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「どれだけの努力も、天腑の才の前では色褪せる」と審査員に言わしめ、数多くの良作を蹴散らしてしまった第十一回大藪晴彦賞受賞作。内容は、今なら半グレと呼ばれそうな男二人の、どうしようもない日々を書きなぐったような中編。格差の固定化が言われる昨今、これが書かれたのが2008年かぁと、その類の感慨も無いではない。ただそれより、その後の同氏の傑作を知った上で読む身としては、乱暴に見える中にも滲み出る知性になるほどと。タクシーメーター度★★★☆☆
2024/05/01
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週刊文春ミステリーベスト10・2022国内部門とMRC大賞2022ともに第一位。まあね、ラストは確かに衝撃の種明かし。ただ、全体を通した「小説」感は薄く、むしろマーダーミステリーのシナリオにしたら相当面白いんじゃないかって気はした。ラストワンチャン度★★★☆☆方舟 [ 夕木 春央 ]
2023/12/24
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随分前になる2015年7月、東京国際ブックフェア@東京ビッグサイトで西加奈子と柴崎友香の対談があって、それ自体とても興味深かったのだけれど、二人が作家の多様性や自由度の極端な例として挙げていたのがケリー・リンク。ずっと気になっていた。相当ぶっとんでるので初心者はまずこの本からいっとけ的な解説を読んだので、従ってみたわけだ。一話目の「妖精のハンドブック」で全然いける気がして油断してたら二話目で露頭に迷いかけて、五話目あたりで理屈を捨てて流れに身を任せる術を身に着けてようやく最後まで乗り切った。なるほど。万人におススメはしない。無制限自由度★★★☆☆
2023/12/18
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魔王を倒した勇者一行のメンバーであったフリーレンでさえも、「勝つイメージは持てない」という圧倒的強さを持つ【黄金郷のマハト】そのマハトに、さらに厄介な知力を有する魔族ソリテールが加わる。閉じ込められたマハトの力が解放されるのが先か、デンケンから託されたフリーレンの「対策」が間に合うのか・・・ストーリーに込められたテーマはいくつかありそうだが、「全く相容れぬ者同士の理解あるいは共存」という新たな側面が色濃く出始める、節目の第10巻。葬送のフリーレン(10) (少年サンデーコミックス) [ 山田 鐘人 ]
2023/05/02
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量子重力理論の最先端を走る理論物理学者が、時間という概念が物理学の中ではどのように扱われるか、現段階での理解を解説する。最低限、理系の大学教養課程で学ぶ量子論の基礎の基礎、エントロピーの概念、ぐらいは解っていないとさすがにしんどいような気がするが、一般向けの本として結構売れているらしい。確かに物理とか数学はつきつめると哲学に近づく感はあるよね。「この世界は物ではなく出来事でできている・・・」、前後の脈略無しに読めばなんとも哲学書然としたフレーズじゃないですか。世の中の理解の根幹部分で、こうであるはずという前提を一旦完全に白紙にする過程は、知的な経験あるいは訓練として貴重ではあるかも。
2023/04/16
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ちょっとした発想と、工夫と、時に妄想を動員して普段の街歩きが素敵な探検にかわる。好奇心満載の二人の女の子が楽しく散歩するお話。「死んでる水飲み場」を探す散歩「剥がしアート」を愛でる散歩見つけたモノでしりとりする散歩などなどいいねぇ。散歩する女の子(1) (ワイドKC) [ スマ見 ]今日の帰り道で「剥がしアート」を探してみた。確かに、何かを剥がした跡というのはちょいちょい目にするんだけど、アートになっているのはなかなか見つからなかったですねぇ。こだわり町歩きに関しては私もいろいろアイデアがあるのですが、その話はまたあらためて・・・
2023/03/28
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父親に連れられて操浄瑠璃(人形浄瑠璃)の小屋に入り浸り、やがて作者としての人生を踏み出す、近松半二の生涯。・・・という紹介では何も伝わらないもどかしさよ。物語を編み出す者の情熱といくばくかの狂気。このあたりの感傷は、読んでいる間に観た「映画大好きポンポさん」から受けるものともオーバーラップする。主人公が周囲の者たちを巻き込んで作り出す渦は、同時に時代やもっと普遍的な言うなれば「創造」の神が作り出す渦に巻き込まれることでもある、という感覚。かといって物語は押しつけがましく熱にうなされるようなタイプではなく、常に飄々とした生き様で人を惹きつける半二のキャラクターを中心に回るスタイルが、まずもって小気味いい。浄瑠璃に取って代わる勢いの歌舞伎作者として目覚ましい活躍を見せる並木正三との、ライバルであり、理解し合える友でもある関係性も、読んでいて気持ちが良い。半二の妻となるお佐久、兄の許嫁であったお末など女性陣も魅力的だ。創作者の業の物語でもあり、人生の素晴らしさの賛歌でもあり、と同時に人と世の理のままならなさ、無常さの物語でもあり、それら全てが虚実の被膜の中での夢物語であるという多重構造さえ感じてしまう。といったあれこれが、実に軽快な関西弁のリズムに乗って一気に読める、上質のエンターテイメントに仕上がっている。すごいっしょ、これは。随分久しぶりに、万人に薦めたい傑作を読めた!第161回(2019年)直木賞受賞作。何を今更というご批判は甘んじて受けますです、はい、すみません(ぺこり)道頓堀ドリーム度★★★★★
2023/03/06
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いよいよ、黄金郷のマハトと対峙する。やや説明的な部分が多い巻ではあるけれど、独特の緊張感を湛える展開。まだまだ目が離せない。葬送のフリーレン(9) (少年サンデーコミックス) [ 山田 鐘人 ]だいぶ前に発売されてたんだけど、見逃してましたw
