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今日は余り可愛くない虫を紹介する。読者に嫌われるかも知れないが、このオナガウジの成虫であるハナアブ類は何回も掲載しているし、その解説の中でこのオナガウジについて頻繁に触れているので、一度写真を掲載する必要があると思ったからである。オナガウジ.ハナアブ類の幼虫だが、成虫が何かは分からない。尾っぽは呼吸管(2008/05/12) オナガウジは汚水に棲息する。我が家の庭には汚水など普段は有る訳ないのだが、私の不在中に誰も蹲踞(つくばい)の水を換えなかったので、水が腐りオナガウジが発生した。呼吸管の長さは可変。一番長いときは、この写真よりももっと長くなる(2008/05/13) 胴体の長さ15mm程度、尾っぽは呼吸管で、長さは可変。どの位変化するか良く分からないが、縮むと胴体と同じ位、伸びると胴体の8倍位にもなる。呼吸管を縮めた状態.緑褐色の太い管は消化管であろう(2008/05/13) 暗い日陰なのでストロボを焚いている。ストロボで撮ると器官の一部が妙に白く光ってネオン管の様に写るが、肉眼では全体として灰色っぽいボヤ~とした色である。 この白く光っているのは、気管系であろう。中に空気が入っているから光るのだと思う。呼吸管は後気門で、前方には前気門がある。右下の丸い部分は口だと思われる(2008/05/12) オナガウジは腐敗した動植物を餌とする、とされている。時々、数匹が団子の様に固まっていることがある。昆虫か何か水に落ちて死んだ後腐敗し、それに集っているのかも知れない。 頭を下にして壁面にくっ付き、ジッとしていることも多い。屹度、御休み中なのであろう。蹲踞の浅い部分で摂食中のオナガウジ.ストロボで気管?が光って見える.(2008/05/13) このオナガウジが一体どんなハナアブになるのか、気になるところである。1週間程飼育してみたが、餌が欠乏して痩せ細ってしまったので、元の蹲踞に戻してやった。食事中のオナガウジ.苔様のものを食べているのか、それとも、その中に棲む原生動物を食べているのか・・・(2008/05/13) ハナアブ類はヒラタアブ類と同じハナアブ科に属し、囲蛹を作る。囲蛹は幼虫の表皮が固まったものなので、囲蛹にもシッポがある。シッポ付きの囲蛹と成虫も出来れば紹介したいものである。
2008.05.21
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今日はクサギカメムシの初齢幼虫を紹介する。赤と黒の派手な色彩の幼虫である。クサギカメムシの成虫と幼虫(終齢と若齢)は、一昨年に紹介した様に、全体的に黒っぽい地味な色合いである。この初齢幼虫も2齢になるとそれらと同じ黒っぽい色になる。クサギカメムシの初齢幼虫.孵化直後は無色(透明)と黄色で1時間後には無色、青、黒となり、その後赤と黒になる(2008/07/19) 多くのカメムシは、孵化後卵上やその近くに集団をなして留まり、数日を過ごす。この間、餌らしい餌は摂らず、やがて脱皮して2齢になる。 飯を食わないで何をしているかと言うと、見ていてもまるで動かないので良く分からないが、文献に拠れば、卵の表面に付着している「魔法の薬」を食べたり、葉っぱの上に溜まった水を飲んだりしているそうである。上の写真の部分拡大.殆ど真ん丸.体長約1.8mm(2008/07/19) 植物から師管液を吸汁して生きる虫は、自分独りでは生きて行けず、常にある種の細菌と共生する必要がある。師管液に含まれるアミノ酸は量が少なく、また、ヴィタミン類も不足している。更に、アミノ酸を含んでいるからと言っても、必須アミノ酸をバランス良く含んでいる訳ではない。師管液だけでは、栄養不良になってしまうのである。そこで、師管液に比較的多量に含まれている糖類を摂取して必須アミノ酸やヴィタミン類等を産生する細菌と共生する必要が出て来る。アブラムシの場合は、ブフネラと言う共生菌を発生のかなり早い時期に母胎内で供給され、それを体内に飼っている。次の日.卵殻の跨っている個体は居ない卵殻に付いている洋凧の様なものは卵殻破砕器これをどう使うのかは調べても分からなかった(2008/07/20) 先の「魔法の薬」とは、親が産卵時に肛門から排泄したもので、これに子供の必要とする共生菌が含まれているのである。カメムシはアブラムシの場合とは異なり、初齢幼虫の時に親の排泄物を食べて、その中に含まれている共生菌を腸の盲嚢に送り込む。 草食性のカメムシは、師管液よりはずっと栄養価の高い種子を主に吸汁する種類が多い。種子にはアミノ酸はかなり豊富に含まれているはずだが、ヴィタミン類は足らないのかも知れない。或いは、適当な種子の無い時期に師管液や果汁を吸汁して生き延びる為の用意なのだろうか。上の写真で右側に居る個体.昨日より少し伸長し体長約2.2mm(2008/07/20) このクサギカメムシが孵化する一月半ほど前には、ガラス戸に付いていた卵塊2個からチャバネアオカメムシが孵化してきた。我が家としては珍しいことである。今年はカメムシの流行り年かもしれない。
2008.07.31
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今日は、久しぶりのハエトリグモである。シラヒゲハエトリ、建物の外壁や塀などに生息する種類らしい。一寸ネコハエトリに似ているが、腹部に殆ど紋が無く、全体的に白っぽい。眼の下に白い帯があり、これが頭胸部の後の方まで繋がっているのがこの種の特徴である。 ハエトリグモとしては、かなり毛深い。しかし、何故かクモは足が短くて毛深い方が可愛い。スイレンボクの枝を匍匐前進するシラヒゲハエトリ(2007/09/03) 実は、このハエトリさん、前の日に何処からか私の服にくっ付いて来て、仕事部屋の中で行方不明になっていたのである。部屋は外光が入らない様に締め切ってあり、スタンドが一つあるだけなので、一旦逃げ出したハエトリグモは直ぐに闇の中に消えてしまった。潰されなければよいが、と思っていたら、次の日、消えた場所と寸分違わないところに現れた。今度は、チャンと捕まえて、庭に放してやった。シラヒゲハエトリ.こう言う変な顔がお得意(2007/09/03) 放したのは木の葉の上である。建物の外壁や塀などが住処なのなら、一寸不適切だったかも知れない。正面から見たシラヒゲハエトリ.ハエトリらしく前中眼が大きい(2007/09/03) かなり敏捷で、彼方此方休む暇もなく歩き回り、また、葉から葉へ飛び移り、焦点を合わせるのに結構苦労した。背側から見たシラヒゲハエトリ.体が厚いので被写界深度に入り切らない(2007/09/03) クモの呼吸器官には、余り効率の良くない書肺と昆虫と同じ気管系の2つがある。原始的なトタテグモや所謂タランチュラなどは書肺しか持たないので、直ぐに息切れがする。獲物を捕らえる一瞬は、体内に既に溶けている酸素を使うので素早いが、後が続かない。一旦酸素を消費してしまうと、その補充に時間がかかるのである。 一方、ハエトリグモ類は、クモとしては効率の良い気管系が発達している。だから、この様に休む暇もなく素早く歩き回っても息切れしない。ハエトリ共通の姿勢.黒い上顎が目立つ(2007/09/03) クモさんは、スイレンボクからブルーベリー、西洋シャクナゲと移り歩き、やがてニワナナカマドの茂み中へ姿を消してしまった。 これまでに紹介したハエトリグモは、アリグモを含め、全部でたったの4種。この辺りにはもっと沢山のハエトリグモが居る筈で、4種とは如何にも寂しい。次にはどんな種類が現れるであろうか?
2007.09.12
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今日はまたルリタテハ(Kaniska canace)の幼虫である。以前「ルリタテハの幼虫(2~3齢)」で、4齢と5齢は一緒に掲載するつもりだと書いたが、5齢の写真が多くなりそうなので、4齢だけを別にして先に掲載することにした。ルリタテハの4齢幼虫.ホトトギスの葉裏で丸くなっている(写真クリックで拡大表示)(2009/09/07) 4齢は3齢とよく似ている。3齢の体長が1~2cmであったのに対し、4齢は2~3cm位と大きくなってはいるが、体の模様や棘の構造の変化は比較的少ない。平均的には、4齢の方が黄色の部分が増え、体が3齢よりも太く(体長に対する比率)なっていると思う。動き出した4齢幼虫.上の写真の右側の個体(写真クリックで拡大表示)(2009/09/07) 棘状突起の構造に関しても、3齢と4齢の間に明確な違いは無い様に思われる。4齢の方が、突起から出る棘の数が少し多いと言う程度である。最初の写真で左側に居る個体.頭部が小さい(写真クリックで拡大表示)(2009/09/07) 体が体長に比して太くなった結果、頭部の体全体に対する比率が減少し、頭が小さく見える。これはかなり顕著で、些か不釣り合いな感じがする。 5齢(終齢)の期間はかなり長いが、4齢は3齢と余り変わらず、2~3日で脱皮して5齢になった。2番目の写真と同じ個体.頭部に「角」が見えるが個体変異らしい(写真クリックで拡大表示)(2009/09/07) 7頭いたルリタテハの幼虫は、本日9月18日現在、既に全部蛹化してしまった。しかし、まだ羽化したものは無い。1頭だけ特に速く生長していた個体が10日(9月)の夕方に前蛹となり次の日の朝に脱皮して蛹となった。8月27日に孵化したとして、僅か15日で蛹化したことになる。その後を追っていた5頭は13~15日に掛けて相次いで蛹化し、最後に遅れていた1頭が昨日(17日)前蛹となり、今日(18日)の早朝には既に蛹になっていた。3番目の個体がお食事中.上唇の窪みが顕著(写真クリックで拡大表示)(2009/09/07) 庭に残した数頭の幼虫は、3頭が終齢で、そろそろ蛹化しそうな気配。1頭は何故か3齢の初期で生長が止まっている。原因は不明。その他、行方不明の個体も少しある。また、これらとは別に、カサブランカ(ユリ)に付いている幼虫を1頭見付けた。恐らく、親は同じで、同じ日に産卵したものと思われる。此方は終齢になったばかりの様に見える。[追記]これらの幼虫は全て無事成長し成虫に羽化した。以前、以降の記録は下記の通り。 内 容 掲載日 卵と初齢幼虫 8月29日 2~3齢幼虫 9月 8日 5齢(終齢)幼虫 10月 6日 前蛹、蛹と成虫 10月19日[悲報]:ルリタテハの幼虫とは直接関係ないが、先日悲しい出来事があったので、此処に書いて置くことにした。 我が家の庭では、一昨年辺りから、蝶の幼虫が蛹になると鳥に食べられてしまうと言う「事件」が屡々起こっている。昨年は、中庭に生えていたスミレを食べて育ったツマグロヒョウモンの幼虫4~5頭が無事蛹化したので喜んでいたところ、2~3日の間に全て無くなってしまった。引きちぎられた蛹の尾部だけが残っていた。鳥の仕業であろう。中庭に入って来る鳥は恐らくスズメだけだと思われるので、此奴らが犯人と思われる。 ハギに付いているキチョウ(キタキチョウ)の幼虫も蛹になると屡々鳥に食べられてしまう。先日、15頭以上いた終齢幼虫の内の1頭が蛹化したので今年は保護したが、次に蛹化したものを保護しようと思っていた矢先、鳥のヤツに先を越されて食べられてしまった。しかも、蛹ばかりでなく約15頭いた終齢幼虫も1頭残らず居なくなっている。全部、鳥に食べられてしまったらしい。 スズメバチ科のハチや鳥に補食されない様、ハギの鉢を中庭の奥の方に置いてあるのだが、スズメに対してはもう効果が無いらしい。こうなると、キチョウの幼虫が大きくなり目に付く様になったら保護する以外に手立ては無いのかもしれない。10数頭が次々と羽化するのを楽しみにしていたのに、全くガッカリである。意気消沈。
2009.09.18
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帰国の挨拶を書いたので、次は昨年撮った写真から何かを紹介するつもりであったが、余りに沢山写真があり、どう整理するか迷っている内に3週間近くも経ってしまった。 既に調整を終えたマガイヒラタアブの蛹(囲蛹)の写真が沢山あるのだが、蛹だけでは読者も面白くなかろう。やはり成虫と一緒に紹介したい。しかし、楽天ブログの文字制限の為、写真は精々9枚が限度である。其処で、蛹の写真は一纏めにして写真の枚数を減らすことにし、成虫と一緒に掲載することにした。3枚一緒にして、縦幅1370ピクセルの写真もあるので御注意。マガイヒラタアブの蛹.上は蛹化した日、下はその3日後(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26,29) マガイヒラタアブ(Syrphus dubius)の幼虫は今年の2月18日に掲載した(撮影は昨年=2010年の11月23日と25日)。今日紹介する蛹と成虫は、その幼虫のその後の姿である。 最初の写真で上の方は、昨年の11月26日(幼虫写真4番目の次の日)に撮影したものである。蛹化直後はもっと白かったのだが、うかうかしている内に色が濃くなり、撮影した時には御覧の様に赤茶けた色になっていた。しかし、囲蛹の内側には幼虫と同じ様な模様が認められる。 下の方は、その3日後、幼虫時の模様は不明瞭である。蛹化3日後のマガイヒラタアブの蛹(写真クリックで拡大表示)(2010/11/29) 3日後の囲蛹を別の方向から撮ってみた。本当はもっと沢山あるのだが、3枚だけにした。一番下は後気門を拡大したものである。前気門は真ん中の写真の隠れて見えない下側にある。蛹化後9日、羽化前日のマガイの蛹成虫の黄と黒の縞が透けて見える(写真クリックで拡大表示)(2010/12/05) 次は羽化前日の写真。写真全体に少し黒っぽく見えるかも知れないが、これは蛹が色濃くなったからで、下の葉っぱの色はかえって少し明るくなる程度に調整してある(コナラの葉っぱが次第に枯れて黄色くなって来ているのに御注意)。 囲蛹の下側にヒラタアブの黄と黒の模様が透けて見える。羽化したマガイヒラタアブの雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 次の日の朝に羽化した。体が硬化したのを確認してから冷蔵庫で数時間冷やしてコナラの葉裏に置き、充分元気になる直前に撮影したものである。マガイヒラタアブやその仲間は成虫越冬なので、寒さに強い。1℃の冷蔵をに入れて置いても、室温に戻すと、忽ちの内に元気になり、飛んで行ってしまう。 こう云う寒さに強い虫の屋内撮影は、結構面倒なのである。横から.翅の基部下側に見えるのが胸弁下片なのか良く分からない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) マガイヒラタアブはハナアブ科(Syrphidae)ヒラタアブ亜科(Syrphinae)ヒラタアブ族(Syrphini)ヒラタアブ属(Syrphus)に属す、最も正統的な?ヒラタアブである。同属にはケヒラタアブ、オオフタホシヒラタアブ、キイロナミホシヒラタアブの他、九州大学の目録には全部で10種が載っている。しかし、その10種の内、上記3種の他は総て?マークが付いており、どうも分類学的にハッキリしない点があるらしい。尚、マガイ(以下、「ヒラタアブ」を省略)は、最近キイロナミホシから独立したとのことで、九大目録には載っていない。 しかし、マガイの学名を正式に書くとSyrphus dubius Matumura, 1918 であり、このMatumuraは日本の昆虫学の開祖と云われる故松村松年氏(北海道帝國大学教授)であろうと思われ、それが最近まで認められなかったと云うのはどうも解せない。九大と北大との派閥争いか?。前から.複眼は無毛、顔の正中線には明確な黒条はない(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) 一方、ハナアブの研究者として知られる市毛氏の「ハナアブ写真集」には、マガイと上記3種の他、最近記載されたツヤテンとマガタマモンを加えた6種が載っているだけである。 どうも、Syrphus属にはまだ不明な点が多い様である。しかし、和名の付いた上記6種に関しては、余り問題は無いらしい。斜めから見た図.少し前ピン(写真クリックで拡大表示)(2010/12/06) さて、マガイの属すSyrphus属と他のヒラタアブとの違いを示さなくてはならない。先ず、Syrphus属のヒラタアブは、模様のよく似たフタホシやナミホシ等のEupeodes属の種よりやや大型であり、飛び方も力強く速い。図鑑や写真を見ると、良く似ており区別が難しいが、実際に飛んでいる所を見ると、かなり雰囲気が違う。また、フタホシやナミホシには、顔に黒色中条があるが、Syrphus属には明確な黒色中条はないらしい。 更に、今日の写真では明確でないが、Syrphus属の胸弁下片には黄色の長毛が生えている。これは、此の属の大きな特徴である(Manual of Nearctic Dipteraに拠る)。別個体.12月16日に羽化.これも雄(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) Syrphus属とすると、先ず、マガタマモンとツヤテンは、木野田君公著「札幌の昆虫」に北海道固有種とあるので、考慮する必要はないだろう。また、キイロナミホシも、北海道と東北以外には殆ど記録が無い様なので、除外して良いと思われる(拙Weblogを含めて、関東以西のキイロナミホシとする写真は、市毛氏に拠れば、マガイの見誤りらしい)。 残る3種の内、ケヒラタアブには複眼に毛が生えているので区別出来る。但し、雌の場合は相当に精度の高い写真でないと判別出来ない程度の細かい毛らしい。オオフタホシは名前の通りかなり大きい。現物が飛んでいる所を見ればマガイとの区別は明らかだが、写真ではそうは行かない。 前述の「札幌の昆虫」を見ると、雄の場合、後脛節は、オオフタホシではほぼ黄色で中程に暗色の輪があり、マガイでは先端過半が黒色である。また、雌の後腿節は、オオフタホシでは基部のみが黒色で他は黄色なのに対し、マガイでは先端部以外は黒色、となっている。雄では参照する部分が脛節、雌では腿節なので御注意! 写真のヒラタアブは雄で、後脛節は先端過半が黒っぽい。雌ではないが、腿節も先端部以外は黒色である。マガイとして良いであろう。後脛節はやはり先端過半が黒っぽく、腿節も先端以外は黒色(写真クリックで拡大表示)(2010/12/16) マガイヒラタアブの幼虫は3頭を飼育した。何れも囲蛹にはなったが、羽化したのは2頭のみであった。どうも、ヒラタアブ類の羽化成功率は余り高くない様である。 もう少し書きたいこともあるが、文字制限があるので、今日はこれでお終い。
