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鍋の季節寒くなればなるほどちょっとした仕事の帰り駅前の居酒屋で熱燗一本ひっかけて帰りたくなるちょっとした仕事とは思いのほかうまく運んだ仕事であったり逆に痛い失敗のあった日の仕事であったりひとりでちびりと一呼吸置いて家路につきたいときなどこの頃は鍋でもおひとり様用の鍋を用意してくれる店が増えたありがたい二合の酒と牡蠣鍋などたのんでほんの30分ほどで居酒屋ののれんを分けて帰るまた明日も頑張ろうかという気になっている
2016.11.24
石蕗はたいがい庭の隅っこあたりに生えている一年中深い緑色をして気が付けばいつもそこにいるのに大きな葉っぱの割にはあまり存在感がないでも秋から冬のこの季節花々の少なくなる時期にここぞとばかりに首を長く伸ばして一生懸命にその存在をアピールするそれは花だけではない石蕗の葉っぱもみな喜んでいる下から誇らしげに眩しげにわが石蕗の黄色い花を見上げている
2016.11.21
生きることの営みはどんな単細胞の生物でもどんな高等な人間でも同じようなものでひたすらに死に向かって邁進するその寿命の差異こそあれいつかは迎えねばならない日が来る例外はないこの世に永遠の命というものがないかぎり生きることの愛おしさはみな相等しく切ない
2016.11.19
実家の古いアルバムの中に気に入りの白黒写真がある子供の頃の家の牛小屋の前に立つ まだ若き頃の父と牛当時牛は我家の貴重な労働力だった牛の鼻繰りを持つ父は白い歯を見せて笑っているいつも豪快に笑う人だった誰が撮った写真なのだろう長靴を履きカメラに向かって立つ父のズボンはつぎはぎだらけだった僕の記憶にないその頃の生活を垣間見る思いがするただ夜遅くまで針仕事をしていた母の姿だけははっきりと記憶に残っている糸を通しては黒髪に針を持ってゆくその所作を瞼に残し布団の中の僕たちはいつも眠りに落ちたもう今では実家のどこかに仕舞われて簡単には探し出せそうもないけれどそういう写真はいつもこの胸の乾板に焼き増しして仕舞ってあるこれがほんとの心のアルバム だな
2016.11.18
小学生の頃大阪に出稼ぎに出ていた父が盆と正月に帰って来たその父がまた大阪に戻るという日はバスに二時間ほど揺られ家族みんなで中央駅まで見送りに行った夜行列車の出発する時間は夏は日が長くてまだ明るかったけれど冬はもうとっぷりと日が暮れて 寒かった駅の構内には土産物屋がたくさんあり買ってもらえないのはわかっていたけれどおもちゃのピストルやら刀などを見てまわるのがめずらしくて楽しかった出発の時間がきて列車の窓の別れはまったく覚えていないのに走り出して遠ざかってゆく列車の灯だけが妙に脳裏に残る帰りはまたバスに揺られて弟も妹もそして僕もたいがい眠ってしまった客の少ないバスのうしろの席に家族四人かたまって座っていた何かの拍子にふっと目が覚めた時横に座った母は眠る妹を膝に抱きながらじっと窓の外を見ていた海岸沿いの田舎道を走る真っ暗闇のバスの窓には遠くに浮かぶ島のちっちゃな灯と時々流れ去る街灯の灯が見えた父を見送ったあとの母の寂しさを子供心に初めて見たような気がした
2016.11.16
「こちらは〇〇市役所です。午後四時半になりました。よい子はお家に帰りましょう」夕方の四時半になると市からの放送が地区の広報スピーカーから流れる日の長い夏は午後五時半だ昔はそんなものはなかったから遊びに夢中になってつい日が暮れて遅く家に帰ることが多かったそのたびに親に怒られた今はいろいろとあるけれど子に携帯やスマホを持たす親が多い四六時中親からの監視の目が届くGPS機能でその居場所さえすぐに解明する安全上はものすごく便利になった外国から見て日本がいくら治安のいい国だからといってもやはり理不尽な事件や事故は後を絶たないその昔遊びに夢中になって思いのほか遅くなり捜しに出た親父にえらくどつかれたことがあるそれを後年親の愛情だとしみじみ感じる時代はもう来ないのだろうな
