tomo_hの映画ログ

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2014.11.04
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カテゴリ: 映画ログ
ハンナ・アーレント(1906~1975)は政治哲学の分野では有名な学者だったらしい。たぶん、その方面で勉強した人なら、誰でも知っているくらい偉い学者なのだろう。ドイツでは切手になっているくらいだから。だが、この映画から初めてハンナ・アーレントに入った者には、そんな偉い学者というよりも、中年のきびきびした先生という感じだ。飛びきりの美人ではないが、男性的な思想が顔に現れて、キリットした聡明な女性に見える。映画上では1960年ごろのことで、アメリカ人となってすでに20年たった彼女はすっかりアメリカの大学の先生になっている。ヘビースモーカーであることがはっきりしているが、総体にこの時代にはだれでも相当煙草を吸っていたので珍しい事ではない。
名著「全体主義の起原」が定番の書となり、学界では一目置かれていた彼女は、映画で描かれる事件で世間を騒然とさせた。それはナチの戦犯アドルフ・アイヒマン裁判傍聴記を雑誌「ニューヨーカー」に連載したことに端を発する。

アイヒマンは戦犯のなかでもユダヤ人最終抹殺指揮者だったということで、イスラエル情報部モサドは必死で行方を追っていたが、アルゼンチンに潜伏中をやっとのことで見つけて逮捕した。映画は夜帰宅途中のアイヒマンを尾行してきたトラックが追いついて逮捕するショッキングな場面から始まる。アイヒマン逮捕、エルサレムで裁判、という記事を読んだハンナはニューヨーカーに記事を書くことを申し出た。ハンナは裁判中アイヒマンなる人物をつぶさに肉眼で観察した。そして書いた。記事は彼女の観て考えたそのものをしょうじきに書いたものだが、世論は驚いた。というのは、アイヒマンイコール悪魔、冷酷無残な殺人鬼うんぬんといった世評が出来ていたのに、ハンナの記事によると「悪魔」などとよばれるような大なるものは無い、「凡庸な悪」だ、ただ自分で思考することを止め組織の命令にのみ従った凡庸な悪人がいるだけ、といった意味の記事であった。「私は命令通りにやっただけ」と執拗に繰り返すアイヒマンから受けた印象だった。もっとアイヒマンの極悪の面を掘り下げるかと期待されていたのが裏切られたのだ。もちろん、期待通りの記事は書けただろう、しかし彼女は書かなかった。

もう一つある世代の人の怒りを買ったのは、ユダヤ人迫害時のユダヤ人指導者の取ったやり方だ。かれらがユダヤ人のために頑張ることは可能だったはず、という意味の記事が批判を産んだ。世間の逆風を受けても、彼女は信じることをつら抜いて大学辞職勧告も蹴り、悠然と対処した。

所で話は変わるが、私はこの映画を見て以前見たもう一つの映画を思い出した。それはウォルナー・ヘルツォーグ監督の「神に選ばれし無敵の男」という映画だ。まだユダヤ人強制収容の始まる前の1932年ころ、二人の人物がいた。一人は予言者で千里眼のハヌッセン、一人はヨーロッパ一の力持ちの若者ジシェ、ハヌッセンはユダヤ人であることを隠し、ナチの高官らの心をつかみ操った。ジシェはポーランド生まれのユダヤ人であることを公けにしてユダヤ人民衆に圧倒的人気があった。もし二人が力を合わせ、せまってくる危機から安全な方向に民衆を導けば、あるいは虐殺を防げたかも。という内容の映画だったが、あいにく二人は非業の死を遂げた。事実に元ずく映画である。
そしてユダヤ人は受容として死に導かれた。ラビらはそれを阻止せず、従うように言い続けた。というのを思い出し、ハンナさんの「ユダヤ人指導者がどうの」の言葉に重なって頭に浮かんだのである。

(おまけ)主人公ハンナにはバルバラ・スコヴァ、親友のメアリー・マッカーシーにはジャネット・マクテア、秘書にはユリア・イエンチが扮した。
ちなみに「神に選ばれし、、」のジシェには本当の力持ちの人フィンランド人のヨウコ・アホラが扮し無垢の清らかな怪力男を好演した(この映画に関係ないが)

ハンナ・アーレント





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Last updated  2014.11.04 20:53:09
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背番号のないエース0829 @ ニーナ・ホス 「水を抱く女」に、上記の内容について記…
背番号のないエース0829 @ ニーナ・ホス 「水を抱く女」に、上記の内容について記…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
アイスクリーム@ Re:エリザベート愛と哀しみの皇妃(オーストリア、ドイツテレビドラマ)(08/09) 綺麗事ではなくメロドラマ仕立て。 勝ち…
zebra@ ボクからの(おまけ) もう少しコメントします。 tomoさんの記事…

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