2011.12.19
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今年は例年に較べてかなり寒いが、今朝はまた一段と寒かった。我が家の庭に於ける7時の気温は-2℃、6時頃は-3℃位であったらしい。近来にない冷え込みである。気象庁発表による今日の「東京」の最低気温は-1℃になっているが、これは都心の大手町での観測で、畑なども所々にあるこの辺り(東京都世田谷区西部)は「東京」よりもかなり寒いのである。 さて、今日はやっと今月4回目の更新、最近はすっかりサボリ癖がついていしまった。しかし、調べてみると、一昨年の12月はたった2回だからそれよりは多少マシとは言える。 今日は、これまで延々と掲載してきたオオタバコガ(Helicoverpa armigera)の蛹と成虫を紹介する。オオタバコガの蛹.上から背面、腹面、側面.頭は右黒い斑紋は腹部第2~7節までの気門(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) 最初の写真は、これまで紹介して来たのとは別の個体の蛹である。写真の枚数が多くなると必然的にHTMLのタグが多くなり、文字制限に引っ掛かってしまうので、3枚を合成して1枚にした。言うまでもないが、頭は右である。 一番上が背面、真ん中が腹側、下は横から見た姿。側面に見える黒い突起は気門で、腹部第2節から第7節の各節に1個ずつ合計6個見えている。幼虫では腹部第1節から第8節までの8個の気門があるのだが、蛹では腹節第1節の気門は後翅に隠れて見えない。また、第8節の気門は痕跡的で、3番目の写真に筋状の裂け目として写っている(第8節から第10節の3節は一つに癒合している)。 腹部より前方に胸部第3~1節があり、第3、2節の側方に広がるのは翅で、後翅(第3節)は前翅(第2節)に隠れて一部しか見えない。幼虫では胸部第1節に気門があるが、蛹では1節と2節の間にあり、背面と側面の写真にそれが見える。 その前方は当然頭部で、背面からは極く一部しか見えない。しかし、腹面から見ると色々とゴチャゴチャした構造があるのが分かる。オオタバコガの蛹腹面の拡大.かなりややこしい構造略号については本文を参照(Lf1は重複)(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) 腹面の前部を拡大してみた。略号は保育社の「原色日本蛾類幼虫図鑑」の図にあるもので、Ant:触角、Cl:頭楯、E:眼、Hs:吸管、L1:前脚、L2:中脚、L3:後脚、Lf1:前腿節、Lp:下唇鬚、Lbは説明がないが多分上唇(labrum)であろう(普通はLbrと略す、Lbiならばlabiumで下唇)。尾部の拡大.先端の1対の突起は尾突起と呼ばれる腹部第8節に裂け目状の気門が見える(写真クリックで拡大表示)(2010/10/31) また、尾端には針状の突起が1対ある。これは尾突起と呼ばれるもので、これで蛹を物体に固着させるのだそうである。 以上、Web上には蛾類蛹の外部形態に関する情報が少ない様なので、上記図鑑にある図を参考に説明を試みてみた。羽化した成虫(上の蛹とは別個体).もっと黄色かったと思うのだが胸部の毛の色など、かなり妙な色に写っている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/24) さて、次は成虫の写真である。これは、これまで3齢を除いて2齢から6齢まで紹介して来た個体が羽化したものである。胴体が太くヤガ科(Noctuidae)らしい格好をしている。タバコガの成虫とよく似ているが、後翅外側(写真では下側)にある黒色帯が幅広く外縁にまで達しているのがオオタバコガで、タバコガではこれが外縁に完全には届かないのが普通であり、更にこの黒色帯の内側に細い筋がある。また、オオタバコガでは、前翅外縁の内側にある暗色帯(亜外縁線)の輪郭がハッキリしないことが多いが、タバコガでは明確でギザギザしている。上の成虫の蛹殻.小さな空間を作ってその中で蛹化している(写真クリックで拡大表示)(2010/11/24) 土中に潜った幼虫が何処でどの様にして蛹になったかは確認しなかった。羽化してから分かったことだが、プラスティックのコップの底に小さな空間を作り、その中で蛹になっていた。上の写真は、羽化後にその部分を剥がして撮影したものである。 コップにはさらさらした粒状の軽い土を入れてあり、その中でこの様な空間を作るのは土が崩れて少し難しいのではないかと云う気がする。終齢幼虫の記事で、食べるのを止めてから「ビチ」もしないで直ぐに土に潜ってしまったと書いたが、或いは、土中でビチをし、その水分を使って、この様な空所を作るのかも知れない。最初に示した蛹が羽化した成虫.模様が余りハッキリしないこの個体も胸部の色など記憶と違う色になっている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) 上の写真は、最初に示した蛹が羽化したものである。前翅の模様が余り明確でない。オオタバコガの成虫は、幼虫に劣らず色彩の変異が大きく、斑紋が良く分からない個体も多いが、タバコガでは変異は比較的少ないとのこと。同一個体を正面から見た図.鼻面に見える一対の小さな穴のある構造は下唇鬚であろう(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) オオタバコガは蛹越冬であるが、かなり遅い時期まで活動し、耐寒性が強い。成虫写真の最初の個体は表に出したら直ぐに飛んで行ってしまったし、2番目の個体は、余り動かない様に冷蔵庫に入れて充分「冷やして」から写真を撮ったのだが、外気に出して数分も経たない内に翅を震わせ始め、その1分後には飛んで行ってしまった。そう云う訳で、成虫の写真は充分に撮ることが出来なかった。オオタバコガの横顔.下唇鬚は飛び出しているので焦点外(写真クリックで拡大表示)(2010/11/26) 成虫写真の最初の個体は10月23日に土に潜り、11月24日の朝には羽化していた。もう既に飛べる状態になっていたところを見ると、23日の晩に羽化したものと思われる。幼虫期は僅かに13日であったが、土中に潜ってから羽化するまでは丁度1ヶ月、31日を要したことになる。もう一方の個体も1日遅れて10月24日に土中に入り、11月25日の朝には羽化してバタ付いていたから、これも土中で同じ時間を過ごしたことになる。尚、土に潜ってから蛹になるまでの日数は不明である。 以下に、これまでのオオタバコガ成長記録の一覧を示しておく。 幼虫の齢 掲載日 撮影日 備考 2齢 2010/11/26 2010/10/12 3齢 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢 2010/12/11 2010/10/14 5齢 2010/12/15 2010/10/17 6齢 2011/01/17 2010/10/21
2011.01.31
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此処暫く非常に忙しく、更新を1週間以上怠ってしまった。 今年は猛暑だったそうで、そのせいか、テントウムシ、特にダンダラテントウが少ない。御蔭で、我が家の外庭に植えられているコナラの葉裏にはアブラムシがビッシリと付いて甘露を排泄し、その下のスレートは毎日洗ってもベトベトの状態が続いている。 殆ど毎日、何か居ないかコナラの葉裏を調べていたのだが、漸く見つけたのが、今日紹介するクロツヤテントウ(Serangium japonicum)である。背側から見たクロツヤテントウ.テレプラスによる超接写(以下同じ)深度を深くする為に少し絞ったので、解像力が低い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) 体長は2.1mmと小さい。体は、背側から見ると真っ黒で、胸部には長めの毛が疎らに生えており、上翅(鞘翅)にも胸部に近い側に僅かだが同様の毛が認められる(下の写真)。 しかし、後で見る様に、顔、脚は腿節から付節に至るまで、赤みを帯びた褐色である。横から見たクロツヤテントウ.胸部だけでなく上翅の前半にもかなり長い毛がまばらに生えている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) このテントウムシ、背側に毛があるので、始めはヒメテントウの仲間かと思った。しかし、「背面被毛あり」として文教出版の「テントウムシの調べ方」に載っている検索表を辿って行くと、迷子になってしまう。 細かい話になるが、ヒメテントウ類では、前胸腹板(4番目の写真で矢印「A」で示した部分)が基本的にTの字形である。しかし、このテントウムシでは富士山の様な上部の平らな三角形をしている。正面から見ると、眼は黒いが顔は赤味を帯びた褐色(写真クリックで拡大表示)(2010/11/27) また、5番目の写真の矢印「B」で示した大きな凹みを後基節窩と呼ぶが、これが腹部第1腹板を越えて上翅(鞘翅)の側片まで達している。ヒメテントウらしくない。 更に、矢印「C」で示した基節窩の縁を腿節線と呼び、これが腹節の端まで連続している。検索表で行き当たった種では何れも途中で消えている。クロツヤテントウの腹側.矢印「A」は前胸腹板富士山の様な略三角形をしている(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) ・・・と云うことで、検索を最初からやり直し。「背面被毛なし」で検索表を辿ると、小腮鬚の形で少し迷ったが、最終的にクロツヤテントウ(Serangium japonicum)に行き当たった。 Web上で検索してみると、外見的にもクロツヤテントウで間違いない様である。保育社の甲虫図鑑の図や記載とも一致する。テントウムシ科(Coccinellidae)メツブテントウムシ亜科(Sticholotidinae)ツヤテントウ族(Serangiini)に属す。 なお、同図鑑に拠れば、このテントウムシは、アブラムシではなく、コナジラミ類を捕食するとのこと。コナラの葉裏にはアブラムシの他にかなりのコナジラミが寄生している。3年前に掲載した「ヨモギヒョウタンカスミカメ(捕食と幼虫)」の彼方此方に写っている中央の白い黒い楕円形のものはコナジラミの蛹殻である。矢印「B」は後基節窩、「C」は後腿節線を示す触角が何とも奇妙な形をしているが、これはツヤテントウ族(Serangiini)の特徴(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) ところで、上2枚の写真、どうやって撮影したのか? 勿論、生きた個体である。しかし、テントウムシ、亀の子の様にひっくり返されて大人しくしている虫ではない。 実は、入れ物(シャーレ)ごと冷蔵庫に入れ、暫く冷やして寒さで動けなくしてから撮影したのである。ところが、テントウムシは成虫越冬、寒さに強い。ものの30秒もすると動き出す。上(5番目)の写真では、その上の写真と違って脚が焦点を外れているが、これは脚をバタバタさせている最中に撮影したからである。翅を開いて起き上がるクロツヤテントウ付節が3節からなることが分かる(写真クリックで拡大表示)(2010/11/30) 脚をバタバタさせてもガラスのシャーレでは脚が滑って起き上がれない。すると、今度は翅を開き、その開く力で起き上がる。上の写真は丁度その起き上がった瞬間。お尻も前翅もボケているが、幸い後翅に焦点が合っているので掲載することにした。 一寸した「芸術作品」風を気取ったつもりである。
2010.12.09
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今日は夏らしい虫を紹介する。タケトラカミキリ、昔からこの辺りにいるトラカミキリの1種である。 トラカミキリ類はカミキリムシとしては動作が敏捷で刺激にも敏感、気を付けないと直ぐに飛んで逃げられてしまう。飛び方も素早いので、このタケトラカミキリの様に黄色と黒の模様の場合は、ハチと見間違える人がかなり居る。体長は10~15mmだから、大きさも普通のハチの範囲に入る。それ故、ハチに擬態しているとされるが、人間の目で見て解釈した「擬態」なんぞ、果たして虫にとって意味があるのか、怪しいものである。タケトラカミキリ.触角はカミキリムシとしては長くないトラカミキリの仲間は全てこう言う形をしている(2008/05/03) タケトラカミキリを見るのは久しぶりである。しかし、今年は出るだろう、と思っていた。何故かというと、その徴候があったからである。 このカミキリムシ、名前が示すように、竹を食害する。生の竹ではなく、竹竿や竹垣などの竹の枯れ材にやって来る。昨年の晩春に、台風でハナモモの木が傾いてしまったので、植木屋さんを呼んで支えを作ってもらった。この支えの一部に竹を使ってあるのだが、今年の春、その竹に穴が開いて粉が吹き出しているのを見付けた。犯人はほぼ間違いなくタケトラである。黄色と黒のトラ模様をした種類が多いのでトラカミキリの名がある(2008/05/03) タケトラカミキリに因る竹の被害はかなりのもので、昔の我が家にあった竹垣は2年もするとボロボロになり、3年ごとに作り直さなければならなかった。余りに経費がかかるので、竹から金網に換えてしまった位である。こう言う這いつくばった様な格好をすることが多い(2008/07/03) 日本には、トラカミキリの仲間が80種以上棲息するが、この辺りにいるトラカミキリは、タケトラの他にエグリトラ、ヨツスジトラ、ブドウトラ位なもので、かなり少ない。この内、エグリトラとヨツスジトラは種々の広葉樹に寄生するが、タケトラとブドウトラは、それぞれタケとブドウにしか付かない。ブドウトラの場合は、生きているブドウの枝に入り込み、枝を枯らすので、ブドウの害虫として有名である。真っ正面から見たタケトラカミキリ余り凶暴な顔はしていない(2008/07/03) 以前にも書いたが、姿の良い虫は得をする。カミキリムシはカッコイイ。特にトラカミキリは、精悍な感じのする虫でもあり、何とも言い難い魅力がある。私は特にカミキリムシが好きな訳ではないが、タケトラが我が家の竹に甚大な被害を与えていても、どうも殺す気にはなれない。ストロボの光を嫌って這い回るタケトラカミキリ(2008/07/03) これで、このWeblogで紹介したカミキリムシは、ルリカミキリに続いてやっと2種になった。日本全国には約800種位のカミキリムシが棲息するそうある。幾ら都内の住宅地とはいえ、その1/400とは何とも情けない。 多くのカミキリムシは、タケトラやブドウトラの様に宿主が限定されている。適切な時期にその宿主の元で頑張っていれば、もっと多くのカミキリムシを見付けることが出来るのだが、我が家に植えてある植物の種類は余りにも少ない。
2008.07.24
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一昨日の昼過ぎ、ベランダのスレートの上に、普段この辺りでは見かけない大きなクモが居るのに気が付いた。大きいと言っても、体長(脚を含めない)は15mm位だが、タランチュラの様に脚が太く短い、如何にも強そうなクモである。 ジグモに似ているが、ジグモはもう少し縦長で、こんなにゴツクはない。キシノウエトタテグモ.所謂タランチュラに似ている左側には脚が5本ある様に見えるが、最先端のは蝕肢(2007/06/29) 何故か、クモさん、余り元気がない。種類はよく分からないが、何れにせよ、地面に穴を掘る仲間には違いないので、ジグモの巣の近くに置いてある石の上に移した。前から見たキシノウエトタテグモ.何故か、左右の第1歩脚を折り曲げている(2007/06/29) 数枚写真を撮ったところで、小さなアリがやって来た。アリが一寸チョッカイを出したら、クモさん、慌ててシダの茂みの中に逃げ込んでしまった。見かけによらず気が弱いのか、或いは、病気で戦闘意欲が無いのか、それとも、やはりアリは苦手なのか・・・。キシノウエトタテグモの顔.上顎が大きいが、ジグモではもっと大きい(2007/06/29) 図鑑で検索してみると、頭胸部の中窩はU字型で、第3脛節に窪みがなく、また、生息地から判断して、どうやらキシノウエトタテグモの様である。上記写真の部分拡大.中央に見える粒々が眼、よく見えないが全部で8個ある.ハエトリグモと較べると眼は非常に小さい(2007/06/29) トタテグモは、昔からこの辺りに居るとは聞いていたが、実は、見るのはこれが始めてである。 Internetで調べてみると、何と、環境省の準絶滅危惧種に指定されている。「準絶滅危惧種」とは、”(存続基盤が脆弱で)現時点での絶滅危険度は小さいが、生息条件の変化によっては「絶滅危惧」として上位ランクに移行する要素を有するもの”だそうである。図鑑には、「東京、神奈川、名古屋、京都、大阪などの都心部に多産。他の県ではあまり見られない」と書かれている。この辺りにはまだ結構居るのかも知れない。横から見たキシノウエトタテグモ.頭胸部の中窩はU字型(2007/06/29) しかし、何故穴から出て来てベランダに居たのであろうか。クモが水に溺れて弱ったときに似ていたが、別段大雨が降ったわけでも無し、少しの雨で水没するような所に巣を作ったりはしないだろう。やはり病気なのだろうか? 本当のところは「御当人」に聞いてみなければ分からないが、何はともあれ、クモさんのその後の無事を願うばかりである。
2007.07.01