2016.11.13
公園の砂場で小さな子供が穴を掘っている何も宝物を掘り出そうとか何かを埋めるために掘っているわけではない穴を掘ること自体が楽しいのだ昔のように自分も何もかも忘れてただひたすらに穴を掘ってみたい大人になってそういうことをするとたいがいは不審がられる小学生の頃夏草の茂る原っぱで弟とふたりで1メートルくらいの深さの穴を掘ったことがあるそれから先は水が湧き出てきて掘れなかった何のために掘ったのかは覚えていなくてもあの時の胸のワクワク感は今でもこの老骨に残っている
2016.11.11
口は災いの元 というけれどこの人の暗い口の奥からは実に様々のことが聞こえてくる今度のアメリカの新しい大統領ほどではないにしても言いたいことが山ほどあるのかもしれない芸術祭会場の入口で待ち構えるあなたは来る人来る人それぞれに何かを話しかけているでも言っていることはひとりひとりみな異なっている聞こうという人もいれば知らぬ顔をする人もいる耳の痛い人もいるよく見るとそれはあなたが語っているのではなくあなたの目の前の人の心の奥底から発せられる声をあなたが話しているように見せているだけだアメリカの新しい大統領に似て大きな口を開けているけれどあなたはあなたのその暗い目の奥からも何かを訴えようとしているそれがなぜかこちらの胸に心地よいのだ毒舌家の演説よりも心に響くのだ
2016.11.09
家から歩いて10分ほどの所にある古墳塚なんでもない小さな森だと思っていたらなかなか考古学的には有名な塚だとかいつ行っても誰もいない石の階段が少し丘になった円墳の所まで続く今の時期森が落葉樹の落葉一色になる歩けばカサコソと過ぎ去った時間たちが足の裏に踏まれて咳払いをするその下に眠る古墳塚は背中で落葉を遊ばせて 一言も発しない幾代もの落葉を埋めてきた妖力が森の時空を曲げて見せるまだ枯れていないのは私だけになるそれも 束の間のこと
2016.11.05
今は どうなのだろうコタツのまわりに家族は集まっているのだろうか今は各個の部屋に暖房器具がありスマホやゲーム機に夢中になる子供たち昔のように同じテレビ番組をみんなで観るということもなくなったか驚くべき多様化の時代に同じ楽しみを共有することも少なくなったテレビが面白くないと聞くそれもそうだろうこういう時代だ大多数を満足させる企画を立てるのも大変だこの頃は母の好きな歌番組もめっきり少なくなった見るのはニュースと天気予報とのど自慢 くらいだコタツの上に蜜柑でも置けば寄って来るのは年寄りと猫くらいなもの か
2016.11.03
秋の釣りはタナで釣る気温が下がるにつれ魚の動きも鈍くなる人が防寒服に身を包むほどに魚もじっとして動かないそれにしても糸と釣針で魚を捕まえようと考えたのはどんな人だろう網で掬うわけでもないモリで打つわけでもないもちろん手で掴むわけでもない水中で魚たちは鼻先にぶら下がったおいしそうなエサを前にして何を思って水上の釣り人たちを見上げているのだろう
2016.11.01
今の時季タンスの中は夏物 冬物 ありて大混雑もちろん抽斗で区別はしてあるけれど四季のある国のちょっとした優柔不断の苦悩でも昔から四季があったからこそこの国にこれだけの文化が芽生え根付いたのだろうタンスの中にはいくつもの季節をくぐり抜けてきたその家ならではの歴史がある開けにくき というよりも 閉めにくいナフタリンのような懐かしい思い出の匂いがする