2023/02/02
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強い絆で結ばれた兄弟たちが仕掛ける前代未聞の銀行強盗。破滅が約束された物語が、終着点に向かってどうしようもなく進む。それを我々は観客として傍観しつつ、ある種の昂奮に巻き込まれるのを避けられない。同時進行で犯罪を追う側の刑事が描かれ、その執念が確実に兄貴(犯罪グループのリーダー)を追い詰める。通常ならそれは成功ストーリーであるはずなのに、これがまたカタルシス無き進行とエンディングを迎える。犯罪者と刑事、それぞれの現在と過去。けして暴力そのものを昂奮の燃焼剤とすることはなく、むしろ暴力の再生産に対する強い怒りが根底に流れる。いずれにせよ悲しい話なのだが、どうも人の自傷要求のようなものを刺激してしまうところがある。わかりやすく言えばヤバい。しかも、これはスウェーデンでは有名な実話ベースだというから驚く。共著者の一人であるステファン・トゥンベリが何者なのかは、本の訳者あとがきで是非確認してほしい。血の絆度★★★★☆北欧ミステリの頂点といわれる「ガラスの鍵」賞を受賞米国パブリッシャーズ・ウィークリー誌選出の年度ベスト・ミステリ日本では2017年の「このミステリーがすごい」海外編 第一位 など
2023/01/14
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Twitterで紹介されていた本が、どえらい面白そうだったので電子書籍で購入。著者の基準では、「スペクタクル」は景色の壮大さや変化の大きさではなくて(それも大事だけど)、異世界に繋がってそうな妄想を得られるかどうか、のようです。数々のマイナースポット探検記自体も面白いんだけど、毎度同行のスタッフの個性がまたほんわりと楽しい。取り上げられている場所は千葉が多かったりするんだけど、前から「いすみ鉄道」は関東の探索候補だったので、秋になったら行ってみようかなと思ったりw
2022/09/01
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戦闘シーンと、そうではない落ち着いた場面。後者の方がこの作品の白眉なのだけれど、前者の緊張感があってこそ。初見は闘いのストーリーに沿って全体を把握するけれど、二度読みすると感じ方も変わる。いいよね。***77話の最後がまた、次を待たずにはいられない展開です。葬送のフリーレン(8) (少年サンデーコミックス) [ 山田 鐘人 ]
2022/08/15
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『ある種のビジネスの成功者が、ひょんなことから田舎の経済再生を請け負うことになり・・・』というストーリーは、これまでもいくつか読んだ経験があります。この小説もその系譜ですが、農業がテーマであること、スタート地点のレベルがかなり絶望的に見える点などが特徴と言えるでしょう。最初はいがみ合っていた主人公達が理解し合う過程も、基本善人たちの物語である点も、安心して読める設計となっておりますw実際に農業に携わっている方からすれば、現実はそんなに甘くないよ、ってところはあるでしょうが・・・ベジタ坊度★★★☆☆
2022/07/11
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原著は2014年、日本語訳は2016年。だいぶ遅ればせながら。アフリカを飛び出したホモ・サピエンスが世界中に広がり、文明を築き、食物連鎖の頂点に立つ事になった理由は何か。認知革命、農業革命、そして科学革命を経ての現在。ドライビングフォースとしての「帝国・科学・資本」我々は何者で、いったいどこへ向かうのか。俯瞰という言葉を安易に使えなくなるほどの卓越した視点に、豊富な引用と事例。『銃・病原菌・鉄』の著者ジャレド・ダイヤモンドも絶賛する本書は、現代の必読書の一つかもしれませんぞ。
2022/06/22
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7巻では全体のストーリーに派手な動きはないものの、物語の始まりで感じた本作の良さは続いて活きている。南の勇者の話は特に好きだな。葬送のフリーレン(7) (少年サンデーコミックス) [ 山田 鐘人 ]
2022/04/29
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直木賞史上最もヤバい受賞作と噂の、緻密かつ大胆なノワール。強大な麻薬カルテルに君臨しながらライバル組織に敗れ故郷から逃れた、バルミロ。天才的な外科技術を持ちながら表の世界から姿を消した医師、末永。不遇な環境で育ち、世の中を知らぬまま少年院を出る、コシモ。本来出会うはずの無い三人の邂逅がもたらすものは、想像を超える闇のビジネスと暴力の世界。舞台はメキシコ・ジャカルタ・川崎と移ろいつつ、禍々しきアステカの神々の姿が常に背景にあり続ける。まあ、一言で言えば、確かにヤバい。バルミロの異常な程の慎重さに基づく様々なルールの描写。ボランティア精神に溢れ子供の世話をする女性が、薬に溺れる事に自らは何の矛盾も感じていない様子。そういったものが、忌まわしいほどにリアリティを醸し出す。どう考えてもヤバい。(3回もヤバいって言ったw)犠牲度★★★★☆
2022/02/04