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今回も、前回と同じく、4年前の6月に撮影した虫を紹介する。 虫屋の大敵、ヒメマルカツオブシムシ(Anthrenus verbasci)である。この虫、この辺りでは春に咲くハルジオン等の花に良く見られるが、今日紹介するのはイタリアンパセリの花に来たものである。ヒメマルカツオブシムシ(Anthrenus verbasci)イタリアンパセリの花の上に16頭も居る(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) 前年に植えたイタリアンパセリが年を越して開花し、それに集っていた。もう紹介済みだと思っていたのだが(実は別のWeblogであった)、余りに沢山来ているので、つい写真を撮ってしまった。上の写真中に16頭も居る。ヒメマルカツオブシムシ.触角がぼけている(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) 体長は2.5mm前後、色や触角の形状は異なるが、体の輪郭はルリマルノミハムシに似ている。ルリマルノミハムシの方が少し大きい。 保育社の「原色日本甲虫図鑑III」に拠れば、体長は2.0から3.2mm、個体差が大きい。これは、一枚目の写真を見ても良く分かる。この手の虫は、餌が少なくても途中で死なないで何とか成虫になる様で、それで幼虫時の栄養状態によって大きさに大差が出る。ヒメマルカツオブシムシ.色がかなり違う(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) カツオブシムシ科(Dermestidae)、マルカツオブシムシ属(Anthrenus)に属す。上科については、上記図鑑ではカツオブシムシ上科(Dermestoidea)となっているが、どうも現在ではナガシンクイムシ上科(Bostrichoidea)に入れるのが普通らしい。この上科には、以前紹介した我が家の大害虫ジンサンシバンムシが属すシバンムシ科(Anobiidae)、乾燥標本を食害するその名もヒョウホンムシ科等、乾燥動植物や木材の大害虫がゴロゴロしている。横から見たヒメマルカツオブシムシ(写真クリックで拡大表示)(2012/06/08) この手の屋内害虫に付いては、別のWeblogで少し詳しく書いたので、興味のある方は此方をどうぞ。
2016.07.07
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先日クロヒラタアブの産卵行動を載せたが、実は最近アブ類に一寸凝っている。特にヒラタアブ類はアリマキの捕食者で我が家の庭の味方だし、幼虫は尾長蛆ではないから(と言っても、やはり形は「蛆」。近日中にクロヒラタアブの終齢幼虫を紹介する)、好感が持てる。 アブ類は分類が難しく、ゲニタリア(交尾器)を見ないと分からない種類も多いらしい。しかし、「ハナアブの世界」と言う力強いサイトがあるので、専ら其処に頼ることにしている。 今日紹介するのはこのサイトで種が判明したオオフタホシヒラタアブである。 我が家の垣根は一面がツルバラになっている。さる貴人がら賜った由緒あるバラなのだが、これに終年アリマキが集る。特に春と秋に多い(このツルバラは寒冷地の出身らしく、夏には生長を止める)。 よくホソヒラタアブが産卵に来ているが、先日ホソヒラタアブよりはずっと大型で、且つ、胴体(腹部)の太いアブがやって来た。あちこち飛び回っては、アリマキの居るバラの穂先にお尻の先をくっ付けて産卵しているところを見ると、ヒラタアブの1種らしい。オオフタホシヒラタアブ.腹部の模様が見えるこの後腹部を曲げて産卵する(2006/10/29) 実を言うと、こんなに大きくて太いヒラタアブを見るのは初めてで、こんな種類も居るのかと一寸ビックリした。 非常に敏感でまともな写真は2~3枚しか撮れなかった。しかし、模様を含めてかなり特徴的な形態をしているので、種類は恐らく判明するであろうと思い、「ハナアブの世界」で調べてみると、直ぐにオオフタホシヒラタアブに行き当たった。 例によって、本当にオオフタホシヒラタアブか否かは種の記載を読んで一致するかを調べなくてはならないが、まァ、学術論文ではないから、オオフタホシヒラタアブとしておく。オオフタホシヒラタアブ.お尻を曲げてツルバラの枝に産卵中周りにはアリマキが沢山いる(2006/10/29) このヒラタアブはかなり前からツルバラの辺りで産卵行動をしていた。カメラを持って来た頃にはもう充分産卵していたらしく、写真を撮り始めたら直ぐに何処かへ行ってしまった。もう少し撮りたかった。 1週間ほど経ってから、オオフタホシヒラタアブの幼虫が居ないかアリマキの集っているツルバラの穂先を調べてみた。残念ながら何も見つからなかったが、来年はヒラタアブ類の幼虫を飼育してみようか、と思っている。
2006.11.26
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今日、ベランダの椅子で朝のコーヒーを飲んでいると、目の前のヒュウガミズキに何か3cm位の芋虫が付いているのが目に入った。近づいて見てみると、芋虫と言うよりは毛虫、よく思い出せないが見覚えのある顔である。此奴、ヤママユガ科の幼虫の筈。オオミズアオの4齢幼虫.体長3cm強(2007/09/05) 早速写真を撮って調べてみると、何と、オオミズアオの幼虫であった。大きさから判断して4齢幼虫らしい。 最近はヤママユガ科の蛾を全く見ない。昔はシラガダユウ(白髪太夫)とかシラガタロウ(白髪太郎)と呼ばれるクスサンの幼虫が毎年のようにクリに付いていたし、その成虫もごく普通に見かけた。 オオミズアオもクスサンよりは少なかったが、街灯に止まっているのを屡々見かけたものである。しかし、何れもこの20~30年、全く見ていない。少し枝を動かしたら、この様な姿勢になった(2007/09/05) それが我が家のヒュウガミズキに居るのだから、一寸驚いた。 そう言えば、1ヶ月程前、ヒュウガミズキの葉裏に体長1cm位の橙色の毛虫が数頭居たのを想い出した。写真を撮ったような気もするが、探しても見つからないところを見ると、やはり撮っていないらしい。撮っておけば良かった。オオミズアオ幼虫の腹部拡大.透き通った黄緑色が美しい.中央下の丸いのは水滴(2007/09/05) もう一度、ヒュウガミズキを調べてみると、他に2頭も同じ形の幼虫が居た。やはり、一ヶ月前に見かけた毛虫が成長したものらしい。オオミズアオの初齢幼虫は橙色に小さな黒斑を多数帯びると言うから、まず間違いないであろう。 オオミズアオは大型の蛾である。と言うことは、その幼虫は大食漢に違いない。これでは高さ1m余りのヒュウガミズキは丸坊主になってしまう。また、最近はスズメバチ科の蜂がよくこの辺りを遊弋しているから、捉まって肉団子にされてしまう可能性も高い。オオミズアオは、今やこの辺りでは「珍種」乃至「絶滅危惧種」である。保護する必要があるのではないか?毛虫君の顔.口の周りの構造は複雑(2007/09/05) ・・・と言う訳で、飼育をすることにした。ヒュウガミズキはマンサク科である。オオミズアオの幼虫はかなり広く色々は木の葉を食べるが、調べた限りではマンサク科の植物を食べると言う記録はなかった。バラ科、ブナ科、カバノキ科などがお好みの食草らしい。そこで、枝が伸び過ぎて困っているコナラを食草にしてみることにした。 しかし、食草は幾らでもあるが、大食漢を3頭、世話が大変そうである。 なお、この幼虫は蛹で越冬をし、成虫になるのは来年5月である。まァ、気の長い話ではある。
2007.09.05
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先日メダカの鉢の横を通ったら、水面に変なものが浮かんでいる。何かと思ったらハエトリグモである。 五十路を過ぎてからは、遠くのものは良く見えても、近くにあるものには焦点が合わない。そこでマクロレンズで覗いてみると、普段は家の中にいる筈のアダンソンハエトリ(雄)であった。 夏になれば庭にも出てくるが、まだ少々早過ぎるのではないか。前日に大風が吹いたので、何処かの家から吹き飛ばされてきたのかも知れない。水面に浮かぶアダンソンハエトリ(2007/04/14) 水面に浮かぶクモを撮るのも面白いと思って、助ける前に写真を撮ることにした。すると、表面張力で歪んだ水面にストロボの光が当たって、ダイアモンドの指輪(脚飾りか?)を指一杯(脚一杯)嵌めた様なアダンソンハエトリの写真が出来上がった。 しかしハエトリ君、アメンボの親戚じゃあるまいし、やはり水の上では身動きがままならない。何となく、途方に暮れてしょげている様にも見える。余り格好良くない感じ・・・。 写真を撮り終わってから、水面に浮かぶハエトリグモを指で掬い上げた。何処か草の葉の上にでも移し、しょげていない写真を撮って名誉挽回を図ってやろうと思ったのだが、自分から跳んで草むらの中に逃げてしまった。獲物を求めてクリスマスローズの葉上を徘徊するアダンソンハエトリ(2006/09/22) そこで、昨年撮ったアダンソンハエトリの雄姿を紹介することにする。 如何にもハエトリらしい元気さが感じられ、今にもピョンと跳ね飛びそうである。
2007.04.21
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このWeblogは「我が家の庭の・・・」なのだが、今日は「我が家」の生き物を紹介する。ジンサンシバンムシ(Stegobium paniceum)、屋内害虫の1種で、保育社の甲虫図鑑には「乾燥貯蔵動植物質の世界的大害虫」と書かれている。 シバンムシ科(Anobiidae)シバンムシ亜科(Anobiinae)に属す、体長1.7~3.0mm(同図鑑に拠る)の小さな甲虫である。世界中に分布する大害虫であるにも拘わらず、Web上に精緻な写真がない様なので、掲載することにした。ジンサンシバンムシ.この個体の体長は約2.7mm写真は何れもコントラストをやや強くしてある冷蔵庫で充分冷やしてから撮影(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 此奴、実際に大変な害虫で、我が家に於ける被害は、金額的にも相当な額に達するであろう。 兎に角、食物スペクトルが広く何でも喰う。退治しようにも発生源を突き止めるのが容易でないのである。また、我が家の様に外国の食料サンプルを沢山貯蔵してある所では、複数個所から発生しているのが普通らしく、大発生している場所を見つけて退治しても、他の場所でも発生しているから、未だに根絶出来ない。全く困った虫である。 因みに、かなり以前に東南アジアから買って来た干メンにコクゾウムシの1種が付いていて、かなり我が家で繁殖したことがあるが、これは穀類かその加工品しか食害しないので、簡単に退治することが出来た。ジンサンシバンムシの腹側.常温に戻って暴れているところ図鑑に拠れば、「前胸腹板突起は短く三角形」とある矢印の部分が前胸腹板突起で確かに短く三角形(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) ソモソモ、このジンサンシバンムシが我が家に入って来たのは、今から20年程前のこと、ある大先輩に頼んでカルカッタから買って来て頂いたアサフェティダ(asafoetida、assafoetida、asafetida)と云う1種の香辛料に卵が付いていたのである。 アサフェティダは、Ferula assafoetidaを主とするセリ科植物の根元から採ったヤニ(樹脂)で、硫黄を思わせる強い異臭を持つが、インドやその近くの国では、これを野菜、特に豆のカレーに極く少量入れるのである。純粋なものは非常に高価で、インドでは固まりではなく、細粉にし乳糖か何かで10倍位?に薄めて缶入にしたものが一般的である。最近はInternetでも売られているが、これも同様であろう。 記憶に拠れば、頂いたのは7×3×2cm位の純粋なヤニの固まり、恐らく1000ルピー(1ルピーで野菜カレーが腹一杯食える)以上はしたと思われる。これを2つに割り、一つを砕いて料理用とし、こんな大きな固まりは珍しいので、残りの半分をサンプルとして保存して置いたのである。このサンプルの方からシバンムシが発生した。サンプルは結果的に穴だらけの火山岩の様になってしまった。少し斜め前から撮ったジンサンシバンムシ(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 我が家で被害にあっているのは主に干メン類(蕎麦、うどん、素麺、スパゲッティ、米から作った干メン等)である。今まで30kg位は処分したと思う。しかし、記憶に拠れば、紫菜(支那式の岩海苔の干物)、干し椎茸、ダール(印度式の干豆、レンズ豆、ヒヨコ豆等)、小麦粉、東南アジアの黒砂糖と椰子砂糖、その他「こんな物も喰うのか!!」と驚く様なものまで食害された。正に、「乾燥貯蔵動植物質の世界的大害虫」なのである。 更に始末が悪いのは、成虫はかなり厚いプラスティックの袋でも食い破り、卵を産むのである。メン類などは、相当シッカリした容器に入れておかないと、未開封でもやられてしまう。正面から見たジンサンシバンムシ.やや警戒中この方向から見ると、触角先端3節は単純な[細長い球桿状]でない(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 九州大学の日本産昆虫目録に拠ると、ジンサンシバンムシは1属1種だが、一見よく似た種に、やはりに世界的に分布する乾燥動植物質の大害虫であるタバコシバンムシがある。セスジシバンムシ亜科に属すので少し縁遠いが、体の外観はよく似ている。しかし、触角の先端3節が、ジンサンシバンでは写真の様に細長い球桿状であるが、タバコシバンでは鋸歯状なので容易に区別が付く。尤も、3mm程度の虫の触角を調べるのは一般的には一寸難しいかも? 尚、ジンサンシバンムシの「ジンサン」とは朝鮮人参の人参(ginseng)のことである。私は朝鮮語を解しないので分からないが、ginsengの本当の発音はジンセンよりはジンサンに近いのかも知れない。北京官話の「eng」は、日本人にはエンよりはアンに近く感じられる。図鑑には「各上翅は11本の点刻を含んだ細条溝をもつ」とあるが、勘定するとチャンと11本ある(写真クリックで拡大表示)(2011/08/10) 今日はジンサンシバンムシの被害についてばかり書いて、形態的特徴の方は本文中には殆ど書かなかった。代わりに写真の下に形態学的な説明を少し入れて置いた。
2011.08.11
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先日、我が西洋長屋の入り口にある門を開けた時、その扉の下に何かサツキの枯葉の様なものが落ちているのに気がついた。しかし、良く見てみると、枯葉ではなく、コメツキムシであった。丁度、買物の帰りであったので、一先ず掌の中に確保し、荷物と一緒に室内に持ち帰った。越冬から目覚めたサビキコリ.胸背に1対の突起がある白く光っているのはストロボの反射による(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 体長は13mm強、良く見てみると、サビキコリ(Agrypnus binodulus)の様である。コメツキムシ科(Elateridae)は九州大学の日本産昆虫目録に拠ると651種も記録されている大きなグループだが、今日のコメツキムシの様な胸背や鞘翅に光沢がないのは、サビキコリ亜科(Pyrophorinae;九大目録ではPyrophotinaeとなっているが、これはmisspelling)サビキコリ族(Agrypnini)と思ってマズ間違いないので、検索は容易である。サビキコリの腹面.前胸腹板に触角を収める溝がある中胸後側板は中脚の基部に達している(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) サビキコリ族には、前胸腹板に触角を収める深い溝がある。上の写真で、眼の下から後方に伸びている黒~赤の凹みがそれである。サビキコリ族から属への検索表を辿ると、「中胸後側板は中基節溝に達する→4mm以上→小楯板は単純で隆起線を欠く」で、サビキコリ属(Agrypnus)に落ちる。 サビキコリ属は、九大目録を見ると33種も載っているが、その多くは南方系で、東京都本土部昆虫目録を見ると6種しか記録されていない。この6種の内、ハマベオオヒメサビキコリを除いた5種は保育社の甲虫図鑑に記載があり、体長が10mmを越えるのは、サビキコリ、ムナビロサビキコリ、ホソサビキコリの3種だけである。横から見たサビキコリ.眼は大きいが半分以上隠れている(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) この3種の区別は外見から容易で、サビキコリは全体にゴツく、学名の種名(binodulus)に示される様に、胸背に突起状の隆起が2個(1対)ある。これに対し、ホソサビキコリは全体的に細長く胸背は平滑、ムナビロでは胸背が僅かに隆起するが、サビキコリとは異なり前胸背板は前方にかなり拡がる。 これらから、今日のコメツキムシはサビキコリであるとして問題無いであろう。また、サビキコリは成虫越冬することが知られており、今頃出現しても些かもおかしくない。前から見ても中胸背の突起が明らか(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 尚、ハマベオオヒメサビキコリに付いては良く分からないが、京都府のレッドデータブックに「要注目種」として載っており、「体長7.5~12.5mm.扁平幅広、黒褐色で触角と脚部は多少とも赤褐色で、前胸背後角又は全身が希に赤褐色の個体もある.ヒメサビキコリ( A. scrofa(Candeze))に体長・体色・外形共に良く似ているが、下翅が常に退化縮小している」、「主として外洋性海浜地区に生息し、分布も局所的である」、「これまでの記録では4~8月に亘って採集されている」とのことなので、今日のコメツキムシである可能性はないであろう。斜めから見たサビキコリ.小楯板に隆起線はない(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) このコメツキムシ君、玄関のスレートの上に居たのだが、スレートではストロボの反射があるので撮影は無理、何処で撮影したらよいものか? 土の上に移して少し撮ってみたが、土の上では横からや前から撮る時にかなり無理な姿勢を強いられる。其処で、径10cm位の石の上に載せて撮影することにした。 コメツキムシだから仰向けにしておくとやがてモソモソ動き出し、パチンと撥ね跳ぶ。しかし、普通に腹ばいにして置いたら、何時まで経っても動き出さない。所謂「死んだ真似」の様だが、表では寒いのかも知れない。そこで石ごと暖かい部屋の中に入れて撮ることにした。頭部を超接写.表面が茶色っぽく見えるのは土が付いているからではなく褐色をした鱗片で覆われている為であることが分かる複眼は胸部からの黄色い毛で被われている(写真クリックで拡大表示)(2011/02/26) 待つこと暫し、やがて脚を伸ばし始めたので、急いで撮影したのが今日の写真。最後の頭部の写真を撮った後は、コソコソと歩き始めた。結構速い。径10cmの石では直ぐに縁に達して、下に降りてしまう。冷蔵庫で冷やして動きを止める手もあるが、既に一通り写真を撮った後なので、撮影は終わりにして、庭に逃がしてやることにした。土の上に置いたら、もう「死んだ真似」はせず、極く普通に歩いて行った。
2011.03.02
