1
![]()
『後悔と真実の色』貫井徳郎 、第23回山本周五郎賞受賞、幻冬舎文庫 機動捜査隊の綿引刑事(40)は苦労して刑事になって、家族のため給料アップにつながる出世を目標に地道に努力していた。靴の底をすり減らして捜査を進める、いわゆる昔ながらの刑事だ。 警視庁捜査1課の刑事である西條(37)は以前、綿引の下で働いていたが、あまり苦労もせずに犯人を逮捕し、警視庁捜査一課の刑事になった。しかも西條はルックスも服装のセンスもいい。 あまりにもタイプの違う2人。いつのことからか、綿引は西條を敵視するようになった。 そんな時、都内で連続女性殺人事件が起きた。捜査本部のメンバーに西條も綿引も加わることになった。 その事件の特徴は、被害者はすべて若い女性。特異なのは、犯人が被害者の右手の人差し指を切断して持って帰るということだ。殺人者は自らを「指蒐集家」と名乗った。 指蒐集家は、3回目から殺人をインターネットの某巨大掲示板に予告するようになった。警察は指蒐集家が予告した日時に外に出歩かないよう、テレビで呼びかけた。警察も臨戦態勢で警備に当たった。 しかし、3回目の殺人も実行されてしまった。犯人の予告に翻弄されたのだった。 そのころ、西條はあることで処分を受け、自宅謹慎中だった。にもかかわらず、自宅を離れ、若い愛人のマンションに入り浸っていることが週刊誌にスクープされ、責任をとって辞表を出した。 しかし、警官をやめても西條は犯人の逮捕へ推理をめぐらせてゆく...。 結末がどうなるのかは、推理小説をよく読んでいる人だったら、予測できるのではないかと私は思う。私は自分の予想が当たった。 本書のテーマの一つは見た目も、捜査の方法も、センスも違う二人の刑事の生き方を比較しながら捜査がすすめられてゆくところにある。 また、インターネットを通じて殺人の予告をし、インターネットで共犯者を募集し、インターネットで殺人を実況中継するという、インターネットを通じた犯罪も読みどころのひとつになっている。 さすが、山本周五郎賞を受賞するだけのことがあるのではないか。 ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2010.06.24
閲覧総数 494
2
![]()
『刑事のまなざし』薬丸岳 、講談社文庫、単行本初版2011年6月30日<あらすじ> 10年前、夏目信人の娘・絵美が何者かに襲われ、植物状態になった。彼は法務技官を辞め、警察官に転職。今は東池袋署の刑事をしている。『刑事のまなざし』は、夏目が刑事として事件を解決する短編7篇が収められている。 『オムライス』。看護師の恵子のアパートが火事になり、内縁の夫・英明が死んだ。当時、放火が相次いでおり、警察はその線で捜査を始めた。 しかし、夏目は連続放火事件と違うと見て、恵子を調べた。 そんなある日、恵子の息子・裕馬が自首してきた。 『黒い履歴』。児童虐待が一つのテーマになっている。 小出伸一は、9年前まで殺人罪で少年院にいた。姉・奈緒子とその娘・春奈の住むアパートに居候している。小出は、前科があるので就職活動がうまくいっていなかった。 ある日、アパートの大屋・横瀬透が殺害された。 『ハートレス』。ホームレスのテントでショウと呼ばれる男が殺害された。松下雅之は数ヶ月前からここに住んでいた。ひとり息子がひき逃げに遭い、それが原因で荒れて妻に逃げられ、会社を辞めた。 事件後、ホームレス仲間はよそに移って行ったが、松下はナカという仲間の体調が悪かったので面倒を見るために残った。 『傷痕』。仲村有香は不登校でリストカットを繰り返していた。カウンセリングをおこなっているのが、大学院で夏目と同期だった田辺久美子だ。 ある日、沢村浩司の変死体が自宅マンションで発見された。彼の携帯の記録に有香の名前があった。 『プライド』。マンションの一室で女性の絞殺死体が発見された。そばに使用済みのコンドームが落ちていた。 夏目は警視庁の刑事・長峰と組んで聞き込みに回った。長峰は、10年前、夏目の娘を襲った事件の捜査をしていた。 