡が取れなくなった博一は、悪事に関与させられたのではないかと不安を覚え高広に相談したのだ。強い関心を示したのは礼。「赤髪連盟」に似ていると・・・ 帝都探偵絵図シリーズ第二弾。●「世界記憶コンクール」 記憶力のある者を募った広告で採用された質屋の博一は、高給で記憶の訓練を受けていた。やがて関係者とは連絡が取れなくなり・・・しまった、「赤髪連盟」を読んだ人の方が楽しめそうな一編。親子とはどうあるべきか、ちょっと考えさせられます。●「氷のような女」 いまだ貴重品の氷。だが、衛生上問題のある悪水氷が出回り、検査が必要になっていた。処分される氷はどこへ・・・高広の義父基博の若き日。氷の行方から思わぬ方向へ広がっていったのがおもしろかったです。タイトルは誰のことか。●「黄金の日々」 かつて広告図案で一等を得た恵が親しくなったのは、高名な陶芸家唐澤の養子幸生。唐澤のうわ薬の作り方はもはや伝承者がなく・・・真相へとたどりつくきっかけがなかなかおもしろいところでした。高広が謎を解くのとは随分雰囲気が違いますね。これもまた親子がらみ。●「生人形の涙」 来日したアーリントン卿は、随分以前に日本に滞在したことがあった。取材を試みた高広に、卿は不思議な物語を話し始めた・・・消えた静聴の謎と消えた勲章探し。前者はその真相に、後者は探し方に拍手を送りたくなりました。とくに後者は単純ながらもストーリー全体としっかり絡められていたのがよかったです。 テーマは親子関係でしょうか。薄いものも厚いものもありますが、どの作品にも親子の情が絡められ、今回の統一されたキーポイントのようでした。これを扱った作品は多々ありますが、ここまでそろえたものはちょっと記憶にありません。 高広と礼のコンビは、今回は少々おとなしめ。楽しみにしていた読者には残念かも。ただ、その代わりに高広の義父基博の若かりし頃があったり、「点灯人」に登場した森恵が探偵役を務めるなど、お楽しみ要素は盛りだくさん。そのほかの人物もなかなか魅力的で、読者をひきつけてくれます。 明治の時代背景や文化、風俗、人々の気質といったものを活用して仕上げられた短編集。続編では礼の活躍も期待したいところです。収録作:「世界記憶コンクール」「氷のような女」「黄金の日々」「生人形の涙」関連作:『人魚は空に還る』2010年11月13日読了
2010.11.26
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至楽社の記者里見高広は、帝都一と呼ばれる天才絵師有村礼と奇妙な関係にあった。高広が入手する「ストランドマガジン」に掲載された「シャーロック・ホームズ」を訳し伝えることで、礼が表紙絵を描くというのだ。高広は前日の続きと現実の謎解きを要求される日々が続く・・・ 腰の低いホームズと高飛車なワトソンによる帝都探偵譚。●「点灯人」 行方不明の兄を捜す広告を載せてほしいと至楽社に少女がやってきた。彼女の兄は広告図案で一等をとった少年だった・・・第2回ミステリーズ!新人賞最終候補作。話の広げ方とその方向が巧みです。彼を捜し出すだけで終わらないのがいいですね、●「真珠生成」 銀座の美妃真珠から三粒の「プリンセス・グレイス」が消えた。うち一粒は金魚鉢の中から見つかり騒動に・・・時代性と人間の心がよく結びつけられた作品。意外性というよりも人情もののような趣きがあります。●「人魚は空に還る」 見せ物小屋に登場した人魚は大人気に。だが、興業後には悲惨な出来事が待っていた・・・これはきれいだったなあ。なんだか風景が頭に浮かびあがってくるかのようでした。●「怪盗ロータス」 世間を騒がす怪盗ロータス。彼の今度の標的は、洋画をコレクションしている富豪の大黒だ・・・睡蓮小僧が一枚上手だったでしょうか。またの対決があれば楽しみなのですが。 BL風の表紙で、イマイチ手を伸ばしにくかった作品集。礼と高広であれば通常ならば礼が探偵役のキャラクターでしょうが、それをひっくり返したことでちょっと色合いの異なるものに仕上がった気がします。ただ、礼はあまり役に立っていないような。まあ、礼に謎解きを強要された高広が義父や編集長といった人脈を駆使して解決するといった感じですね。収録作:「点灯人」「真珠生成」「人魚は空に還る」「怪盗ロータス」2010年11月13日読了
2010.11.25
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明林書房の営業マン・井辻智紀は、前任者吉野の後をついで担当の書店回りをしている。智紀は目の前に立ちはだかる書店や出版にまつわる謎を、同業の営業マン・真柴や仲間の力を借りながら解き明かしていく・・・ 『平台がおまちかね』に続く、〈出版社営業・井辻智紀の業務日誌〉シリーズ第二弾。●「ビターな挑戦者」 取次で突然暴言を吐かれた井辻くん。相手はどうやら「デビル」とも呼ばれる異端児らしくて・・・デビルという通称とその心情とのギャップが意外で驚きでした。本に関する話は楽しい反面、実情の厳しさを目の当たりにする辛さもありますね。●「新刊ナイト」 新人白瀬みずきの新作は自伝的でダークな作品。ヒットが期待されるが、かつての同級生が書店員として現れ・・・聞いてしまえばすぐわかることなのに、それを聞くことができないもどかしさ。本当にナイトでした。●「背表紙は歌う」 ベテランの営業ウーマン久保田の依頼。それは元旦那が経営する書店のキナ臭い噂について調べてほしいというもの・・・このタイトル、上手いなあ。井辻くんと真柴をうまく連携させた、心温まる作品。●「君とぼくの待機会」 候補作が発表になった東々賞。だが「受賞作はもう決まっている」という噂が流れ、作家たちも各陣営も浮足立った・・・噂の出所はなるほどと唸らされました。最近では待機会やそのあとの祝勝会(あるいは残念会)の様子が作家本人や関係者の発信でわかってきましたが、きっと候補になった時からずっとはらはらそわそわしているのでしょうね。●「プローモーション・クイズ」 塩原健夫の2作目の帯に書店員からの推薦コメントをもらおうとした井辻くん。ところが、同僚が受け取ったコメントのひとつがなぞなぞのようで・・・ちょこっとあの彼女が登場。さすがと思わせてくれます。書店員さんもゲラが読めるのが大変なのか、特権なのか。 登場する人物は、みな温かい心の持ち主。善人ばかりなんていうとなんだかあまりよくない評価のようですが、それぞれが心の中に抱えているものがあり、それが登場人物の魅力のひとつになっています。たとえ悪人がいなくても、これはこれでいいと思うのです。 まさに「本好き」に向けて書かれたような一冊。次もまた楽しみになってきます。収録作:「ビターな挑戦者」「新刊ナイト」「背表紙は歌う」「君とぼくの待機会」「プローモーション・クイズ」関連作:『平台がおまちかね』2010年11月8日読了
2010.11.23
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諸々の事情により家庭で暮らすことができない児童、生徒が寝食を共にする児童養護施設「七海学園」。勤務二年目の春菜は、中二の葉子に係る話に手を焼いていた。葉子には亡くなった問題児の霊がとりついていると噂されているのだ。仕方なく春菜は児童相談所に連絡をしたのだが、やってきた男はそれまでの担当者とはちょっと違った・・・ 第18回鮎川哲也賞受賞作。 児童養護施設「七海学園」を舞台にした連作短編集です。七海学園で噂される学園七不思議。それらのひとつひとつが、日常の謎に姿を変え、私たちの目の前に現れます。不思議なことには必ず正体があるというスタンスです。 児童養護施設が舞台であり、登場する子どもたちを取り巻く事情は決して軽くないのですが、それを補うように子供たちの生活がいきいきと描かれています。 ミステリとしては社会派色の強い日常の謎。問題児の霊が取り付いているだとか、廃屋から聞こえる幽霊のような声だとか、あるいは夏のごく短期間だけいた子どもとか。各編で解かれる謎は決して派手ではないですし、その解決に特別大きな驚きやインパクトがあるというわけではありません。ただ、どの作品も端整で丁寧に書かれた印象があります。小説としての巧さも感じられ、ますます満足。 途中から執拗に回文を用いており、中にはこのこだわりをしつこく感じる向きもあるでしょうが、こういった部分の遊び心もミステリにはありかなあと。 また、連作短編集ならではのあの仕掛けも施されています。個々の謎よりも、むしろこの真相の方が驚きは大きかったかもしれません。 鮎川賞の受賞作としては賛否あるかもしれませんが、非常に楽しみな作家さんが登場したと思っています。続編も早めに読まねば。収録作:「今は亡き星の光も」「滅びの指輪」「血文字の短冊」「夏期転住」「裏庭」「暗闇の天使」「七つの海を照らす星」2010年11月7日読了
2010.11.22
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黒板に書かれた太一以外の4人の名前と「12時~17時」の意味を知ったとき、文研部のメンバーたちは衝撃を受けた。12時ちょうどに、伊織と唯が子供に戻ってしまったのだ。同じ現象は稲葉と青木にも。ひとりだけ子供に戻らない太一だったが、彼には別の試練が待ち構えていた・・・ ふうせんかずらの手による2つの試練を乗り越えてきた文研部の面々。今度の試練は「時間退行」ですが、これがとてつもなく厄介。いつどこで誰にこの現象が起こるか分からない上に、見た目だけでなく精神も子供に戻ってしまうのですから。 ということですが、今回は青木に尽きるでしょう。あの青木がこんなにもいい男だったとは! 彼らしいくさいセリフが満載ですが、それがぴったり当てはまったときの効果は絶大でした。もともと、唯との間に生じた今回の不信は「身から出た錆」のような部分が少なからず存在していたのですが、結果としてそれがうまく活かされたような。 青木と唯に限らず、ほかのメンバーも過去にいろいろなものを抱えていて、その包み隠したいものが否応なく表に出されてしまいます。一緒に、過去にまつわる辛い記憶や感情も甦ってしまうのです。 包み隠せるものなら隠してしまいたい、なかったことにしてしまいたい。甦ったものにフタをするのか、それともそれをありのままに受け入れ、乗り越えるのか。どちらが正しいとは一概に言えないかもしれませんが、その判断が今回の別れ道だったと思います。 太一を挟んだ伊織と稲葉の三角関係は今回も変わらず。不思議な感じのする明るい三角関係ですが、こちらの進み具合もこれから注目ですね。関連作:『ココロコネコト ヒトランダム』『ココロコネクト キズランダム』2010年9月30日読了