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今年は読書量自体が減ったので、選ぶ本も3冊に限定です。毎年断っていますが、今年出版された本ではなく、私が今年読んだ本からのご紹介です。○ ピエタ / 大島真寿美日本人が、18世紀のヴェネツィアを舞台にこれほど豊かで感傷に満ちた物語を書けるというのは何なんだろう。2012年の本屋大賞第3位。3位ってどういうことやねん、これより上って何?と思って調べたら、2位「ジェノサイド」(高野和明)、1位「舟を編む」(三浦しをん)だった。ありゃま、そりゃ仕方ない。○ ウォッチメーカー / ジェフリー・ディーヴァー海外の本格ミステリーでお勧めは?と聞かれたら、とりあえず今ならこれを推す。完璧なプロット、際立ったキャラクター、強めの設定でも抑制された感情表現。そして何より、仕掛けられた伏線の回収が美しい。それから、訳がこの小説のトーンにとてもあっている、というのは付け加えておくべき。○ 虐殺器官 / 伊藤計劃本を読むことが好き、それで書くこともしてみる。そういった通常の道筋の延長では絶対に到達できない世界が、おそらくある。その才能だけでも十分異次元なのだが、病に倒れ、足掛け3年で創作活動を終える。本人は望まなかったであろうが、そうして伝説となった。ならば、我々にできるのは、その伝説を語り継ぐだけ。是非一読を。***まだまだ落ち着かない感じもありますが、いろんな意味で、昨年と比べると明るい新年を迎えられそうです。今年も一年間ありがとうございました。皆様もどうか良いお年を。
2021/12/31
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テロリストの爆弾により大破するボーイング747。多くの機能と、優秀な機長をも失った機を任されたのは、副操縦士の高城玲子だった。なんとか成田空港へと近づく中、突如発生する不自然な通信障害。霧に覆われる滑走路。様々な偶然と、各国の陰謀に翻弄されながら、玲子は奇跡の帰還に向けて全力を尽くす。***政治ドラマ部分のリアリティは置いておくとして、各現場の緊迫感は一級品。それもそのはず、著者は元航空・軍事が専門のたたき上げ現場記者だ。読み始めたら止められない、いくつもの盛り上がりが繰り返しやってくる。第11回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。謀陰愚度★★★★☆
2021/12/06
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いよいよ1級魔法使い試験の二次試験がスタート。しかし今回の試験担当は、過去一人も合格者を出していないゼンゼなのだ。課題は迷宮『零落の王墓』攻略。ダンジョン最深部で受験者達が出会うのは、彼らにとって最悪の守護者だった。***過酷な戦いの描写の中でも、フリーレンとフェルンの醸し出す空気感は常に変わらずゆるぎなく、魅力的だ。ユーべルの章も面白い。フリーレンの師匠であったフランメの師ゼーリエとの確執は、「人間の時代」への流れという新たな物語の軸を提示する。いやぁ、ほんとに良く出来てるなぁ。葬送のフリーレン 6巻葬送のフリーレン 1-6巻セット
2021/11/27
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殺人事件の捜査を行う、署で有名な変わり者の刑事。15年前に起きたある事件に関わる小さな謎に、異様なほど拘る彼に見えているものは一体何なのか?愛ゆえに引き起こされる軋轢と憎しみ。二つの家族の悲しい過去が、奇妙に絡み合って一つの物語を形づくる。全体に辛い話が多くて、それがミステリー要素回収のカタルシスを上回ってしまう。そこがちょっと残念。親ガチャ度★★★☆☆
2021/11/12
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”怪獣の出現”が珍しくはない災害の一つであり、日本はその多発国、という世界線のお話。様々な形態で襲い来る怪獣に立ち向かうは、気象庁特異生物対策部=通称「気特対」の個性的な面々。と、最初の4話は字漫画展開。の後、それらを前置きに落とし込む壮大な神話世界とのリンクが著者の持ち味ですね。とはいえ、これまでに読んだ3作(「アイの物語」「詩羽のいる街」「翼を持つ少女BISビブリオバトル部」)に感じた深みは今回は無かったかな。書き下ろしの第3話、「密着!気特対24時」が個人的にはお気に入りです。多重世界度★★★☆☆
2021/10/27
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昭和29年の著者デビュー作他8編を収めた新潮文庫版。病弱な女学生が療養先の温泉旅館で出会った青年との、ひと夏の出会いと別れを描く「サビタの記憶」。夫へ好意を抱く上司夫人の態度を複雑な感情で捉えながら、自分への従弟の好意を受け入れる妻、「廃園」。時に密やかに、時に大胆に女性の感情と欲望を描き出す作品群は、少女の瑞々しさと人妻の淫靡さを湛える微妙なバランスの中で揺れ動く。とはいえ、戦後の匂いがまだ消え切らない時代の男と女の関係性は、当然ながら今の感覚からはすんなりと気持ちに入ってこないところも。そんな中、例えば「週末の二人」に描かれる百貨店の屋上のアドバルーン、自動車のクラクションや街頭宣伝の騒音。そういった古い昭和の景色が妙に郷愁を誘うのは、私にとって昭和30年代が決して現実の外にある過去というわけではないから、でしょうか。北の国にて度★★★▲☆【中古】サビタの記憶/廃園 /新潮社/原田康子(文庫)
2021/10/11
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主人公は、米軍特殊機関の大尉、クラヴィス・シェパード。「後進国」で繰り返される内戦や大規模虐殺の現場に必ずその影が見える謎の人物、ジョン・ポールの暗殺を命じられてチェコへ向かったクラヴィスだったが、そこで彼を待っていたものは・・・******近未来の社会環境と軍事装備、ジョン・ポールが語る「虐殺器官」の秘密等は間違いなくSFの様式であり、そこにリアリティを与える文章技術も特筆すべきこの小説の魅力ではある。けれど読者の心に残るのは、もっと普遍的な現実的テーマだろう。作品中で繰り返し語られるのは、『人は自分が見たいものだけを見る。自分が信じたいことだけを信じる』というフレーズだ。今この時にも同じ問題を抱えたまま身動きが取れない我々と主人公の心情は、容易にリンクしてしまう。この小説は読むタイミングを誤ると危険なので、精神的に安定しているときに是非。早逝の作家の渾身のデビュー作は、ベストSF2007・ゼロ年代SFベスト第1位・第1回PLAYBOYミステリー大賞受賞。大森望氏の解説の最後で、ボロボロに泣かされた。いやもう、勘弁してよ・・・ピザとバドとモンティパイソン度★★★★☆