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さて、今日はトベラの葉裏で成長中のチャタテムシ幼虫[羽化するまで観察しヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)であることが判明した]のその後を紹介する。3齢と4齢幼虫である。前回の2齢から1ヶ月近く経っているが、今日紹介する集団は前回のとは別の葉に居たもので、2齢に非常に時間がかかったと云うよりは、同一の卵塊からかなり遅れて孵化した連中らしい。 糸を張り巡らした共通の「巣」の中に、3齢幼虫2頭と4齢幼虫3頭の合計5頭が一緒に居た。トベラの葉裏で成長中のチャタテムシ(種不明)の幼虫左から4齢、3齢×2、4齢×2の合計5頭(写真クリックで拡大表示)(2010/04/10) 「巣」には、御覧の通り、チャタテムシの糞が無数と言っても良い程沢山絡んでいて、かなりバッチイ感じ。こう沢山あると、写真を撮るのにかなり邪魔になるが、チャタテムシの餌であるカビを生やすにはこの方が良いのかも知れない。3齢幼虫.翅の原基が後上方を向いた透明な突起として認められる(写真クリックでピクセル等倍)(2010/04/10) チャタテムシの幼虫に関しては今まで何らの情報もなかった。しかし、先日、英国の古本屋から「Handbooks for the Identification of British Insects」の一冊である「Psocoptera(噛虫目:チャタテムシ目)」を入手したので、少しは知識が増えた。 それに拠ると、長翅型のチャタテムシの多くは幼虫期が6齢まであり、翅の原基は3齢から6齢に至る間に次第に大きくなる、とのこと。 2齢幼虫では、翅の原基(胸部にある4つの茶色の部分)が少し起き上がった様にも見えたが、これは気のせいらしい。一方、3齢では明らかに後上方を向いた透明な突起として認められる(上)。これが、4齢ではもっと長い棘状の構造になっている(下)。4齢幼虫.翅の原基は長い棘状の突起に成長している(写真クリックでピクセル等倍)(2010/04/10) ところが、体長を計ると、何故か3齢も4齢も同じで1.5mm。2齢は0.9mmであったから、かなり成長していると言えるが、3齢と4齢で同じなのは何とも奇妙である。恐らく、3齢は4齢への脱皮直前で、4齢は脱皮直後なのであろう。 しかし、良く見ると眼の間隔と云うか頭部の幅は明らかに3齢と4齢で異なる。左右の複眼の最外側間を測定すると3齢では0.42mmであるのに対し、4齢では0.47mmである。眼の間隔は脱皮後基本的に変化しないが、体長は増加するものと思われる。両側が3齢、中央は4齢.体長は同じだが、眼の幅は異なる腹が黒っぽいのは食べた餌の影(写真クリックでピクセル等倍)(2010/04/10) 今日の写真も拡大すると何れもピクセル等倍となる。かなり酷い写真だが、実は、虫体全体にシッカリ焦点の合った写真は1枚もないと言ってよい。画像処理で誤魔化しているのである。100枚以上撮ったが、満足のいく写真は遂に撮れなかった。 これは、チャタテムシの居る場所が目の高さよりやや高い位置にあり、カメラを向けるとフラフラして姿勢が安定せず、写真が非常に撮り難いからである。少し下向きの姿勢で撮ればかなり楽なのだが、この幼虫は今後も観察しなければならないので葉っぱを切り取って安定した環境で撮影する訳にも行かない。全く困ったものである。左1頭が3齢(前の写真の右端)、他は4齢(写真クリックでピクセル等倍)(2010/04/10) この写真を撮った時点では、この5頭の他に、別の葉にもう1頭の合計6頭が居た。しかし今日調べたところ、もうこの集団は既に散開しており、別々の葉に5齢が1頭ずつ合計2頭が居るだけとなってしまった。回りの葉を調べてみたが、成長した幼虫は他には居なかった。 その代わり、全然別の場所に、極く若齢の集団と、まだ孵化していない卵塊を見つけた。恐らく同じ種類と思われる。こうなると、1回は失敗しても良いから飼育するのも一案である。長期間の飼育は葉が枯れかかった場合にどうなるか見当が付かないが、5齢から成虫までの期間ならば何とかなるかも知れない。この5齢の2頭を飼育箱に入れてしまうか、現在思案中である。[追記]この幼虫は無事成虫にまで成長し、ホソチャタテ科(Stenopsocidae)のヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)の幼虫であることが判明した。表題や本文中にある[]の中は判明後に追加訂正したものである。以下に、これ以前と以降のヨツモンホソチャタテ幼虫の成長記録一覧を示しておく。 内 容 掲 載 日 撮 影 日 卵と初齢幼虫 2010/03/13 2010/02/25,03/12 2齢幼虫 2010/03/23 2010/03/22 5齢幼虫 2010/04/25 2010/04/18,20 6齢幼虫 2010/04/29 2010/04/20 成 虫 2010/05/11 2010/04/20,24
2010.04.19
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今年の秋は、草木の開花が遅れている。御近所のサザンカは20日近く遅れて今漸く七分咲き程度だし、我が家の「北米原産シオンの1種(紫花)」も例年よりも2週間程遅い今時になってほぼ満開となった。 この花も虫集め用に植えてあるだけあって、セイタカアワダチソウに劣らず「集虫力」が強い。しかし、今年は時期が遅れたせいで日当たりが悪くなってしまい、今一つ虫の集まりが宜しくない。それでも、何かと虫がやって来る。「北米原産シオンの1種(紫花)」で吸蜜するイヌビワハマキモドキの雄(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 先日、そのシオンの花の上に枯葉のカケラの様なものが「付着」しているのに気が付いた。1辺5mm位の三角形をした焦げ茶色の平らなものである。肉眼では何だか良く分からないので、マクロレンズで覗いてみた。・・・すると、何と小さな蛾で、以前、町の奥にある家庭菜園で撮影したことのあるイヌビワハマキモドキ(Choreutis japonica)であった。ハマキモドキガ科(Choreutidae)ハマキモドキガ亜科(Choreutinae)に属す。大きさは、形を頭を頂点とする2等辺3角形と見なしたとき、頂点から底辺までが約6.5mm、翅長は約5.5mm。触角には毛が生えているので雄であろう.動くときは瞬間的に移動する(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 上の写真で明らかな様に、触角には沢山の毛が生えている。以前撮影したイヌビワハマキモドキの触角にはこの様な毛は認められなかった。触角が発達するのは雄と決まっているから、此の個体は雄で、以前撮影したのは雌であろう。 昨年の秋、同じハマキモドキ亜科だが属の異なるゴボウハマキモドキを紹介した。属は違うが動き方は実によく似ている。ゆっくりと歩いたり体を傾けたりすることはなく、瞬間的にツッ、ツツッと移動する。体を傾けたり、何かに驚いて頭を持ち上げたりする時も同様である。前から見たイヌビワハマキモドキ(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) この個体を撮影する2週間程前、やはりイヌビワハマキモドキを我が家で見かけた。この時は、1枚も撮る閑無く逃げられてしまったが、ヒョッとすると、同一個体かも知れない。と云うのは、今日の写真の個体はかなり色が褪せているからである。胸部は剥げていないから、スレ(擦れ)ているのではない。色が褪せているのは、羽化後時間が経っているからではないだろうか。 勿論、同じ頃に発生した個体が来たのなら、別個体でも色は同様に褪せているだろうから、これは、まァ、非常に乱暴な憶測ではある。イヌビワハマキモドキ(雄)の触角.毛の生え方は非常に複雑(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) ゴボウハマキモドキの時もそうであったが、吸蜜する時に逆立ちに近い格好をする。小型の蛾で口吻が余り長くない場合は、そうしないと口が蜜線に届かないのかも知れない。 マクロ撮影する場合は、殆どストロボ同期で撮影する。ストロボの光はカメラの上の方から来るから、頭が下だと顔が影に隠れてしまい、写真としては使い物にならなくなってしまうことが多い。逆立ちをする虫は結構多いが、撮る方にとっては何とも困った習性である。イヌビワハマキモドキの横顔.口の下から前上方に伸びているのは下唇鬚(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 保育社の「原色日本蛾類図鑑」に拠れば、イヌビワハマキモドキの「幼虫はイヌビワやホソバイヌビワの葉面にいる」と書かれている。これらの植物は「ビワ」と名が付いても、所属はバラ科ビワ属ではなく、クワ科イチジク属である。同図鑑には「イチジクには未だ見ない」とあるから、食性はかなり狭いらしい。 イヌビワやその変種であるホソバイヌビワは何れも南方系の植物で、分布は関東以西とされているが、この辺り(東京都世田谷区西部)では余り見ない。しかし、我が町には戦前から庭をその儘にしていると思われる御宅が所々にあり、その様な御宅などに自然発生的に生えていることがある。そう云う場所のイヌビワからこのイヌビワハマキモドキが発生しているのであろう。逆立ちに近い格好で吸蜜することが多い(写真クリックで拡大表示)(2010/11/10) 最初の方で、「以前、町の奥にある家庭菜園で撮影したこと」があると書いた。この時の個体は非常に新鮮で色鮮やかであった。直ぐに逃げられてしまい、写真は同じ様なのが2枚しかないが、興味のある読者諸氏は此方をどうぞ。
2010.11.12
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一昨日、ブルーベリーを植えてある鉢に寄寓しているスミレの葉を整理していたら、ツマグロヒョウモンの前蛹を見付けた。よく見てみると、蛹に脱皮するところであった。 まず写真を撮ったが、特に動きはないので、暫く様子を見ることにした。 10分位経ってから見に行くと、全く変化がない。30分経っても同じである。一寸触ってみると、まだ、柔らかい。しかし、全く動かない。一寸おかしい。 この個体、大きさが普通のツマグロヒョウモンの前蛹よりもかなり小さい。これも、おかしいと言えばおかしい・・・。蛹化に失敗したツマグロヒョウモンの前蛹(2007/09/14) どうやら、これは何らかの異常があって、蛹化に失敗した個体の様である。次の日の朝、もう一度見てみたが、全く変化は認められなかった。 午後になって、ベランダを通ったとき、その前蛹が無くなっているのに気が付いた。鳥に食べられたのか(我が家ではよくある)と思ったが、探してみると、下にコロンと落ちている。前蛹になるときに充分に足場を固めていなかったらしい。上の前蛹を横から見たもの.スミレの葉柄との間の連結が不充分(2007/09/14) 何故蛹化に失敗したのかは、知るべくもない。しかし、かつてクロアゲハの幼虫を多数飼育したとき、平均よりかなり小さい個体が元気が無くて足場を充分固めことが出来ず、また、前蛹から蛹への脱皮も上手く出来なかったことがある。この様な個体からは、必ずブランコヤドリバエの蠕虫が出て来た。 ブランコヤドリバエの類がツマグロヒョウモンに寄生するか否かは寡聞にして知らないが、別の寄生者が居る可能性もある。一応、蛹をシャーレに入れて、今後の変化を見てみることにした。
2007.09.16
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今日は以前予告したキタヒメヒラタアブの「曲芸的」身繕いを紹介しよう。 このアブ、先週辺りからは何故か急激に少なくなって来たが、一時は我が家の庭の至る所で見られた最普通種であった。体長は8~11mm、以前紹介したフタホシヒラタアブとほぼ同じである。しかし、体はフタホシよりも細いので、全体としてはもっと小さく見える。特に雄は体が細い個体が多く、虫に興味のない人の目には映らないかも知れない。キタヒメヒラタアブの雌.眼と眼の間隔が広く、互いに接していない体長8.5mm(2007/05/14) 実は、このキタヒメヒラタアブにはホソヒメヒラタアブと言う非常に良く似た近縁種が居て、正確には交尾器を見ないと判別できない。虫屋泣かせなのだが、体長8mm以上のホソヒメヒラタアブは居ないらしいので、此処ではキタヒメヒラタアブとしてある。まァ、何とも、いい加減な根拠ではあるが・・・。キタヒメヒラタアブの雄.両方の複眼が接している.体長9.5mm雄としては体が太い(2007/05/21) さて、身繕いの方である。下の写真は両後肢を同じ高さに上げて翅を擦っているところ。背側から見れば、左右対称になっているはずである。何か、体操でもしている感じ。キタヒメヒラタアブの身繕い.両後肢を揃えて翅を擦っている(2007/05/14) 次がスゴイ。手前の後肢は上の写真と同じで羽を擦っているが、反対側の後肢の先端は胸の上部から突き出て、少し頭の方へ向いている。胸部を擦っているのだろうか? 基節と腿節の繋ぎ目を180度位回転させないと、こんな芸当は出来ない。或いは、腿節と脛節の間も回転出来るのだろうか?曲芸的なキタヒメヒラタアブの身繕い.反対側の後肢の先が変な方向を向いている(2007/05/14) 次は、両後肢を揃えて、お腹を絞っている?ところ。腹部を綺麗にしたいのか、或いは、腹具合でも悪いのか? 腹部が相当変形している。脚の力がこんなに強いとは思わなかった。お腹を絞る?キタヒメヒラタアブ(2007/05/14) このキタヒメヒラタアブが留まっていたのは、以前紹介した北米原産シオンの1種である。この場所がお気に入りの様で、その後もずっとこの場所に留まっていた。夜になって11時頃にもう一度見に行ったら、同じ場所で寝ていた。 しかし、次の日の朝はアブさんの方が早起きであった。見に行ったときにはもう居なかった。
2007.06.17
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ツツジの花と言うのは、沢山咲くと華やかで中々良いものである(・・・茶花にはならないが)。我が家には10種(含品種)近く植えてあるが、地植えにした方は日当たりが余り良くないせいか花着きが宜しくない。しかし、鉢植えの方はビッシリと花が着く。 今、リュウキュウツツジとヒラドツツジ(品種は「曙」)の2つが咲いて居る。株の大きさがほぼ同じなので、中庭の入り口の左右に置いて玄関を飾る様にしてある。 今日は、その内のリュウキュウツツジを紹介する。満開のリュウキュウツツジ(2007/04/23) 最近庭や生垣として植えられるツツジには、クルメツツジ(久留米躑躅)かヒラドツツジ(平戸躑躅)が多く、リュウキュウツツジ(琉球躑躅)は余り見かけない(昔は結構多かったらしい)。クルメツツジの花は小さくて直径2~3cm、ヒラドツツジは大きく6~8cm、リュウキュウツツジはその中間で径4~5cmである。 クルメツツジには花の形や色の異なる数多くの品種があり、また、ヒラドツツジにも幾つか花色の異なる品種あるのに対し、リュウキュウツツジには白花1種類しかない。 他の園芸用ツツジ(ヤマツツジ節)との違いは、花は白で雄蕊が10本あり、芽の鱗片だけでなく花柄や若い枝にも線毛があってベト付くこと、雌蕊が花弁よりもずっと長いこと等で、容易に区別が出来る。リュウキュウツツジの花(2007/04/23) クルメツツジやヒラドツツジは丸い樹形に仕上げ易いのに対し、リュウキュウツツジは株の周辺部が良く生長するので、上部の平らなテーブル状の樹形に成り易い。 また、どんな花木でも、かなり早い時期に花が1つ2つ咲いてから次第に咲く数が増えて行き、やがて満開になって花期が終わるが、その後にまた少数の花が咲くものである。リュウキュウツツジはこの傾向が甚だしく、満開になる1ヶ月以上も前から花がポツポツと咲き始める。今年は暖冬のせいか、1月から咲き始めたと言う(私は不在だったので直接は知らない)。雌蕊が非常に長いのがリュウキュウツツジの特徴(2007/04/23) 実はこのツツジ、種類も分からず、どんな花が咲くのかも知らずに買って来たものである。我が家は代々質素を旨としているので、花木や多年草の場合、花期が過ぎて安くなったものを買って来ることが屡々ある。 このリュウキュウツツジも花が終わって売れ残っていたのを確か500円で買って来た。名札が付いていないので種類を訊いたら、もう花が1つも着いていないので店員も分からない。久留米でも平戸でもない余り見ない種類なので、面白半分で買って来たのである。 正体が分かるまでの1年間、どんな花が咲くのかな、と期待と不安の入り交じった気持ちで植木を眺めているのもまた楽しいものである。
2007.04.29
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一昨日の夕方、クチナシの葉上に羽が緑色に透き通った小さな虫が留まっているのを見付けた。翅端まで6mm位、もう薄暗くてよく見えないが、こんなに小さいクサカゲロウが居るのかと些か驚いていたら、ピンと跳ねて飛んで行ってしまった。クサカゲロウではなく、ハゴロモの類らしい。 それにしても、薄べったい虫である。葉っぱに張り付いている、と言う感じ。 クチナシの木をよく調べて見ると、他にも同じ虫が何頭か居ることが判明した。ハゴロモ類と言えば、昔はベッコウハゴロモ、スケバハゴロモ、テングスケバ等、色々居たものだが、最近ではアオバハゴロモしか見たことがない。逆に、この薄べったいハゴロモらしき虫、今まで見た記憶がない。ミドリグンバイウンカ.緑色の葉に緑色の虫なので鮮明に見えない(2007/08/17) 調べてみると、グンバイウンカ科に属すミドリグンバイウンカ(Kallitaxila sinica )と言う種類らしい。我が家ではクチナシに集っているが、色々な植物に付く虫の様である。 ところが、その後色々なサイトを見てみると、同じ虫にオヌキグンバイウンカ(Mesepora onukii)の名を冠している所が幾つかある。和名はいい加減な名称だから2つあっても構わないが、学名の属名も種名も共に異なっているのが一寸気になる。何となく、シノニム(異名:Synonym)ではなくて、どちらかが誤った写真を掲げている様な気がする。もう少し調べてみる必要がありそうだ。横から見たミドリグンバイウンカ.平べったい(2007/08/17) 調べてみた結果、この種の虫について詳しい「かめむしBBS」でミドリグンバイウンカとオヌキグンバイウンカの問題が議論されているのを見付けた。それに拠ると、其処で問題にされているこの写真の虫と同じと思われる虫は、後脚脛節の側刺の数や、翅脈の走り方から、ミドリグンバイウンカ(Kallitaxila sinica )であり、オヌキグンバイウンカの方は誤認とのこと。やはり、シノニムではなかった。 Internetの昆虫図鑑の御蔭で、今までの標本写真による図鑑では中々同定が出来なかった虫が、かなり容易に同定できる様になった(本当の意味での同定ではないが・・・)。一方で、この様な誤認が一人歩きする可能性があるのを心配していたが、やはり現実にその様なことが起こっていた、と言うことである。クワバラ、クワバラ・・・。
