2006年09月22日
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今日こそは、歯医者さんに行こうと、家を出た。
以前お世話になった歯科医。
ただ、事前に予約を入れたとき、
顔見知りの受付の女性に、
「Kさん、前の先生じゃないけど良い?」
と聞かれた。
「え?あの先生じゃないの?」と聞くと、
「うん、若い先生に代わったの」。

そこは、ある歯科大学病院からの派遣の先生が来ていて、
以前までお世話になっていた先生は、名古屋のはずれの方に変わったそうなのだ。
この先生、評判が良くて、歯科医に関し、どんな医師にも疑心暗鬼の私が、
「腕は確かよ」と言われ、恐々一度だけ治療を受けたが、確かに年輩の上手い先生だった。
その上、歯並びの悪い私の希望で、矯正歯科を探してくれ、自分はあまりこの町の医師は知らないからと、
自分の大学ではない、違う大学出の矯正歯科の先生に紹介状を書いてくださるような、先生だった。

医師の世界は、大学の派閥が厳しい。
それなのに・・・・だ。
で、紹介状を持って、矯正歯科に掛かったら、私の歯は非常に難しい状態になっており、
大元のN大学病院に行ってくれと言われた。
もう、このまま諦めようと思ったが、
「Kさん、諦めないでください。いつまでも、女性ですから、綺麗な歯並びで居て欲しいなあ」と
暖かい言葉を頂戴し、そこでN大学病院の矯正歯科への紹介状を頂いた。
しかし、鬱が酷くなり、とても名古屋に通えないまま1年が過ぎた。
名古屋から、まだまだ地下鉄で30分ほど行かないといけない場所にあったのも、災いした。
で、結局、治療途中で行かなくなり、半年経ち、とうとう、物が噛めない状態になってしまい、
歯科医に電話したのだった。

説明すると、長くなってしまうが、
実は、私は若い時から、1人の歯科医師にしか、お世話になっていないのだ。
松坂屋時代、デパートの入ったビルの上に、N大学直轄の歯科医があった。
勤務の時間を縫って、3年そこに通って歯をすべて直した。
この歯科医、夜に歯痛で電話をすると、そのN大学の歯科学部の当直歯科医に通じる。
だから、とても安心な上、非常に上手くて、医師も6人常駐しており、
どの医師も、本当に上手かった。
私の歯は、生まれつき問題のある歯で、私の担当は、大体、いつも院長先生のT先生だった。
結婚して名古屋を離れ、この市に引っ越してからも、近所の歯科医でいやな思いをする度、
結局、名古屋まで行き、その歯科医に通っていた。
ここで入れたブリッジは、20年も、もった。
本当に実に上手い歯科医なのだ。

だから、ずっと、そのT先生以外の歯科医には、正直、怖くていけなかったのだが、
先の知り合いの受付の女性に薦められ、以前お世話になった先生に診ていただこうとしたのだ。
「若い先生に代わったけれど、良いかな」
仕方が無い。「お願いします」
で、出かけた。

酷い目にあった。
説明をしてくれるのだが、こちらの気持は全く汲もうとしない。
「もう、お歳もお歳ですから、入れ歯にするのが良いのじゃないですか」
お歳もお歳って、まだ、51歳なんですけど!!、
割れている訳でも、根が、傷んでいる訳でもない歯を抜こうとする。
あまり腹が立ったので、
「少し考えさせてください。」と言った。
「・・・じゃ、今日はセメント詰めて置きますから」と仰った。
驚いたのはその治療。
何もしないどころじゃない、消毒も無し、いきなり、白い粉を口に入れた。
じゃりじゃりした感じがメチャクチャ気持が悪い。
「つばで固まりますから」と言ったまま、治療室を追い出された。
口の中は、セメントでじゃりじゃり。
冗談じゃない。これが、ちゃんと免許のある歯科医のすることか!
初診料だけ支払い、すまなさそうにしている受付の女性に挨拶して医院を出た。

横に併設している病院のトイレに駆け込み、口をすすいだ。
白い粉が出てきた。
もう二度と、来る物か。
車に乗り、うちに向かった。
腹が立って仕方が無かった。
しかし、このままじゃどうにもならない。
以前歯垢を取りに行った、近所の歯科医に行ったら、なんと休み。
もう一軒、近所にあったので、そこにも行ったが、予約じゃないと見てくれないそう。
暗澹たる思いで、帰宅。
家にまだいたオネエにぶちまけると、
「随分ひどい事するね~、お母さん大丈夫?訴えてやれば!」
訴えはしないけれど、そんな気持だった。
消毒もしないで入れられたセメントが、歯茎に沁みて、痛くなってきた。
洗面所に行き、歯ブラシで思い切り磨いたが、痛みは取れない。
もう、駄目。
T先生に助けてもらおう。