2021/09/05
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18世紀前半、ヴェネツィアの孤児院・音楽院である「ピエタ」で《合奏・合唱の娘たち》を指揮するのは、かのアントニオ・ヴィヴァルディ。音楽の才能に恵まれたものと恵まれなかったもの。孤児と貴族。音楽家とコルティジャーナ。生まれや育ちや立場の違いを越えて、人々が繋がる。ヴィヴァルディという愛すべき音楽家を通して・・・***全体に静かな展開で、序盤は少し退屈に感じるほどだけれど、主人公エミーリアが自分を捨てた母を探しにカーニバルの夜に初めて街に出る、そのあたりから小説の印象は大きく変わっていく。これは良いぞ。ヴァイオリンの舟度★★★★★
2021/08/04
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なぜ人は、何の関係も無い有名人の不倫に執拗なバッシングを行うのか?褒めて育てるは常に正しいわけではない?日本人は幸福度が低いからこそ長生き?軽く読めて考えさせられる事も多い脳科学の読み物。***まず、脳科学や遺伝子に関わる著書を読む時には注意が要る。人間の行動が脳の本質的な働きによるものである事や、遺伝子を残すための優位な立ち振る舞いであることは事実であったとしても、それで非人間的な行為が免罪されるわけでもないし、またそれらの行為に対する批判や批評が無意味になるわけでもない。そこはおさえた上で、ともすると悪意の海に溺れ死にそうになったり、訳の分からない世間の空気にうんざりとしたりしがちな現在。つかみどころのない「敵」の姿を少しでも客観的に理解するための助けにはなると思います。同性愛は人間以外の動物にも普通に見られて、その存在が子孫繁栄に寄与する、という話は面白い。ヒトの世界でも「ヘルパー仮説」というのがあるそうで、ある事象の理解・解釈というのは一筋縄ではいかないよ、という例として刺激になる。***SNS疲れが顕著なあなたには、是非。【中古】 空気を読む脳 講談社+α新書/中野信子(著者) 【中古】afb
2021/07/28
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いよいよ、一級魔法使いの資格試験がスタート。ストーリーが進むにつれて初期に感じた設定の新さによる感動は当然薄れるけれど、息づく精神は安定して背景を流れるようになる。「悪意」や「嫉妬」や「憎しみ」ではなく、「共感」が伝染を生む状況を渇望する現代社会に、これは必然的に現れた書に違いない。(大仰すぎる?)正面から熱くってのではなくて、力が抜けた感じがいいよね。葬送のフリーレン 5巻
2021/07/18
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法廷の手話通訳士の副題で、2015年9月に「読書メーター 読みたい文庫ランキング1位(日・週・月)」となった小説です。まず、この小説は知らない事をたくさん教えてくれる。聞こえる者と聞こえない者の壁。聞こえない親の元で育った聞こえる子供という存在(コーダという)。手話には種類があり、何より、手話も一つの言語であるということ。そして、人は言語で考える存在である以上、手話という言語も単に通常の日本語の「対応訳」として存在するものではなく、そこに独自の文化が形成されるものであるという事。そういった事を学びながら、それぞれ際立った人物像が織りなす物語は、独特の重みを持って読むものに迫ります。その上で、なんといってもミステリーとしての魅力が十分という贅沢さ。背表紙の「衝撃のラスト」というよくある宣伝文句ですが、その表現に耐えうる出来だと思います。照らす度★★★▲☆と褒めることしか書いてないけど★4まではいかなかったのは、手話の描写を具体的に手の動きで細かく示しているシーンがちょっと過多に感じたため。手話を知らない人間にはどんな動きなのかイメージが難しいので、シーンとして特に重要な一つ二つぐらいに絞れば、もっと読むリズムが良くなったのになぁ、と。
2021/07/09
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第16回松本清張賞受賞作『アダマースの饗宴』を改題した文庫版です。男が原因で人を殺し、8年を務めて出所した笙子が主人公。その男が仕掛ける最後の「ゲーム」が、アブナイ奴らといっしょくたに彼女を巻き込んでいく・・・「ヒロイン型のハードボイルド」と位置付けられているけど、そうなのかなぁ。(ノワールではあると思うけど)何を主軸に捉えればよいのかわかりにくいまま、派手な展開だけは刻々と進んでいく印象で、その中で現実感無くアンニュイな振舞を崩さない感じがハードボイルド的、ってことかな。「女の子の遊びに、勝ち負けはないのよ」という台詞は、終盤のまとめとしてナルホドではある。だけどこころなんてお天気で変わるのさ度★★▲〇〇
2021/06/27
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「人々がスター・ウォーズの新作を待ち望むように、私はシュミルの新作を待つ」とビル・ゲイツが信頼を置く著者の最新作は、数字で分析する世界の歴史と現状。人・国・食・環境・エネルギー・移動・機械の7つの章に仕分けされた全71項目は、いずれも数字をベースにした客観的な事実と、著者らしいユーモアを交えた洞察が交差しつつとても軽快に読める。時に俯瞰的に、時に身近な生活に根差しての文明批評が面白い。その分析の全てに同意できるわけではないが、最終盤に語られる『データ』と『イノベーション』に関する記述は本書における白眉と言える。センセーショナルな喧伝に惑わされずに、人類にとってどのような選択が賢明と言えるのか。もう一度、考え直す必要があることは、間違いはない。Numbers Don't Lie 世界のリアルは「数字」でつかめ! [ バーツラフ・シュミル ]欧州出身で、カナダ在住の著者は、どうやらアメリカに対してはやや批判的だ。一方、日本に対してはかなりの好感を持っているであろうことが文面から読み取れる。(この本の中で、『腹八分目』等の言葉が原著でも日本語のまま書かれているらしい)その著者が、日本語版に寄せての前文において、近年の日本の政治的状況には「懸念」を抱いている旨述べている。まあ言われるまでもなく、我々もそう思ってるんですけどね・・・
