tomo_hの映画ログ

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2014.10.04
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カテゴリ: 映画ログ
監督の森崎東さんという人を知らなかった。この映画を見てみずみずしい感覚と物事を受け止める柔らかなふところの大きさからたぶん、まだ若い新進の監督さんだろうと思ったら、全く外れ。なんと御年86歳の立派なご老人だった。2013年の日本映画で各方面から諸手を挙げて歓迎され堂々ベストワンになった映画である。原作者の漫画家岡野雄一さんも64歳、主演の赤木春恵さん88歳とまわりは老人だらけなのに、なんという軽やかさ、明るさなんだろう!雄一さんと母親のミツエさんの人生を描き、人生肯定、生命讃歌の物語だ。

ペコロスという芸名(?)で歌をうたう歌手であり、漫画家でありサラリーマンもやっていた雄一さんは老母と息子の3人暮らしらしい。長崎の坂の或る住宅地に住んでいる。雄一の父、ミツエさんの夫が亡くなって以来、ミツエさんはボケだした。家族の誰と誰が居て、誰が死んでいなくなっているのかわからない。毎日起きるトンチンカンな出来事がユーモラスに描かれる。作者はずっと長崎市に住んでいるし、監督森崎さんも長崎出身なので、長崎という町の中身をよく知った人の目線で描かれていて、それだけでも大いなる特色である。

家を無断で出て歩く母に、雄一は手を焼いてついに老人ホーム(グル-プホーム)に入れる。ずっと家に居る場合は母は息子を認識していたが、ホームにいて息子が会いに来るとなると会ってすぐには彼を息子と認められないらしい。雄一が毛糸の帽子を脱いでハゲ頭を母の目の前に突き出して「雄一だよ!」というと途端に分かり、ニコニコして頭をなぜる。これが繰り返されると、ハゲ頭~喜んでなぜ回す~親子の気持ちが通じる、というコースになってきてユーモラスだ。幸せ感が母の手を通じて伝わってくるような気がした。

認知症がひどくなってゆく母にどうにもできない息子というストーリー展開なのであるが、私はこの映画を見ていて、母のミツエさんの人生の方に感動した。それも実に平凡な人生だ。天草の百姓の家の10人姉弟の一番上に生まれ、妹たちの子守に明け暮れた少女時代であった。サラリーマンの夫(加瀬亮)と結婚し長崎市内へ。だが夫は気が弱く、酒におぼれ、給料も酒に消え決して楽な生活ではなかった。しかし彼女は夫を愛していたらしい。雄一さんはそんな母と父を見て成長したが、酒飲みでもお父さんは大好きだった。この女性の長い暮らしの中で少しの光として輝いた家族や親友への愛の想いがキラリと光っているような気がした。ラスト近くの長崎ランタン祭りの夜のメガネ橋の場面に彼女の人生が凝縮されていて、感動で涙があふれた。このミツエお母さんは2014年8月に91歳で亡くなられたそうだ。

年取って、頭がボケて、あるいは頭がハゲて、そのほか色々あってそれでも暮らしは続いてゆく。人間は皆そうなんだ、とこの映画言っているようだ。長崎の町には今日も明るい朝が来た。

(おまけ)赤木春恵さんは名演だが、私は若いころのミツエさんを演じた原田貴和子さんがとても良いと思った。やや武骨で、不器用そうな女の人だが、素直な感情がほとばしるような純粋な女性だ。

ペコロスの母に会いに行く





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Last updated  2014.10.04 23:14:13
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背番号のないエース0829 @ ニーナ・ホス 「水を抱く女」に、上記の内容について記…
背番号のないエース0829 @ ニーナ・ホス 「水を抱く女」に、上記の内容について記…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
アイスクリーム@ Re:エリザベート愛と哀しみの皇妃(オーストリア、ドイツテレビドラマ)(08/09) 綺麗事ではなくメロドラマ仕立て。 勝ち…
zebra@ ボクからの(おまけ) もう少しコメントします。 tomoさんの記事…

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