2010.11.16
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新婚旅行から帰ってきたふたりは、新居に着くとたちまち喧嘩になった。そもそも新婦の月(ルナ)には新郎水元への愛情なんてなかったのだ。ふたりはPM社のマッチングで特A判定が出たベストな組み合わせのはずだったのに。離婚を迫るルナだが、そう簡単にはいかない。なぜなら、水元はPM社の社員だから・・・ いわゆる「成田離婚」を取り上げたSFラブコメディといったところ。少子化や晩婚化が進み、結婚推進という国家戦略が重要とされ、結婚すのが当然の世界。ここで反りの合わないふたりが離婚のために共闘するという、なんとも逆転というか矛盾したストーリーです。 結婚よりも離婚の方がエネルギーを必要とするといいますが、それを地で行くようなものでしょう。 ふたりの視点が交互に登場します。互いに自分の都合ばかりを主張するあたりなんとも身勝手ですが、それでいて「そりゃ、そうだよね」と言いたくなる気分も。見栄とか対面とか、あるいは実利とか感情とか嫉妬とか、まあいろいろあるでしょうから。とくにPM社のマッチングに対する考え方、とらえ方が明らかに食い違っていて、ちょっと考えさせられるものもあります。 一方、ふたりの離婚の意思を知ったPM社の抵抗というか包囲網が凄まじく、ここまでするかと思わせるほど。その対応が厳しければ厳しいほどふたりの離婚の意思がより強固になっていくようで、その様子が大変おもしろく見えました。 また、離婚届の提出に行ったときのお役所の反応や、身内の対応など、この世界ならではというところも興味深いものでした。 《我孫子武丸=ミステリ》ということにこだわらなければ、十分楽しめる作品。決してミステリではないと思うので。2010年9月29日読了
2010.11.10
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唇を合わせることで感染する不治の病、ソムノスフォビア。全寮制の学園リセ・アルビュスで女生徒が亡くなり、やがて発覚した死因は学園中を震撼させた。亡くなった織恵に憧れていた美詩は梢から織恵を感染させた相手が学園内にいることを知らされ、犯人探しを始めたのだが・・・ 感染症により「キス」がタブーとなった近未来の物語。 犯人探しといっても、死因の特徴から当然《織恵にキスしたのは誰か?》ということになります。 「唇を合わせることで感染する」ことを含めたソムノスフォビア特有の性質、作品内外の倫理観や常識、そして登場人物たちの考え方や思い込みといったものがきれいにはめこまれています。真相を巧みに隠していて、読んでいても右へ左へと作者に揺さぶられ続けているような感覚でした。 ラストでたどりつく真相はとても切ないもの。ちょっと唐突だった気もしますが、すべてが無駄なくしっかり繋がって導き出されたものに見えます。 最近でも新型のインフルエンザとか、簡単には克服できないような病気があるわけですが、ソムノフフォビアのような新たなウィルスも近未来には本当に登場するかもしれませんね。 若年者向けの「ミステリーYA!」ということなので、こういうミステリもあるんだよという例になればいいと思います。そして、できることならば若年層だけの読みものにはしたくないなあとも。2010年9月28日読了
2010.11.10
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相麻菫は問いかけた。「私たちの中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」と。未来視の能力を持つ彼女が浅井ケイに投げかけたその問いはどんな意味を持つのか。そしてその答えは。ケイはリセット能力を持つ春埼美空と出会い、三人は考え始めた。二年前の夏の出来事・・・ 早くもシリーズ第三弾。今回はケイと春埼の出会いの頃を描いた過去物語です。前二作において限りなくケイに従い続けてきた春埼。その信頼関係の原点をここに見た気がします。その感情の薄さから危うく感じられた現在の春埼ですが、この時点ではさらに輪をかけた危うさ。触れたら壊れるという感覚でした。無論、それを食い止めたのはケイへの信頼、言いかえれば依存でしょう。 このような関係だからこそ、以前の「私がリセットを使えなくなったとして。私と貴方の関係性は、何か変化しますか?」という春埼の発言につながるのでしょう。そして、ふたりの関係に変化が訪れるとしたら、それは意図するにせよしないにせよケイの変化がもたらすものなのでしょう。 今回相麻菫がとった行動の真意はどうもよくわかりません。未来視の能力を持つ彼女だけに、きっと何かが視え、そしてそれを理解したうえで行動しているはず。そこには理由が必ず存在するのです。そのあたりはきっとこれから明らかになっていくのでしょうね。 透明感のある独特の文章は健在。まさに無色透明純粋な世界といった感じでした。そこに加えられる少量の異物が、物語に幅と奥行きを与えているように見えます。次も楽しみ。関連作:『サクラダリセット CAT,GHOST and REVOLUTION SUNDAY』『サクラダリセット 2 WITCH, PICTURE and RED EYE GIRL』2010年9月27日読了
2010.11.09
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大学に合格して上京した多田万里は、入学早々、奇妙な出会いをした。会場で意気投合した柳澤光央、そして柳澤を追って来た彼の幼馴染加賀香子と。完璧なお嬢様であるのと同時に、香子は思いこみ激しく柳澤を追い続けるストーカーもどきなのだ。柳澤は香子を避け続けるのだが、そのとばっちりは万里へ・・・ ついに出た新作は、大学生もの。登場人物の年齢が上がったためか。若干はじけぶりがおとなしい気もします。まあ、大学生ですから。 大学が舞台ということで、入学式だとかオリエンテーションだとか、やっぱりそれらしいシチュエーションが使われていて、その使い方がまた巧みです。特に、やっぱりサークルの使い方が印象的でした。おまけんよりも、むしろあっちが。まあ、大学生なんて何でもありですから、これからもやりたい放題ですね。 香子が柳澤を想う気持ちがあまりにもストレートで、それでいてなんだかいじらしくも見えます。そもそも極秘に試験を受けていた柳澤を追いかけて同じ大学に入学してきたあたりが普通じゃなく、その気がなければちょっと引いてしまいそう。おまけに、その行動に行き着くまでの数々のエピソードがまた同じような感じで、まさに一人相撲。 この一人相撲も、きっとお嬢様ゆえの部分もあるのでしょうが、「美人なのにもてないんです」なんて言ってのけるあたり、他人の心が理解できるのかできないのか、どうなのでしょう。オーラを持った非凡な人物なのは間違いないでしょう。 一方、高校三年以前の記憶を失っている万里も、そのお人よしぶりは人並みはずれたものがあります。以前からそうだったのでしょうか。現在の彼の気持ちと、過去に何やらあったらしきリンダとのこともあり、どろどろの関係を招きそうな予感も。 まだまだ始まったばかりで、これからそれぞれのベクトルがどちらへ向いて行くのかまったく予想ができません。万里の過去やリンダの謎とかいろいろ絡んできそうで、続きが気になります。早く読みたーい。2010年9月20日読了
2010.10.31
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英国版ゲシュタポである監視隊《ザ・ウォッチ》の隊長となったカーマイケル。彼はロイストンの娘エルヴィラの後見人となっていた。遜色ない学歴と後見人を持ちながら、彼女はその生い立ちから社交界になかなか受け入れられない。友人ベッツィの手助けもあり、ようやく社交界にデビューすることになっていたのだが・・・ いよいよ三部作の完結編。弱みを握られたことで制約にがんじがらめにされていたカーマイケルが権力者と全面対決、といったところ。『暗殺のハムレット』から10年、思いもかけないことから影での顔を知られてしまった彼が迫りくる敵の手をすりぬけていく終盤は、手に汗握るスリリングな展開です。 心ならずも監視隊の隊長という、いわば権力の象徴のひとつのような立場になってしまったカーマイケルですが、その影ではちゃんと彼らしさを出していることがわかり、読者を安心させてくれます。一方で、彼が追い詰められて行く姿からは、作者が作品にかなりドラマチックな展開を要求していることが感じ取れます。それと同時に、ここまで彼が痛めつけられるということで、ノーマンビー政権下の英国の惨状を映し出すことに成功しています。 一作ごとに変わるヒロインは、今回はカーマイケルの元部下にあたるロイストンの遺児エルヴィラです。彼女がパレードを楽しむ姿を通して、ファシズムが英国にごく一般的に浸透している様を描き出しています。彼女の行動力と楽観的な性格は、ともすれば陰鬱で悲劇的になりがちなこの物語の陽の部分を担い、バランスをとっています。もちろん、彼女の役割はそれだけではありません。ストーリー上でかなり重要な役割を担うわけですが、それは読んでのお楽しみということで。 エンターテインメントに徹するような表現要素で物語を組み立てながら、きっちりと政治問題や人種差別など社会派な面も盛り込んだあたりに、作者の設定の巧さを感じました。帯に書かれた《オールタイムベスト級》という言葉は誇張ではない傑作です。関連作:『英雄たちの朝』『暗殺のハムレット』2010年9月19日読了
2010.10.25