2021/06/14
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連続してライトな作品を。何かでかなり強く推されてたのを見ての選択でしたが、何を見たのかは覚えていないw物語は、ミステリーテイストの前半と、恋愛小説的な後半からなり、その構成こそが小説の肝。というのはわからないではない。が、その後半がセンシティブな分、前半の展開がやりきれなさすぎて・・・蝶やしゃぼん玉度★★▲☆☆
2021/05/31
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『天地明察』でこの作家を知った人(私もそのひとり)にとっては相当なギャップだが、本作と同時期に書かれた『マルドゥック・スクランブル』が第24回日本SF大賞を受賞しており、もともとここがホームなのです。【内容情報】(「BOOK」データベースより)従来の人類である感覚者(サード)と超次元能力を持つ感応者(フォース)との破滅的な戦乱から17年、両者が確執を残しながらも共存している世界。世界政府準備委員会(リヴァイアサン)の要人である経済数学者が、300億個の微細な立方体へと超次元的に“混断(シュレッディング)”される事件が起こる。先の戦乱で妻子を失った世界連邦保安機構(マークエルフ)の捜査官パットは、敵対する立場にあるはずの感応者の少女ラファエルとともに捜査を開始するが…著者の原点たる傑作SFハードボイルド。どうです。各種名称も相当厨二臭ただよって、いい感じじゃないですか。それぞれ特殊能力を持つ敵との戦闘シーンは高度に映像的で、パットの心の葛藤が常に物語に緊張を与える構成もさすがにうまい。細かい話はおいて、確実に楽しめるはずです。ラファエルに寄り添い、共に戦う愛犬「ヘミングウェイ」も実に良い仕事をする。東山彰良の『罪の終わり』でもカールハインツは名脇役だった。桃太郎から続く日本SF(?)の得意技なのかもしれないw今のCG技術なら相当良い物が撮れそうなので、誰か映画化しないかなぁ・・・水晶の呼吸度★★★▲☆
2021/05/27
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文庫で3巻になる長篇ながら、最後まで飽きることなく読みきれる上質エンターテイメント。進行するナポレオンを撃退するため、エジプトのマルムーク朝第三位のイスマイールは、武力ではなく「災厄の書」を用いる事を決める。一度読み始めれば、そのあまりの面白さにとりこまれ、他に何もできなくなるという呪いをまとった魔性の書物。ただし、その書はまだ存在していない。これを提案し、語り部を探し出してきたのは、イスマイール・ベイが最も信頼を置く奴隷秘書アイユーブ。この日から、語り部ズームルッド、書家と助手、そしてアイユーブの4人は「夜の種族(Nightbleeds)」となって眠らぬ夜を過ごす。夜毎語られる、古代の蛇神をとりまく剣と妖術の物語。その結末とは。***結末は、語り部が語る物語の結末と、ナポレオンを迎え撃つエジプトの物語の両方を意味するわけだが、小説の多重性は実はそこで終わりではなかったりする。ストーリーの展開や細部の拘り、仕掛けの見事さにも驚かされるが、個人的に一番はまったのは地下世界のコンセプトとその描写。特に最深部の夢の石室、幻想の森のありようは人間の感性の限界を超えてるんじゃないかと思ってしまう。とはいえ、万人に勧められるかと問われると微妙ではある。いうても長いからねぇ。唯一性度★★★☆☆
2021/05/16
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少し前にこの話がテレビで取り上げられたので、観た方も多いのではないでしょうか。興味をひかれたので本になってるものを読んでみました。金子勇という天才プログラマーがいた。ファイル共有ソフトWinnyを開発し、著作権違反幇助の疑いで起訴され、地裁で有罪。高裁で逆転無罪となったが、7年半の間新たな開発は許されず、技術者として最高の時期を棒に振ることになる。さらに悲しいことに、彼は判決確定後まもなく、病に倒れて早逝する。今や常識になっているP2P技術の先駆けであり、この無理筋の起訴やマスコミの無理解がなければ、米国に牛耳られているコンテンツビジネスは、ひょっとすると日本の得意芸となっていた可能性もあったのではとも・・・今更な話ではあるが、教訓ではある。【POD】Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 (NextPublishing) [ 壇 俊光 ]
2021/04/01
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最初3巻までを買ってみたけど、これは追うと決めたのでとりあえず4巻も入手。僧侶が足りんがな、って思ってたらようやく揃って、揃ったと思ったら・・・***フォル爺の話が良き。妻と老後の話をしちゃったりする今日この頃だけにw***軸になる部分はぶれず、そこでの感傷は低減する事はないけれど、ストーリー的には新鮮さを維持するのは難しい?そんなの杞憂に終わるってことを願って、新刊が出たらまた買います。
2021/03/20
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いやぁ、いいよ~。ボドホワイトさんが4年ぶりのポッドキャストで超おススメとしていた「マンガ大賞2021」大賞受賞作。3巻まで読了。その熱いお勧めの言はこちらふたりはボドキュア! 第53話「4年ぶりに!あのふたりが!還ってきた!?」59分30秒あたりから。魔王討伐を終えた後、人間である勇者や僧侶亡き後の世界で冒険を続けるエルフの物語。タイトルの意味、ただ一人数千年の寿命を持つエルフであるフリーレンは、必然的に他の仲間の死を見送ることになる、そういう意味だと思っていた。思ってたら、2巻の終わりで真の意味が告げられ、それにより物語のもう一つの軸が明らかになった感じだ。やるねぇ。もうちょっと内容を知りたいという人は、こちらを。葬送のフリーレン: マンガ大賞の話題作 誕生秘話 感情を揺さぶる理由
