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さて、次に前段の電源部について説明しよう。初段が±150V程度、2段目は330V程度、カソードフォロワー段は±150V程度が必要である。これをまとめて電源トランスの一つの巻き線から取り出したい。もちろん、内部抵抗もリップル電圧も低くしたいのである。複数の電圧を効率よく取り出すには、多倍圧整流回路を用いるとよい。多倍圧整流回路というと、コッククロフト・ウォルトン回路が有名であるが、偶数倍の電圧しか出ないし、片波整流である。そこで、両波整流で±n倍圧の電圧を全て取り出せる回路を考えてみた。 まず、(A)は片波整流で±E、±2E、±3E、…の電圧を取り出す回路、(B)はそれを両波整流に拡張したものである。片波(A)で±Eを取り出す回路は普通両波倍電圧整流と呼ばれているが、+Eと-Eを別々に取り出せば片波整流なのである。両波(B)で±Eを取り出す回路はブリッジ整流に他ならない。この中から、自分の欲しい倍数の回路だけを抜き出せばよいので、利用価値の高い回路であると思う。
2012.08.12
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さて、アンプを設計する際は自由度が大きいため、何らかの方針を定める必要がある。こうすれば良いアンプができるはずだという発想、思い込みから出発するのが普通だ。客観的に証明されたものである必要はないので、これを「仮説」として示していこうと思う。今回は300Bはなぜ音が良いかを考えてみよう。300Bは音が良い真空管だと言われている。Western Electric という、当時世界最高の技術者を集めた会社が作った映画館のシステムに使われたことも影響していると思われる。WEオリジナルのの300Bシングルアンプ、WE91の回路をコピーして作る人も多い。しかし、何しろこのアンプは1930年代の設計である。前段は5極管で構成されているため、Gainも高すぎるように思われる。実際、今販売されている300Bアンプはこれとは異なる現代的な設計のものが多いのだ。ではなぜ、他の出力管に比べて、300Bは音が良いと言われているのか。【仮説1】300Bアンプではドライバ段と出力段の歪打ち消しが自然に起きるため、トータルの歪が少なくなるのが音の良い理由である。 解説しよう。300Bは大電流を流せる出力管なので、歪は決して小さくない。シングルの動作例でも5%くらいの歪があってその成分は主に2次歪である。一方、300Bはバイアス電圧が-80Vなどととても大きいため、前段は大きなドライブ電圧を要求されることになる。従って、前段の歪が大きくならざるを得ないのだ。ここで、前段の歪と出力段の歪は位相が逆なので、歪打ち消しが自然に起こることになる。このため、トータルの歪が少なくなるわけである。この目的から考えると、ドライブ段はあまり強力なものにしないで、適度に歪ませるのがよいと考えられる。実際、武末一馬氏のようなベテラン設計者は、ドライブ段に12BH7Aを好んで使用していた。12BH7Aは特に歪の多い球だから、歪打ち消しに都合が良いためである。ただ、私は12BH7Aを使おうとは思わない。歪打ち消しが起こると言うことは、300Bの歪とドライブ管の歪の差分を聴いているわけなので、ドライブ段にも歪の少ない球を起用したいところだ。と言うわけで、ドラ-バーには5687を用いる予定である。ところで、仮説1は確たる根拠があるわけではない。トータルの歪が少なくなることは本当だが、それで音が良いかどうかは分からない。あくまでも仮説というゆえんである。
2021.08.18
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設計通りにスピーカーを配置したつもりになっていたのだが、重大な考え違いをしていたことに気が付いた。壁とスピーカーとの距離は遮音壁から測る必要があるため、内側の壁から測った距離より11cm大きくなるのだ。そして、前回の設計通りにスピーカーを配置しようとしても、箱が大きいため、壁にぶつかってしまうことが分かった。そこで、もう一度スピーカーと聴取者の位置を設計し直した。空気層の厚さ11cmを考慮してスピーカーを配置した。遮音壁から51cmと言うことは内側の壁から40cmとなり、何とか置くことができる。前回のグラフと比べると、150Hz付近のディップが少し深くなっているようだ。Lchの補正前の特性は以下のようになった。Rchの補正前の特性は以下のようになった。50Hzのあたりにピークがあり、100Hzを超えたあたりにディップがあるが、シミュレーションと特徴が一致している。今回は超低域についても、無理に特性を持ち上げずに、補正をもともとのスピーカーの再生帯域に限ることにした。30Hzまでフラット、20Hzで-6dBと言うところである。超高域も減衰しているが、スーパートゥイーターの置き方を指定の位置から変えると悪化するところから、ユニットの特性かと思われる。Lchの補正後の最終特性はこちら。Rchの補正後の最終特性はこちら。音を出してみると、重低音が自然な響き方になり、音楽の微妙なニュアンスが良く聞き取れるようになった。