『休日』。吉沢篤郎は製菓会社の営業課長で家に帰るのが遅い。妻を10年前に亡くし、中2の息子・隆太と2人暮らしだ。隆太は手のかからないいい子だった。 その隆太が、犯罪にかかわっていることが分かった。 『刑事のまなざし』。塚本聖治は、10年前に夏目の娘・絵美を襲った。たまたまそれを同級生の太田徹が見ていた。今になって、太田はそれをネタに聖治を脅した。 進退きわまった聖治は、太田を殺すことにした。しかし、太田の部屋に侵入したら、すでに彼は何者かによって殺されていた。<良さんのコメント> 本書『刑事のまなざし』の最大の読みどころは最後のどんでん返しにある。普通、推理小説というのは、読んでいてこの人物が犯人ではないかと思う者が犯人ではなくで、まったく予想外の人物が犯人であることが一つの定石になっている。 しかし、本書もそうだが、結末が想像もつかない結果となる。犯人が自白して、事件が解決したかと思うと、夏目が「本当のことを話してください」と問いかけ、真相が明らかになる。 また、人間模様が展開され、推理小説としてはかなり完成度の高いものになっている。 (2013年12月23日)ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2013.12.23
閲覧総数 3170
3
![]()
『告訴せず』松本清張 、旺文社文庫、単行本初版1974年2月、光文社<あらすじ> 木谷省吾は、3000万円を持ち逃げした。義弟が大井芳太という代議士で、選挙対策に使うカネを派閥の親分にもらうため、木谷を使いに出したのだ。 木谷の強みは大井が決して警察に被害届を出せないことだ。つまり告訴できない。 木谷は群馬県の水上温泉に潜伏した。そこで女中のお篠と男女の中になった。彼女から上野比礼神社の占いがよく当たることを聞き、3000万円を元手に小豆相場に手を出した。 小豆相場で儲けたものの、常に大井の影に脅えていた。<良さんのコメント> 本書『告訴せず』は、社会派・清張と推理小説の面白さを兼ね備えた作品になっている。 ひとつは、上野比礼神社の太占(ふとまに)がよく当たることを知った木谷が、小豆相場に手を出す設定である。しかも、これで大もうけをする。太占が出てくるあたりは清張らしい。 二つ目に、政治の裏側が描かれている。警察に被害届を出すことができないカネの存在だ。盗んだ方も気楽でいられる。逮捕されないからだ。ただ、因果は巡るで、最後に木谷が同じ目にある。 また、木谷がなぜ3000万円を持ち逃げしようと考えたのか、その理由が問題だ。これは、世の中の人の多くが当てはまるのではなかろうか。そうであってはならないのだが。 三つ目に、儲けた金でモーテルの経営をするところが時代の反映である。 清張を代表作の一つといえる作品ではなかろうか。ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2013.12.18
閲覧総数 583
4
![]()
『君たちに明日はない』垣根涼介 、第18回山本周五郎賞、新潮社 昔、アメリカ映画で「俺たちに明日はない」という作品がヒットしたことがある。それの「君たち」バージョンだ。 本書には「日本ヒューマンリアクト」という会社が登場する。本来、会社がリストラの対象にした社員は人事部が呼び出し、退職を迫るのが一般的なやり方だ。 しかし、日本ヒューマンリアクトは、会社が退職させたい社員を人事部の代わりに面接をして、退職するよう説得する、つまりリストラの請け負い業者だ。他人を不幸にして稼ぐという反社会的な業務を行っている。 主人公・村上真介(33)は、東京の中堅どこの広告代理店で適当に働いていた。日本中を吹き荒れる不況の波はその会社にも当然、押し寄せた。真介がリストラの対象になったのだ。その面接をしたのが、日本ヒューマンリアクトの社長・高橋だった。そして、真介は失業した。 ところが、しばらくして自分を失業者にした日本ヒューマンリアクトから、会社案内が届いた。社長の高橋から目をつけられていたのだ。