2021/03/16
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リンカーン・ライム・シリーズの第7作にして、最高峰の呼び声高いミステリーの傑作。時計のような正確無比・冷静かつ残酷な連続殺人犯「ウォッチメイカー」を追うのは、過去の事故で四肢麻痺となりながらも驚異的な鑑識能力を武器に調査を続けるリンカーン・ライム。事件は、平行して進む警察官の汚職事件とも絡み、読者を何度も小さなミスリードで驚かせながら、いよいよ大仕掛けの謎解きで大団円を迎える。と、思ったらまだ下巻のまるまる半分残ってるんですけど・・・ってなる。といっても、「どんでん返し」のストーリー展開が派手なだけの小説ではない。その魅力の一番の源泉はなんといっても登場人物の個性と背景であることは読んだ者の共通意見でしょう。ライムの皮肉屋としての設定も一見ありがちに見えますが、彼の考え方が描かれる序盤(文庫上巻20p)の記述が浅薄さを打ち消している。”ビフォア・アンド・アフター一瞬の出来事が、人を永遠に変えることがある。それでもリンカーン・ライムは信じている。そういった出来事を過度に偶像化すれば、その出来事にいよいよ力を与えることになる。悪を勝たせることにつながる。”私はここでがっちり心をつかまれました。公私にわたるパートナーであるアメリア・サックス、この作品でのゲストプレイヤーであるキネシクス(発言や表情・体の動きなどから証言の真偽を判断する技術)のプロ、キャサリン・ダンスなど、上質のミステリーに欠かせない「必要十分にして過剰ではない人物描写」が行き渡っている。ミステリーはいかに気持ちよく読者を騙してくれるか、ってことが面白さの肝なんだけど、そこに関しては完璧でしょう。エンディングで、予想したのとは全く違う形で残されたピースが回収され、それがまた実に気持ちのいい方向なんだな。これはやられた。正確無比度★★★★★
2021/03/14
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アラサー女子黒木さやか。寿退社したその日に、婚約相手の浮気を発見して破断。元々勤めていた出版社には戻れず、系列のファッション誌編集部に復職する。超クセが強い上司宇佐美に命じられたのは、「雑誌の企画として婚活し、半年以内に結婚できなければクビ」というトンデモな内容。高級ブランドのうんちくで上からのアドバイスをかましてくる宇佐美と、元カレや取引き先のイケメンの間で揺れ動くさやか。デコボココンビの行きつく先は?っていう粗筋は結構オモシロ。実際何度かくすりと笑ったし、ちょっとぐっとくるところもある。けど、それ以上にいろんな角度からツッコミどころ満載なのも確か。ドラマ化して、ヒロインは波瑠なんだそうだが、イメージはかなり違う。もうちょっと三枚目が入った方が原作の風味は出るかな。背中にグーパンチ度★★▲☆☆
2021/01/31
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困難に真正面から挑み、何よりも国民と日本の未来の事を考え、自分の言葉で語りかける。そんな、日本初の女性首相の誕生を描く。信念の人、相馬凛子を支えるのは政治とは無縁であった夫の日和。鳥類学者で良家の次男が、大嵐のような政治ドラマに巻き込まれながら、健気に妻を支える姿が微笑ましく、政治小説というより夫婦愛の物語の要素の方が強め。あまりにも言葉が軽い政治家に多くの人が絶望する昨今、読んでいると「今書かれた本なんじゃないか」と思ってしまうが、ハードカバーが出たのは2013年。中谷美紀/田中圭のコンビで映画化され、今秋公開予定。それにあわせての新装文庫版です。ファム・ファタール度★★★☆☆
2021/01/21
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昭和30年代、福島から東京に出稼ぎに来て、東京オリンピックのための建設現場で働いた主人公。しかし息子の死をきっかけに、その人生の景色は変わってしまう。心配する孫と暮らす家を出て、ホームレスとなった彼の視点で描かれる上野駅公園口から恩賜公園の情景と出来事。全米図書賞の翻訳文学部門を受賞した話題作。新年に読む本ではないというツッコミはなしで・・・不忍度★★★☆☆見直すと何も感想らしきものを書いていなかったので、追記。戦後の復興があって、1964年の東京オリンピックがあって、ジャパンアズナンバーワンと言われ、でもそれは遠き昔となり、フクシマがあって、何も片付いてはいないけど、次の東京オリンピックが決まり・・・そういう中で、本作がある。(単行本は2014年刊)その段階だと、いろいろ書けたかもしれない。で、2020年がこうなって、なんだか、何をどう思ったらいいか、わからなくなった。と、そういう事です。
2021/01/06
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今年読んだ本から特におすすめしたい作品を5作。毎年おことわりしていますが、今年私が読んだ本であって、今年出版された本ではありません。今年は★5つは3作、★4つは10作以上ありました。○ わたしがいなかった街で / 柴崎由香 情景を描き、人を描き、それらが一体になってメッセージになる。 正統派の小説作法で万人にお薦めできる一作。 未読なら是非。 ○ 詩羽のいる街 / 山本 弘 人に親切にするのが仕事? ずっとお金は持たずに生活? 概要だけ聞けばファンタジーだと冷笑したくなるかもしれない。 けど、読み終わったらあなたも、詩羽の魅力にすっかりやられちゃってるはず。 うんうん、って言ってくれる人が多数派である限り、きっとこの国はまだ大丈夫だと思う。 ○ トリニティ / 窪 美澄 昭和の高度成長期を駆け抜けた三人の女性を横軸に、三代にわたる女たちの苦悩を縦軸にした、立体感ある物語。 やはり女性を描かせたら天下一品だ。 私にうなるほどお金があったら、映画化権を買いたい。 