2007.08.19
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最近はすっかりサボり癖が付いてしまって、更新を8日も空けてしまった。今日は、クロアゲハ・シリーズの最終回である。 先ずは、前蛹から。クロアゲハの前蛹.中々愛らしい(写真クリックで拡大表示)(2009/09/20) アゲハ類(Papilio属)の前蛹と言うのは、何とも可愛い。6cm程あった幼虫がその1/2位に縮まってしまう。何でこうも小さくなれるのか不思議である。どう見ても体積が減っている感じがするが、そんな筈はないだろう。一度体積を量ってみたくなる。前蛹の前半を等倍接写してみた.腹脚が何とも可愛い(写真クリックで拡大表示)(2009/09/20) 頭に近い方を拡大してみた。胸脚、腹脚共にキチンと揃えていて、大変御行儀が宜しい。次の日チャンと蛹になった.多くは緑色であったが茶色のもあった(写真クリックで拡大表示)(2009/09/21) 翌日は、チャンと蛹になった。5頭の内、木の枝で蛹化した4頭は写真の様に普通の緑色をしていたが、飼育箱の下に敷いていた白いコピー用紙のまくれ上がった端で蛹化した1頭だけは茶色の斑の蛹になった。 蛹の色が何によって決まるのかは色々研究されていて、昔何処かで読んだことがあるが、すっかり忘れてしまった。蛹化した場所の色で決まる、と言うような単純なものではなかった筈である。其処で一寸調べてみたら、「ミヤマカラスアゲハの本州西南低地での連続発生」と言う論文の中に「アゲハチョウやクロアゲハの蛹の多型に関与する刺激としては, 植物からの匂い, 蛹化面の幅・粗滑・曲率, 湿度, 温度, 日長など複数の要因が絡んでいるが, 背景色の影響は受けないことが明らかにされている」とあった。 クロアゲハの蛹は、ナミアゲハの蛹とは異なり、背中に突起がない・・・と言うか、ナミアゲハの蛹にのみ突起がある。クロアゲハの蛹.羽化5時間前.シッカリ黒くなっているまだ蛹殻との間に殆ど空気が入っていない(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 最初に示した蛹は10月2日に無事羽化したが、一寸事情があってその後の写真は撮っていない。上の蛹の写真はそれより2~3日遅れて蛹化した個体の羽化当日に撮ったものである。クロアゲハの蛹は、羽化の前日から明らかに黒っぽくなって来る。上の写真は羽化の約5時間前で、既に真っ黒になっている。羽化3時間前.蛹と殻との間に空隙を生じているが腹部にはまだ達していない(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 次は羽化の約3時間前。本体と蛹殻の間に空隙を生じ、其処に空気が入って白く光っている。しかし、まだ腹部の方は白くなっていない。羽化2時間前.腹部の方にも空隙が拡がってきた(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 上はその1時間後(羽化の約2時間前)。腹部の方にも空隙が拡がって来ている。この後、ず~と羽化を待ったのだが変化なし、中々羽化しない。翅が伸びきった直後のクロアゲハ.翅はまだフニャフニャ暗いのでストロボを焚いたら青くなってしまった(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) シビレを切らして一寸他のことをしている間に羽化してしまった。何時もこうである。上の写真は丁度翅が伸びた位のところで、まだフニャフニャ。 雨模様の薄暗い日なので、ストロボを焚いたら、クロアゲハが青アゲハになってしまった。上の写真の約1時間後.無理をして自然光で撮ってみたこれが本当のクロアゲハの色(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 上は一時間後に一寸無理をして自然光で撮ったもの。ブレ止め機構が無いし、レンズは100mmと焦点距離が長いので、雨模様の弱い自然光では撮り難いのである。少し逆光気味であるが、正しいクロアゲハの色が出ている。翅を拡げたクロアゲハ.前翅の地色が淡いので雌であろう(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 羽化後1時間位したら時々翅を拡げるようになった。しかし、天候不順で気温が低いせいか、中々飛びだそうとはしない。 クロアゲハの雄には上の写真では見えない後翅表面の前縁に白条があるのだが(雌にはない)、このことをすっかり忘れていて、調べ損なってしまった。しかし、この個体は前翅の地色が薄いので雌であろう。中々飛ぼうとしなので、シオンの1種に留まらせて記念撮影(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 夕方近くになっても、気温が低いせいか一向に飛ぼうとしない。其処で、一寸シオンの1種に留まらせて記念写真を撮った。一応、花に留まってはいるが、吸蜜はしていない。羽化後1日位は何も摂らない様である。クロアゲハの鱗粉.後翅裏面一番上(第7室)の赤色紋.右は前翅の裏面(写真クリックで拡大表示)(2009/10/05) 写真を撮った後、雨が本格的に降り出した。次の日は一日中雨であった。実は、写真に示した個体以外にもう1頭同時に羽化したのだが、2頭揃って我が家の庭先に2日間ジッと留まっていた。その次の日もまた雨模様であった。しかし、何れも知らない間にその姿を消していた。雨の合間に何処かへ飛んでいったらしい。 飼育した5頭は何れも無事羽化した。2齢幼虫の時に初めてその存在に気が付いたので、孵化の日付が分からないが、多分8月20~25日頃であろう。2齢から飼育環境になり、前蛹になったのは9月20~24日、羽化は10月2~7日である。孵化してから前蛹になるまで約1ヶ月、前蛹から羽化までは12日前後と言うことになる。ルリタテハの場合は、その多くが18日前後で前蛹となり、その後8~9日で羽化した。クロアゲハはルリタテハより大きいせいか、生長に時間がかかる様である。 これでクロアゲハの飼育経過報告は終わりである。これまでの記事の内容と掲載日を纏めると以下の通り。 内 容 掲 載 日 1)クロアゲハの2齢幼虫 9月14日 2)クロアゲハの4齢幼虫 10月 3日 3)クロアゲハの5齢(終齢)幼虫 10月 9日
2009.10.30
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十月中旬のことである。虫集め用に100円!で買ってきたコスモスの花弁(舌状花)の上に小さな黒い粒々が落ちているのを見つけた。芋虫か毛虫の落とし物に違いない。 早速、筒状花の周りや花の下側を調べてみた。しかし、何も居ない。其処で、今度は花弁が重なっている部分を調べたところ、その合間に小さな赤っぽい色をした芋虫が居るのを見つけた。 この芋虫(毛が少し生えているので芋虫と言うべきか、毛虫と言うべきか判断に苦しむ)、多分、買って来たコスモスの何処かに卵が付いていたと思われる。従って、「我が家の庭の生き物たち」ではなく「お客様」だが、後で分かる通り、此の成虫である蛾はこの辺りには普通なので、まァ、我が家の庭の生き物に準ずると云うところで掲載することにした。コスモスの花に居たオオタバコガの2齢幼虫.体長5mm小ささを御理解頂く為に原画全体(等倍接写)を示した(写真クリックで拡大表示)(2010/10/12) 体長は、見た時はもっと大きいと思ったのだが、写真から計測すると丁度5.0mm、拡大してみると、何やらノメイガの幼虫に似ている。しかし、全く別のグループの若齢幼虫の可能性もある。そこで、今後どうなるか分からないが、そのまま暫く様子を見ることにした。花弁の重なった部分に隠れていたオオタバコガの2齢幼虫とてもオオタバコガの幼虫には見えない胸背の黒い部分は前胸硬皮板であろう(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) その後、2齢を加えた後に姿が変わり、漸く正体が分かった。オオタバコガ(Helicoverpa armigera)の幼虫であった。しかし、まァ、成虫になるまで育て、正しくオオタバコガであることを確認してからWeblogに載せる方が無難であろう。 蛹化するまでは非常に成長が早かったのだが、その後は変化無し、中々羽化しない(年内に羽化させる為に長日条件で飼育した.オオタバコガは「悪者度」に非常に高い害虫なので保護する必要はない)。しかし、数日前、漸く1頭が羽化した。やはりオオタバコガであった。正背面から。上の位置から方向転換しているお尻の方の硬皮板(肛上板)は濃い茶褐色(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) さて、オオタバコガの幼虫であることは明らかになったが、今日の写真の幼虫は果たして何齢なのだろうか。オオタバコガはヤガ科(Noctuidae)タバコガ亜科(Heliothinae)に属すが、ヨトウガに近い。このヨトウガ類は、アゲハなどとは異なり、幼虫期が6齢の種類が多い(アゲハ類でも生育条件によっては6齢以上になることがあるとのこと)。調べてみると、オオタバコガは5齢乃至6齢と一定していないらしい。 卵は小さくて直径0.4mm程度と云うから、少なくとも初齢ではないだろう。其処で文献を探すことと相成る。 意外と簡単に、福岡県のHPの下にぶら下がっている「大豆を加害するハスモンヨトウ及びオオタバコガ各幼虫の齢期を判定するための頭幅測定ゲージ」と云うファイルが見付かった。横から見たオオタバコガ2齢幼虫.最初の写真の部分拡大後脚は4対(ヤガ科には4対以下の種がかなりある)(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) この文献のデータを使うと、頭幅を計ることによってオオタバコガ幼虫の齢が推定出来る。出典は、「Van den Berg,H. and Cock,M.J.W.(1993)」となっており、文献名は記されていない。この両者によって1993年に出版された論文は数報あり、その何れに載っていたデータかは不詳である。 それは兎も角、オオタバコガの頭幅と齢の関係は以下の様になっている。 幼虫の齢 頭幅最頻値(mm) 最小値-最大値 1齢 0.25 0.2 - 0.3 2齢 0.35 0.3 - 0.45 3齢 0.60 0.55-0.75 4齢 1.05 0.85-1.25 5齢 1.70 1.3 - 2.0 6齢 2.60 2.4 - 3.0正面から見ても小さ過ぎて頭部の詳細は不詳(写真クリックでピクセル等倍)(2010/10/12) 上の写真から頭幅を測定すると、0.43mm。上の表に拠れば、少し大きめだが、2齢と云うことになる。 これから暫くは、このオオタバコガの幼虫の各齢を紹介することになろう。オオタバコガは「大害虫」として名高いから、各齢の詳細を掲載することは農業関係の人にも多少は役立つかも知れない。[追記]この幼虫は無事成虫にまで成長した。以下に、以降の記録の一覧を示しておく。 内容 掲載日 撮影日 備考 3齢幼虫 2010/12/01 2010/10/14 他とは別個体 4齢幼虫 2010/12/11 2010/10/14 5齢幼虫 2010/12/15 2010/10/17 6齢幼虫 2011/01/17 2010/10/21 蛹と成虫 2011/01/31 - 2個体
2010.11.26
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我が家で見られるごく普通の虫、しかもかなり大きな虫なのにこれまで紹介していなかった虫が居る。スジグロシロチョウ(スジグロチョウ)である。 余りにもありふれているのと、翅の内側(表面)を撮る機会が中々無かったのが紹介を躊躇っていた主な理由である。今回も翅の開き方は不充分なのだが、「我が家のカナヘビ君」がこのスジグロチョウを狙っているところも撮れたので、この際掲載することにした。スジグロシロチョウを狙う「我が家のカナヘビ君」何時もの癖でついストロボを焚いてしまったので調子のおかしい写真になってしまった(2008/06/08) この写真(下の写真も)を撮ってから、何か用があって10秒位場を離れたのだが、戻って来てみると、スジグロシロチョウは付近をヒラヒラと飛んでおり、カナヘビ君は見当たらなかった。カナヘビ君、攻撃に失敗したらしい。翅を少し開いたスジグロシロチョウ(雄).上と同一個体(2008/06/08) ところで、このスジグロシロチョウ、昔は「シロ」の付かないスジグロチョウと呼んでいなかったか? 中学生の頃に使用していた保育社の「原色日本蝶類図鑑」が何処かにあるはずなので調べてみようと思ったが、廃棄してしまったのか見当たらず、結局分からずじまい。 以下の2枚の写真は丁度昨年の今頃撮ったものである。オクラにするのも勿体ないので、此処に掲載することにした。何れも、今咲いているニワナナカマドの花に来たものである。ニワナナカマドの葉に留まるスジグロチョウの雄(2007/06/01) スジグロシロチョウの仲間は、少し前まではエゾスジグロシロチョウとスジグロシロチョウの2種だけであった(遙か昔はスジグロチョウ1種のみだった様な気がするがこれも定かでない)。ところが、現在ではエゾスジグロシロチョウからヤマトスジグロシロチョウが分離して、3種となってしまった。 この3種、区別が難しい。しかし、エゾスジグロシロチョウは札幌以東に分布するとのことなので、この辺りではヤマトか只のスジグロか、と言うことになる。「原色日本蝶類図鑑(全改訂新版)」と「日本産蝶類標準図鑑」の双方を参考にして調べてみると(此処に掲載していない写真も参照)、今日掲載したのは何れも只のスジグロシロチョウ(1~3番目は雄、4番目は雌)ではないかと思われる。 しかし、どうも良く分からない。交尾器も極めてよく似ているし、2冊の図鑑に載っている区別点と図版を相互に見較べても判然としない場合がある。ニワナナカマドで吸蜜するスジグロチョウの雌(2007/06/02) 日本産蝶類の数は少ないし、今後新種が発見される可能性も極めて低い。一方で、此処50年位の間に1種が2種に分かれた蝶が何種類もある。 分類学者の一部には、自分の専門領域で種や属を増やしたがる人がいる。役人の自己増殖と何となく似ている。専門家のすることに素人が容喙するのは滑稽千万なこととは百も二百も承知のつもりだが、本当に種レベルの差異に相当するだけの違いがあるのだろうか、と思いたくなることがある。
2008.06.10
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先日、久しぶりに投稿したが、実は同じ日に別の綺麗な虫をもう1種撮ってある。 ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)である。ガガンボ科(Tipulidae)ガガンボ亜科(Tipulinae)Ctenophorini(クシヒゲガガンボ族?)に属す。以前、紹介したホリカワクシヒゲガガンボと同族だが同属ではない。 ホリカワクシヒゲガガンボより少し小さい。雌なので、触角は単純で短いが、雄では「クシヒゲ」状となる。ベッコウガガンボ(Dictenidia pictipennis)(写真クリックで拡大表示)(2016/06/03) 少し弱っていたのか高く飛べないので、捕虫網で確保して、居間のカーテンに留まらせて撮影した。 本当は、更に部分拡大写真を撮るつもりだったのだが、カーテンの下の落ちた後、何処かへ消えてしまった。ガガンボは何処、ガガンボは居ずや、室内隈なく尋ぬる三度、呼べど答えず探せど見えず。 そんな訳で残念ながら、写真は1枚しかない。
2016.06.26
