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ずっと昔に見た一本の映画だけで、クロード・シャブロル監督のことを、判断していたが、どうも間違っていたかもしれないと思い始めた。「引き裂かれた女」とこの「悪の華」を見て上手いし、確かな観点で映画をつくるひとだなと気がついた。フランスのヒッチコックなどといわれているらしいが、確かに犯罪に関わるテーマが多いが、彼の映画では犯罪はいつも家族の中で起きる。その家族の持っている環境が犯罪へと結びついてゆくパターンが見られるようだ。「悪の華」はボードレールの詩集の名前でもあるが、副題になっているヴァスール一家の細やかに描き出される性格描写が面白い。当代の奥さんのアンヌ(ナタリー・バイ)が市長選挙に立候補すると、町中に「呪われた一家」という怪文書がばら撒かれる。選挙につきものの嫌がらせだとアンヌたちは相手にしないが、書かれている内容は事実なのが辛い所だ。アンヌのシャルバン家と夫ジェラールのヴァスール家は元々縁戚関係だった。まず1944年ピエール・シャルバンはドイツに協力しレジスタンスに入った息子を逮捕し殺した。そして自分もまた何者かに殺された。容疑は娘のミシュリーヌにかかったが無罪だった。1958年にシャルバン家の跡継ぎの夫婦が飛行機事故で死亡、後に娘のアンヌが残された。アンヌはヴァスールの次男と結婚したが結婚相手は兄の妻と自動車事故で死亡。アンヌは残された兄、つまり現在の夫ジェラールと結婚した。夫は息子フランソワを連れ子にし、アンヌは娘のミシエルを連れ子にした。やがてミシエルとフランソワは恋仲に。フランソワは父の支配下を脱するため3年をアメリカで過ごし帰国した。そして選挙が済んだ夜、ジェラールは殺された。つまりここの両家には悪い許せないことを平気で押し通して決行する父親と言うものがいた。そして従兄妹か兄妹か、はたまた赤の他人かはっきりしない間柄の男女の愛がいつも存在した。何処から見ても暗いテーマだが、シャブロル監督の手にかかるとそうでもなく、魅力ある男女がお互いに接触しあって一見ハッピーそうに見える家族風景を繰り広げる事になってしまうのである。家は資産家らしくゆったりとした住まいだし、教養ある男女は知的ユーモアを応酬して、一緒に食事し仕事し、人生を楽しんでいるようにすら見える。シャブロル流はこうなのである。そして突然に殺人は起きる。我々は一編の推理小説を読んでいるように監督の語り口にうまく乗せられてゆく‥‥というわけで政治に燃えるアンヌ=ナタリーは生き生きと活きるし、選挙助手の男性と息がぴったり。マユゲの濃いちょっとカワユイ男性だ。夫は経営するドラッグストアの裏に事務所をつくり、女性を連れ込んでばかりしている。家の切り盛りは殺人嫌疑のせいで未婚のまま80歳になったミシュリーヌおばさん(リーヌ叔母さん)が仕切っている。シュザンヌ・フロンのシワだらけだが、小柄できれいで可愛い老婦人が、実は映画の本当の主人公かも。終始画面に出てくるリーヌ叔母さんこそ、悪の華咲くヴァスール&シャルバン家の悲しいシンボルのような人なのだ。海辺のレストランで生牡蠣を山盛りにして食べる、ウナギのぶつ切りのシチュウを食べる、などなどグルメ振りを見ているのも面白い。リーヌ叔母さんの入れたコーヒーも美味しそうだった。クロード・シャブロル監督自身がプチブル的快楽主義の生活を愛していたのかもと思った。良く観ていると映画全体無駄も弛みもなく、自分なりの一定のテンポで見せる手腕がすごい。シャブロル監督が好きになった。(おまけ)リーヌ叔母さんはきれいだし品が良い。彼女の老人ファッションが良かった。愛車はシトロエンの2CV(ドーシボとか言う)だ。1950年ごろから1990年まで売られて、とても人気のあった小型車だが、アメリカ帰りの若者のフランソワ(ブノワ・マジメル)に「叔母さんの馬車」とからかわれていた。
2012.05.31