2016.10.30
普通出生届と死亡届は本人が役所に行って手続きすることはない誰かが代わりに行う子供の出生届も親父の死亡届も所詮 紙切れ一枚の事だった生まれて来た日も死んだ日も単にネクタイの色が違うだけである意味 本当はどちらも祝うべきものなのかもしれない歳をとると誕生日の祝いを嫌がる人がいるかと思えば誕生日祝いの料理をただ ひたすらにおいしいね おいしいねとくり返してばかりの我が母のような人もいる 死亡届よりも出生届の方がハンコを押す印影は濃いに決まっている
2016.10.28
赤ん坊の笑顔には心の真っ白さがある自分の子でなくとも思わずこちらもほほ笑みたくなる年老いたしわくちゃの顔の母の笑顔にも似たようなところがある ただ 違うのはほほ笑むこちらの目が潤むことである
2016.10.25
無性に野菜が食べたくなる時がある理由はない身体が欲しているのだろう無性にクラシックを聴きたくなる時がある心が欲しているのだろう理由は ある
2016.10.23
12年乗った車を乗り換える今日はその納車日朝から今まで世話になった車の洗車に車内の一斉片付けもうひとつ前の車も10年ほど乗った思えばこの二台には我が子の成長に合わせてたくさんの思い出がある今度来る新しい車は数えて7台目これまでで一番小さな車床が低くてフラットで乗り降りがしやすい後部座席は狭くても妻が乗る助手席はゆったりと今まででいちばん広いさて今度の車は何年乗れるやらお互いの寿命競争になってきた
2016.10.22
その昔新選組が あるいは坂本龍馬があるいは尊王攘夷の志士たちが血走った眼で駆け抜けたであろう京の都訳あって酒の入らぬ身で深夜の京都を歩く狭い路地の暗闇からも天空の彼方からも地の底からも訳の分からぬ何者かがじっとこちらを見ているような気がするあの「千と千尋の神隠し」の出だしの部分のようなどこかしことなく結界が存在する来た道を忘れてしまいそうな気がする
2016.10.21
先日のNHK大河ドラマ「真田丸」の中で信繁が改名する場面で息子に壺の中のいくつかの候補の紙片を選ばせて真田幸村となる場面があったそして今日はプロ野球のドラフト会議名前の候補だけならまだしも自分の人生を決めるような選択を幾人かの他人のくじで決められる という理不尽だからといってドラフト会議に反対だと いう訳でもない吹いてくる風まかせでどこに運ばれるかわからない草の穂のように人生にも運命を天にまかせるしかない時がある結婚する相手といっしょでそれはもう何かの糸で結ばれた縁のようなものだから・・・
2016.10.20
昔はあの山の向こうに何があるのかどんな世界があるのか知ることもなく一生を終える人がいたのではないだろうかその村から一歩も出ることもなく人伝えに聞く遠い他国の話はおそらく自分には関係ないような他人事の世界だったのかもしれない今はあの山どころか 一瞬にして地球の裏側の出来事や映像をリアルタイムに知ることができる
2016.10.18
カメラバッグにいつも小さなメモ用の手帳を忍ばせているのを娘は知っていたのだろう友だちとの東京旅行で手土産にちょっと粋な手帳を浅草で買ってきてくれた中に綴る俳句は凡句でもその気持ちが嬉しいではないかますます凡句を可愛がってしまいいつまでたっても上達しそうにない
2016.10.17
父の匂い色々と若い娘(こ)にはあまりいいイメージはないと思うけれど時々 亡き父の匂いに出くわす時があるポマードの父の匂ひや盆の路都会に出稼ぎに出ていた父が盆と正月に帰って来たときの背広姿のポマードの匂い肩こりのひどかった父のサロンパスの匂い肩たたきを見るだけでふっと鼻先を通り過ぎたような気がするからふ・し・ぎ