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名門ラーキン家の三女ヴァイオラは、ロンドンで女優として活躍している。彼女がつかんだ役は、男女を取り換えた「ハムレット」での主役、女ハムレット。しかも、来英するヒトラーが観劇予定だという。だが、ガートルード役だったローリア・ギルモアが爆弾によって死亡してしまった。その捜査に乗り出すのは、警部補カーマイケル・・・ ナチスドイツと講和後の英国を舞台とした歴史改変もの《ファージング三部作》の第二弾。本当にスケールの大きな物語になってきました。 今回もカーマイケルとヴァイオラの語りが交互に入る構成。そのどちらもがおもしろいのです。ヴァイオラは抜擢された女ハムレット役に取り組むうちに、いつしかヒトラー暗殺計画に巻き込まれてしまいます。計画に関与しないで済むことを考えていたヴァイオラが、徐々に追い詰められて暗殺事件の中心に吸い寄せられていく緊迫感はたまりません。 もちろん、冒頭でヴァイオラが語る内容から、どういうことになるのかはおおよそ見当がつきます。でも、そこに至るまでがおもしろいのです。 一方カーマイケルは、ギルモアの事件を捜査するうちに暗殺計画に迫り、やがて皮肉なことにヒトラーや英首相に就任したノーマンビーを守る立場に。社会がどんどんファシズムに傾いていく中、『英雄たちの朝』で権力に屈してしまった彼が、スコットランドヤードの警察官として己の矜持を賭けて立ち向かうこの事件。前作ではあまりはっきりしていなかった彼の内面が、葛藤や心理的抵抗を経て鮮やかに色づけられたように見えます。彼がその正義を全うしようとする姿には惹かれるものがありました。 本当の歴史を知る者としては、この歴史改変が物語に効果的に作用していることがよく理解できるのとともに、こういった形で事件が結末を迎えることが世界にとってよかったのか判断しにくい部分もあります。ただ、今となってはヴァイオラに幸福がめぐってくることを祈るばかりです。関連作:『英雄たちの朝』2010年9月16日読了
2010.10.18
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夏休みに入って間もないある朝、グラウンドでひとりの生徒が遺体となって発見された。状況では校舎の窓から転落したようだが、自殺なのか他殺なのか事故なのかはっきりしない。学校の呪いという説もある。様々な立場にある17歳の高校生探偵たちは一斉に走り出した・・・ 第20回横溝正史賞最終候補作。 これは叩かれるだろうな、というのが率直な感想。 まず読みにくい。刊行にあたって応募作を全面的に改稿したようなのですが、それでもまだ読みにくく、読者に途中で投げ出させようとする破壊力はかなりのもの。技巧的といえばそうかもしれませんが、ならばその技巧がここで必要なのか疑問です。 加えて、登場人物たちの言動があまりに中二病にすぎる点があります。これは好き嫌いですが、受け付けられない人にとっては絶対拒否でしょう。 そしてその結末。再読必須という難解な真相。最後ですっきり真相を見せてほしいと願うミステリ読者にとって、この作品がどう映るか。 と、問題点をあげてみました。 でも、はっきり言って僕個人はこの作品のことが好きだったりします。 読者に対してあまりにも高い要求をする本格ミステリであり、同時にあまりに青くさい天才たちがそろった青春小説。どちらをとってみても、そこに輝くものが見えた気がします。ただ、そのふたつをかけ合わせたときに、なぜだか曖昧模糊としたものに仕上がってしまったようで残念です。10年という長い間隔を経て発表される第二作ではそういった問題点が解消されているのか、どう進化しているのか、期待したくなります。 横溝正史賞選考時にこの作品を推した綾辻さんは、『ヴィーナスの命題』から思い出される先行作品のひとつとして、法月さんの『密閉教室』をあげています。なるほど、確かによく似た雰囲気を感じ取ることができます。『密閉教室』を気に入っている方は、一度手に取ってみてはいかがですか。2010年8月24日読了
2010.10.13
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遠子先輩が受験勉強に専念するため文芸部を休部すると言い出した。考えてみれば、受験生なのだから当然のことだ。一抹の寂しさを覚える心葉だったが、ななせの親友水戸夕歌が姿を消してしまったことを知り、ふたりだけで夕歌の行方を追うことに・・・ 受験というイベントが登場することで、否応なく結末が近づいていることを意識させるシリーズ第4弾。遠子先輩の不在というシリーズとしてはやや寂しい状態です。 『オペラ座の怪人』をモチーフとして取り上げた今回は、なんと言っても琴吹ななせでしょう。これまで「井上なんか」と言い続けてきた彼女の変化と、それに気づかない心葉くんの組み合わせ。なんだかちぐはぐなんだけど、遠子先輩と心葉くんの組み合わせよりもすんなりいきそうな気がするのはなぜでしょうか。ただ、心葉くんは鈍いからねえ。そちら方面がこれからどう推移していくのか。もし美羽が登場なんてことになれば、まだまだひと波乱もふた波乱もありそうで、遠子先輩の卒業までに方が付くのか、いらぬ心配をしてしまいそうです。 遠子先輩不在ということで、主導的に動いた心葉くんとななせ。このあたりにふたりの成長が見えるのがうれしかったです。いつまでも遠子先輩に頼ってばかりではいられないのですから。もう心葉くんは、頼りない男の子を卒業しなくては。 おそらく、ここまで読んできたシリーズ4作の中ではもっとも陰鬱な出来事でしょう。やはり今までは遠子先輩がもつ天然の明るさがそういったものを打ち消していたようにも思えますし、同時にこの陰鬱な雰囲気が遠子先輩の不在をより印象づけていたようにも感じられました。 ところで、井上ミウ名義での出版は検討されていないのでしょうか。関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊』『“文学少女”と繋がれた愚者』2010年8月12日読了
2010.10.12
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帰国子女の栄美は、日本で高校生活を送ることになった。なかなか日本の風習には馴染めなかった栄美だったが友達もでき、やがて飛鳥部という男子生徒に思いを寄せる。だが、いざ彼とデートの約束をしても、かならず何かしらの障害があって彼に会うことができないのだった・・・ 3章仕立で構成される、栄美の不思議な青春物語。ヒロイン栄美視点の一章、三章に挟まれる形で大学生ユージ視点の二章が入ります。 当初の体裁はごく普通の青春もの、学園ものです。ただ、それだけではあまりに貫井徳郎らしくありません。もちろん、そんなことはないのですが。紙幅も200ページ弱と少なく、ライトな感じを出す作品ですが、しっかり貫井さんらしさを見せてくれます。 その短さゆえにやや性急に思えたり、あるいは無理があるようにも感じますが、それほど気になる部分ではないでしょう。むしろ巧みに用意された伏線と無意識に訴えかけるようなミスリードを楽しむべきでしょう。 また、真相はしっかり社会の暗部にも切り込んでおり、その鋭い刃は私たち日本の現代社会に生きる者たちに突きつけられています。 あまり詳らかにしてしまうのはネタを割ることになるので避けますが、短いという手に取りやすさと軽さ、そして読みやすさをあわせ持ち、多くの読者にメッセージを伝えられる作品でしょう。技ありの佳作です。2010年8月12日読了
2010.10.06
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悔しさ、恥ずかしさ、いたたまれなさ。そんな誰もが味わう感情の動き。完膚なきまで打ちのめされたあのとき、自分の存在が否定されたようだったあのときがよみがえる・・・ 『ロードムービー』に続くスピンオフ短編集。今回も思いもよらぬあの人との再会が待っています。●「しあわせのこみち」 自分の絵には自信があった。だから、教授が撮りあげて評価してくれるのは当然自分だと思っていた。だが、それは田辺が撮った映像作品で・・・才能があることを自他ともに認めた者だからこそ感じられる悔しさ、劣等感、あるいは焦燥感。そういったものがとても強く伝わる作品。なんだか、読んでいるだけの自分までもが、そういった才能がある者になったような感覚です。●「チハラトーコの物語」 他人を傷つけない嘘で飾られた千原冬子の人生。そんな嘘を繰り返す彼女は、因縁あるひとりの脚本家と出会った・・・まさに嘘で塗り固めた人生だったトーコですが、その中に隠された本当の姿というかプライドをしっかり見せてもらった、そんな感じです。●「樹氷の街」 合唱コンクール目前。指揮者の天木にとっての課題は、一向に上達しないピアノ伴奏の倉田をどうするか、だった・・・辻村さんの作品にはちょっとイタイ感じの女性が登場することが多いのですが、今回の倉田梢は本当にイタイ。もうかわいそうなくらいに。だからこそ、人と人とのつながり、絆というものがどれだけ大切で必要なものなのか伝わってきました。 スピンオフ作品の楽しさは再会にあります。以前読んだあの作品のあの登場人物がちょっとだけ絡んでくるという楽しみ。思いもよらぬ過去だったり、成長した姿だったり、あるいはまさかと思う裏側だったり。もちろん、既に読んでいることを前提で。 『光待つ場所へ』も単独でも楽しめるでしょうが、やはり本当に楽しむのであればあらかじめ読んでおくことが必要です。どれと繋がっているか、どれを読んでおけばいいのかはお楽しみということで。まあ、人物相関図を見たら一目でわかりますけどね。 辻村さんの作品世界は繋がっているものが多く、楽しませるという意味では非常にファンにやさしい世界です。次の作品『ツナグ』も、またどんな繋がり方をしているのか、あるいは繋がっていないのか、楽しみにしています。収録作:「しあわせのこみち」「チハラトーコの物語」「樹氷の街」2010年8月11日読了
2010.09.30
