ブルゴーニュが他の地域と違うのはそのワインに関する長い歴史と何代にも亘る家族制手工業に携わる人々のドラマを感じられるところだろう。特にブルゴーニュ古酒は歴史を鑑みて飲むのとそうで無いとは全く感じるものが違うように思える。それは恰も文化遺産に対する接し方と共通するような気がする。
今回のワインだが、もう伝説になってしまった作り手。 GC でも1級でもない単なる村名だがこのワインは2つの畑から出来ていてそのうちの一つが現在 Clos Euginie と呼ばれる La Tache 直下の畑だ。そして古地図を見ていくとここが登記上は単なる Village の名だが Clos Frantin と呼ばれていて Domaine Grivelet に所有されていたことが窺える。その後 Domaine Grivelet が Richebourg 等の畑を売却した際に何故かこの畑は Rene Engel に行ったが Clos Frantin の名前は商標として Bichot に移ったため Rene Engel はもう一つの畑 (Vigneux) と混ぜて単なる村名として出したのだろう。この村名の生産量は 5,300 本、と言う事はこのドメーヌの VR 生産量の 3 分の1なので残りはネゴスに売っていたと推測できる。
そして Philippe Engel が 2005 に亡くなり Latour のオーナーが買収した時にこの畑が Clos Eugenie に変わり、ドメーヌの名前にもなり、この畑が別キュベとして出されているのだが、この畑がこの名前で出ている文献にはまだ出会っていない。まあ、どうでも良い事なのだが、裏には色々とドラマが有った事が感じられ、こういうドラマに価値を見出すのが真のブルゴーニュマニアなのだろう。
閑話休題、肝心のワインだが30年経ったものの辛うじて果実は残り、マディラも出ていない。これから数年の間徐々にフェードしていくのだろう。これが詰められた時、自分は20代後半、社会に出て仕事をし始めこれからの人生に希望、夢を見出した時。それから30年経ち、幾つかの夢は叶ったが幾つかの失望、失敗もあり、人生は下降体制に入りつつある。ワインを開けながらお互いに歳を重ねたなと声をかけてたく気持ちが生まれる。小学校時代の初恋の相手に30年ぶりに出会った感じだろうか。人もワインも同じ、永遠の命はない。今を楽しみ、命のあるうちに楽しむべきなのだろう。そう、下山が肝要。
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