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さすらいの天才不良文学中年
日本映画悪役列伝 松方弘樹
日本映画悪役列伝
この原稿は、関ネットワークス発行の「情報の缶詰」今月号に掲載したものです(写真は、「情報の缶詰」今月号)。
映画が好きである。今回は少し脱線して日本映画を取り上げる。
大きな声では言えないが、おいらの父は地方都市の県庁に勤務していたので官舎住いが長く、同じ官舎住いの税務署勤務の人から映画のタダ券を貰うことがあったらしい。そのため、おいらは小学校低学年のころからよく母に連れられて片岡知恵蔵や石原裕次郎の映画を観にいったことを今でも覚えている(ちなみに母は裕次郎の熱烈なファンである)。
そういうこともあって、映画、特に邦画大好き少年となり、大学時代には昼飯代を惜しんで名画座の3本立て(邦画)を観にいったものである。
また、おいらが実用英語を覚えたのは、30代になって洋画が好きになってからである。邦画が衰え、ハリウッド大作中心のレンタル・ビデオが隆盛になったお陰で、一時期、土曜日は毎週かかさず洋画のビデオを2本借りて観ていた。
英語を読むのは苦労していなかったが、聞くのは慣れていない、有体に言うとヒアリングが苦手であった。それが洋画を3年以上毎週毎週観続けていると、ある日突然英語が聞き取れるようになった。耳から入る英語なので、おいらの喋る英語はスラングが多いらしい、外人からどこで習ったと聞かれるのでハリウッドだと答えると、話題が横に広がるので一石二鳥である。
さて、先日NHKの衛星放送を観ていたら、「アメリカ映画のヒーローと悪役ベスト100」(AFIアメリカ映画協会)というのをやっていたので、楽しく拝見させてもらった(参考までに悪役第1位は羊たちの沈黙のハンニバル・レクター、2位はサイコのノーマン・ベイツ、3位はスター・ウオーズのダース・ベイダー)。
そのときふと考えた。日本映画で最強の悪役は誰だろう、まだこんな企画は誰も立てちゃいないだろう、そこで、今回は、おいらの日本映画悪役列伝を紹介してみたい。
まず、悪役が出来る俳優に大根役者はいない、皆なべて名優である。若くして悪役専門であった俳優も、後年は性格俳優やヒーローになり、あのスーパー・ヒーロー水戸黄門の役は悪役上がりでなければ絶対にヒットしないとまで言われてきた。東野英治郎、西村晃などは若いときには皆筋金入りの悪役である。そういう観点から、現在の里見浩太郎(悪役と無縁)抜擢にあたっては賛否両論の物議を醸したというのは頷ける。
そう考えると、逆もまた真なりで、悪役が出来なければ名優ではないということにもなる。また、元々は喜劇役者に悪役が向いているケースも多い。藤田まこと扮する婿殿の同心、実は裏稼業があるなんてのも、彼ならではの役どころである。正真証明の悪役をやらせてみたいと思う俳優の一人でもあるし、てんぷくトリオ出身の伊藤四郎のセコイ悪役もなかなか良い。
さて、それでは、日本映画の悪役を列挙してみよう。便宜上、勝手に大悪党、中悪党、小悪党とに分類して挙げてみた(役柄の多い役者を分類、五十音順)。
<大悪党(親分、ドンの役柄、通常最後に殺される)>
安部徹、天津敏、安藤昇、市川中車、上田吉二郎(デュワワワ~ふざけんじゃねえ)、遠藤太津朗、緒方拳、小沢栄太郎、勝新太郎、金子信夫、河津清三郎、佐々木孝丸、佐藤慶、佐分利信、滝沢修、月形龍之介、東野英治郎、仲代達矢、伴淳三郎、平幹二郎、藤田まこと、松方弘樹、三国連太郎、水島道太郎、森繁久弥、山村聡、若山富三郎
<中悪党(代貸、中堅どころの役、ストーリー半ばで殺される)>
天知茂、石坂浩二、伊藤雄之助、内田朝雄、内田良平、梅宮辰夫、柄本明、加藤武、神山繁、岸部一徳、小池朝雄、佐藤允、宍戸錠、高松英郎、田宮二郎、丹波哲郎、地井武男、津川雅彦、成田三樹夫、名和宏、西村晃、二谷英明、橋爪功、八名信夫、待田京介、山形勲、山崎務、渡辺文雄