もう、3年、行ってない。
診察券を探した。
先生は、ここ20年、デパートの有る駅ビルから、駅前の小さなビルに移り、お一人で開業されていた。
そこに電話をすると、
「痛いの?そりゃ、いけないね、う~ん、予約の人が居るから、待ってもらうけど良いかい?」
もう、先生の優しい声を聞いたら、ほっとしてしまい、
「はい、何時まででも待ちます」と言うと、
「じゃ、今からいらしゃい」。

すぐに、車に飛び乗り、駅前のショッピングセンターの駐車場に入れ、
近鉄に乗り、名古屋まで特急で出た。
3年ぶりだったので、どのビルだったのか忘れてしまい、
暫く探したが、昔の職場の前のビルだと思い出し、エレベーターのボタンを押した。
「駅前歯科」
先生の小さな歯科のドアにたどり着いた時、どっと疲れが出た。
最初から、ここに来るべきだった。

中に入ると、懐かしい待合室。
私が遠くから来ていると知っている先生が、受付から顔を出し、
「お、来たね、ちょっと待っててな」。
お昼前から歯科医に行って、午後5時。
やっと、T先生の診察台の上に乗った。
経緯を話すと先生は「そうか、酷い医者だなあ、どこの歯科医だ?」
と仰った。
それから、矯正歯科の話もしたら、やはり、私の歯は、矯正が出来ないそう。
「N大学病院に行っても、この歯を治せる医者は、いないよ」
N大学出の先生はそう仰った。
「可哀相だけどなあ、Kさんの歯は生まれつき小さくて、矯正するには、隙間が足りないんだよ。」
「そうなんですか」
「うーん、高いお金かけても、痛い思いをしても、多分、直ぐに元にもどっちまうよ」
「解りました、先生がそう仰るなら、もう、諦めます」
実は、矯正を薦めてくれた、大学病院に行かないと直らないと言った矯正歯科医も、実は偶然、先生の後輩だった。

「入れ歯なんか、まだまだ先で良いよ。治療して駄目になったら、また治療して、ちまちまやって行けば良いんだよな」
その言葉を聞いて、私は不覚にも、涙が出てしまった。
「大丈夫、僕がその度、直してあげるから」
「はい、先生が、もう入れ歯じゃなきゃ駄目って仰ったら、私ももう、諦めます」
「そう、そう」
先生は、力強く頷いて、優しい目で笑った。

20歳の時から30年、この先生にお世話になった。
私の歯は、非常に硬く、なかなか抜けなくて、親不知が生えて来て痛くて眠れ無くなった翌日、
仕事の合間を縫って先生のところに行き、抜こうとしたが、なかなか抜けず、
困った先生が、他の医師を呼び、3人が係りで引っこ抜いてもらった。
しかし、そんな風な状態だったから、出血が酷くて、先生から職場の上司に電話が行き、
「少しこちらで休ませてから、帰しますから」と連絡してくださり、
何回も、心配そうに診に来て下さった。
そうやって、結婚してからも私の歯は、すべて先生の手で治療された。
この30年ずっと。

治療が終わり、次回の予約をお願いしようと待合室に出たら、
奥さんがいらしていた。
いつも受付にいらっしゃるのに、今日は、若い女の子だったので、どうなさったのかなあと思っていたので、
奥さんのお顔を見て、安心してしまった。
子ども達もお世話になっていて、御存知なので、暫くお喋りした。
この奥様にも、20年以上お世話になっている。
「先生、どうか、何時までもお元気でいらしてください、私の歯は、先生じゃないと駄目ですから」
と本当に、心から言うと、
「そう言ってくださるのは、Kさんだけよ。遠い所からいつもありがとう。ここに来るまでに、幾つも歯科医はあるのにね~」
と優しい笑顔で仰った。

表に出ると、もう、薄暗かった。
なんて、一日だったんだろう。
名古屋駅の地下街で、買い物をして、ラッシュアワーの電車に乗った。
体は疲れたが、気持はすっきりしていた。
やっぱり、私の歯は、T先生じゃないと駄目なんだなあ。
改めて、つくづく思った。
本当に、T先生、いつまでも、お元気でいらしてくださいね。
先生の手は、私にとって、神の手なのですから。
















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最終更新日  2006年09月25日 10時21分30秒
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