そして、一週間ほどキャストで悩みたいw ○ お縫い子テルミー / 栗田有起 第一級に軽快なストーリーの中に、人生の機微がこれほど真摯に織り込めるのは、才能か個性か。 栗田有起という作家を知ることができたのが2020年の成果の一つです。 ○ 水曜の朝、午前三時 / 蓮見圭一 「エモい」度でいえば、今年これが一番刺さった。 万人に同じ感傷が生まれるかは保証の限りではない。 他の芸術でもそうだと思うが、そんな作品の方が記憶に残るものだったりするわけです。他に、コンビニ人間 / 村田紗耶香リアル・シンデレラ / 姫野カオルコクオリティランド / マルク=ウヴェ・クリング愚者の毒 / 宇佐美まことなども強く印象に残っている作品たちです。今年も多くの作品から、感動をもらったり、時を忘れて楽しい時間をもらったり、あるいは、2020年、変わってしまった世界の中で自分を見直すメッセージをもらったりしました。読み手として幸せなことに、けしてその材料が尽きることは無いのです。では、来年こそは、諦めや怒りより、希望と喜びが上回る年になりますように・・・
2020/12/31
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女性作家マッツ夢井のもとに、「文化文芸倫理向上委員会」なる組織から召喚状が届く。連れていかれたのは断崖に立つ療養所。「社会に適応した作品」を書くように命じられ、軟禁状態に置かれた彼女の悪夢は、どんな結末を迎えるのか・・・***この際、ストーリーの細かいところはどうでもよい。いや、まあよくはないのだけれど、感じた事はそのような細部の話ではなかった。少し前に読んだ「アカガミ/窪 美澄」でも感じたこと。彼女達は怒っている。もはや、冷静に議論する段階ではないというほどに。男たちが怒らないことにも、もしかすると怒っているのかもしれない。拘束衣度★★★★☆
2020/12/20
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妹夫婦が残した借金と、言葉を発しない甥を引き受けて精神をすり減らす葉子が、自然豊かな武蔵野の高台の家に家政婦として住み込みを始める。心を許せる友と、優しい主人に囲まれて新たな生活を始める第一章。1960年代、石油にエネルギーの主役を奪われ、廃坑となった石炭の街で最底辺の暮らしから抜け出そうとする少年と少女を描く第二章。年老いて伊豆の高級老人ホームで過去を振り返る主人公を描く第三章。しかし、この構成が実は大変な仕掛けを内蔵していて、ミステリーとしての驚くべき完成度を形作る。それだけでなく、深い絶望と恐怖をバネにして物語はとてつもないエネルギーで読者を翻弄する。なにしろ通常の小説なら「衝撃のラスト」と表現されるであろう結末が、第一章の最後で早くも訪れるのだから。ここからどうしてくれるのかと訝る中での超重量級の歴史を背景とした第二章。そして、残った最後のピースが残酷に、しかし最後はある種の希望を紡ぎつつぴったりと嵌まっていく最終章。これはすごいぞ。***第70回日本推理作家協会賞受賞作。帳尻度★★★★☆
2020/12/09
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プロローグ、某所遺体安置所。物語は二人の刑事の会話から始まる。そして本編は一気に22年の時を遡り、少年達のひと夏の過酷な経験が描かれる。この第一部が作品の魅力の中心だと言えましょう。2016年、第3回新潮ミステリー大賞受賞時、伊坂幸太郎や貴志祐介など審査員に評価されたのもその部分です。少年の啓君が男前すぎたりするのも、主人公のセンシティブすぎる感性も、全てが第二部、中年になった彼らの姿との対比で強烈に刺さってくる。多少、強引な設定が私は気になってしまいましたが、そもそもミステリー要素がこの小説の肝ではない。ということで許すかどうかが評価の分かれ目でしょう。笹舟度★★★☆☆
2020/11/28
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戦後十数年という時期、漁業を主な生業とする瀬戸内の小さな島が舞台。生徒が10人にも満たない小学校に、病欠の補充として一人の教員が着任する。大きな体と優しい目をしたその男は、子供の頃の病気が原因で口がきけない。喋れなくて子供たちをどうやって教えるのかと反発する大人たちを後目に、子供たちは彼の大きく深い心と強さに惹かれ、人生で一番大切なことを学んでいく・・・***瀬戸内の自然と素朴な人々。ストレートなメッセージが胸に響きます。こんな時代だからこそ、もう一度確認しておかなければならない事もある。そういう気にさせられます。第7回柴田錬三郎賞受賞作。水見色度★★★▲☆***前回から、★での評価を★2から4までは0.5単位とすることにしました。0.5は▲で表記。映画の方では前から採用していたのですが、こちらでも。この範囲がとても微妙で悩むことがあったので・・・
2020/11/15
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「その可能性はすでに考えた」の続編。といっても、一作目は読んでいないので、それとの比較はできません。ただ、この著者は「探偵が早すぎる」の作者でもあるのです。ドラマになったのは何話か観ていて、あれ、面白かったですよね。なので、帯に踊るフレーズの中で、【2017本格ミステリ・ベスト10 第1位】の方ではなく、【『探偵が早すぎる』著者のもう一つの代表作】の方に惹かれて読んでみたわけです。どちらも、従来のミステリというか、探偵小説の常識を超えた設定になっているのが特徴。『探偵が早すぎる』の探偵は事件が起こる前に事件を解決し、『その可能性はすでに考えた』の探偵は、「考えられる全ての可能性を否定した結果として、その事件が奇蹟であることを証明する事」をライフワークにしている。何てことを発想するんでしょう。ですが、「考え得る全ての可能性を否定する」という作業はやはりまどろっこしい。確かに、序盤で何気ない描写と思われたこと(家政婦の髪の色など)が最後に効いてきたりと、ミステリーとしての質は中々に高いとは思う。それにしても、普通の読者が求めるのは、スカっと切れ味鋭く、スッキリ納得だと思うわけですよ。「じっちゃんの名にかけて」「真実はいつもひとつ」決め台詞は1回が普通ですから・・・オッドアイ度★★▲☆☆