2016.10.16
ばあちゃんはやさしかったじいちゃんはこわかった曲ったことが嫌いで悪さをすると井戸に放り込まれそうになったでもじいちゃんが亡くなった時には涙が止まらなかった
2016.10.14
たった一角のビルディングがゆるやかな傾斜もなく突然に直射日光をさえぎる日陰で暮らす老夫婦の曲った背骨を伸ばしたところで最上階から見下ろす大阪湾は見えはしない海の向こうから吹いてくる風に鼻の下をくすぐられて面相を変える何十億という人間の顔はおよそ何十億以上もあり今夜もぶよぶよとしたやわらかい肉片が暗く深い海の底から次々と打ち上げられる新しい生命の胎動にビルディングが揺れるほら穴に棲み石器を作り火を恐れ 大自然を恐れ 神を恐れ戦いをくり返し 欲望にかられちょんまげを結いながら進化してきた生命の誕生だ
2016.10.13
熊に出くわしたら死んだふりをせよと嘘か誠かそんな話を子供のころに聞いた死んだふりをするのだから当然 息も止めるのだろうと思っていた息を止めてみたそんな短い時間に熊が退散しなかったらどうしよう と心配したりした息はいつかはしないと本当に死んでしまう生物の防衛手段もいろいろあって面白い亀などは典型的で危ないと思うと首やら足やらを固い甲羅の中に隠す大丈夫だと思う目安はどれくらいなのだろう恐る恐る顔を出しては引っ込めるこのまる虫も指先でつついてしばらくじっと見ているとある時間が経つと丸めた体をほぐしてくる経験則なのか勘なのか状況把握なのか俺も暇な男である
2016.10.12
ぶるっ!寒っ!なんだこの寒さは今朝は薄手の掛け布団をみの虫のようにぐるぐると体に巻き付けて目が覚めたフローリングの床も素足では冷たく爪先立ちで歩くなんだか去年も同じことを書いたような それが平和に年をとっている証左なんだろう 来年もまた書けたらいいけれど・・・
2016.10.11
雨がつづくと 仕事もせずに キャベツばかりを かじってた かぐや姫 赤ちょうちん 突然の雨に駆け込んだ大木の下雨宿りそこに置かれている壊れたベンチ雨雲に覆われた空のうす暗い樹下にポツンと 座る人を待つベンチいっしょに雨宿りしばらくやみそうにない雨なぜか赤ちょうちんの歌が口をつくこの歌や神田川が流行ったころ東京の安下宿屋にいた 公衆電話の 箱の中 ひざをかかえて 泣きましたそういえば最後に公衆電話使ったのいつだったろう?
2016.10.10
それぞれの家々から暮らしの灯(ともしび)が漏れる建物や窓の形は同じでもよく見ればひとつとして同じカーテンはないおそらくまったく同じ暮らしもないのだろうだから健気にみな一生懸命に生きている大事にしたいと思って生きている
2016.10.09
ドライブスルー今や流行りでなんでもかんでもドライブスルーファーストフードなど当たり前だし意外に多いのが薬局本屋にピザにクリーニング店にラーメン屋まである訳あって夜遅く夜食を買いに車で走った牛丼屋店の正面は明るいがドライブスルーの裏手はなんだかうす暗い応対に出た店員のスピーカーからの声もどこか腹の底から絞り出すような心細げな声前後に客はなくどこかテレビの世にも奇妙な物語の雰囲気注文したものを受け取る窓口にまわるともさぼったい男が待っていた口調は非常にバカ丁寧だが胸に研修中の札を下げていたお化け屋敷のドライブスルーでもできたのかと思った
2016.10.07
空が思いのほか高くなり故郷の思い出が不意に近くなるこの星の陸上にあがった多くのものたちは遺伝子の記憶の中に透き通るような水のあぶくの感触を息するたびに肺の組織の奥深くにて思い出す気の遠くなるような古代水の中に暮らした痕跡は広げた手の指の間に水かきが干しシイタケのように水に入れると生えてきそうな気がする秋だからといってあまり大きく何回も肺呼吸をすると鰓(えら)のようなあごの辺りが痛くなる