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今日は、このWeblog始まって以来とも思える美形を紹介する。 数日前、庭の奥の方にある柿の木の下を歩いていたら、妙にクルクル回る様な飛び方をする変な虫が居た。良く見ると、長い尾が付いているらしい。一体何者?? やがて建物の壁面に留まった。ハチの1種であった。体長は多分7mm位、長い産卵鞘を持っているので、多分ヒメバチの類であろう。 留まっているのは高さは2m位の所、一寸撮り難い、と言うか、虫が遠すぎて等倍接写は出来ない。仕方なく、やや離れた位置から撮ったのだが、ストロボの光が気に食わないのか、数枚撮ったらもっと上の方に逃げて行ってしまった。オナガコバチ科の1種.産卵管鞘が長い(写真クリックで拡大表示)(2009/08/25) 撮った虫をコムピュータで拡大してビックリ、全身がサファイアの様に青色に輝いている。撮影時には逆光になっていたせいか、全く気が付かなかった。こんなに綺麗なハチならば、降りてくるまでもっと待つのであった。急いで先の場所に戻って探してみた・・・が、残念ながら、後悔先に立たず。 目で見たときは、かなり大きかったのでヒメバチだと思った。しかし、翅脈を見れば明らかにコバチ類(コバチ上科:翅脈が大幅に退化している)。何分にも横からの写真1枚しかないので、背面がどうなっているか分からず、北隆館の圖鑑に載っている検索表は引けないが、産卵管鞘が長いし、後腿節がかなり太いのでオナガコバチ科の1種の可能性が高い。縁紋脈の形もある種のオナガコバチの1種としておかしくない。しかし、コバチ上科には20近くもの科がある。 此処まで書いたところで、「Borror & Delong's Introduction to the Study of Insects」の検索表が引き易いことを想い出した。早速それを参照してみると・・・、少し怪しげな(この写真からは判別出来ない)所もあるが、一応オナガコバチ科(Torymidae)に行き着いた。上の写真の部分拡大.体は青色に輝き、眼は赤く、脚の先は桃色(写真クリックで拡大表示)(2009/08/25) この本のオナガコバチ科の解説を読むと、体長は2~4mmとあり、先に書いた「体長は多分7mm」は少し大き過ぎる。しかし、これはあくまで印象に過ぎない。何時もと違い、等倍撮影をしていないので正確な大きさは分からないのである。判断に苦しむが、此処では検索結果を尊重して「オナガコバチ科の1種」とし、「?」は付けないことにした。[その後、同科のEcdamua nambuiである可能性が高いことが分かった。詳しくは追記参照のこと] オナガコバチ科の分類はまだかなり問題があるらしい。先の「Study of Insects」には6亜科の名前が出ているが、九州大学の日本産昆虫目録では3亜科、全2亜科としている外国のサイトもある。 九大目録には42種が載っており、、東京都本土部昆虫目録を見ると10種が記録されている。余り種類数の多い科ではないが、恐らくまだ未記載種がかなりあるのだろう。 オナガコバチ類の生活史は様々である。虫えいを作るもの、虫えいを作る虫に寄生するもの、種子に寄生するもの、カマキリの卵に寄生するものなど、実に変化に富んでいる。上位分類に諸説あるのも、生活史の多様さと無関係では無いだろう。[追記]このオナガコバチについては、掲載前にハチ類の掲示板「蜂が好き」に御伺いを立てたのだが、その時は残念ながら有用な情報が得られなかった。しかしその約1年後、私が南方方面に出撃している間に、ハチの研究者として知られている長瀬博彦氏から「写真のオナガコバチは写真で見る限りEcdamua nambui Kamijo(和名はたぶんついていない)だと思います」とのコメントを賜った。何分にも日本を3ヶ月も離れていたので、新しいコメントが入っていることには全く気が付かず、今日漸くそのコメントに接した次第である。 九州大学の目録を見ると、Ecdamua nambui(和名なし)はオナガコバチ科(Torymidae)Toryminae亜科(和名なし)に属し日本では1属1種、北海道と本州に産する。Web上で探してみると、A. Zavada氏の「Notes on Ecdamua nambui (Hymenoptera:Torymidae), with a key to world Ecdamua species」と云う論文が見付かった。これに拠れば、Ecdamua属は、世界に5種産し、E. nambuiは当初日本からのみ知られていたが、キエフでも採集されたとのこと。 この論文には、検索表とE. nambuiの詳細な記載が載っているが、本記事の写真1枚からでは判断出来ない特徴が多い。しかし、前伸腹節の中央に小窩の列があるのはE. nambuiのみで、写真にはその様なものが見えるのでE. nambuiである可能性は高いと思う。 長瀬氏は「写真出見る限り、・・・だと思います」と書かれており断定はされていない。コバチ類には未記載種や未記録種がまだ沢山あると思われるが、同属は世界で5種と少なく、その可能性は低いであろう。其処で、此処では「E. nambui」とし、「?」は付けないことにした。 長瀬氏には貴重なコメントを賜り、深謝申し上げる。(2011/02/02)
2009.08.30
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クモと言う生き物は、世間様では余り評判が芳しくない。確かに、ユウレイグモやゴケグモなどに頬擦りしたいとは思わないし、薄暗い木々の間を歩いていて蜘蛛の巣が顔にベチャッと張り付いた時、それで気分が爽快になるという人も決して多くはないだろう。 しかし、クモの中にも愛らしい種類がいる。その代表はハエトリグモ。脚は長くないし(短足が評価されるのは珍しい)、動作は機敏でピョンと跳ねる。それに何と言っても蜘蛛の巣を張らない。 今日はその中からネコハエトリを紹介する。色々写真を用意したのでハエトリグモの可愛さを大いに楽しんでいただきたい。なお、ハエトリグモの和名には「クモ」を付けないのが習慣だそうで、此処でもそれに従うことにする。クリスマスローズの葉上を徘徊するネコハエトリ(2007/04/05) ネコハエトリは日本全国に分布し、最も普通に見られるハエトリグモである。縁側で日向ぼっこをしていると、何処からともなくクリスマスローズの葉の上にやって来る。長さは1cmに満たない。東京周辺では「ホンチ」と呼ぶそうだが、確かに、子供の頃この名前を聞いた覚えがある。ネコハエトリ.ハエトリグモはこの様な体を曲げた姿勢を取ることが多い.前方中央の大きな単眼(前中眼)と横の少し小さい単眼(前側眼)がよく見える(2007/04/05) 真上から見ると、毛ガニに似ている。1番目の写真ではよく分からないが、2番目では4対の脚の先に白っぽい剛毛が沢山生えた1対の触肢が見える。これをカニのハサミに見立てれば脚の本数もカニに一致する(タラバガニやハナサキガニはカニではなくヤドカリの仲間なので脚が1対少ない)。ネコハエトリ.最後方の単眼(後中眼)とその前にあるやや細めの単眼(後側眼)が見える(2007/04/14) クモは昆虫とは異なり、複眼は無く、単眼を0~4対持つ。ハエトリグモには4対8個の単眼がある。多くのクモは蜘蛛の巣や地面の震動を感知して餌を捕らえるので余り眼は発達していないが、ハエトリグモは巣を張らず、専ら眼で獲物を見て捕らえるので、目は良く発達している。特に最前方の1対(前中眼)は非常に大きく、まるで双眼鏡で覗いている様な感じ。真っ正面から見たネコハエトリ.まるで双眼鏡の様な眼が愛らしい(2007/04/05) ハエトリグモは歩き回って獲物を探すほかに、獲物の来そうな所で待ち伏せしていることも多い。先日、何気なく西洋シャクナゲの花を見たら中に何か居るので、マクロレンズで覗いてみたらネコハエトリであった。下の写真はその時撮ったもの。御行儀良く待ちかまえているところは、ネコを思い起こさせる。西洋シャクナゲの花の中で獲物を待ちかまえるネコハエトリ.中々御行儀が宜しい(2007/04/05) 如何であろうか?ハエトリグモの可愛さを充分堪能していただけたであろうか。 今年はクモは勿論、もっと奇怪、異様、不気味な生き物も紹介するつもりで居る。閲覧者数が減るかも知れない。
2007.04.17
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此処暫く5mm以下の小昆虫が続いていたが、今日は久しぶりに大きな虫を紹介する。サトキマダラヒカゲ(Neope goschkevitschii)、開張5~6cm、やや大型のジャノメチョウの仲間である。この専ら単子葉植物を食草とし、多くは日陰を好むグループは、以前はジャノメチョウ科として独立の科になっていたが、今ではタテハチョウ科ジャノメチョウ亜科とするのが一般的らしい。サトキマダラヒカゲ.拡大すると鱗粉が見える(写真クリックで拡大表示)(2009/08/26) この蝶、私が高校生の頃までは只の「キマダラヒカゲ」と呼ばれていた。それが1970年頃にサトキマダラヒカゲとヤマキマダラヒカゲと言う2種に分けられた。サトとヤマの紋様の違いは非常にビミョーで、両者を並べて比較しても良く分からない程の差異である。此処で一方だけの写真を出して、その違いについて書いても殆ど意味が無いと思われるので、その違いについては省略する。サトキマダラヒカゲの鱗粉.被写界深度が浅いので凹凸のある翅の一部にしか焦点が合っていない(写真クリックで拡大表示)(2009/08/26) 紋様は酷似していても、この両者、名前から察せられる様に、棲息する場所が異なる。我が家は世田谷区の標高40m位の所にあるので、文句なしにサトキマダラヒカゲと相成る。しかし、サトは低地、ヤマは山地・・・なのだが、一般的にはそう単純には行かない。ヤマは本州中部では標高240~2000mに分布するが、サトの方も標高1500mを越える亜高山帯にまで棲息するのである。山地で採集したキマダラヒカゲは、そのビミョーな斑紋の違いを見極めて、ヤマかサトかを決めなければならない。サトキマダラヒカゲの横顔.口の下に普段は使わない前脚が見える(写真クリックで拡大表示)(2009/08/26) しかし、2種に分けられたのは、その殆ど見分けが付かない程の微妙な斑紋の差異だけを根拠としたのではない。幼虫の形態や成虫の行動にも差があり、それらの違いを丹念に調べ上げた結果、2種あるとの結論になったのだそうである。 これを調べたのは高橋真弓氏と言う当時高校の教諭で、その後日本鱗翅学会(アマチュア中心の学会)の会長なども務めた方である(一見御婦人の様な名前だが男の人)。サトキマダラヒカゲの顔.触角が赤いのが印象的複眼にはかなり長い毛が生えている(写真クリックで拡大表示)(2009/08/26) 何時もの様に、顔写真を撮ってみた。データをコムピュータに移し、拡大した像を見て驚いたことは、この蝶の複眼に沢山の毛が生えていたことである。しかも、その毛がかなり長い。双翅目(蠅、虻、蚊)には複眼に毛の生えた種類がかなりあるが、鱗翅目(蝶、蛾)ではこれが始めてである。或いは、今まで撮った蝶の中にも良く見れば毛が生えている種類が居たかも知れない。これからは眼の毛にも気をつけてみよう。上の写真の部分拡大.毛で覆われた複眼の中に個眼が見える(写真クリックで拡大表示)(2009/08/26) このサトキマダラヒカゲ、昔は我が家の常連で、秋になると柿の落ちた実などにキタテハと一緒に集っていた。しかし、最近はその数がグッと少なくなった。年に2回位しか姿を見せない。尤も、一緒に居たキタテハの方はもっと少なくなって、全く姿を見ない年の方が多い・・・。余り昔のことを想い出すと、何か寂しくなって来る。思い出話は止めにしよう。
2009.08.27
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今日は、ロリーポップに引き続き、少し変わったユリをまた1種紹介する筈であった。しかし、昨日の夕方、注文していたクローズアップレンズとストロボのディフューザーが届いたので今日その実験をしてみたところ、マズマズの成績を収めたので、その結果を先に掲載することにした。 クローズアップレンズを買ったのは、勿論、等倍以上の接写をしたいが為である。等倍以上の超接写をするには次の様な種々の手段がある。 1)現在、最も高性能で撮影倍率も高いのはキャノンの「MP-E 65mm 1-5x マクロフォト」と言うレンズを使う方法である。等倍から5倍まで撮影出来る、超接写専門のレンズである。しかし、私はキャノンのボディーを持っていない。このレンズは実物を見ると非常にゴツく大きなレンズで、Kissシリーズの様な小さなカメラでは操作がし難く、EOS 40D辺りを買わなければならないことになる。また、被写体がレンズから非常に近くなるので、専用のストロボ(マクロツインライトMT-24EX)も必要である。何れも実売価格10万円程度だから、合計30万円近い出費となる。 2)最近、マイクロ広角レンズと言う、鏡筒前部のレンズが結ぶ焦点像を別のレンズで拡大して撮る(らしい)レンズがある。レンズを部分的に取り換えることにより非常に多様な使い方が出来るらしく、所謂「虫の目レンズ」もこれに属す。超接写用には何が必要なのかよく知らないが、やはり全部で30万円近い価格になるらしい。 3)接写リングやベローズに少し短め(ワイド)のレンズを逆付け(リヴァース、レンズを反対向きに付ける)する方法もある。接写リングやベローズは昔使ったものをアダプターを使って付けることが出来るが、レンズは手元に適当なものがないから、新しく買わなければならない。古典的なシステムで、かなりの高倍率が得られる。しかし、致命的な欠陥がある。レンズを逆向きに、フィルター側をカメラの方に向けて取り付けるのだから、オート絞りが利かないのである。しっかりした資料台と三脚を使用するなら兎も角、これをフィールドで使用するのは些か無理がある。 4)かなり乱暴な方法もある。標準ズームレンズの前玉だか前部だかを外して、残りの部分を使うとかなりの接写が出来るそうである。しかし、その方法で撮影した写真を見ると、マクロレンズで細心の注意を払って撮ったのと余り変わりがない様に見える。 5)一番簡単なのが、クローズアップレンズを使うことである。フィルターを付けるのと同じだから、フィルター径さえ合えば何処のメーカーのものを使っても構わない。ただ、被写体との距離が小さくなりストロボの光が廻らなくなるので、光を分散させるディフューザーが必須で、また、ディフューザーで光量が相当減少するはずだから、外付けストロボも必要となる。私の場合、外付けストロボは持っているから、クローズアップレンズとディフューザーだけを買えばよい。 ・・・と、色々ある訳だが、遊びに30万円出す気はしないし、標準ズームを壊して良い結果が得られる保証もない。クローズアップレンズとディフューザーならば合計1万円もしないし、ものは試しで、うまく行かなければ捨て置いても大して心が痛むこともあるまい。 100mmのマクロレンズに、No.5とNo.3のクローズアップレンズを2枚重ねて付け、撮影倍率を最大にして撮ってみた。CCDの横幅が23.5mmの場合、画面の横幅は約12.6mmとなり、倍率はマクロレンズ単体の約2倍になった。レンズ面と被写体までの距離は約55mmで、超接写にしてはかなり開いている。 これを使って先日紹介したクヌギミツアブラムシ(一度絶滅したが、また別のコナラの木に現れた)の幼虫を撮ったのが下の写真である。クヌギミツアブラムシの若齢幼虫.体長約1.25mmピクセル等倍.触角は5節、角状管や尾片の毛も見える(2008/06/21) まだかなり小さい若齢幼虫で、先日紹介した同種のアブラムシよりはずっと小さく、体長約1.25mm。前のシステムでは、これの2倍程の大きな個体でもどうしても見えなかった触角の節が、ハッキリ5節見える。また、その触角や角状管(腹部の後部側方にあるアブラムシ独特の管状をした構造、ミツアブラムシ亜科では小さな丘状の突起になっている)、尾片(お尻の先っぽ)に生えている毛もチャンと見える。・・・う~~ん、これは、我ながら、かなりの進歩と言えるのではないか!! この新システム(と言うほど大袈裟なものではないが)を使ってみて、タメゴロウの如くアッと驚いたのは、ピクセル当たりのレンズの解像力が上がってしまったことである。上の写真、ピクセル等倍である。これに使用したレンズとカメラは、ここ暫くこのWeblogで使用しているセットではなく、以前使っていたセットである。ピクセル等倍では使い物にならないので、今のセットに換えたのである。それが、この写真の様にピクセル等倍でもかなりカチッとした像を結んでいる。 クローズアップレンズ、しかも一番倍率の高いNo.5と真ん中のNo.3を重ねて使えば、ピクセル当たりの解像力は相当落ちるのが普通である。それ故、今まで試してみなかったのだが、偶然の組み合わせとはいえ、世の中、不思議なこともあるものである。
2008.06.21
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以前から気に掛かっていたことがある。このWeblogを始めて間もない頃に掲載した「アシナガキンバエ」のことである。我が家の庭や近くの林でもよく見かける極く普通のハエ(本当はアブの仲間だが、此処ではハエとしておく)である。雌雄でかなり形が違うし、何分にも体長3mm程度の小さな虫なので肉眼では良く分からないのだが、何回も見ていると、段々複数種存在するのではないかと言う気がしてきた。Web上にある写真を見ても、是亦、何となく、違う種類が混じっている感がある。 其処で、その後買った北隆館の新訂原色昆虫大圖鑑第3巻に書かれているアシナガキンバエの解説を読んでみた。すると、「体長5~6mm。(中略)M1+2脈(翅脈については2番目の写真を参照)は分岐せず、(中略)中脛節の先端には5棘毛を、また、後脚第1付節には背棘毛を生ずる(後略)」と書かれている。随分違うではないか!! これまでWeb上で「アシナガキンバエ」とされてきたハエは下の写真とソックリだが、体長は1/2位だし、M1+2は前縁に大きく曲がるM1脈とM2脈に分離している様に見えるし、更に、中脛節端に5棘毛ある様には見えないし、また、後脚第1付節には棘毛らしきものは見当たらない。 そう思っていたところ、先日、幸いにもかなり高精度の「アシナガキンバエ」の写真が撮れた。そこで、思い切って双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂」に、本当にこれがアシナガキンバエ(Dolichopus nitidus Fallen, 1823)か否か御伺いを立ててみた。 その結果は、驚くべきものであった。”ニセ”アシナガキンバエ.体長は3.0mm弱、翅長は約3.0mm(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 私の問い合わせには、九州大学名誉教授の三枝豊平先生が対応してくださった。先生はオドリバエ研究の第一人者で、同じオドリバエ上科に属すアシナガバエ科についても新種の記載などをされている。 先生の御話を纏めると、写真のハエは明らかにアシナガバエ亜科のアシナガキンバエではなく、これに類似した先生所蔵の標本からの御判断では、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae:九大目録ではヒゲナガアシナガバエ亜科、ホソアシナガバエ亜科は北隆館の新訂大圖鑑にある名称で執筆者は三枝先生)のChrysosoma属の1種である可能性が高いとのこと[その後、研究が進み同亜科のウデゲヒメホソアシナガバエ:Amblyspilopus sp.1であることが判明した。追記参照のこと]。種が間違っているばかりでなく、亜科も違う「ハエ」だったのである。 因みに、よく知られているマダラホソアシナガバエ(マダラアシナガバエ:Condylostylus nebulosus、マダラホソアシナガバエの名称は三枝先生に由る改称)も、このホソアシナガバエ亜科に属す。上の写真に翅脈の名称を付けておいた.M2脈がカッコに入っているのはこれは正しいM2脈ではなく二次脈との先生の御話に拠る.これが正しいM2脈ならば曲がる方はM1+2脈ではなくM1脈としなければならない(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 先生に拠れば、ホソアシナガバエ亜科に属すの多く種では、写真の”ニセ”アシナガキンバエの様に、M1+2脈が中室と翅端との中間付近で大きく前縁側に屈曲し、また、その屈曲点から真っ直ぐに翅端に伸びるM2脈(先生の御考えでは、これは本当のM2脈ではなく、屈曲部から生じた二次的な翅脈とのこと。