2021.06.21
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300Bはご存じの通り直熱管である。フィラメントの点火方法については、交流点火でなければダメという人も多い。B電源の整流も整流管でなければダメだとか。この2つはかなり関連しているのではないかと思う。交流点火の場合、そのままAC電源から供給すると、電源トランスを介して、B電源で発生した雑音の影響を受けやすいのだ。しかし、単なる交流点火では雑音レベルを十分に下げることはできない。0.5mVくらいでは不満である。と言って、100kHz以上の高周波点火や7Hzの超低周波点火を採用している例があるが、大ごとになるのでやりたくない。 直流点火がダメな理由として挙げられるのが、フィラメントを直流点火すると、そのプラス側とマイナス側ではバイアス電圧が異なるため、フィラメントの片側ばかり電流が流れてしまい、特性が大きく変わってしまう、と言うものである。例えば送信管の211を考えると、バイアス電圧が-50Vくらいなのに対してフィラメント電圧が10Vもある。このような球では点火方法によって特性が変わってしまうのではないか。しかし、300Bはバイアスが-85Vくらいと深いのに、フィラメント電圧は5Vと小さいので、影響は少ないのではないだろうか。【仮説2】 300Bはバイアス電圧に比べてフィラメント電圧が小さいため、直流点火でも特性の変化は小さいので問題ない。 この仮説を検証してみよう。211のEb-Ib特性は下図のようになる(TINA7で描画)。グリッド電圧は10Vステップである。プレート電圧1000Vのとき、バイアス-50Vでプレート電流は95mAほどであるが、バイアス電圧-45Vから-55Vに変化させたときのプレート電流の変化は35mAとなり、変動率は37%である。 これに対して300BのEb-Ib特性(TINA7で描画)は下図の通りである。グリッド電圧はやはり10Vステップである。だいぶ曲線の傾きが異なるように見える。300Bの場合、プレート電圧375Vのとき、バイアス-80Vでプレート電流は66mAほどであるが、-77.5Vと-82.5Vでのプレート電流の変化は25mAくらいあるので、なんと変動率は38%とほぼ同じになってしまった。電流変化は思いのほか大きいですな。 ということで、仮説2は間違いだった。そこで、以下のように修正しよう。【仮説2’】 300Bや211は直流点火でも特性の変化は小さいので問題ない。と言うことにして、先に進むことにする。
2021.09.04
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今年も、秋のイベントシーズンがやって来た。東京インターナショナルオーディオショウは、いつも通り、東京国際フォーラムでの開催であった。一番驚いたのは、300Bを4本使用したプリアンプ! Thraxと言うメーカーから990万円で。もちろんパワーアンプも300Bを6本使用したもの。出力は50Wで、1,540万円(ペア)。ビビッドオーディオのスピーカーで鳴っていたので、音の特徴はよくわからなかった。真空管アンプの話題としては、ウェスタンエレクトリックから91Eアンプが出るらしい。価格などは不明。エソテリックでは、ネットワークオーディオの新製品をタンノイで鳴らしていた。真ん中がネットワークプリ93.5万円、下がパワーアンプ99万円。小編成の音楽は美しく鳴る。フランコセブリンから美しいフロアスピーカー。綺麗な音だが、214.5万円。この他、ヤマハのフロアスピーカーも出ていたが、全体に音が小粒ですな。大物と言えば、去年も出ていたソナスファベールのアイーダ2。価格は1,595万円。昨年と同じく、ブルーメスターのアンプで鳴らしていた。さすがに本格的な音ではある。ファインオーディオのビンテージシリーズは面白そうだった。お値段は590万円。変なソースばかりかけていて、音の善し悪しはよくわからなかった。一番音が楽しめたのはこれ。フェーズメーションのブースにソナスファベールのイル・クレモナーゼがあった。価格は638万円のもの。これをオール真空管+パッシブプリで鳴らしていた。6dBの利得が得られる、トランス使用のパッシブプリ。価格は198万円。トランスで利得を得るのはいいアイディアだと思う。パワーアンプは去年も出していた参考出品の211パラシングル。ソナスファベールから臨場感のある美しい音を引き出していた。アンプ開発担当者の話も面白かった。ソースはアナログレコードのみだし、部屋が小さくて低音の量感はイマイチだったけれど。オーディオ製品の価格がどんどん上がっていますね。スウェーデン製のスピーカー(マーテン社オーケストラ)のお値段は3,190万円と書いてあってビックリ! 普通の音でした。
2022.10.29
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