2016.10.06
稲の穂が黄金色に輝き始めた雀は人類が稲作を始めた頃からの長い付き合いらしい集落の人家があれば雀も棲みつくし集落がなくなれば雀も姿を消すらしいでもその割には人馴れしないと思ったら東京上野あたりの雀は人に寄ってくるらしい案山子やらキラキラ光るテープや要らなくなったCD盤やはたまた人まで驚くその名も威し銃まである人と雀との知恵比べこの頃は稲田にまるごと大きな網を被せるものまであるすずめ泣かせだからといってすずめの涙 とタイトルしたわけではない
2016.10.05
釣りをするものにとってどんどん日が短くなる季節はなんだか淋しい水面に映る真っ白な雲の辺りに餌を落とすそこから同心円に小さく波紋が広がりその波の消えかかるころウキがゆっくりと立ち上がる今日のタナは深い何度か打ち返しているうちに打ち始めよりウキのなじみが遅くなった魚の気配を感じる目は瞬きをやめ ウキをみつめて魚と会話する頭は水中をゆっくりと落下する餌をイメージするその重さがウキに伝わりジワ ジワッとトップがなじんでゆく竿尻を持つ手が静止するウキが水面に隠れようかとする時それは一瞬のうちに雲間に消し込んだ青い空も白い雲もめちゃくちゃにして大きなへらぶなが糸を鳴らして上がってきた静かな山あいに 水しぶきの音がこだまする竿を満月にして玉網に取り込む口の針をはずしてまた池にリリースする池の水面も山の空気もまたふり出しに戻る打ち返すたび水面の波紋のように心がまるくなるまわりの雑木林には栗の木が多いここでとげとげしいのは栗の実くらいであとは柔らかな日差しを浴びて静かに自然が鎮座しているその栗の実でさえ丸くなっている
2016.10.04
路地裏にどこからともなく木材のいい匂いついひと月前までは草ぼうぼうの廃家だったこのごろは家一軒建つのも早い木肌の匂いにつられて迷い込むとちょうどひと仕事終わったのか家主が職人さんに酒をふるまっていた湯上りの女性のうなじのような木がいくつも立ち並びほんのりと漂う酒の匂いに赤く染まりそう廃家のころは哀れさがあり今は新しき未来の華やかさがあるずっと止まっていた時間が電池を替えた時計のようにまた動き出す新しい歴史が始まる
2016.10.03
目前で鳴いている虫の居場所がわからない草むらにしばらくしゃがみ込んでじっと耳を澄ますこの場合 目はあまり役に立たない一瞬 細き草の葉が揺れるこの場合は獲物を捕らえる獣の目が役に立つちいさな土蛙お前ではない鳴き声はすぐ目の前なのにその姿を見出せないなんでもかんでも明らかにしなければ気のすまない科学の時代に知らず知らず脳みそは探究一色に染められている虫の音の正体を確かめることに夢中になりあるがままに風情を感じる心を忘れちまっている自戒
2016.10.02
公園の木々の葉はまだほとんど緑色をしているでもその中の一枚や二枚が黄色に染まってはらはらと僕の足元でとんぼ返りして落ちる秋の先発隊はどうやって選ばれるのか知らないけれど枝を離れる瞬間の身を切る思いが秋の風にのって指先に伝わってきそうな気がする落ちる葉はくるくると手を振るように地面に着地するやがて大地は秋一色となるそれがどうしたと人生の秋に妻の髪も僕の歯も衰え始めたけれどここらでちょっとひとやすみ ひとやすみ
2016.10.01