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開国以来、一党独裁体制で長く安全を享受してきた「この国」。常に戦争を避け、ひたすら経済大国への道を歩んできた国ではあるが、安全の維持のためにこの国にもふたつの組織がある。ひとつは国民の日常生活を守る治安警察、もうひとつは他国と相対する可能性を秘めた国防軍・・・ 治安警察の番匠少佐の周囲で起こった、「この国」ならではの事件の数々。●「ハンギング・ゲーム」 国家反逆罪で菱田の公開死刑を執行することになった番匠少佐。反政府組織は必ず阻止を試みるはずだが、番匠は確実に執行しなければならない・・・息詰まるような攻防。死刑執行を待ちわびる観客にこの国の異常性が強くあらわれています。思ってもみないとはこういうことをいうのでしょうね。●「ドロッピング・ゲーム」 第63回日本推理作家協会賞短編部門候補作。エリートコースである海洋学校への進学が叶わなかった翔一。彼が校舎から転落したのは自殺なのか。だとしたら、立ち直りを見せていた彼がなぜ・・・小学校の成績で将来が振り分けられてしまう教育偏重社会の歪み。理性的で強い悪意に反感を覚えるとともに、この国ならではの真相に感心させられました。●「ディフェンディング・ゲーム」 4件続いた強盗未遂事件。他国軍の関与を考慮した治安警察は、海軍士官学校に見回りを依頼した。3人組で見回りをする麻岡、池、印南の目の前に不審な男が・・・収録された作品の中では、もっとも現実よりかも。それでも、この国のおかれた状況がしっかり絡められ、なおかつ同じ学校でも「ドロッピング・ゲーム」の持つ後味の悪さが払拭されるような気がしました。●「エミグレイティング・ゲーム」 公園で殺されていた男は、サタの昨夜の客だった。その次に殺された男も、その次の男も。簡易宿泊所と呼ばれる国営売春宿に、ついに番匠が現れ・・・「この国」の世界と登場人物たちの背景、そして事件がうまくかみ合わせられた一篇。とくにサタの困惑するような心情が手に取るように伝わってきます。●「エクスプレッシング・ゲーム」 「カワイイ博」会場でのテロ計画を察知した番匠。標的である貝塚の警備を固める番匠だったが、復讐を誓う松浦は、周到な計画を立て・・・頭脳ゲームのようだった作品群の最後に添えられた派手なアクションもの。そこに秘められた頭脳プレーに注目。 短編ひとつひとつがおもしろく、論理とサプライズに徹した作品集。読者の常識からすれば、どこかずれた感じがする「この国」に住む人々に光が当てられ、その行動と動機の異常性を明らかにしていきます。 ただし、『この国。』というタイトルの割には「この国」そのものに直接焦点が当てられなかったのは残念。そのあたりももっと浮き彫りにしてほしかったかな。収録作:「ハンギング・ゲーム」「ドロッピング・ゲーム」「ディフェンディング・ゲーム」「エミグレイティング・ゲーム」「エクスプレッシング・ゲーム」2010年8月8日読了
2010.09.24
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遠子先輩が図書館で借りてきた一冊の本。その異常を先輩が発見したとき、事件は明らかになった。「ああっ、この本ページが足りないわ!」。何者かが数ページにわたって本を破り、持ち去ったのだ。先輩の手にある本は無残な姿を晒している。はたして、誰が、何のために・・・ 武者小路実篤の『友情』を元ネタとして取り上げたシリーズ第3弾。『友情』ってどんな話だっけ、と考えた末に導きだした答えは、「読んだことがない」でした。『人間失格』『嵐が丘』に続いて未読。ですので、元ネタとの比較は今回も抜きです。というかこのシリーズ、これから読み進めていく中で僕が読んだことがある元ネタは出てくるのだろうか。 さて、今回のメインになるのはクラスメイトの芥川くん。男子の鑑のようにも思えた彼ですが、こんな難しい過去を抱えていたことが意外でした。 今回の芥川くんの過去、あるいは今までの心葉くんの過去もそうだったと思うのですが、こういった過去に負ってしまった心の傷を書いたら、野村さんは本当にうまいですね。トラウマというのとはちょっと違うかもしれませんが、何かにつけて囚われ続ける過去とその苦悩を表現するのも、物語に結びつけるのも本当に巧みです。 ただ、そういったある種の重い部分だけで作られた作品ではありません。たとえば文化祭という晴れの場面もありますし、琴吹さんの相変わらずな場面もあります。もちろん、遠子先輩の見せ場もばっちりです。文化祭で演じたのが『友情』だったわけですが、こういった共同で何かを作り上げる、何かを成し遂げるって、人間関係を近づける作用がありますね。仲良き事は美しき哉。 ラストに待ち受けている強烈な引きが今後を期待させてくれます。はたして次はどんな展開になるのでしょうか。関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』 『“文学少女”と飢え渇く幽霊』2010年8月3日読了
2010.09.23
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風営法が改正され、その影響でclub indigoも二部制を敷くことになった。従来の営業は夜間の第一部、昼間の第二部は新人中心のショーパブ形式という具合に。だが、一部と二部のホストたちの間にはノリや雰囲気の違いがあり、溝が明らかになっていった・・・ ドラマ化、舞台化されたこのシリーズ。早くも四作目です。●「7days活劇(セブンディズロンパース)」 club indigoで話題になった都市伝説。その呪いの影響か、一部のホストたちがケガをした・・・確かに鼻持ちならない上から目線の新人手塚。彼ら、というより彼のお披露目を兼ねた一編。なんだかんだ言いながらも、根は同じかもしれません。いい結末でした。●「サクラサンライズ」 秋葉原で助けた留学生を無給のホストとして雇うことになった。だが、彼の周囲には不穏な空気が・・・カリームの隠された事情にはさほど驚かなかったのですが、小道具を用いてうまくまとめられた感じでした。ちょっと罰当たりかもしれませんが。●「一剋」 捜査情報を漏らした疑いで豆柴が謹慎に。早乙女刑事とともに彼の疑いを晴らそうとするのだが・・・豆柴、大ピンチ。彼のいつもとは異なる一面が見られる作品。ちょっとイメージが変わるかも。●「Dカラーバケーション」 あの憂夜が休暇をとった。その間に憂夜の過去に関連した女性が現れ・・・とうとうはっきりするのか、謎の人物憂夜の過去、というところ。空也も登場し、シリーズ読者へのボーナス的な色も見えます。 読みやすいライトミステリ。手塚をはじめとした第二部の新人ホストや豆柴の相棒早乙女など新キャラも多く、その分古参のホストたちの出番が少なくなった印象があります。 今回は今まで以上に80年代、あるいは90年代のアイテムが意識的に使われていました。ちょっと懐かしくも思えたのですが、今の若い方には??? なのかな。収録作:「7days活劇(セブンディズロンパース)」「サクラサンライズ」「一剋」「Dカラーバケーション」関連作:『インディゴの夜』『インディゴの夜 チョコレートビースト』『インディゴの夜 ホワイトクロウ』2010年7月31日読了
2010.09.13
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《軌道エレベータ》に《ソーシャルカメラ。ネットワーク》が導入される。そんなニュースを聞いたハルユキはひとつの思考に行きついた。加速空間が宇宙まで広がるという可能性に。その方向性に間違いはなく、ハルユキたちは新たな《宇宙》ステージでの《ヘルメス・コード縦走レース》に参加することになった・・・ おおっ、一気に世界が広がった5巻です。 ストーリーのメインは《ヘルメス・コード縦走レース》。ネガ・ネビュラスは新たにスカイ・レイカーも加えて参加するのですが、この参加メンバー決定までのやり取りがなかなか楽しいものでした。自分のことだけでなく、レギオン全体のことを考えるからこういう考え方の違いが発生するんですよね。ほかではありえないレギオンの結びつきの強さを感じるシーンでした。 結びつきといえば、レースそのものでも強く感じさせられました。もともとメンバーのチームワークなしには上位に進出できないようなつくりですが、ネガ・ネビュラスにとってはその絆を深めるという意味でかなり濃厚な時間だったことは間違いありません。特に、レースが想定されたものと異なる形となり、ハルユキにアクシデントが発生してからは一段とそんなことを感じました。まあ、タクムはちょっと空気になってしまいましたが。 もちろん、レースだけじゃなくて日常のシ-ンも盛りだくさん。何といっても今回はお泊まりイベントでしょう。楓子登場のあたりはあまりの動揺ぶりに笑ってしまいました。 なんとなく今回は番外編のような雰囲気でしたが、これからの苦難が想像できる展開だけに、次にも期待できそうです。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』『アクセル・ワールド 2 ―紅の暴風姫―』『アクセル・ワールド 3 ―夕闇の略奪者―』『アクセル・ワールド 4 ―蒼空への飛翔―』2010年7月25日読了
2010.09.09