<小悪党(セコイ役柄、比較的早く殺される)>
石橋蓮司、伊藤四郎、今井健二、内田裕也、川谷拓三、北村和夫、郷エイ治、小松方正、田中邦衛、露口茂、戸浦六宏、殿山泰司、中村伸郎、室田日出男、山本燐一
う~む、いずれ劣らぬ名悪役であり、この中から最強の悪役を選定するというのは至難の業である。併し、今回は「日本映画悪役列伝」だ。悪役ベスト10を選んでみよう。
選び方は、悪役の頂点とも言える、忠臣蔵の吉良上野介役を基準にする。
この吉良役は正統派の悪役でなければならない。吉良の悪役に妙に味があったりすると、一味違う忠臣蔵になったりするので、徹頭徹尾悪役でなければならない。
そうしないと、討ち入りまでに憎らしさのボルテージが上がらないからである。例えば、怪優の伊藤雄之助がこの吉良役をやると、伊藤雄之助のキャラクターが映画に勝ってしまい、変則忠臣蔵となって、討入りよりも彼のキャラクター振りを見たくなってしまうのである(つまり、映画としては失敗する)。
そういう基準で選定すると、真の悪役は、
1.東野英治郎
2.三国連太郎
3.佐藤慶
4.西村晃
5.小沢栄太郎
6.緒方拳
7.平幹二郎
8.内田朝雄
9.田中邦衛
10.石橋蓮司
がベスト10だと思う。
しかし、おいらを忘れてもらっちゃ困りますよというのが一人いる。
そう、成田三樹夫である。惜しくも若くして夭折した(享年55才)が、年を取っていれば大悪党になっていた可能性が高い。その片鱗は、あの「柳生一族の陰謀」(深作欣二監督)の烏丸少将文麿役に見ることが出来る。白塗りに烏帽子、衣冠束帯の井手達にホーッホッホッと奇妙な笑い声を発しながら、バッタバッタと人を斬るのである。惜しい悪役を亡くしたものである。
良い映画にはヒーローも必要だが、同時にまた悪役も欠かせないものなのである。
祝アクセス数、112,000突破
一昨日、謎の不良中年のブログアクセス数が112,000を突破しました。栄えある112,000達成者は、「*.so-net.ne.jp」さんでした。ありがとうございます。
112,000突破は偏に皆様のおかげのたまものです。深く感謝し、有難く厚く御礼申し上げます。
お礼に、おいらの秘蔵コレクションから、「『日本の首領 野望編』スチール写真 佐分利信 成田三樹夫」(78年、東映)をお披露目します。
これも神田神保町の「@ワンダー」で入手した写真です。
さて、77年(昭和52年)、東映は「仁義なき戦い」で代表される実録路線がついに終焉し、生き残りを図るために、「ゴッドファーザー」をパクった作品を作ります。
ハリウッドがコルレオーネ一家なら東映は中島組(山口組)、向こうがマーロン・ブランドならこちらは佐分利信、向こうがアル・パチーノならこちらは高橋悦史です。
そしておいらの大好きな成田三樹夫や小池朝雄も勿論出演します。
この作品、興行的に成功すると、2部作「野望編」、3部作「完結編」まで作ります。2部作からは、佐分利信の相手役として三船敏郎まで担ぎ出し、それまでは二本立てが常識であった邦画の世界で、ついに一本立てとするのです。
何でもありの東映の面目躍如です。この頃は、東映じゃなければ映画じゃなかったもんなぁ。
監督は中島貞夫、原作は飯干晃一。面白い訳です。
次回は、113,000ヒットを目指して精進いたしますので、これからもよろしくご指導のほどお願い申し上げます。
2009年7月28日(火)
謎の不良中年 柚木 惇 記
松方弘樹死す(前篇)
松方弘樹が亡くなった(享年74才)。
昭和を表現するスターが、また一人いなくなった。だが、おいらは松方弘樹が大スターであったことは認めていても、旨い俳優だとは評価していなかった。
だって、ひと言で云えば、歌舞伎役者もどきだよん。つまり、甲高い声で、型にはまった声を出していればそれでよしという芸風だったからである。それでは歌舞伎役者であっても、役者ではない。
ところが、そう思っていたおいらが考えを改めることにした。