今日は用事があって妻が子供たちを連れて実家にお泊りこれ幸いと仕事の帰り晩飯を兼ねて久しぶり居酒屋へこの頃の飲み屋はどういうわけかやたらと威勢がいい入るなり従業員一同がこれまた誠にでかい声で「いらっしゃいませ~」と言う言うよりも叫びに近いおまけにここの居酒屋は太鼓をドンドンとたたくカウンターで呑んでいると新しい客が来るたびにそういう具合だからもうやかましいのなんのってひとり静かに飲みたいものには迷惑千万だ居酒屋だけでなくラーメン屋でもそういう所がある元気があって結構だけれどなんだかこちらの元気まで吸い取られるような気がするせっかくの酒だからいくらかは元気を戴けるようにしてもらいたいと 思うのだが・・・もう俺も若くないということか・・・
2016.09.30
酒にもいろいろとある 暑い夏のひと仕事終えてのキンキンに冷えたビールは格別だ契りの祝いの席にはやはり盃の日本酒だろう少し華やかなディナーの赤や白のワイン仲間内でのワイワイには酎ハイ田舎の旧友と交わす芋焼酎のお湯割りそして深夜ひとり 本でも読みながら飲むウィスキーの角氷オンザロックああいい心もちだ
2016.09.29
地区の体育祭玉入れに参加籠に入らなかった玉は当然のことながらまた落ちてくる地面に落ちた玉を拾っては投げるそのうち時間がきて終了の笛が鳴る紅白に分かれたチームの籠の中の玉をなかよくみんなで数える落ちている玉の数ならうちのチームの勝ちだった
2016.09.28
夢から覚めると腕時計の針は地球をゆるやかに廻していたうす明るい朝鳥たちは 大昔録音された声で啼いていた秋のひそやかな冷気の中で本能をなくした犬が乞食のようにごめだめを漁っていった人間は見当たらなかった私はまだ酸欠の水槽の中で大きな欠伸をしていた肺が風船のようにふくらんだ
2016.09.27
コーヒー好きの妻の誕生日にコーヒーメーカーをプレゼントして一年が経つ今では朝の決まった時間にそのミルの音が鳴り響きみんなが起きだしてくる酒を飲まない日はあってもコーヒーを飲まない日はないような気がする街中でも挽きたてのおいしいコンビニコーヒーが100円で買えるこれのおかげで缶コーヒーはめっきり買わなくなったでも今までで一番味わい深かったコーヒーは昔 受験勉強の机に毎夜母が運んでくれたコーヒーだクリープのいっぱい入ったインスタントコーヒー寒い冬の夜ストーブなど入れると眠くなるので暖房のない部屋で目いっぱいに着るものを着込んだ体にもくもくと湯気の立ったコーヒーはうれしかったもっともあの頃はそんなコーヒーのことなんてこれっぽっちも思わなかったのに今頃になってあの時の親の愛情が心に沁みてくるなんて今では母がコーヒーを持って二階に上がってくるあのミシッミシッという階段の音さえ思い出せるのに
2016.09.25
「きれいに編んではるねぇ」娘が提げていた小物入れの袋を見て電車の隣の席に座ったおばあちゃんが声をかけてきたとのこと「誰が編みはったん?」娘は編み物好きの自分のおばあちゃんの話をした話しかけてきたおばあちゃんも編み物が好きだというので電車の中でしばらくその話になったらしいそして先に下車するおばあちゃんは娘によかったらこれもらってくれへん?と言われて一枚の白いマフラーをもらってきた京都の大学に電車で通うようになった娘本格的に電車通学するのは初めてのことでいろいろとその道中の出来事を話してくれる義母は昔から編み物が好きで娘たちも小さい頃からいろんな編んだものをこれまでいっぱいもらってきた今日も妻の実家に行ったら空瓶や空缶をくるむものを編んで小物入れにするものをもらって帰って来たそして娘はこの前もらった白いマフラーを見てこのマフラーは誰にあげるつもりだったのだろうと ぽつんとつぶやいた誰かにあげるつもりで編んだのにあげることができなくなったのか・・・ 大学だけが教育の場じゃないのだとその通学の途中にも学ぶべきことはあるのだと我が娘を見て思った
2016.09.23