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ナチスドイツと講和したイギリス。ルーシーは、その講和を主導したグループ〈ファージング・セット〉に属する貴族院議員の娘だが、大陸では迫害されているユダヤ人のカーンを夫とし、家庭内でも微妙な立場に。ファージングで開かれたパーティーの翌朝、有力な下院議員が死体で発見され、ふたりは窮地に陥った・・・ 歴史改変ものです。 普段、翻訳ミステリはほとんど読まないのですが、それが読む気になった理由はこの設定にあります。ナチスドイツと講和したイギリス。そこで起きた殺人事件。しかも国を動かす権力者階級での出来事。おまけにこの世界が三冊も続くという。これは僕にとってあまりにも魅力的でした。 実際、物語は期待を裏切ることなく綴られています。ルーシーとカーマイケル警部補の一人称の語りが交互に続き、一方は上流階級の中に居場所を失いつつある者の悲哀と反発を描き、他方はスコットランドヤードにおける差別や偏見を浮かび上がらせます。 また、大陸はもちろんのことイギリスでも広まっているユダヤ人迫害の傾向とファシズムの足音を巧みに描き出していて、これはきっと後々まで続く重要なポイントになることは簡単に想像できます。 物語は後半へ進むにつれ、事件の全容が明らかになっていきます。ミステリ的には多少物足りない部分もありますが、それよりも物語が作り出す重厚な世界と語り手たちが追い詰められていく緊迫感はなかなか得難いものでした。 ルーシーとカーマイケルというふたりの語り手は、登場人物たちの中では常識人であるとともに好人物で、それだけに読者としても感情移入がしやすくしてくれます。同時にほかの登場人物は、〈ファージング・セット〉の面々を代表にしていずれも一癖も二癖もあるような嫌な人物が数多く揃っており、それもまた語り手への高感度を上げてくれます。 異なる歴史と文化を持つ国を舞台とした歴史改変ものであり、それは読み出す前の不安でもあったのですが、全く問題なく楽しく読むことができました。続きが楽しみです。2010年9月7日読了
2010.09.08
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略奪者ダスク・テイカーに飛行アビリティを奪われてしまったハルユキ。失意の日々を乗り越え、新たな能力を手に入れてタクムとともにダスク・テイカーを追い詰めたのだが、待っていたのは驚愕の事態。はたしてハルユキはこの事態にどう対処するのか・・・ 上下巻でいえば下巻にあたる第4巻。 極めつけのシーンで終わった前巻から引っ張った結果は、展開としては極めて王道を行く形。ただ、この王道がとてもおもしろかったのです。 注目すべきはチユリがとった行動の真意。???といった感じで全く読めなかったのですが、最後までいってすべてがわかったときにはちょっとした衝撃がありました。ああ、彼女もがんばっていたのですね。 もちろん、がんばっていたのはハルユキとタクムも同じ。黒雪姫不在の中、自分たちでレギオンを守らなければならない、自分たちで事態を解決しなければならないと奮闘するのです。もちろん、敵対する相手はダスク・テイカーなのですが、彼らにとってはチユリも敵同然。これはとても辛い状況ですよね。彼らの、特にハルユキの成長が見て取れた気がしました。 とはいっても、やはり黒雪姫あってのレギオン。ちゃんと見せ場が作られていて、少ない登場シーンでも十分に楽しませてくれます。 心意システムが入ってきて全体のバランスが崩れてしまうことも危惧されたのですが、そんな心配も杞憂だったようです。今回に関しては全く問題ないように感じました。しっかり制約が掛けられたのがよかったようです。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』『アクセル・ワールド 2 ―紅の暴風姫―』『アクセル・ワールド 3 ―夕闇の略奪者―』2010年7月22日読了
2010.09.01
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進級したハルユキの前に現れた新入生能美。彼はハルユキにゲームオーバーを宣告した。《ブレイン・バースト》のマッチングリストにも現れず、それでいて《加速世界》を自由に使いこなす彼は、デュエル・アバター《ダスク・テイカー》としてハルユキの大切なものを次々と奪っていく略奪者だった・・・ おいおい、なんてことだ! よりによってこんなところで終わるなんて、と思わせる、いわゆる上下巻続きものの上巻です。リアルタイムで読んだ人たちは、4巻が待ち遠しかったことが容易に想像できます。 そもそも、今回は巻頭からの能美がかなりの悪役ぶり。それも腕っぷしにものを言わせるのではなく、ちょっと知的な悪。そこで読者の憎悪を一身に受け、「がんばれ、ハルユキ」と懸命に応援させておいてあの展開ですから、読者はたまったもんじゃないなあ。まさに構成の勝利。 チユリが新たに《ブレイン・バースト》をインストールし、フィールドに出るようになった代わりに黒雪姫が修学旅行で不在。まさにハルユキとタクムにかかっているんですよね。ここでどれだけ踏ん張ることができるのか、本当に4巻は見ものです。 ところで、新しく登場した《心意システム》。これってどうなんでしょうね。一歩間違えれば作中のゲームバランスを崩してしまいそうな「なんでもあり」な気がしてなりません。十分注意して使ってほしいところです。せっかく破綻なく、バランスがいい世界が構築されているので。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』『アクセル・ワールド 2 ―紅の暴風姫―』2010年7月21日読了
2010.08.17
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帰宅したハルユキを待ち受けていたのは、小学生の少女トモコ。はとこだという彼女は、母が留守中に預けられたらしい。母が留守になる数日間トモコを預かるハルユキだが、黒雪姫の視線が冷たい。その頃、《加速世界》ではひとつの問題が発生。呪いの強化外装《災禍の鎧》が猛威を振るうのだった・・・ 《赤の王》、《黄の王》現る。 敵味方の区別なく襲い続ける《災禍の鎧》。これを食い止めるためにハルユキは唯一の存在である「飛行アビリティ」を駆使するというお話。 突然現れたトモコ=二代目赤の王ニコという特攻のような姿勢に驚かされましたが、その秘められた真実、即ち《災禍の鎧》との関係がなんとも悲劇的でした。また、そこに黒雪姫が抱える過去の問題も絡められ、物語全体の構成の巧みさを感じずにはいられません。 加速世界における親と子という新たな絆。もちろん、黒雪姫とハルユキの関係は単純に親と子というだけではないのですが、ほかの組み合わせのことを考えるととても切なくなります。 ただ、今回はリアルとバーチャルの比率がちょっとバーチャル寄りで、少しずつそちらに偏っていってしまいそうなのが残念でした。1巻は絶妙のバランスで両者が組み合わされ、どちらも楽しませてもらっただけに。その辺を次で打開してもらえるといいかな。チユリの出番もずいぶん減ってしまいましたし。黒雪姫とハルユキの間のケーブルの長さはもちろんですが、チユリとハルユキの間のケーブルも短くなった方が絶対おもしろいはず。そこは次に期待です。関連作:『アクセル・ワールド 1 ―黒雪姫の帰還―』2010年7月20日読了
2010.08.16
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学内カースト制度の最底辺にいるいじめられっ子・ハルユキ。学内ローカルネットでも一人黙々とピンクのブタのアバターでスカッシュに打ち込んでいた彼だったが、校内一の美しさと気品を持つ《黒雪姫》との出会いがすべてを変えた。《加速世界》における戦士《バーストリンカー》になったのだ・・・ 第15回電撃小説大賞受賞作。これはおもしろかった。 「ニューロリンカー」なるものを用いて、脳とネットを直接つなぐ近未来の物語。スクールカーストの最底辺でいじめられていたハルユキが、《ブラック・ロータス》を護る《シルバークロウ》として戦う中で成長していく様子が描かれています。 中心になるには、自らの感覚を加速させ1,000倍の長さに感じさせるというソフト『ブレイン・バースト』です。戦闘アクションものなのでかなりハードなシーンがあることも予想していたのですがそれはハズレ。ゲーム要素もあってか、あまり凄惨なシーンであったり殺伐とした雰囲気だとかいうものは感じませんでした。 また、レベル9で妥協せず常に上を目指す黒雪姫の生き方もなかなかのもの。自身と《ネガ・ネピュラス》の復活を告げるあの宣言は名シーンでした。 もうひとつ中心といえるのは黒雪姫とハルユキをはじめとする、リアルとバーチャルでの人間関係。最底辺にいたハルユキと最上級の黒雪姫という、本来なら出会うことのないふたりの関係も微笑ましいのですが、その一方でハルユキと幼なじみのチユリ、そしてタクムとの関係もなかなかに青春していて、こちらも楽しませてくれました。チユリの立ち位置だとか、黒雪姫とハルユキが恋愛関係なのか主従関係なのか、これからが楽しみです。 「ニューロリンカー」から始まるシステムも巧みに構成され、ネットを使う人ならば入り込みやすい世界になっています。リアルとは違う加速世界で、ハルユキはどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。2010年7月18日読了
2010.08.11
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人格入れ替わりを乗り越えた五人に襲いかかる新たな試練。自分の体が、勝手に思ってもみなかった動きをしてしまうのだ。やがて、青木と唯が警察に補導され大問題に。今度の試練は心の奥底に潜んだ欲望の開放。理性による歯止めが効かない暴走で・・・ シリーズ第二弾。人の生死にまで持ち出した前作に比べると、今回は軽い題材に見えるかもしれません。しかし、欲望解放による人間関係の崩壊は、ひょっとするとかなり重い意味を秘めているようにも見えました。 良好な人間関係というものは相互信頼によって成り立っていくものだと思うのですが、欲望が解放されてしまうことで起こるのが、信頼の喪失=人間関係の崩壊にほかなりません。これを乗り越えることができるのは、本来の欲望を持った自分、すなわち隠すことのないあるがままの姿の自分をお互いに受け入れられるか否かということにかかっているように思います。これって、結構ハードル高くないですか? さて、今回中心にいたのはまぎれもなく稲葉。前作では太一と伊織、青木と唯という組み合わせからちょっと引いたかのような立ち位置だったのですが、今回は本当にど真ん中。欲望解放というアクシデントがいい方向に転がったケースです。今までの稲葉姫子とのギャップの大きさが変化を的確にあらわしているのですが、その変化を決断させた伊織の格好よさといったら! 次の第三作『ココロコネクト カコランダム』でも、きっとこのふたりは重要な位置を占めるのでしょう。対象的なこのふたりがどんな形で物語を進めていくのか、楽しみです。 あとは「ふうせんかずら」。人格入れ替わりも欲望解放も、その意図がはっきりしません。もちろん「ふうせんかずら」の存在も謎。どういう形で意味づけられるのか、こちらも注目です。関連作:『ココロコネクト ヒトランダム』2010年7月17日読了
