インスマウスの影

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Jun 1, 2007
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カテゴリ: 日記・エッセイ

『一人暮らしのお年寄りの皆さんに、お手紙を送らせて頂いてます。少しでも励みになれば幸いです』
そんなプリントと一緒に、模様の描かれた葉書が入っていた。
漫画の模様だったけど、子供が頑張って作ったのがよく伝わってきて、嬉しかった。
ふと、庭に目をやる。
テッセンの花が、咲いていた。
もう終わりだろう。少し元気がない。
主人の好きだった、紫色のてっせん。主人が元気だった頃は、今の時期は庭はテッセンであふれていた。
もう、遠い話だ。
時計を見ると病院に行く時間だったので、私は身支度をして、アパートの前から病院行きのバスに乗った。
私も歳をとった。
主人と別れて、もう何年になるのだろう?
他所に住んでいる子供達は盆と暮にしか来ない。もう成人した孫達は、顔すら見せに来なくなった。
寂しくてうつろな、そんな毎日。
テッセンの花が咲いている間は、手入れが出来て心が休まったけど、そんな時間ももうそろそろ終わりを向かえる。
切ない、そう感じた。
バスが病院前に着いて降りようとした時、出口傍に座っていた女性の手元に目をとられ、バスの階段から落ちてしまった。
「大丈夫ですか、おばさん!」慌てて駆けよってくれたのはあの女性だった。
女性は大丈夫と言う私を支えて病院に入り、診察まで付き合ってくれた。足を軽く捻挫していた。
「大丈夫ですか?おばさん」
お薬を待つあいだも、女性は一緒にいてくれた。
「大丈夫です。すいません、お手数を取らせて・・・」
「いいんですよ。どうせ、暇な学生だし」
女性は笑った。いい笑顔だ、と思った。
「でも、どうしてステップを踏み外したの、おばさん」
「ああ、それはね・・・あなたの手元に気を取られて・・・」
「手元?」
私は女性の持つ、本を指指した。
テッセンの花の描かれたカバーが付けられている。
「そのテッセンの絵に、目がいってね・・・」
「これ、絵じゃないですよ」
女性は困ったように微笑んでいた。
「・・・テッセン、好きなんですか?」
「ええ・・・亡くなった主人が好きだったから」
「じゃあ、これあげます」
女性が本からカバーを外して差し出して来た。驚いた。
「そんなつもりじゃないのよ」
「いいんですよ。これスタンプだから、幾らでも作れるし。あげます」
そう言って女性は私にカバーを持たせた。
テッセン・・・主人が渡してくれたような気がする。
「ありがとう」
女性は「これで、私とおばさん、友達ですよ」と言って笑った。
家に帰ったら、主人のよく読んでいた本にこのカバーをかけ、仏壇にお供えしようと思った。

それだけの、おはなし。

*今回はLa FERICAさんのスタンプを使用しています*





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Last updated  Jun 1, 2007 08:20:39 PM
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