Over The Moon.

Over The Moon.

【あ】【た】【そ】【せ】【は】

【あ】明日になれば、すべて。
   ★同時消化★【た】ただの婆さん【そ】その他の人々【せ】台詞忘れた!【は】パラボラアンテナ危機一髪



『以上、松島高校演劇部、“あし』
「あああ緊張する~・・・」
 胸の前で両手を握りながら山崎が体をゆする。目が慣れてきて、暗闇でも彼女のかつらからひゅんとはねたように前髪が除いているのが見えた。
「どうしよう男爵、次だよね次、次だよね!」
「次だよ」
「えーもーどうすればいいの私? あー、緊張するよもー。何これ。なにこれ、ねえ、どうしよう!」
「・・・いいから落ち着け」
 言うと、彼女は真剣なまなざしでこちらを見つめてから、ゆっくり首をたてに振った。
「うん、そうね、落ち着こう私、私はおばあさん、ただの婆さん・・・」
そうつぶやきながら体をゆっくり向こうに回転させる。相変わらず両手はしっかり握ったままだ。暗示をかけようとしているのだろう。
 脇田は息をついた。つきながら、頭の片隅で男爵の最初の台詞を思い浮かべる。何をしているのかねチミたち、私の屋敷で勝手にずかずかと・・・・
「男爵男爵! 結局俺がガラス割るの下から二枚目のガラスでよかったっけ?」
 突然村上が背後から小声中の大声をかけるので、台詞が吹き飛ぶ。ああもう、と思いながらも、上半身だけを後ろにひねる。
「そう下から二枚目、の右のやつ」
「ありがとう!」
 村上は小気味よく片手を挙げて、また台本に目線をおとした。そして小声で台詞をつぶやきながら、台本を持っていないほうの手で動作の確認をする。この期に及んで台本にかじりつくのは嫌だったので脇田は持ち込まなかったが、今になってあの台本が手元にないことが妙に心もとなく感じられてきた。あれほど練習したのに、台詞に自信がなくなってきそうだった。
「男爵!」
 また山崎の声だった。
「なに」
振り向くとそこに汚い顔をした婆さんがいた。
「どうしよう、台詞忘れた!」
「はぁ!?」
「何だっけあれ、この土地の守り神はあんたらの手に負えん、と帰りなされ、の間の台詞ー!」
 とっさに言われて脇田は言葉が出なかったが、向こうから住吉が
「分かったか、ですよ!」
と口を挟んでくれた。
「ああそうか、ありがとうターニャ!」
山崎は必死に手を振る。けれどこちらを向くとまだ顔をしわくちゃにしていた。
「あああ男爵ー、あたしゃもうだめだー、通行人でいいー、その他の人々になるー」
 うわーんと山崎が泣きついてきたので、その肩をばしばしと叩く。
「何を今更言ってんだ! あんだけ練習しただろが!」
「えええだってだってだってだってーー!!」
「全部今日のためにやってきたんだ、そうだろ! もう明日になれば全部まっさらに台詞忘れていい! でも今はだめだ許さん! 大丈夫、お前ならやれるから!」
「ううう」
 まだ満足いかなそうだったが、脇田は山崎の両肩をつかんで、まっすぐこちらを向かせた。
「いいか、お前はこれから40分ちょっと、年取るんだ。60歳くらい。お前は婆さんで俺は男爵、俺は、男爵」
 言い聞かせる。眉を八の字にしていた山崎も、次第に腹をくくったのか唇を真一文字に結んで、しっかりうなずいた。
「ええ。ええ、男爵」
「婆さん、頑張れよ婆さん、大丈夫だ、絶対成功する」
「ええ、ええ男爵」
『続きましては青風高校演』
 聞きなれた名前に心臓がはねた。
「男爵!」
 凛とした眼の婆さんが、固く握ったこぶしをあげていた。
 男爵はうなずく。
『ろうと思います・・・演目は“パラボラアンテナ危機一髪”』
 腰をあげて薄暗い舞台を見た。
 開幕のブザーが鳴る。




+・・+・・+・・+・・+・・+



・・・以上です。
これは何というか、
お題同時消化を目的とした話です。
パラボラアンテナとか 無理やり感満載!! (積極的墓穴)
えー、でもざっくり書いた割りに気に入ってるんですよ。
こういう舞台裏、本番前の雰囲気とか好きなんですよね。
ちなみに「Fin」がないのは続く感じがするから。
書く気はあまりありませんが (何なんだ)。
要望があれば書くかも・・・(もちろん他のお題の話もですが)。


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