2010.08.10
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高校を卒業した梅本杏子は、デパ地下に入っている和菓子屋「みつ屋」にアルバイトとして勤めだした。自分がやりたいこともわからず就職もしなかったのだが、ニートにはなりたくないと考えたのだ。店長の椿をはじめとする個性的な面々に囲まれ、少しずつ仕事に慣れていく杏子だったが、お客も個性的で・・・ 今度は和菓子屋! 坂木さんは毎回変わった職業の日常(?)の謎を見せてくれるのでそれが楽しみだったりします。 今回も和菓子とそれにまつわるあれこれがいっぱい詰まっています。「兄」とか「腹切り」とか様々出てきた業界の隠語そのものもおもしろいのですが、その裏側にあるものごとやいかにも日本を感じさせるエピソードがたまりませんでした。ちょっとしたお勉強ですね。 登場人物はみんな個性的。身近にいたらちょっと困るかもしれないけれど、物語の中にいる分には魅力的だったりします。椿店長の二面性も意外だったし、イケメン立花は表と中身のギャップが大きく、桜井さんは過去がちょっと顔をのぞかせて・・・って、みんな素顔をちょっと隠したような人ばかり。でも、それが物語の中で活かされています。 でも、一番魅力的だったのは和菓子かもしれません。和菓子ってやっぱりアンを使った甘いもののイメージが強く、多少敬遠気味でした。でもそこに秘められていたものを少しかじると、なんとも魅力的に見えてくるのです。おいしそうに見えるのはもちろん、様々なエピソードが輝かせているかのようでした。 謎解き担当は椿店長でしたが、本当にズバッと切り込んでいきます。お客さんの買い物や言葉の端々などをとらえて、心に抱えている問題を解決していきます。ちょっと踏み込み過ぎな気もしますが、まさにナイフのような切れ味でした。ただ、切れ味がよすぎて読者に考える余地を与えないような展開で、そういった面で推理の楽しみは薄かったように思えます。 和菓子という比較的地味な素材でそこに隠された世界を広げ、あたたかな人のつながりを見せてくれた坂木さん。次に取り上げるテーマが楽しみです。収録作:「和菓子のアン」「一年に一度のデート」「萩と牡丹」「甘露家」「辻占の行方」2010年7月15日読了
2010.07.29
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七夕の夜、わたしはたっくんと出会った。アリサから代打で誘われた合コンで出会った数学科の彼はちょっと変わっていて、のめりこむと寝食すら忘れて集中してしまう。そんな彼と、わたしは恋に落ちている。あの七夕の日から。ブルーベリーで服を汚してしまった、あの日から・・・ どこかでモリミーやマキメと同列で語られていたのでどれほど奇妙かと構えていたのですが、そんなこと忘れてしまうほどあたたかく、そして愉快なラブストーリーでした。 花とたっくん、アンドウ、ヤマネ。4人の楽しそうなことといったらありません。バイトだったり研究室だったりといろいろ忙しそうではありますが、その中でもとても青春している姿が目に浮かびます。大変なのだけれど、楽しそうなのです。 たとえばタコパ、あるいは花火、そして卒業旅行。こういったものというのは、学生の特権とまではいかなくても、学生ならではの楽しみ方ができることではないでしょうか。同じことをしても、社会人ではもう同じ感覚は取り戻せないもの。そういった感覚だとか雰囲気というものが強く出されていたように思います。一年弱の時間の間にそんな出来事がもっとあったもよかったかもしれません。 理系の男性というのはたっくんほどではないにしても、ちょっと何かにのめり込むタイプの人が多い気がします。僕の周りにも、学生時代はそんな人がちらほらと。まあ、たっくんぐらいのめり込むようだと、少々心配になりますね。 登場人物がみんないい人で、それぞれに将来のこととか、夢だとか、そういうものを前向きに考えているのもなんだか気持ちよく感じられました。いいじゃないですか、そういうのって。 たとえ物理的な距離は離れてしまっても、心理的な距離はどんどん近付いていく。そんなふたりのこれからを応援したい気分になりました。2010年7月8日読了
2010.07.24
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2年生の夏、女子マネージャーとして野球部に入部した川島みなみ。都立高校の弱小野球部ではあるが、甲子園に連れていくことを目標にした彼女は、マネージャーの仕事を知るために書店で本を1冊購入した。だが、よく確認もせず買ったそれは、ドラッカーの『マネジメント』だった・・・ 企画力、発想力の勝利です。 タイトルどおり、野球部の女子マネージャーが『マネジメント』を参考に部活を運営したらどうなるのかをわかりやすく小説にしたものです。 ポイントは何と言っても〈野球部の女子マネージャー〉だったこと。多くの人によく知られたこの世界を舞台にし、物語を進めていくことがどれだけ理解の助けになっていることでしょうか。これが〈サッカー部〉でもちょっと違ったと思いますし、況や企業をや。「もし営業部の女性アシスタントが~」ではだめなのです。 正直なところ、物語としては特別におもしろいものではなく、あまりに都合よく進んでいくのも残念に思えます。もちろん、この本の性格上上手くいかないのでは困りますし、求められているのは成功のみですから仕方ありませんが。ただ、もうちょっと山や谷があってもよかったかなあという気にはなりました。 これを読んでドラッカーの『マネジメント』を読みだした人もいるでしょうし、そこまでいかなくても多少の興味を持った人は多いはず。僕も興味を持ったひとりです。少しあざといようにも思えますが、『マネジメント』のエッセンスをこれからいかしていければいいんじゃないでしょうか。そう、真摯に。2010年7月6日読了
2010.07.22
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三年前、自然死として処理された祖父の死にまつわる事件に巻き込まれた城坂論語。いま、私的裁判〈双龍会〉が開かれ、彼はその被告として裁かれる立場にある。事件の日に時間をともにし突然消えた謎の女性〈ルージュ〉の疑惑を主張し、弁護人〈青龍師〉に瓶賀流をたてた論語だが、その目的は・・・ どんでん返し連発の法廷劇。これは傑作と呼んで良いでしょう。 前半が論語と〈ルージュ〉との二時間ほどの会話、後半は私的裁判〈双龍会〉という構成。前半の狐と狸の化かし合いのような会話は、丁々発止というよりはのらりくらりとかわしながら隙を突くようなやり取り。これがテンポよく続き、読む者を飽きさせません。 これだけでも楽しいのですが、驚きなのは後半の法廷劇。京都という土地柄からあってもおかしくなさそうな私的裁判〈双龍会〉ですが、このやり取りが実におもしろいのです。何せどんでん返しの連続。予想できない展開が読者を引き込んで離しません。 論理的に相手をやり込めていくことももちろん必要ですが、それよりもハッタリやでっちあげ、その場の勢いがものを言う〈双龍会〉。ハッタリをかまそうがなんだろうが、それがハッタリだと証明されなければいいのです。とにかくロジックで反論させなければいいのです。 物語の筋を語りすぎるのは興を削いでしまうのでほどほどにしますが、ただ一点だけ。論語と流をはじめとした登場人物たちの考えや目的まで追っていくと、微妙なズレもあっておもしろさが更に増してきます。登場人物もなかなかのもので、特に龍樹落花は最高でした。 法廷ミステリであると同時に恋愛小説としても読めるこの作品。どうせ読むなら、読む側も〈双龍会〉を傍聴するかのように勢いに乗って読んでみましょう。あるいは論語の〈ルージュ〉への想いに共感してみましょう。ガツンと来ませんか? 講談社BOXということで手に取りにくいことも想像できますが、そこで躊躇せずにぜひ読んでほしい一冊。きっと損はしないはずです。講談社BOX、侮れませんよ。2010年7月3日読了
2010.07.20
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密室での殺人事件、殺し合った三人の被害者、ちょっと不思議で興味深い事件の場に貴族探偵は突然どこからともなく現れる。そして、推理などという〈雑事〉はすべて使用人に任せ、難事件を解決していくのだ・・・ 『神様ゲーム』以来となる麻耶さんの五年ぶりの新刊は、足掛け10年かかった短編集。●「ウィーンの森の物語」 密室で見つかった男の死体。一見自殺のようだったが、ある物証は明らかに他殺であることを示していた・・・反転させる手際の良さが目を惹きました。しょっぱなからきれいにまとめてくれました。●「トリッチ・トラッチ・ポルカ」 強請りをはたらいていた女が殺害された。容疑者は高校教師の男。男は遺体の頭部を埋めている姿を見られていた・・・ちょっと読みにくさを感じながらも、この辺も麻耶雄嵩らしさかなあと納得。●「こうもり」 高級旅館風媒荘に泊まりに来た絵美と紀子は作家の大杉道雄と堂島直樹に出会う。しかし、大杉の妹佐和子が殺され・・・これは思ってもみない形でした。まんまとと言うべきでしょうか。●「加速度円舞曲」 突然落下してきた岩にぶつかり、車が故障してしまった美咲。岩は担当する作家の家から落下していた・・・ロジックの積み重ねが冴える作品。これでもかこれでもかとばかりに。●「春の声」 皐月の従妹弥生は、家のために三人の婿候補からの選択を祖父から迫られていた。三人の候補が集う夜、その内の一人から電話が・・・これにはうーんと唸らされます。 麻耶作品の探偵と言えばやはり銘探偵・メルカトル鮎なのですが、貴族探偵にもまた同じような人物像を思い浮かべてしまいました。事件解決の方法は全く違うのに。 全体にロジックが前面に強く押し出された作品集。10年という時間の経過もあってか、後半の作品ほどレベルが上がっているようにも思えます。一般的には「こうもり」の受けが良さそうな気がしますが、それよりも「加速度円舞曲」や「春の声」の方が好きかな。 欲を言えば、貴族探偵である必要性をあまり感じられなかったのが残念です。とは言っても、御前様は直接推理なんてものはなさらないお方ですので。収録作:「ウィーンの森の物語」「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「こうもり」「加速度円舞曲」「春の声」2010年6月27日読了
