インスマウスの影

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May 27, 2007
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カテゴリ: 日記・エッセイ

「知らないわよ、自分で探して」
朝の、出勤前の慌しい時間。台所から彼女は少し苛立った声で、答えた。
仕方ない。彼女にもキチンと仕事をしてもらわなければ、このマンションの家賃だって払えないのが現実だ。俺って、安月給だから。
亭主関白を宣言した俺としては、ハンカチくらい彼女に用意してもらいたいが、ここはぐっと我慢する。これ位で、怒るのはやめよう。
なにしろ、最近の彼女は機嫌がいいのだ。
何でも、義理の娘との関係に悩んでいた友人が、彼女のあげたスタンプ(ピエロのような魔法使いのネコ柄)で元気を出したんだとか。
自称:スタンプマニアの彼女としては、うれしい限りなのだろう。
友達を大事にするのには賛成だが、自分の旦那様も大事にしてくれよな・・・なんて考えながら引き出しを探っていると、奥から古いハンカチが出てきた。
手に取って、広げてみる。
『ありがとう』チワワの可愛らしい絵柄と足あと、それに四葉のクローバーのスタンプが押されたハンカチ。
間違いない。あの時のだ。
何年前になるんだろう?当時、俺と彼女は同じ職場に勤めていて、その頃から彼女のスタンプ好きは有名だった。
そんな彼女を「かわいい」と思ったのは俺だ。
当然、交際を申し込むのには時間はかからなかった。
しかし、交際を申し込む俺に対して、彼女は直ぐに返事をくれなかった。
「ごめんなさい。私、男の人から、そんなこと、言われた事、なくて・・・。」
しどろもどろに言葉をつないでいた。
「あの、お返事、今度で、いいですか?」
「いいよ。いくらでも待つから」
彼女からの返事は一週間後だった。
俺のデスクの上に、『ありがとう』がスタンプされたハンカチが置かれていた。
「そ、それが、わたしの・・・正直な気持ちです・・・」
答えの意味を計りかねている、俺に彼女は言った。
「・・・つまり、OKって事?」
彼女はおおきく頷いた。
彼女が自分の気持ちを込めた、そんなハンカチだった。
不意に、あの頃の気持ちが蘇った気がした。
あれから何年も経っている。彼女も俺もその分歳を取り、お互いが空気のように思える事も少なくない。
でも。
あの頃の気持ちはここに生きている。そんな気がした。
「ねえ、何やってんの?先いくよ」
「はいはい、今行くよ」
彼女の声に答えて、俺はハンカチを胸ポケットに入れた。
通勤電車の中で、彼女に見せてみようと思った。
「やだ。まだ持ってたの?」と、恥ずかしがりながら、それでいて嬉しそうに文句を言う彼女の姿が目に浮かんだ。

それだけの、おはなし。


*今回もLa FERICAさんのスタンプを使用しています。*





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Last updated  May 28, 2007 01:17:13 AM
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