面接を受けて、採用になった。 本書で真介が面接をする企業は5社だ。毎日、5人ずつ面接をする。 いちばん興味をひかれたのが、かつての高校の同級生の面接をした時だ。高校のときには学年で常に1番、一橋大学に入り、日本を代表する都市銀行に入行した池田という行員だ。 池田の父親は数人の人を使う建具職人だった。腕は良かったが、経営や人を使うのはからきしだった。池田は子どものころから、企業の経営に興味を持った。だから一橋大学では経済学部経営学科で学んだ。 銀行に入り、下積みを経験した後、企業精査部というかねてから希望していた部署に異動になった。企業にお金を貸すときに、銀行はその経営実態を当然、調査する。そして、その企業を立て直す方針を立てるのだ。 池田の担当になった企業は、順調に再建されていった。 ところが、ある都市銀行と合併し「ひかり銀行」というメガバンクになった。それがきっかけとなって、為替電信部北米課に異動になった。やりがいもなく、上司とも合わない。このままでは自分がだめになってしまう、と考えていたときに、リストラの対象にされた。 そして、同級生で池田から見れば高校時代、歯牙にも欠けていなかった村上が、面接をはじめた...。 面接のときにはいつも川田美代子(23)がアシスタントで、ついている。仕事は、真介にファイルを渡すだけ。でも、この美代子が存在感を出している。彼女がいることによってこの作品の完成度が上がっているように思う。 このリストラばやりの中、よくリストラ請負業者をいう職業を考え出したものだ。実際にこういう企業があったら、日本も終わりだ。 ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2009.12.09
閲覧総数 71
5
![]()
『ワイルド・ソウル(上巻)』垣根涼介 、第57回日本推理作家協会賞・2004年「このミステリーがすごい!」第10位・第25回吉川英治文学新人賞・第6回大藪春彦賞、幻冬舎。 長編小説であるこの作品は、大きくいって二つの柱で構成されている。 ひとつは、ブラジル移民の実態をリアルに描いている。日本は戦後しばらくたって、南米、特にブラジルへの移民政策を積極的にとった。 この移民政策を私は知っていた。日本政府が振りまく美辞麗句をただ信用し、一攫千金を夢見て日本を捨て、未知の国に移住するのである。相当の勇気と決意が必要だったことは想像に難くない。移住した人の一部は成功し、多くは日本に居た方が良かったような生活になったのだろう、と私は想像していた。しかし、これほどひどいとは思わなかった。 ブラジルに到着した主人公・江藤は家族といっしょに、アマゾン川を何日もかけて、上流へ上流へと上っていった。そして、着いたのはがっかりするような荒れ果てた土地。赤道直下に近い場所での熱さ、すべてが押し流されてしまうような雨季。家族はみんな死んだ。他の家族もそうだ。 しかも、日本の外務省や移民の世話をする外郭団体は、移民の上前をはねるという非道の行為を行っていた。 江藤はそこを捨て、街に出た。 そしてストーリーの2つ目の柱が、日本の外務省への復讐編。いろいろあって、江藤といっしょに住んでいた石黒と、江藤が砂金掘りをしていたときに知り合った山本、そしてすでに日本に住んでいるコロンビア人の松尾で復讐計画を立てた。 さあ、いったいこれから物語はどう展開されていくのか...。 本書はミステリーとしての面白さとともに、日本政府が国民に知られては困る歴史を暴き出していて、非常に勉強になります。 ぜひ、読んでみてください。ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2009.11.15
閲覧総数 15
6
![]()