2010.07.19
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2004年の今日、当時の楽天日記でブログをはじめて以来、6年になりました。 ちょうど小学校を卒業するだけの年月ですが、これからも卒業することなく、続けて行こうと思います。 とりあえず、もう少し更新頻度を上げていきたいと思います。たまっている感想が7冊分あるので、まずはそれを書くことから。 まあ、何はともあれ今後もよろしくお願いします。
2010.07.18
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秋津新聞社の投稿課に届いた一通のメールは、静かに、そして大きく秋津新聞を揺さぶった。メールは、女子中学生を誘拐監禁し身代金の要求を告げてきたのだ。添付された彼女の写真は、届くたびに服を剥ぎ取られていく。はたして秋津新聞社が取るべき対応は・・・ 最初に書いておきますが、これは偽装誘拐ものです。いろいろとすごい作品でした。 もっとも目につくのは、誘拐事件を偽装した中学生の野中栞の恐るべき冷静さです。進学校に通っているとはいえ、一介の中学生が咄嗟にこんな偽装誘拐を企てられるとはとても思えません。まして、彼女は両親の死を目の当たりにしたばかりに、こんな動機で。これはちょっと無理があるかなあ。一言でいえば無理矢理、あるいは強引。 そういうところを抜きにすると、犯人側が秋津新聞社にかけるプレッシャーがとてもきわどくスリリングでした。なにしろ野中栞は秋津新聞社の上をいく手を打ち、完全に手玉に取っています。まったくもって空恐ろしい中学生なのです。写真の件など、ここまでやるかという感じ。いや、「石持浅海、ここまでさせるか」か。 一方、秋津新聞社はと言えば、新聞社としてのメンツだとか以前の事件の後遺症のようなものに囚われ、迷走もいいところ。大人の汚さが見えてきて、かえってリアルです。でもこういった組織防衛的な考え方が、妙にしっくりきました。 最大の山場となるのは、誘拐ですからやはり身代金の受け渡しシーンです。この事件ならではの趣向を凝らした方法が何とも目を惹きました。本当に侮れない犯人です。 誘拐もののミステリも数多くありますが、いろいろな意味で記憶に残りそうな作品でした。2010年6月20日読了
2010.07.11
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日本からヨーロッパに渡り、ついにツール・ド・フランスの舞台に立つこととなった白石誓。だが、彼が所属するチームはスポンサーの撤退が決まり、やむを得ずひとつの策に打って出ようとしていた。それを受け入れることができないチカはひとり苦悩する・・・ 第10回大藪春彦賞受賞作『サクリファイス』の続編。今回の舞台はロードレースの最高峰、ツール・ド・フランスです。ロードレースが持つ商業スポーツとしての側面に苦悩するチカの姿が描かれます。 ミステリ的な色合いはかなり薄れていますが、今回はロードレースの魅力が満載でした。 参加する選手それぞれが、それぞれの立場で判断し進めていくレース。エースはエースとして相応しい結果、即ち勝利を追い求め、アシストはエースの勝利のため、犠牲になることに徹する。天候、標高、展開、それぞれの思惑などさまざまな要素が絡み合い、その時々でレースは違った様相を見せてくれます。ただ単に速いことを競うだけではない奥の深さ、おもしろさがあります。 実際にはここまで細かく選手たちの心情や駆け引きがわかるとは想像できませんが、それでもツール・ド・フランスを見てみたくなりました。我が家ではちょっと見られないので残念です。 ミッコのアシストに徹するチカではありますが、彼にもやはり夢があります。ただ、それを内に秘め、アシストにこだわるところに彼らしさを見た気がします。それはもしかしたら日本人らしさなのかもしれません。 もちろん、レース以外にも見所はたくさん。物語には悲劇もありますが、決してミステリ的なものではありません。むしろ、『サクリファイス』のようなミステリ仕立てになっていなくて正解でした。チカたちの今後のレース人生が楽しみです。もちろん、スピンオフも。 関連作:『サクリファイス』2010年6月19日読了
2010.07.06
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印章店を営む男は、認知症を患う母親と暮らしている。母親の絵に描かれていたものを見た彼は、遠い昔の出来事の記憶を呼び起こした。それは家族で別荘へ出かけたときのこと。三十年に一度咲くという笹の花が咲いたのだ・・・ 第23回山本周五郎賞受賞作。章立てされてはいますが、登場人物を少しずつリンクさせながら続いていく短編集のよう。派手ではありませんが、心にスッと染みていくような作品です。●「隠れ鬼」 認知症を患う母親を世話する男は、母の描く絵を見て幼いころの出来事を思いだす・・・三十年に一度咲く花に、美しさと不気味さを感じます。ミステリ的な技が効いています。●「虫送り」 小学生の兄と妹は夜、河原へ虫を捕りに出かけた。対岸にも自分たちのように懐中電灯の光が見える・・・残酷というほかない話。幼い兄妹の兄弟愛をまったく打ち消すような仕打ちに憤慨するとともに、こちらにもやはり技のさえを感じます。●「冬の蝶」 河原で暮らすホームレスの男は、かつて昆虫博士になることを夢見ていた・・・なにか薄幸を押し付けているようで、本当にやりきれません。サチの置かれた状況には予想どおりで少々残念。●「春の蝶」 一人暮らしだった老紳士の家に娘が孫娘を連れて出戻った。孫娘は心に傷を負い耳が聞こえず・・・娘と孫を思う気持ちのあたたかさに心打たれるのと同時に、厳しい冬を耐えればいつか暖かい春がやってくるということのようで少しうれしくなります。●「風媒花」 姉が入院した。駆けつけた病院には母がいたが、父の死以来母のことが許せず、久しく口をきいていない・・・これはお姉さんの一本勝ち。彼女が歌い続けた歌のさびしさと結末の明るさが対照的で、明るい未来を感じさせます。●「遠い光」 復職した教師を悩ませるひとつの出来事。母親の結婚で姓が変わる少女が、地域で問題を起こしたのだ・・・少女が少しずつ教師に対して心を開いていくだけでなく、前半に登場した人物たちにも光が射しているのがいいですね。すべて読み終えたときの後味に満足できます。 真相の見せ方、あるいはそこへたどりつく過程に上手さを感じさせる作品。強烈などんでん返しやミスリードこそありませんが、作中に秘められていたこと、出来事の真相に登場人物が気づかされる瞬間は、少なからず驚きがあります。 後味の悪さと、優しさやあたたかさという相反するようなものが同居しながら、その構成によってひとつの味わいあふれる作品としてきれいにまとまっています。2010年6月15日読了
2010.06.28
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由紀夫はごく普通の高校生である。ただ一点、父親を名乗る男が四人も同居している点を除けば。しかも彼らは四人とも、遺伝上の父親であることを主張しているのだ。賭けごとが好きな鷹、物知りな悟、女好きな葵、そして体育教師の勲。個性豊かな彼らは、由紀夫を事件に巻き込んでいく・・・ ここ最近では珍しいほどに伊坂さんらしい楽しさを持った作品。この楽しさが第一期伊坂幸太郎の特徴だとするのなら、このままでいてほしい気がします。無論、それでは進化はないのですけれど。 父親四人が同居という異常事態を存分に活かしたストーリー。四人がそれぞれに強い個性を持ったアクの強いキャラクターなのですが、由紀夫に自分との共通点を見つけたときの態度はまるで子どものよう。いかにもウザそうにしている由紀夫との対比がおもしろいですね。四人の父親を惹きつけてやまない母親知代がもう少し絡んできてもよかったかなあ。 由紀夫の友人たちも楽観的で悪びれることのない鱒二、どこか浮世離れした殿様、自分勝手に由紀夫にまとわりつく多恵子など、身近にいたら迷惑だけど憎めないキャラクターが登場します。鱒二の父親に関してはちょっとできすぎですけどね。 ストーリー自体は決して複雑のものではありませんが、伊坂さんにはそのストーリーを膨らめる力が具わっていることを痛感。ただ単純に大きく膨らめるだけではなく、魅力的に膨らめるのです。そこには個性的で読者を惹きつける登場人物がいたり、まさかこんな所につながるなんてと驚かせる伏線が隠されていたり。重いメッセージ性は極力取り除かれ、エンターテイメントに特化しているだけに、純粋に楽しめる作品になっています。 欲を言えば、ドッグレースの描写がもっと多かったらうれしかったでしょうか。競馬好きとしては、やはり気になるのです。2010年6月14日読了
2010.06.27
