少し歴が長くなったブルゴーニュ愛好家ならシャサーニュ村の東部を貫通する国道6号線の東側( Puligny 側)の幾つかの畑に興味を持っているのではないだろうか。 GC の Criot Batard は別にして Blanchot, Dent de Chien, Blanchot と Montrachet 、 Batard Montrachet に隣接していて如何にも GC になりそうなクリマで有る。実際この辺りの生産量は凄く少なく市場で見かける事も中々無いので想像を益々かき立てられる。
当たり前だがブルゴーニュのアペラシオンの策定に当たっては勿論歴史的な経緯やそこから作られるワインの質が主に鑑みられているが、最終的な線引きに当たっては当該の個人や村々の意向により政治的判断が働いている。修道院が深く関わった CdN では線引きは比較的穏やかに決着しているが(それでも Charmes Chambertin 等の quasi-Chambertin のクリマは若干揉めた)、そういう修道院が余り関わっていない CdB ではかなり揉めている。 Corton を巡る Ladoix-Aloxe-Pernand 三村の確執や特級格付けを直訴した Pommard の一揆的 騒擾については前にも書いたが、 Batard, Chevalier, Montrachet の CdB の至宝とも言える白の GC の策定に当たっては Puligny 、 Chassagne 両村のかなりの確執が有った。
去年鬼籍に入られたブルゴーニュの歴史家 Jean Francois Bazin 氏の Le Montrachet ( 1988 )にその辺の経緯が詳しく述べられている。今日はこのワインに因む Batard の策定の経緯をその中から少し紹介しておく。
Batard 1840 年の土地登記の際に Batard の Division の下に Subdivision (大字と字の関係に喩えられるだろう)として Batard 以外に Les Criots 、 Blanchot Dessous 、 Vide Bource 、 Les Encegnieres (以上 Chassagne )、 Bienvenue ( Puligny )の5区画が含まれていた事だ。 1860 年の CAB (ボーヌ農業委員会)の最初の格付けではこれらの5区画に関して Batard と名乗る事は認めてはいない。 1937 年から始まった Ferre Commission のアペラシオン策定作業ではこの 1840 年の土地登記に立ち返って公聴会で意見を聞くと、 Puligny の生産者は何と Batard を Cailleret, Pucelles, Folatieres 等のクリマも Batard に含める様要求、対する Chassagne は Batard を( Puligny 側に)拡張するのならば Chassagne 産の全ての白ワインを全て Batard で出荷すると呼応、更に Batard と Bienvenue の地主連合の Batard と呼ぶのは Batard と Bienvenue に限るという提案は Chassagne, Puligny の両村から強硬な反対意見が出され、八方塞がりの状態となった。
ここからが面白いところであるが、 Ferre Commission
は産するワインの質に目を付けたのである。 1860
年の CAB
の格付けでは特級格は Batard
の上半分だけで下は一格落ちるとされていた(写真参照)。これは下半分が粘土質で当時赤が主体で有ったためだ。妥協案として出たのは Batard
の下半分も含めて GC
とする一方(これでBatardの土地所有者の反対意見を封じる)、所謂 Chambertin
方式(なんとか Chambertin
)でこれらの Subdivision
の畑のうち、(質の良い) Bienvenue
、 Criot
、 Blanchot
に関して、それぞれ Bienvenue-Batard-Montrachet
、 Criot-Batard-Montrachet
、 Blanchot-Batard-Monrachet
を新たに策定するとの答申の草稿を纏める。だが最終稿では Blanchot-Batard-Monrachet
は除外。本中には理由は書いていないが Puligny
側に新たな GC
を一つ作るのに対し、 Chassagne
側に2つ GC
を新設することに対する Puligny
の Objection
であったろうことは想像に難く無い。さて少し長くなってしまったが、このワインが「幻の GC
」で有ったことが少しお分かりいただけだろうか。
肝心のワインだがこれは素晴らしく良かった。余り日本では知られて無いが、名手。膨らみは全く感じさせず、スレンダーで気品高い。明らかに国道の西側の畑のワインとは素性が違う。 20 年以上経ち、ワインは少し落ち始めているが酸化の苦さは全くなく、 透明で球体を感じさせ、フィニッシュも長い。どちらかというと厚ぼったい Batard ではなく、さらっとした Montrachet 古酒に近いように思う。個人的には Criot を GC とするのならばこちらを GC にして欲しかったように思った。
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