これがM2脈なら曲がる方はM1としなければならない)が出ているそうである。これは、全く分類学的位置の異なるヤドリバエやニクバエの翅脈に近い形である(アシナガバエは双翅目短角亜目直縫群オドリバエ上科アシナガバエ科、ヤドリバエは双翅目短角亜目環縫群ヒツジバエ上科ヤドリバエ科なので亜目の次のレベルで異なっている。ヤドリバエの翅脈は此方をどうぞ)。クチナシの花上で何かを食べている”ニセ”アシナガキンバエアシナガバエ科の「ハエ」は基本的に捕食性である(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 本物のアシナガキンバエの翅脈はどうなっているかと言うと、M1+2脈は写真のハエのM1+2脈が前縁に曲がっている位置で、ほぼ直角に前縁に向かって(左)折れ、その直後にまたほぼ直角に翅端の方(右)へ折れ、R4+5脈に平行して翅端に至る。その曲り方は「ジグザク」的であり、大きくない。また、”ニセ”アシナガキンバエの様に「M2脈」を生ずることはない(北隆館の新訂圖鑑にあるアシナガキンバエの写真は、旧版の写真をスキャンしたものと言われており(三枝先生の御話、解説も昔の儘)、元々写真が綺麗とは言い難い旧版よりも更に酷い写真になっているが、少なくとも大きく曲がったヤドリバエ的な翅脈は認められない)。 なお、アシナガキンバエの属すアシナガバエ亜科には、写真の”ニセ”アシナガキンバエの様にヤドリバエ的な翅脈相を持つ種は居ないとの御話であった。横やや上側から撮った”ニセ”アシナガキンバエ(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) 更に奇怪な事は、アシナガバエ科の研究もされ、十万のオーダーで標本を所蔵されていると思われる先生の御手元に、アシナガキンバエ(Dolichopus nitidus)の標本が一点も無いのだそうである。・・・と言うことは、本物のアシナガキンバエは相当な珍種? しかも、日本で始めてアシナガキンバエをDolichopus nitidusとした故素木得一教授の書かれた雄交尾器の側面図と、「Faune de France 35 Dolichopodidae[仏蘭西動物誌三十五:脚長蠅科](Parent 1938)」に載せられている図とでは、先生にはやや異なる様に見えるとのこと。どうも、アシナガキンバエが本当にDolichopus nitidusに相当するのかすらも、少し怪しい様である。 アシナガバエ科の昆虫は九州大学昆虫目録では41種、北隆館の新訂原色昆虫大圖鑑の解説(三枝先生執筆)には12属100種足らずしか記録されていないと書かれている。しかし、「日本産水生昆虫」のアシナガバエ科を執筆した桝永氏に拠れば「500種を越える種類が生息すると推測される」とのこと。要するに、アシナガバエ科は研究が圧倒的に不足している分類群なのである。正面から見た”ニセ”アシナガキンバエ(写真クリックで拡大表示)(2009/07/04) Web上にある「アシナガキンバエ」の画像を見てみた。すると、調べた範囲では、そのM1+2脈は全て写真の”ニセ”アシナガキンバエと同じ曲り方をしていた(翅脈の見えない様な写真は、ソモソモ問題外である)。 「"アシナガキンバエ"」でGoogle検索すると8,000以上もヒットする。本物のアシナガキンバエが珍品らしいことを加味すると、私の分も含めてその殆ど全部が、種ばかりでなく亜科のレベルで異なる「ニセアシナガキンバエ」についての記事であろう。亜科のレベルの間違いと言うのは、例えば蝶ならば、ナミアゲハとギフチョウを間違えるのに相当する。Web上の情報には誤りが屡々含まれているのは常識だが、これ程大規模且つ大きな誤りも一寸少ないのではないだろうか。 なお、Web上の「ニセアシナガキンバエ」は、此処に示した写真と同じ1種のみとは限らない。数種が「アシナガキンバエ」として掲載されている可能性がある。「ニセアシナガキンバエ」の正体は、今後アシナガバエ科の研究が進まない限り、キチンと解明されることはないのかも知れない。 謝辞:本稿は、一重に九州大学名誉教授の三枝豊平先生の御指導の賜である。先生には、私のクドイ、時に稚拙な質問にも一つひとつ丁寧にお答え下さり、どう御礼を申し上げたら良いか分からない程御世話になった。今、此処でキチンと正座して西の方(先生の御宅の方向)を向き、叩頭して御礼を申し上げる。「本当に有難う御座いました」。 追記:2010年秋に、田悟敏弘氏により、関東地方のアシナガバエに関する研究が、双翅目談話会の会誌「はなあぶ」に発表され、本種は、ホソアシナガバエ亜科(Sciapodinae)に属すウデゲヒメホソアシナガバエ(新称)Amblypsilopus sp.1であることが示された。それに伴い、表題、内容に多少の変更を加えた。詳しくは、こちらをどうぞ。
2009.08.16
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毎年チョクチョク顔を出すのに、今年は殆ど見られないのが、かつての超普通種、モンシロチョウ。 有効な農薬を使用しなかった昔は、1kmほど北にあるキャベツ畑に行けば、それこそ「雲霞の如く」モンシロチョウが群らがっていたものである。 キャベツ畑から遠い我が家の庭にもごく普通にやって来た。しかし、農薬を使用しだしてからは激減、と言うより、一時は殆ど絶滅に近い状態で、シロチョウ科の白い蝶と言えば、スジグロチョウと春先のツマキチョウだけになってしまった。 しかし、その後かなり経ってから(10~20年後?)また数は多くないが時々現れるようになった。久しぶりにモンシロチョウを見たときは、かつては超普通種であったことも忘れ、大いに感激したものである。 また現れるようになった理由は良く分からない。農薬を使用しない有機農業が流行り始めるより前の時代だから別の原因があるのだろう。しだれ梅の葉上で休むモンシロチョウ(2006/09/20) ご存じの方も多いと思うが、モンシロチョウの食草はキャベツなどのアブラナ科の栽培植物だけではない。分類学的には同じアブラナ目だが別科のクレオメ(セイヨウフウチョウソウ、我が家では何故か「蝶々花」と呼んでいた)も食草にする。 実は、昔から毎年我が家で「自然発生」しているクレオメに、飛んできたモンシロチョウが産卵してある程度繁殖していた。しかし、何時も食草が不足に陥り、キャベツ畑で育った大きなモンシロチョウから見ると、まるで子供のような矮小な個体になるのが普通であった。 家の改築でクレオメは全滅したが、その後も時々モンシロチョウがやって来た。しかし、昔を懐かしんでクレオメを植えてからは、その数がずっと多くなった。 今年モンシロチョウが少ないのは、その後自然発生的に花を咲かせていたクレオメが今年はたった1本になり、しかもどういう訳かまるで生長が良くないせいなのかも知れない。毎年モンシロチョウが産卵し、生長、羽化していたのだが、今年は食痕が全く無い。クレオメも生長が悪いとモンシロチョウを呼び寄せる物質の発散が少なくなるのだろうか。モンシロチョウの顔(2006/09/14) 昔の庭は広かったからかなりの数のクレオメが生えていた。しかし、今は「猫の額」なので本数はずっと少ない。ある年1本のクレオメに余りに沢山(20匹位)の幼虫がついたので、これでは途中で食草が無くなって全滅すると思い、スーパーで買ってきたキャベツで飼育してやった。ところが、1週間位の間に一匹残らず死んでしまった。体がドロドロに溶けるような、気味の悪い妙な死に方であった。 インターネットで調べてみると、方々の小学校でモンシロチョウの青虫の飼育実験をしており、そのレポートが発表されていた。やはり、スーパーや普通の八百屋で買ってきたキャベツで飼育した場合は全滅し、自然食品販売店で買ってきたキャベツではチャンと羽化している(自然食品と称する物の中には、インチキがかなりあると思っていたのだがそうでもないらしい)。いつも普通種ばかりで恐縮なので、余り撮られていない角度(真上)から撮ってみた(2006/09/14) 犯人はオルトラン(アセフェート)の様な残留型の農薬であろう。一度散布すれば1ヶ月は効力を発揮する非常に便利な農薬である。マウス実験によるアセフェートの半数致死量は約0.5g/kg(体重1kg当たり0.5g、体重50kgであれば25g摂取すると50%が死ぬ)程度でかなり安全であり、「劇物」や「毒物」ではなく「普通物」とされている。しかし、何とも気持ちが悪く、このことを知ってから暫くはキャベツを食べる気がしなかった。
2006.09.20
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今日はバッチイ虫を紹介しよう。これまでも双翅目では衛生昆虫の範疇に入る虫(ツヤホソバエ類、オオチョウバエ等)を何種か掲載したが、今日のは甲虫、不潔な甲虫と言えば、真っ先に思い浮かべるのがコガネムシ科の食糞群、即ち、センチコガネ、マグソコガネ、ダイコクコガネ等の、所謂糞虫の類である。 今日紹介するのは、その内のダイコクコガネ亜科(Scarabaeinae)に属すコブマルエンマコガネ(Onthophagus atripennis)。体長は7mm前後(図鑑では5~9mm)と普通のコガネムシよりは小さいが、糞虫としては大きい方である。コブマルエンマコガネ(雄).頭部の先端は上向きのヘラ状胸背にはやや複雑は凹凸がある(写真クリックで拡大表示)(2009/08/28) どうもこの連中は苦手である。雌雄で形態が違うし、雄にある突起の形は体の大きさ(幼虫時代の栄養の多寡)で相当に変化する。これはクワガタやカブトムシでも同じだが、多くは1cmに満たない小さい種類なのでずっと分かり難い。 実は、糞虫類の種類を詳しく調べるのはこれが始めてである。まず、保育社の甲虫図鑑にあるコガネムシ科の検索表を使って、亜科を調べる。触角は8節か9節なので、11節のセンチコガネ亜科ではない。また、第8節が杯状ではないのでアツバコガネ亜科でもない。残るはマグソコガネ亜科かダイコクコガネ亜科となる。検索表に拠れば、前者では尾節板(お尻の先端)は一般に上翅(鞘翅)に被われて見えず、後脛節の端棘は2本、後者では尾節板は上翅より露出し、後脛節の端棘は1本、とある。写真を見ると、お尻の先端が見える。また、後脛節端には長い棘が1本と短い突起が1つ認められ、この状態が「端棘が1本」と言えるのか些か自信がないが、図鑑の図版を見るとダイコクコガネ亜科の虫の後脛節端と同じ形をしている。従って、写真の虫はダイコクコガネ亜科に属すと考えて問題ないであろう。後脛節端には長い棘が1本と短い突起がある見難いが複眼の間に1対の突起があるお尻の先が鞘翅からはみ出している胸背の点刻はかなり疎で浅い(写真クリックで拡大表示)(2009/08/28) 次は属の検索である。後付節の基節(第1節)は第2節より遙かに長いのでダイコクコガネ族(Coprini)となり、前胸背板の後縁に沿う溝がなく、後縁は上反しないので、エンマコガネ属(Onthophagus)かコエンマコガネ属(Caccobius)と言うことになる。この2者は前脛節端の形で区別され、先端が内縁と鋭角をなして斜めに裁断されていればエンマコガネ属、ほぼ直角であればコエンマコガネ属である。しかし、これは写真からは一寸分かり難い。こうなると、この2属に属す虫の写真をInternetで探して比較することになる。撮影したのは何分にも都内の住宅地だから、珍種は居ない、と言う想定である。幸いなことに、東京都本土部昆虫目録にはエンマコガネ属は7種、コエンマコガネ属は1種しか記録されていない(九大の日本産昆虫目録では前者が29種、後者が5種)。頭部中央には明確な横隆条があり、やや弧状をなす鞘翅の間室は平坦で、毛が2列ずつある(写真クリックで拡大表示)(2009/08/28) この糞虫の特徴として注目したのは、先ず頭部先端が上向きにヘラ状になっていることである。何処となく茶道に使う灰匙を思い浮かべさせる。また、胸背の中央に縦の窪みがあり、その左右には隆起があって、更にその外側に若干の窪みが認められる(下の写真)。 これらを目当てにして探し当てたのがコブマルエンマコガネの雄であった。図鑑に戻ってその記載を読むと、「頭部中央の横隆条は♂では明瞭でやや弧状、♀では直線状、後方の横隆条は両複眼間にあり、やや湾曲し小さい2角状.前胸背板[胸背]の点刻は小円形で疎、側方のものは毛をともなう.上翅の間室[鞘翅の溝と溝との間の部分]は平坦、毛をともなう微小点刻をほぼ2列に並べる」とある([]内は用語説明)。一応、これらの特徴と一致する様である。また、日本各地に普通、都市でもよく見られる種類とのことなので、コブマルエンマコガネで間違い無いであろう。胸背中央に窪みがあり、その左右は隆起し、更にその外側は少し窪む頭部中央の横隆条が良く見え、触角は8節か9節であるのが分かる(写真クリックで拡大表示)(2009/08/28) 頭部先端がヘラ状になることや胸背のデコボコは雄の特徴であり、雌ではヘラ状のものが頭部の辺縁全体に拡がって庇状となり、胸背にデコボコは無い。これらはInternet上の写真やその解説からの情報である。保育社の甲虫図鑑には雌雄双方の写真が載せられているが、小さくてよく分からないし、解説にはこれらのことが全く書かれていない。もう少し解説を詳細にして貰わないと、同定に不安が残る。活字だけのページを増やすのは図版を増やすのよりはずっと安いと思うので、出来るだけ解説を詳しく書いて欲しいものである。 尚、このコブマルエンマコガネは獣糞や腐肉の他、場合によっては腐ったキノコなども食べるそうである。この種が都会の中で生き残っているのは、やはり普通の糞虫よりも食物スペクトルが広いからなのであろう。
2009.09.05
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オオカナダモは所謂「金魚藻」の一つである。神戸市教育委員会の「神戸の水生植物」によると、「金魚藻」と称される植物には以下の7種類があるとのこと。この他にもコカナダモと言うのもあった筈だ。 1.ホザキノフサモ・・・・・・アリノトウグサ科 2.フサモ・・・・・・・・・・・・・・アリノトウグサ科 3.マツモ・・・・・・・・・・・・・・マツモ科 4.バイカモ・・・・・・・・・・・・キンポウゲ科 5.クロモ・・・・・・・・・・・・・・トチカガミ科 6.オオカナダモ・・・・・・・・トチカガミ科 7.フサジュンサイ・・・・・・スイレン科 オオカナダモはこれらの中でも最も普通の安価な藻で、誰でも一度は見たことがあると思う。しかし、その花を見た人はかなり少ないのではないだろうか? 花の花梗は数cmしかないから、水槽の上部にまで藻が達しないと花は咲きようがない。しかも、かなり藻が繁茂して安定しないと花は着かない様に見える。魚を観賞するのであれば、其処まで繁茂させたら魚が見えなくなってしまうので、結果的に花を見る機会は殆どないと思う。オオカナダモの花.開く前はクシャクシャ(2007/05/29) 我が家には、ヒメダカの居る大鉢の他に、2個の火鉢を中庭に置いて水とオオカナダモを入れている。本来はメダカを入れる為だったのだが、何回入れてもメダカはいつの間にか居なくなってしまう。原因は良く分からないが、火鉢ではやはり小さ過ぎて夏に直射日光を浴びると水温が上昇し、幾ら藻が繁茂していても溶存酸素量が不足して死んでしまうらしい。今ではもうメダカを入れるのを止めたので、藻だけが空しく繁茂している。 この火鉢とヒメダカの居る大鉢の両方でオオカナダモの花が咲く。実は、私もそれまでオオカナダモの花を見たことは無かった。初めて見たときは、小さく千切ったチリ紙が飛んで来て、それが鉢に浮いているのかと思った。オオカナダモの花.開いても拡大して見るとシワシワ(2007/05/30) 実際、何とも頼りない花で、良く見てみると花弁は皺だらけ。完全に開くと、次の日にはもう萎れて水面に倒れ、やがて沈んで腐ってしまう。 「オオカナダモ」、と誰がどう言うつもりで付けたのかは知らないが、原産地はカナダではなく南米のアルゼンチン、ウルグアイ、南西ブラジル。雌雄異株で、日本ばかりでなく、北米、オーストラリアなど世界各地に帰化している。しかし、それらはみな雄株だけとのこと。有性生殖ではなく、植物体が千切れることによる栄養体生殖で増えるので、雄株だけでも繁殖出来るのである。 雄だけで世界に蔓延している生物と言うのは一寸珍しい。
2007.06.03
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我が家の辺り(東京都世田谷区)では、今年の初秋にチャドクガが大発生し、町を歩くと丸坊主になった哀れなツバキやサザンカが至る所で目に付く。 我が家に発生したチャドクガの幼虫は先日(2006/09/16)紹介した後、直ちに駆除したが、昨日、我が家と隣との境にある塀にチャドクガの成虫が3匹とまっているのを見付けた。今日の朝も、家の網戸に1匹とまっていたし、今この原稿ご書き始めてからもう一度見に行ったら、また一匹いた。 何れも例によってジェット・アースで即刻退治したが、写真はチャンと撮っておいた。何れも羽毛状の触角が見えないから全部雌ではないかと思う。蛾や蝶の雌は、飛翔力の弱い種類では食草の近くを離れないことが多いのである。チャドクガの成虫(雌).真ん丸の腹が見えている.卵が詰まっているらしい(2006/10/18) 我が家にいたチャドクガの幼虫は悉く殲滅したので、此奴らは管理の悪い隣の家から来たに違いない。チャドクガのとまっていた塀の向こう側にツバキの木が数本植えられていることは、隣家とはいえ、良く分かっている。数年前、この家のチャドクガを我が家の側から退治してやったことがある位で、全く困った家(個人宅ではない)である。チャドクガ.別個体(2006/10/18) チャドクガによるカブレの原因は、幼虫の毒針毛である。幼虫が繭を作るとき、毒針毛を繭に付け、成虫が羽化してくるときにまたこの毒針毛を付けて来るので、成虫でもカブレを起こす可能性はある。 しかし、多くは成虫が羽ばたく時に吹き飛んでしまうらしく、成虫の「毒」は大したことはない。昔、チャドクガ成虫をネットで採集して、チャンと展翅標本にしたが、何ともなかった。チャドクガ.別個体(2006/10/19) だから、この写真の蛾を見付けたら、躊躇することなく、可及的速やかに殺虫剤で駆除していただきたい。人的被害の減少ばかりでなく、ツバキやサザンカの貴重な品種を絶滅から守ることにもなる。上の個体の頭部を等倍接写.毒針毛はこの毛だらけの部分ではなく腹の先に付けているとのこと(2006/10/19) ただし、ツバキやサザンカの木の近くで新鮮な個体を見たら、まだ毒針毛が付いている可能性があるので要注意。洗剤を薄めて吹きかければ、蛾の気門を塞いで死に至らしめる以外に毒針毛の飛散も抑えられると思うが、まだ試したことがない。