おいらの秘蔵ビデオから「県警対組織暴力」(東映、1975年。深作欣二監督。菅原文太、松方弘樹出演)を探し出し、昨夜、50インチの大型ビデオで松方氏を追悼したからである。
おいらはこの当時の東映ヤクザ映画はほとんどライブで観ていたのだが、この映画だけは仕事が忙しくて観ていなかったのである。
閲覧。いやぁ、これは名作だわぁ。
県警の菅原文太が問題ないのは云うに及ばないが、準主役のヤクザ役の松方弘樹が絶品なのである。
この役、もともとは渡哲也がやる予定だったらしいが、病気のため降板し、松方に交代となったという(大河ドラマ「勝海舟」の勝海舟役でも病気のため渡から松方に交代している)。
運というのは、あるのだねぇ。
「仁義なき戦い」(第一作)の松方弘樹は確かに素晴らしかったが、松方はこの「県警対組織暴力」で名声を博したのではないか。
おいらのかつての松方弘樹のイメージは、時代劇の「柳生十兵衛」役のイメージであった。
親父の近衛十四郎のイメージが色濃く残っているからである。しかも、本人もその気になっている。だから、イケナイ。しかも、本人は二枚目で、若いときの鶴田浩二に似ている。
しかし、現代劇のヤクザものは違う。近衛十四郎や鶴田浩二にはお手本がない。
それに、この映画も「仁義なき戦い」同様、広島弁だ。こりゃ、松方も思いっきり、地を出すしかない。その地があたった。おいらは広島生まれだから、それが直ぐに分かるのである(この項続く)。
松方弘樹死す(後篇)
地を出す、というのは案外難しい。
これは映画評論家のS氏から聞いた話しだが、今村昌平の演技の評価の基準はドアの開け方だそうである。
たかが、ドアの開け方、されどドアの開け方。
ドアをあけるという演技は、それほど難しいのである。
黒澤明の「七人の侍」でも仲代達矢が浪人の歩くワンシーンだけで撮影に一日を要したなど、自然の演技ほど難しいものはない。
つまり、地を出そうと思えば思うほど演技を「仕込んで」しまうのである。
それにこれが一番問題なのだが、役作りで他人の真似をしてしまうのは御法度である。歌手が他人の歌い方を真似て失笑を買うのと同じである。
だから、松方の初期は、彼が尊敬する中村錦之助の芸風、つまり、大きな声で、型にはまった声を出していればそれでよしという芸風であったが、それを実録ものの「仁義なき戦い」でやっていたら台無しである。
松方はそのハードルを見事に乗り切り、彼のオリジナリティを出したのである。
おいらは、その背後に何があるのかと考えていたのだが、それは反骨精神から来ているのではないか。
実際、彼の役は大親分や組織に反旗を翻す役ばかりであった。
また、1980年代以降、実録やくざ映画が下火になる中、彼だけが「修羅の群れ」、「最後の博徒」、「首領になった男」に出続けたのである。時代にずれていながら、やくざ映画をやるのは俺しかいないという反骨精神が彼にあったからである。
なお、「たけしの元気がでるテレビ」で、ちゃらけたキャラを披露していたが、あれは役作りである。松方はそういう役も演じることもできたのである。
ところで、おいらがこのブログで書いているが、「一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい」という中国の古諺を開高健が紹介していたが、松方は釣りを一生の友とした。
やりたいことをやりたいだけ、やり続けた男の一生であった。悔いがあるはずがない(この項終り)。
本日から三日間は連休につきお休み
本日から三日間は連休(20日はお彼岸)につき、お休みです。
写真上は、「仁義なき戦い」での渡瀬恒彦。
昭和を代表する役者がまた一人、召されました(享年72)。深作欣二や中島貞夫、佐藤純弥監督の作品を面白いものにした役者でした。
おいらは好きじゃったのぅ。惜しい。
それでは、皆様よろしゅうに。
平成29年3月18日(土)
謎の不良翁 柚木惇 記す
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