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テンプル騎士団最強の勇者といわれたアーン・マグナソンの物語。始まりは12世紀初頭のスェーデンだ~その頃はスェーデンとノルウェイの境ははっきりしていなかったがスェーデンのほうだろう。アーンの生まれた西ゴティア国の旗色は水色で、スェーデン国旗の色で、スェーデンの王系を確立し平和を保たせた人といわれていてスウェーデンの歴史では知られた人物らしい。日本人には馴染みの無い人物なので、立派な未公開映画である。映画は霧深い北欧の海や山に始まり炎熱のエルサレム近郊の砂漠まで行く。スケールの大きな歴史物はやっぱり上下2巻「パート1テンプルの騎士」「パート2愛と闘いの果てに」あわせて193分、とこれくらいでないと面白くない。さて 1177年エルサレムでテンプル騎士団の騎士になっているアーンとはどんな生まれの人物なのだろうか。彼の故郷は北欧で、父は西ゴティアの族長だった。幼児の頃事故で意識を失い母親がもし子供を救ってくださるならこの子を神の僕として捧げます、と誓ったため回復してから修道院へ入れられた。そしてまず僧になるべく育てられた。ところがその修道院にはギルバート神父という元テンプル騎士団の騎士で十字軍に12年もいたという僧がいた。ギルバートは十字軍中無敵の剣豪だったので、アーンはその人から剣術、弓矢などをならいいつか立派な剣士になっていた。その地ではデンマークと縁のある王が支配しアーンの家は敵視されていたが、アーンは対立する族長の娘セシリアと恋仲になりセシリアが身ごもっていることが知られて教会から破門される。修道院にいられなくなったアーンはテンプル騎士団に入ってエルサレムへ行くことになる。というとかなり不良ぽい若者のようだが、アーンは穏やかな性格で物事には慎重である。演じているのがヨアキム・ナテークビストという若い俳優で、アメリカ俳優のニック・スタールに似ているがどちらかというと地味な感じ。ところがである。ギルバート神父、何処かで見た顔とおもったらなんとフランス俳優のヴァンサン・ペレーズで、修道院長も見た顔だとおもったらイギリス俳優のサイモン・カーロウであった。他に北欧人では有名なステラン・スカルスガルドがアーンの叔父に。最近知った顔のミカエル・ニクヴィスト(ミレニアム、ドラゴンタトーの女)も登場する!何だ!これは!多分この映画は日本でこそ話題にされないが、ヨーロッパではかなりメジャーに取り扱われたのでは、と見直した。製作もスエーデン、イギリス、デンマークなど汎ヨーロッパといっていいほど多数の国が参加していて、北欧もとより十字軍の中東ロケもスケール壮大、砂漠での合戦もスペクタル性充分の大作だった。パート1、2ともほとんどがエルサレムでの十字軍戦記で「キングダムオブへブン」の出来事とやや重複する。サラセンの名高き名将サラディーンがアーンと友情を交わす大切な役目として登場する。「キングダム‥」でもエルサレム陥落の際、寛容なところを見せてサラセンもキリスト教徒も立派な人物は共通すると感動させてくれたあのサラディーンで、ここでも鋭い気迫で印象的だ。テンプル騎士団は巡礼者の護衛と寺院の警備を仕事にする騎士団で規律は厳しかったらしい。アーン・マグナソンの名は名騎士としてとどめられているとか。それにしても寒~い雪と白樺の北欧からはるばる暑い砂漠まで遠路やってくるとは十字軍もご苦労なことだ。(おまけ)歴史物大好き、十字軍大好き、騎士大好きなら絶対お勧め。どれか一つでも好きならかなりお勧め。全部だめなら縁が無かったとこの映画は見捨てましょう。でも惜しいとおもいますが。騎士物で誰でも楽しめる映画があります、ヒース・レジャー主演の「ロックユー」などいかがでしょう。
2010.12.26
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