2020/11/09
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とにかくこの小説を世に出すべきだと思いました。 ミステリーかどうか、そんなことはどうでもいいなあ、 と感じるほど僕はこの作品を気に入っています。 伊坂幸太郎という帯を見て読まないで済ませられる人がどれだけいるだろう。第2回新潮ミステリー大賞受賞作なのに、ミステリーかどうかはどうでもいいって言うんですから、なんですかって話じゃないですかwあらすじの紹介は全く意味はないのでやらない。読み始めてしばらくはとにかく何がなんだか全くわからない。少し進めば、タイトルからの示唆もあって「ミステリー」的(あるいはSF的)な部分での軸はわかるような気がしてくる。にしても、支離滅裂に見える展開は最後まで回収の気配を見せず、不安定さに軽い酔いさえ感じ始める頃、その寓話的な意味は体に沁み込み沈着している。そして、自分の足元の怪しさに軽く震えたりするかもしれない。ちょっとアブない。ドッペルゲンガー度★★★☆☆
2020/10/29
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本ブログのアクセスカウンターが777777を超えました。だからどうというわけではないですがw最近は読書レポートがメインになっちゃってますが、いつも見ていただいている皆様、ありがとうございます。皆さまの次の読書候補に、少しでも参考になれば幸いです。読書レポートは「最近、読んだ本を教えて!」という楽天ブログのクチコミテーマを選択していますが、先ほど確認すると「このテーマの人気の記事」ランキングの1位から4位に最近の拙ブログの記事が上がっておりました。ありがたや。1.天龍院亜希子の日記 / 安壇美緒 2.鹿乃江さんの左手 / 青谷真未3.木曜日にはココアを / 青山美智子4.何者 / 朝井リョウさて、クイズです。この4つには共通点があります。それは何でしょう。
2020/10/25
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就活をめぐる大学生5人の虚像と実像。SNSでのつぶやきを随所にちりばめた構成が現代的で、かつその媒体の持つ意味に迫る内容だけど、直木賞受賞で評価されたのは当然そこだけではない。タイトルの通り、まだ「何者」でもない若者達が「何者」かになりたくてあがく物語ではある。同時に、人が普遍的に持つであろう「何者」かであるように見せたい感情を暴き、その同じ刀でそれを客観視する「私」に切り返してくる。普通の小説では読み手は安全な位置から物語を楽しめるが、稀にそうはいかない物に出会ってしまう。『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞受賞の著者が、さらに研ぎ澄ました感性で我々の自我に問いを発する傑作です。ごくありていに言えば、ヤバいですw裏アカウント度★★★★☆
2020/10/21
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主人公田町は人材派遣会社に勤める27歳。自社のブラック気味な慢性人材不足に消耗する日々。彼女はいるけど現在プチ遠距離で自然消滅も間近か。偶然見つけた同級生の日記をチェックするのが惰性的な生活の唯一のアクセント。名前は派手だけど中身は地味で、小学校時代イジメられていた彼女の日記は、それなりに充実して見えるのにどこかクールな空気を醸し出す。***どこにでもありそうな若者の生活が、軽い口語調でただ描かれていく・・・ように途中までは感じる。その感覚が終盤で一気に変わる。作品のどこにフックするかは人によってそれぞれだとは思うけれども、おそらくこの小説に関しては10人中9人は同じ場所だろう。と思うので、そのキーフレーズはここでは明かさない。気になったら一度読んでみて下さい。第30回小説すばる新人賞受賞作。ロストヒーロー度★★★☆☆
2020/10/14
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連作短編職人、青山美智子のデビュー作。小さなカフェで始まるちょっと素敵な恋の物語から、登場人物が繋がっていく形式で12話。東京とシドニーを結び、最終話で見事に最初の場所に戻ってきます。うまいねぇ。ちょっと直截的に「いい話でしょ」感を押し出してくる感じが時々気になるけど、まあそれはひねくれたオッサンの戯言と思ってくれて良い。とても優しく、暖かな物語達です。***いずれにせよ、人は動いてみること。新しい出会い(人とは限らないけど)が何かを変えうる。別に極端に変われと強迫するわけではなくて、多少なりとも変化がないと生きていけない生き物なんだと思う。それだけに、コロナで動けないこと、出会えないこと、話せないことは強烈な呪いなのだと、どうしても思考がそちらに向いてしまう2020年です。千昌夫?度★★★☆☆
2020/10/07
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「この学校には魔女が棲んでいて、願い事を一つだけ叶えてくれる」「契約には魔女とキスをすること」ある女子校の生徒達の間で語り継がれてきた噂。誰も本気で信じているわけではない、のだけれど・・・新入学早々、グループからはみ出した腐女子。周囲になじめない転校生。過去に同性から手痛い裏切りにあったことで自分を殺し続ける養護教諭。彼女らの前に現れた魔女が仕掛ける誘惑。その結末は・・・***これは驚いた。良い。デビュー作で第2回ポプラ社小説新人賞・特別賞を受賞した作品なのだが、全く知らない作家だった。キャラクター良し、プロット良し、構成もうまい。女の園の物語が、奇妙な、だけれども独特の緊張感を持って読み手に響く。(私のようなオヤジ読者であってもw)なにより、重要なシーンが映像的な美しさと迫力で支えられていて、これが実に印象的で見事だ。百合度★★★★☆
2020/10/03
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