〈この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたし
のところに来なさい。以上〉
入学したばかりの高校で、自己紹介する美少女、涼宮(すずみや)
ハルヒは、こんな一言を発し、にこりともせず着席した。
作家、谷川流(ながる)さんの若者向け小説『涼宮ハルヒの憂鬱
(ゆううつ)』。とっぴな言動で周囲を振り回し、この世の不思議を
探ろうと「SOS団」と名付けた部活を設立するハルヒ。思っても
みない非日常的な事件がどんどん展開していく学園SFだ。
シリーズ化され、アニメにもなった。
制服はセーラー服で、メイドの格好をさせられるかわいらしい生徒も
登場するいわゆる"萌(も)え系"。アニメの中で、ハルヒたちSOS団
行き付けの喫茶店として描かれた舞台が、実は、阪急西宮北口駅
前の「にしきた商店街」の中にあった。
自家焙煎(ばいせん)が売りの「珈琲屋ドリーム」(西宮市甲風園)。
謎のような現象や面白いものを探しに街を探索しようとハルヒが
提案し、その打ち合わせの場として登場する。
◇
「深夜のアニメ番組に、商店街とドリームさんが出ていたよ!」。
平成18年春。原作ファンの息子がテレビで見たという商店街
役員が、大慌てで知らせてくれた。
同店のマスター、細海研一さんは「びっくりしました。ちょっとした騒ぎ
になりましたね」とほほえむ。ちょうどその1年前、谷川さん本人を
含む10人ほどの一行が来店し、「アニメ化されるので取材させて
ほしい」と店内の撮影をしたことをふと思いだした。
映像を見ると、エントランスや店前の昇り旗、木目を基調にした
家具、壁に掛かる絵の1枚にいたるまで忠実に再現されていた。
その日を境に、近所の人やサラリーマンたちに加え、ファンの
若者たちが訪れるようになったという。
〈ハルヒはチュゴゴゴとアイスコーヒーの最後の一滴を飲み干し
て耳にかかる髪を払った〉
お気に入りのアイスコーヒーは、店のメニューではアイスエス
プレッソ。同じメニューを頼み、同じ椅子(いす)に座るファンたち。
海外からも訪れるそうだ。「主人公の座った席を譲り合うなど皆さん
とても礼儀正しい。客層が広がって楽しいです」と細海さん。商店街
の会長、矢田貝充彦さんも「これを機に、商店街や西宮の魅力を
知ってもらえるとうれしい」と話す。
◇
そもそも小説では、地名を明確に示した記述は一切ない。アニメ化で
その舞台が明かされたことになる。小説では「北口駅」とした場所が
「西宮北口駅」、「北高校」は「県立西宮北高校」などその界隈
(かいわい)の風景が、リアルに描かれている。
西宮市出身の谷川さん自身が「珈琲屋ドリーム」の常連だったそうだ。
もの静かで、アイスオーレとホットドッグが定番メニューだったという。
創業26年。細海さんは、「多くの作家や芸術家が通ってきてくださる
んですよ」と話す。店内の壁には、同じく常連の美術家、松谷武判
(たけさだ)さんらの作品が掛かる。
うららかな春の午後、アイスエスプレッソを頂く。深いコーヒーの香りに
包まれ、心身共にリフレッシュ。SOS団ではないけれど、「何か面白い
もの」でも探しに、街を歩いてみようか。不思議と元気がわいて
きそうだ。(田野陽子)
【※5月8日15時39分配信 産経新聞
より引用し、掲載しました。】
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