『ガリレオの苦悩』東野圭吾 、文春文庫、単行本初版2008年10月25日 本書、東野圭吾氏の『ガリレオの苦悩』は、5つの短編から成っている。すべて帝都大学准教授・湯川学が登場し、事件を解決する。前作の『探偵ガリレオ』と同じ構成になっている。また、本書は内海薫という警視庁の新刑事が登場する。 第一章『落下る(おちる)』。江島千夏が、自分の部屋があるマンションの八階から落ちた。部屋の状況から、落ちる前に頭をそばにあった丈夫な鍋で殴られていたことが分かった。 警察は、他殺と見て捜査を始め、江島の大学の先輩の岡崎光也が怪しいとにらんだ。しかし、彼は落ちてくる江島を地上から見たという。ではいったい、どのようにして犯人は江島を落としたのか。 第二章『操縦る(あやつる)』。元帝都大学助教授の友永幸正は、教え子たち数人を呼んでホームパーティーをしていた。しばらくして離れで、爆発音が聞こえ、ガラスが割れる音がした。母屋にいた彼らが離れの方を見ると、煙が上がって火事になった。 焼け跡から幸正の息子・邦宏の遺体が発見された。日本刀のようなもので、背中から胸にかけて刺された痕があった。 警察は、父親の幸正と娘の新藤奈美恵を容疑者として特定したが、幸正は車椅子でないと移動できない。奈美恵は幸正の教え子たちと一緒にいた。 第三章『密室る(とじる)』。藤村伸一が、経営するペンションに原口という男が、宿泊した。翌朝、近くの崖の下で死体となって発見された。 昨夜、夕食時になってもラウンジに来ないので、藤村が部屋に様子を見に行くとドアにも窓にも鍵がかかっていて、反応がない。仕方なくラウンジに藤村が帰って、しばらくすると泊り客が、原口の部屋の窓ガラスが開いていると教えてくれた。藤村が行ってみると、もぬけの殻だった。 第四章『指標す(しめす)』。野平加世子という老女が、首を絞められ殺害された。彼女の部屋から通帳、宝石、貴金属、そして仏壇の中に入れていた3000万円相当の金が盗まれた。仏壇の引き出しに隠し箱が作ってあって、そこに入れていたのだ。当然、犯人はそれを知っていた者に、限定される。 飼犬のクロもいなくなっていることが、事件解決の鍵になってくる。 第五章『撹乱す(みだす)』。湯川学に恨みを持つ学者が現れた。事故に見せかけて人を殺害し、その方法解明を湯川と警視庁に迫る。つまり、湯川への挑戦者だ。警視庁は、犯人からの声明があって、はじめて事故ではなく殺人だったことを知る。 湯川の意地をかけた勝負が始まる。 この間、私は『探偵ガリレオ』と『ガリレオの苦悩』を続けて読んだ。湯川学という物理学者を登場させ、科学の力を駆使して事件を解決するという方法は、これまでの推理小説と違う新鮮味を感じる。 しかし、読者に専門的な物理の知識がないと、楽しめないという弱点があるのではないか。その点、『容疑者Xの献身』や『白夜行』などは、専門知識がなくても楽しめる。 ただ、ガリレオ作品を読むことで、科学の知識を学ぶことができるというメリットはある。ホームページのアドレスが次のように変わりました。http://bestbook.life.coocan.jp にほんブログ村
2011.10.19
閲覧総数 112
7
![]()
『世界の中心で、愛をさけぶ』片山恭一 、小学館 みなさん、覚えているでしょうか。「セカチュウ」という言葉が数年前に流行りました。「世界の中心で愛をさけぶ」を略した言い方です。 2003年夏、ラジオの深夜放送を聞いていたら本書がいいという投書が何枚か紹介され、買って読んだのが最初でした。 高校1年生の時、いっしょに学級委員をやったことがきっかで交際するようになった2人。ところが3年生のときに彼女が白血病で死亡。それまでの物語です。恋愛小説ですが、生き方を問う人生論の書でもあります。 2004年夏に映画化され見てみました。だいたい原作どおりですが、交換日記がノートでなくカセットテープに、おじいちゃんが写真館のしげじいに、原作では登場しない律子という少女もでてきます。また2人の出会いの仕方も違いますが、感動的なことには変わりません。 蛇足ですが、映画がヒットしこともあって、律子を描いた「指先の花」(益子昌一著)という本も出ています。ホーム・ぺージ『推理小説を作家ごとに読む』も御覧ください。http://bestbook.life.coocan.jp
2009.05.30
閲覧総数 2