思い出を持っているということは有難くて嬉しくて楽しいことだ年老いた母が昔 家族で遊びに出かけた楽しかった思い出をそうやったかねえと今では思い出せなくなっている共有していたものを永遠に失ったようで胸がきゅーっとして悲しくなる子供を産んで育てて年月が経つと思い出も愛情といっしょに親から子に引き継がれていくのだろう胸がいっぱいになるのは自分の思い出の引き出しを何かがいっせいに開け放つ時だ祭りでも 縁日の金魚すくいでも 運動会でも ほんの小さな家族旅行でも思い出せなくてもテレビドラマを見て泣く涙もろい母の胸には誰よりもたくさんの引き出しがあることを僕たちは知っているそれだけで十分だ
2016.09.22
時折肉が無性に食いたくなる時がある身体の新陳代謝の何かが不足しているのだろう近くのファミレスで手ごろなステーキと赤ワインをデカンタで注文する切迫した仕事が一段落した時などにそんなことが多いガツガツと腹を空かした狼のように喰らいつきワインをガブガブと飲むなんでもない一日が平穏に過ぎてゆく日には無性に野菜が食いたくなる少々酸味系のドレッシングをたっぷりとかけて 顔をしかめながら食うのが好きである野菜を食いたくなる日が多ければいいと思う
2016.09.21
付藻茄子茶入(つくもなすちゃいれ)高さ六センチにも満たない小さな茶入れの壺を献上したおかげでその昔 織田信長に国を滅ばされずに安堵された大名がいた本能寺で奇跡的に生き残った茶入れはその後天下人の手を渡り大坂夏の陣で壊れたものを徳川家康が奈良の名工に修復させた明治の初め三菱財閥の岩崎家が四〇〇円で買い取ったとある今の金で一千万円くらいであるらしい室町の頃中国から渡来したナスビ形の小さな茶の容れ物は限りない人間の所有欲のはざまで歴史を揺り動かしてきた今はとある美術館に眠る・・・とあるたかが茶入れではないか と思うけれどそれが歴史の真実に違いはない今は便利な世の中で検索すればそんなことも一瞬のうちに教えてくれるでも一番同感したのはそのサイトの資料の最後に書かれていたこと人間が頭の中で作りだすものよりも茄子の実のようにいたるところに見られる天然の美これらに目を向けて感動を覚えなければならない とあるさも ありなん 窓から秋の風がカーテンをふくらませて入ってくるそのふくらみに秋の顔を観る
2016.09.19
うつむいてはいるけれど生きることに悲観しているわけではないむしろひまわりはうつむいた顔でにこやかに笑っているようにさえ見える種から芽を出し葉をつけ花になり大きな種子がいくつもいくつも顔面を埋め尽くし今まさに大地に落ちんとしているやっとここまで来たけれどここからが彼らの本当の勝負だ稔るほど垂れる首はぎゅっと握りしめた彼らの生きる力拳だ
2016.09.18
稲の穂が揺れる田んぼに水がほとばしる向こうの大川から流れ来る用水路の水をポンプでくみ上げて気持ちよく水しぶきをあげている大川から枝分かれしてこの地の田にたどり着いた水はどこで生まれた水なのだろう流れ流れて海にたどり着けなかったことを後悔しているだろうかこの田の稲の養分になれたことを喜んでいるだろうかあるいはまた天に蒸発して雲になることを夢見ているだろうか
2016.09.17