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バレー部のキャプテン桐島が、突然部活をやめた。その波紋は幾人かの生徒へと広がっていく。桐島に代わってリベロとして試合に出ることになったのは風助。桐島のプレイを見ながらいつも自分の動きをシミュレートしていた彼にとっては、待望の舞台だった・・・ 第22回小説すばる新人賞受賞作。 五人の主人公が語る5つの物語。誰もが、桐島がバレー部をやめた影響を大なり小なり受けているのに、桐島はついに一度も姿を現さないという、一風変わった設定。その設定から想像したのは『田村はまだか』でしたが、当然まったく違う話です。 まだ大学生という大型新人が書いただけのことはあり、高校生の気持ちがかなりリアルに伝わってきます。たとえば、桐島がやめたことでリベロとして出場する機会をつかんだ風助の、出られることへの複雑な思い。いつの間にか本気になってしまった竜汰を諦めきれない亜矢の思い。 もちろん、似たようなことを自分たちも一度体験したからということもあるのでしょうが、それをリアルと感じさせる力、きらきらとした輝きがありました。 自分の置かれた位置、立場。そういったものもかなり考えた時期だった気がします。上か下か、ここまではっきりとしたものではないかもしれませんが、似たようなこともあったかな。 5つの話のうち、特に染みてきたのは「小泉風助」と「菊池宏樹」でしょうか。これはきっと人それぞれでしょうね。 いま、この年齢だからこそ書けた物語のような気がします。だったら、読むのもきっと今が一番です。新しさと懐かしさが共存する小説です。2010年6月8日読了
2010.06.26
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突然、後輩の七花蓮が階段から頭の上に落ちてきた。彼女とのかみ合わない話を総合すると、どうやら彼女は明日からやって来たようだ。タイムトラベルだ。退屈な毎日をおもしろくするのはこれ。僕は彼女とともに未来へ過去へ、自由にタイムトラベルを繰り返した・・・ 学園を舞台にしたタイムトラベルもの。ただし、タイムトラベルそのものは混乱というおもしろさを引き出すための道具にすぎず、もっぱら中心はラブコメです。ふたりが保つ微妙な距離が愉快で楽しい物語に仕立てられています。タイムトラベルを扱った本格的なSFを期待していると肩透かしを喰らうことでしょうが、敷居が低く慣れない人でも気軽に手を出せそうです。 退屈だからと気軽にタイムトラベルしようと誘う主人公の柊和泉ですが、少なくとも彼のまわりにいる人は退屈とは無縁でしょう。迷惑を被るか呆れるか、あるいは憤慨するか。そんなキャラクターなんです、彼は。いい加減で自分勝手でしかも、って感じ。 でも、七花いじりの巧さは抜群でした。 その七花。ひどいいじられ方をしている彼女がどうして柊のそばにいるのか不思議なのです。時を越えるという能力はさておき、かわいらしさとか純情なところとか、七花蓮という少女の魅力は満載でした。もちろん、時を越えて。 小難しいことを抜きに、タイムトラベルの楽しさを使ってコメディタッチに仕上げたラブストーリーといったところ。タイムパラドックスだって柊の手にかかればへっちゃらなのです。「時をかけるケーキ」だって「3分待たずにカップラーメン」だっていいじゃないですか。2010年6月8日読了
2010.06.25
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文芸部が設けた「恋愛相談ポスト」に嫌がらせのような手紙が相次いだ。「憎い」とか「幽霊が」という具合に。「これは文芸部への挑戦!」とばかり張りこむ遠子先輩と心葉くんの前に現れたのは、制服に身を包んだ少女。だが、彼女は「わたし、もう死んでるの・・・」と笑うのだった・・・ 前作で味をしめ、「恋愛相談ポスト」なるものを設置したところから始まるシリーズ第二作。今回もまた題材となった名作を上手く使っている感じです。いえ、読んだことないですが。題材を読んだ人と読んだことのない人、どちらがより楽しめるのでしょう? ミステリのような雰囲気と、ホラーというか怪談のような雰囲気が程良く組み合わせられたようで、とてもおもしろかったです。 ミステリ的なガジェットとして今回は暗号が登場。正直いつもこういうものを真剣に解こうとは考えないのですが、ひとつこんなガジェットが入ると俄然雰囲気が出ますね。 今回登場する雨宮蛍にとって、そして彼女の周囲にいた人物にとっては本当に悲しい物語でした。その内に秘めた激しさと、それを嘲笑うかのように押し寄せる運命。せめてもう少し彼女に幸福をと思わずにはいられません。 一方、たとえ生命の危機に陥ろうとも、マクドナルドの童話全集の心配をする遠子先輩がたまりません。いくら文学少女だとはいえ、この場面では心葉くんの突っ込みが的確。決して食い意地に感心しているべき場面ではありませんけど。シリアスで悲しい物語の中で、くすっと笑わせてもらいました。 心葉くんが琴吹さんの病室で犯してしまった「失敗」。これが心葉くんの過去と深く関係しているであろうことは明らか。このあたりがどういう形で使われるのか、これからが楽しみです。もちろん、今回ちょっと控えめだった琴吹さんのがんばりにも期待なのです。関連作:『“文学少女”と死にたがりの道化』2010年5月30日読了
2010.06.22
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近くの街に隕石が落ちた次の夜、ワルが言いだして、僕たちは車いすに乗った椎野君と三人で森まで隕石を見に行くことになった。ちょっとした冒険のはずだったけど、とても怖いことがあってあの合い言葉を唱えずにはいられない。メーオーセーオー。メーオーセーオー・・・ 出版社・レーベルの枠を超えシリーズ化される魔界探偵冥王星Oシリーズ。複数の作家が越前魔太郎という覆面をかぶっているわけですが、さてどうなることか。とりあえず、僕は『V』よりもまず『W』から読みました。 結論から言うと、スト-リーにとらえどころがなくて微妙な感じでした。『V』を先に読んでいると違うのかもしれませんが、交互に登場した【冥王星O】と【ぼく(御家聡明)】のパートに翻弄され、全体像がつかみにくく、結果として何を書きたかったのかわからないという感じでした、 本当は『ウォーキングのW』というタイトルなのでもっと冒険するようなものを想像していたのですが、その点ではちょっと期待とは違ったかなあ。いや、そんなシーンもあったけれど少ないですし、決して中心ではないですし。このままでもおもしろくないわけではありませんが、いっそのこと【冥王星O】のパートをなくしてしまえば、すっきりとしたわかりやすくおもしろいストーリーになったのでは。もちろん、企画として無理ですね。 こういう企画モノだけに、いろいろな制約があってなかなか完成度を上げるのは難しいのかもしれません。どうしても説明不足に感じるところもあるし、その理由も理解できます。しかし、覆面の中の人が噂どおりであったなら、もっと期待に応えてくれそうな気がするだけに残念でした。2010年5月25日読了
2010.06.15
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文芸部に舞い込んできた依頼。それは恋文の代筆だった。“文学少女”を名乗る天野遠子は井上心葉に代筆を指示するのだが、依頼には不審な点が見られた。恋文を受け取るはずの片岡愁二という先輩は存在しないのだ・・・ 本編は完結し外伝まで話が広がっている“文学少女”シリーズ。その第一巻です。ついに読みました。 真っ先に思ったのは、遠子先輩の魅力でもっている作品だということ。とにかく目立つのは彼女のかわいらしさなのです。無邪気で傍若無人で本や原稿を食べてしまう妖怪(?)なのですが、それでいて時として繊細な配慮ができたりするような変わった人。ストーリーが重めですが、置かれた状況に敢然と立ち上がっていく遠子先輩の姿は、読む者を惹きつけます。題材になっている太宰治の『人間失格』を読んでいるともっと楽しめるのかなあ。 あ、もちろん心葉くんのクラスメート琴吹ななせさんもいいと思いますよ。あのツンデレぶり! これからどんな具合にデレていくのか、これは楽しみです。心葉くんは鈍いから気づいていないけど、明らかに彼女は心葉くんの方を向いていますから。 見習いたいと思わせたのは、遠子先輩が太宰治を必死におすすめするシーン。「おすすめよ」とか「読んでみて」とか言っているだけなのに、何なのでしょうこの説得力は、この力強さは。自分もこれだけの説得力がある「おすすめ!」って書いてみたいなあ。 ミステリ風に謎解きの味付けをされたストーリーは、本当に重くそしてつらい真実を連れてきます。でも、そこへ導く推理を遠子先輩が、自分は探偵ではない文学少女だから推理ではなく妄想・想像であると言い切るのも、また彼女らしさが出ていてよかったように思います。2010年5月22日読了
2010.06.14
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平凡なプログラマーとして生活する能條良明。彼はかつて「プロメテ」と名乗る天才ハッカーだった。FBIのサーバに侵入したことから収監された経験を持ち、それ故に静かに暮らしていたのだ。だが、彼の素性を知る謎の男が持ちかけた依頼により、「プロメテ」は復活、再びその能力を発揮することに・・・ あらすじからどれだけ高度な知識を駆使したサイバーサスペンスなのだろうかと身構えたのですが、実際のところはそれほど高いハードルは設けられず、さほど知識がない読者でも楽しめる作品でした。もっとも、予想以上に冒険サスペンス色を強く感じる作品で、そこは想定外でした。 ただ、限りなく長編に近いとはいえ連作短編集という形式のためか、全体が軽く見えてしまいます。ICチップ入りパスポートの偽造を扱った巻頭の「プロメテウス・トラップ」こそ、重々しい雰囲気と内容がちょうどいい具合で、どんでん返しでも楽しませてもらって非常に満足でした。しかし、そのあとは軽さが目立ってしまい、どうも作品の内容とはそぐわない印象が残りました。こういった謀略ものはもっと重々しさを強調した方がいいように見えます。 リーダビリティは高いので手軽に読めます。そういう意味ではライトな謀略サスペンスというのもありかなあとは思うのですが、個人的にはやはりズシリとくる方がいいかな。2010年5月18日読了
2010.06.08
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