うれしさを思い出さすや百日紅 うれしさをおもいださすやひゃくじつこう下の娘が幼稚園に入った頃家族四人で奈良公園に鹿を見に行ったおのれが昼食にビールを飲みたいがために電車で出かけたうちの姉妹は結構仲が良いあまり喧嘩らしきことをしたことがないでも 下の子が幼稚園に入った頃だけは少しそれまでとは様子がちがったお姉ちゃんに張り合うところがあった言葉使いも明らかに異なってきた鹿のフンを見て「でっけーウンチ」と言ったり「フン しややがった」とか 慣れない口使いで親をドキリとさせることが多かった幼稚園の仲間からの影響がもろに出ていたさて その帰りの電車の中座席に親子四人並んで座っているとある駅で 少し腰の曲がったおばあちゃんが小さな買物用の押し車を押して乗り込んできた車内はそんなに込んではいないけれど半分くらいの人が吊革につかまっている座る所のないそのおばあちゃんを見て 上の娘が「席かわってあげていいかな?」とそっと耳打ちしてきたいいよ と言うと娘は少し恥ずかしそうにおばあちゃんの所に行ったおばあちゃんはにこにことして僕たちにまで何度も頭を下げて席に座ったそれを見ていた下の娘床に足の届かない座席のシートからズリ落ちるように降りると目の前のおばさんのスカートの裾を引っ張りながら何か言っているするとおばさんは「私はまだおばあちゃんじゃないから 大丈夫よ~」と言って娘の頭を撫でて抱っこして元の席に座らせたそれを見ていたまわりの人たちも笑ったそれは温かい笑い声だった家に帰ると 上の娘があれは学校の宿題だったのだと言った家のお手伝いでもなんでもいいので何かひとつ いい事 をするようにとそして月曜日の授業で報告してもらうとのことだったらしいいい事は うれしい事うれしかった事を思い出させてくれる花である百日紅
2016.08.05
このネジを締めた日のあり草いきれ このネジをしめたひのありくさいきれ記憶が定かではないのだけれど日本で初めてネジが作られたのは火縄銃を見よう見まねで作った鍛冶職人だと聞いたことがある銃身の筒の後部を塞ぐためにネジ式の栓が使われていたらしいそれまでは日本でネジを作ったり使ったりした形跡がない小川に架かる橋の下の花を撮ろうと土手を降りて行った橋の下の水面からの照り返しが橋の裏でちらちらと躍っていたそこには無数のボルトとナットが組まれていて見上げた瞬間 なぜか背中がぞっとしたいつもこの橋の上を小学生が集団登校して行く買物の主婦が歩いて あるいは自転車を走らせて行くこの橋がいつ造られたのか橋の横腹の銘板に刻まれているその鉄の橋は裏で細胞の鎖のようにいくつものおびただしい数のネジで繋がっていた映画「戦場にかける橋」ではないけれどどんな小さな橋でも 架けるとなれば難儀だ難儀ではあるけれど一度架かった橋は半永久的に恩恵を与えてくれる竣工の年月日を見るたびに僕はいつもそれに携わった人たちのことを思うこの橋も 二十八年前このネジのひとつひとつを締めてまわった人たちがいたこのネジのように橋の裏で日の目を見ないような人たちの力がひとつひとつ積み重なって今の社会があるのだろう思えば遠き昔この日本で初めてネジを作った人がいたこの橋も決してたった一本のネジで支えられているわけではない橋の下に繁茂する草の草いきれの中で僕は窒息しそうな魚になっていた
2016.06.18
[妻がいたころの記事です。あしからず。aitu]焼酎や妻の小言も肴にし しょうちゅうやつまのこごともさかなにしもう何年前だったか原油の高騰でイカ漁が休止されたときによみうり編集手帳は八代亜紀の「舟唄」を引き合いに出していた♪ 肴はあぶったイカでいい ♪の「で」が使いづらくなると述べていたうまいこと言うもんだあれからもイカはとりあえずの酒のあてになっているのだろうか我が家でもあれから妻がその方面にうるさくなった水の出しっぱなし 電気の点けっぱなし 無駄な買い物近場の買い物は自転車で行くそういう所は私の性格と正反対 なかなか細かく口うるさい肴はあぶったイカでなくてもいいけれど私はやっぱり♪ 女は無口な人がいい ♪
2016.05.19
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