2006.10.19
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昨日、ダニの卵と思われる白い玉の付着したオオハナアブを掲載したが、今日は、ダニに寄生されたクマバチを紹介する。 今月の上旬にデュランタ・タカラズカに訪花したクマバチで、撮影時には気が付かなかったが、写真を良く見てみたら、腹部にダニと思われるものが無数に付いていた。デュランタ・タカラズカで吸蜜するクマバチ.腹節に帯を巻いた様に無数のダニが付いている(2007/09/04) 昆虫を採っていると、ダニに寄生された虫に良く出会う。虫を採らなくなってから30数年も経つので記憶は定かでないが、糞虫やある種のハチに特に多かった様な気がする。別角度から(2007/09/04) 調べてみると、クマバチに寄生するダニには、クマバチコナダニ他何種類かあるらしい。これらのダニは、普段はクマバチの巣に居て、クマバチの運んで来た花粉と幼虫の排泄物を餌にしているとのこと。クマバチの体にくっ付いて居るのは、新たなクマバチの巣に運んで貰うのが目的で、移動中のダニは何も食べず、新しい巣に着くのをひたすら待っているのだそうである。従って、クマバチがダニの直接的な被害を受けることはない、と言うことになる。 この様なダニとの共生はクマバチ以外のハチにも見られ、ダニが付着するのに便利なハチの外骨格にある窪みにはアカリナリウム(Acarinarium、複数形はAcarinaria:ダニポケット)と言う名が付けられている。ハチとダニの共生は、かなり一般的な現象らしい。最初の写真の部分拡大.翅の基部にもダニが付いている.胸部にも付いている様に見える(2007/09/04) しかし、この写真のクマバチとダニがその様な関係であっても、昨日のアブとそれに付いたダニの卵(仮にそうだとして)との間柄は分からない。アブは巣を作らないが、ダニが花から花へ分布を拡げるのに役立っているのかも知れないし、或いは、その様な呑気な話ではなく、アブにとってもっと致命的な寄生者かも知れない。虫の世界、分からないことだらけである。
2007.09.22
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双翅目が続くが、今日は前回とは違って「汚い」アブを紹介する。アメリカミズアブ、堆肥を作っていれば、必ずと言っても良い程その周りを飛び交っているアブである。 私が子供の頃のゴミ処理と言えば、庭の裏の方に一辺1.5m位の穴を掘って其処に生ゴミを棄て、一杯になれば埋めてまた別の所に穴を掘ったものである。何しろその頃は、酢や醤油等の液体は、瓶を持って買いに行く量り売りだったし、肉屋で豚肉百匁(375g:6人でたったこれだけ、それでも肉があれば大御馳走)買っても包むのは経木であった。当時は、まだプラスティックと言うものが普及していなかったのである。だから、紙くずなどの燃える物は風呂を沸かすときの焚き付けとして使い、燃えない物や燃やし難い物はこのゴミ溜めに棄ててしまうと、もう残るゴミは殆ど無かった。 その穴を掘っただけのゴミ溜めに行くと、必ずいたのがこのアブである(尤も、スイカの皮を棄てておくと、カブトムシが来ることもあったが・・・)。アメリカミズアブ.戦後進駐軍と共に入って来た外来種コウカアブにやや似るが、脚の白いのが目立つし触角が長い体長は15mm前後(2007/08/25) 当時は、もう1種汚いアブがいた。コウカアブである。コウカとは後架と書き、雪隠、憚り、御不浄、厠のことである。このアブもゴミ溜めの辺りに何時も飛んでいた。 しかし、コウカアブの方は圖鑑に載ってたが、もう一方の今日掲載しているアブは載っていなかった。何故、こんな普通種が載っていないのか、随分不思議に思ったものである。生ゴミや厠に集る汚いアブだが、身繕いはチャンとする(2007/08/25) その圖鑑に載っていない理由が分かったのは、かなり後になってからのことである。この汚いアブ、アメリカミズアブと呼ばれているそうで、戦後になって進駐軍と共に米国からやって来た新参者の外来種なのであった。私が子供の頃使っていた圖鑑は、叔父が学生の頃に使っていた戦前の圖鑑である。朝鮮や台湾の昆虫は載っていたが、戦後に入って来た外来種が載っている筈がない。眼に青い模様がある.昨年後から撮った写真(2007/08/25) 子供の頃、このアメリカミズアブの標本は作らなかった様に思う。汚い虫には触りたくなかったのであろう。御蔭で、つい最近まで、このアブの眼に奇妙な紋様のあることを知らなかった。 最近、世の中が清潔になり過ぎて、この20~30年コウカアブを見たことがない。アメリカミズアブも随分減ったが、この辺りの住宅地でも時々は見かける。昨年の夏、久しぶりに我が家にやって来たので何枚か撮ったのだが、その時、眼に青い紋様のあることを初めて知った。しかし、アブの後ろ姿しか撮れなかった。眼の模様は、やはり前から撮りたい。前から撮れたらこのWeblogに掲載しようと思った。アメリカミズアブの顔.アブにしては触角が長い(2008/09/24) 漸く撮れたのは、昨日である。しかし、非常に敏感なヤツで、真っ正面からは遂に撮れなかった。仕方なく、斜め前からの写真で我慢することにした。 眼の部分拡大を下に示す。アブやハエには眼に紋や斑を持つものがかなり居る。一昨年に紹介したツマグロキンバエやオオハナアブの眼にも模様がある。しかし、これ程派手な色をした模様は他に知らない。 それにしても、眼にこんな模様があったら、見るのに邪魔にならないのだろうか。一体何の為に眼に模様があるのか、人間は大いに訝るが、そう言う風に進化したのには、それなりの理由があるに違いない。但し、その理由は、人間の浅知恵では到底図り知ることの出来ない奥深い世界に属すものと思われる。上の写真の拡大.個眼の配列は模様とは無関係(2008/09/24) このアメリカミズアブが我が家に来たのは、例の虫寄せバナナと関係があるらしい。但し、目当てはバナナの果肉ではない様である。ベランダの片隅に、一寸した庭木の剪定や除草をしたとき等に枝葉を入れておくバケツが置いてあり、其処にバナナの皮を棄てておいた。これが腐敗してアメリカミズアブを呼んだらしい。昔、ゴミ溜めに集っていたのと同じ理屈である。
2008.09.25
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今日は珍しく、トンボを紹介する。オオシオカラトンボ、住宅地の中にいるこの手のトンボは、シオカラトンボではなく、オオシオカラトンボのことが多いらしい。シオカラトンボは水田や湿地帯の様な開けた場所を好むので、住宅地には少ないとのこと。 実は、私はバッタと並んでトンボも苦手で良く分からない。バッタは好きになれなくて苦手なのだが、トンボは回りに殆ど居ないので知る機会がないのである。オオシオカラトンボの雌.オオムギワラトンボとは呼ばない余命幾ばくも無いらしく最早飛ぶことが出来ない(2008/06/15) このオオシオカラトンボの雌(オオムギワラトンボとは呼ばないらしい)も、始めはムギワラトンボ(シオカラトンボの雌)だと思っていた。しかし、掲載前に一応調べてみたら、どうも斑紋の出方が違う。色々なサイトの写真と比較すると、オオシオカラトンボの方がずっとよく似ている。 其処で、図鑑にあるオオシオカラトンボの記載を読んでみると、翅の基部が黒い、とある。このトンボ、少し分かり難いが、チャンと基部に暗色の部分がある。オオシオカラトンボの雌であった。シオカラトンボと異なり翅の基部が黒い(2008/06/15) この個体、先日のアカボシゴマダラと同じく、寿命が幾ばくも無い様で、まるで力がない。物に掴まることは辛うじて出来るが、飛ぶことは最早出来ない。死ぬ前に写真を撮って、その姿をこの世に残してやることにした。トンボの頭部を裏から見る.殆ど空洞である(2008/06/15) トンボの頭と言うのは、後ろから見ると奇妙な構造をしている。複眼は脊椎動物の眼の様に頭部に埋まっているのではなく、まるでヘルメットの様なもので内側は極く薄い。トンボの頭部は、複眼の薄板で被われている様なものである。頭部を解体して調べてみたい誘惑にかられるが、虫を殺すことは若い頃に散々やったので、今はもうしないことにしている。トンボの顔.複眼の個眼が整然と並んでいる(2008/06/15) 眼自体も変な代物である。トンボの複眼をよく見ると、上と下の2つの部分に分かれている。上は個眼が大きく、下側は小さい。このオオシオカラトンボの場合は、大きさが違うだけで複眼全体としては滑らかな丸い輪郭をしているが、アキアカネなどでは個眼の大きい上側の部分は下側より少し盛り上がっており、輪郭は歪になっている。 一体この眼でどんな風に見えているのか、複眼を見る度にそう思うが、これは容易に分かることではない。100年経っても屹度分からないであろう。右側を部分拡大.複眼の上部と下部で個眼の大きさが違う(2008/06/15) この正に死なんとするオオシオカラトンボを撮影しているとき、同じオオシオカラトンボの雄がやって来て日本シャクナゲの上に留まった。こちらの方はまだ元気で、少し遠くで1枚撮った後すぐに逃げられてしまった。 しかし、これで雌雄揃った訳で、掲載する方としては大変好都合であった。オオシオカラトンボの雄.翅(特に後翅)の付け根が黒いのがよく分かる(2008/06/15) 我が家の庭にやって来るトンボと言えば、他にアキアカネとコシアキトンボがいるだけである。先日、久しぶりにオニヤンマと思しき大型のトンボを見かけたが、上空を通過するだけで下りては来なかった。オニヤンマが飛び回るには、我が家の庭は狭過ぎるのである。
2008.07.22
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飼育中のオオミズアオの幼虫は、飼育開始直後は環境が変わったせいか余り御飯も食べず(ウンコの量が少ない)、些か心配であったが、2~3日してからは順調に生育している。 先日、15日から16日にかけて、相次いで終齢幼虫に脱皮した。下の写真は、脱皮直前の写真。体長は、縮こまっているので4cm強。オオミズアオの4齢幼虫.脱皮直前(2007/09/15) 体の上部を枝に付けて居らず、3対の胸脚の爪を頭にくっ付けて、何か拝んでいる様な格好。上の個体の頭部拡大(2007/09/15) 脱皮してから1日位は殆ど何も食べない様である。その後は、モリモリ・・・。コナラの葉を噛むプチッ、プチッと言う音が聞こえる。時々、コロンと言うウンコの落ちる音もする。モンシロチョウの幼虫とは異なり、餌に水分が少ないので、ウンコも乾燥していて不潔感は無い。オオミズアオの終齢幼虫(2007/09/18) 脱皮後数日で、体が急に大きくなってきた。体を伸ばすと7cmはある。4齢幼虫と較べると、体のコブコブの大きさが相対的に小さくなって、全体として円筒形に近くなってきた。コナラの葉をモリモリ食べるオオミズアオの終齢幼虫(2007/09/18) 最後は、頭部の拡大。頭部の大半を占める赤っぽい部分は左右の頭頂、真ん中の三角形は前頭、葉に触れている一見ハサミの様に見える構造は上唇で、その奥に歯を有する上顎があるのだそうである(見えない)。上唇はハサミの様に見えても別に動くわけではないし、また、上唇を左右に動かして葉っぱを切るわけでもない。真ん中の切れ込みが深いし、葉っぱの端をその間に挟んでいるところを見ると、これは葉っぱを端から食べるのに適応した構造なのかも知れない(上唇の窪みは普通これ程深くない)。 少し離れて、葉を両側から挟む様にしているのは触角、成虫と違って頭の腹側を向いている。これで葉っぱを触って、食えるか、美味しいかを判断しているのだろうか。 眼は何処にあるかと言うと、頭頂の側面に単眼が6個ずつある、と物の本に書いてある。写真では上下に見える黒っぽい部分がそれである。幼虫には複眼はない。御食事中の顔を拡大(2007/09/18) ・・・と言うわけでスクスクと育っていると言えるが、この期に及んでもまだ「本当にこれがオオミズアオの幼虫なのか」と言う疑問が頭を去らない。幼虫の形態はどう見てもオオミズアオなのだが、成虫はこの辺りでもう30年も見ていないのに、その幼虫が我が家に3頭も居ると言うのは、どうも感覚的にピンと来ないのである。
2007.09.20
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昨日今日と、少し暖かい日が続いている。しかし、我が家の庭にはユスリカの類が時折飛んでいる程度で、撮る気の起こる虫は現れない。昨年の暮れに撮ったネタもあるが、これは英国の古本屋に注文した文献が届いてから掲載したい。・・・と云う訳で、今日は昨年の今頃撮った土壌生物を紹介することにする。 普通、土壌生物を採集するにはツルグレン装置と云うものを使用する。それなりの店に行けば完成品を売っている(通販でも買える)が、白熱電球のスタンド、篩、大きなロートとコップがあれば、自分でも作れる様な簡単な装置である。その内、徹底的にネタ不足になったら自作するかも知れないが、今のところは作るのも面倒なので、土壌生物を探す時には、シャーレに土を入れ、少しずつ掻き分けて調べる程度にしている。 そんな簡単な操作?でも色々と奇怪な虫が出て来る。今日、紹介するのはそうやって見つけたヤスデの幼体である。ヤケヤスデ(多分)の幼体.体長は約7mm胴節は18節ある様に見える(写真クリックで拡大表示)(2010/01/25) 体長は約7mm。この辺り(東京都世田谷区西部)に居るヤスデと云えば、ヤケヤスデ(Oxidus gracilis)位なもので、成体の体長は20mm程度だから、これはその幼体であろう。この幼体は色が極く薄いが、成体は背面が焦茶色乃至海老茶色で、腹面と肢はかなり淡い色をしている。危険を感じると丸まって防御態勢に入る。これは、フサヤスデ等の一部の目を除いたヤスデ類(倍脚綱)の特徴である。ヤケヤスデの幼体で間違いはないと思うが、確証は無いので、一応「?」を付けておくことにした。尚、似た様な種にアカヤスデと云う別属の種が居るが、これは成虫越冬なので、その幼体である可能性はない。 村上好央氏の「ヤケヤスデの生活史」(動物学雑誌 71(8), 1962)に拠れば、ヤケヤスデは秋に繁殖活動を行い、5~7齢の幼体で越冬し、翌年の初夏に成体になるとのこと。他に、春に繁殖行動をし、成虫で越冬する別の系統(strain)があるとしていたが、これは後に同著者により別種であることが明らかになった(村上好央(1966) ヤケヤスデの生活史についての訂正, 動物学雑誌 75(2))。少し横から撮った写真.第2~4胴節には各1対以降の胴節には各2対の歩肢がある(写真クリックで拡大表示)(2010/01/25) ヤスデの体は、頭部と胴部に分けることが出来る。写真の幼体の胴節数を数えると(胴部の第1節と最後の2節程度は、その間の部分とは少し形が異なる)、胴部は18節から成る様である(最初の写真)。 ヤケヤスデはオビヤスデ目ヤケヤスデ(Paradoxosomatidae)科に属し、「日本の有害節足動物」では、成体の胴節数は20とされている。渡辺力著「多足類読本」に拠ると、オビヤスデ目は完増節変態を行う。これは加齢(脱皮)と共に体節数が増加し、成体になると脱皮を止め、同時に体節数の増加も止まる変態形式である。丸まって防御態勢に入ったヤケヤスデ(多分)の幼体頭部を内側にして守っている(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) 写真の幼体の胴節数はまだ18なので、これは今後脱皮により節数が2つ増加すると云うことである。体長は約7mmで、まだ成体の1/3程度だが、「多足類読本」には、ヤケヤスデは7齢を経て成体となると書いてあるので、6齢位の幼体なのかも知れない。防御態勢を解除しつつあるヤケヤスデ(多分)の幼体頭部が内側になっているのが良く分かる歩肢には折れているものが多い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) ヤスデは、一般に第2~4胴節には各1対、以降は最後の2節を除いて各胴節に2対ずつの歩肢を持つ(第1胴節に肢はない)。ヤスデは、この世で最も肢の多い生き物である。最大はカルフォルニア産のIllacme plenipesで、何と、750本もの肢を持つと云う。 一方、ムカデ類では、後部の胴節でも歩肢は各節に1対しか持たない。ムカデは漢字で「百足」と書く。しかし、ジムカデ目以外のムカデ類では、歩肢数は最大で46本、100本には遠く及ばない。100本に達する歩肢を持つのはジムカデ目のみで、最大は191対(382本)の種類があるそうである。しかし、何故か、歩肢対の数(=肢を持つ胴部の節数)は何れも奇数ばかりで、偶数の歩肢対数を持つ種類は知られていない。100本の肢、と云うことは歩肢対数は50で偶数であり、この様な歩肢対数を持つムカデは未だに知られていないのだそうである(以上、何れも「多足類読本」に拠る)。第1胴節は他の胴節と形が異り肢もない触角の先端2節は色が濃い(写真クリックでピクセル等倍)(2010/01/25) ある種のヤスデは時々大発生し、これが大群を成して線路を渡り、それを踏んだ汽車の動輪がヤスデの脂で空転して汽車が動かなくなる、と云う記事を新聞などで見ることがある。この種の騒動を引き起こすのは、普通、その名もキシャヤスデ(汽車馬陸)と云う種類なのだが、今日のヤケヤスデも汽車を止めることがあるらしい。「新島溪子(2001):ヤケヤスデ列車を止める,Edaphologia (68)」に拠れば、平成12年7月19日に大糸線平岩駅の近くでヤケヤスデが大発生し、臨時急行列車「リゾート白馬アルプス」は2時間半に亘る停車を余儀なくサルルノ已ムナキニ至レリ、とのことである。 ヤケヤスデなど、何処にでも居る「つまらない」ヤスデだと思っていたが、時には、中々やるモンですな!!
2011.02.05
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昨夜、前線が南下して太平洋上に抜けてしまった。御蔭で今日は少しは秋らしい風が吹いている。しかし、陽射しはまだ強く、余り涼しいと云う感じはしない。虫の方も、まだ夏枯れ状態のままで、サッパリである。 其処で、昨年の8月中旬に撮った虫を紹介することにした。シマバエ科(Lauxaniidae)Homoneurinae亜科(和名ナシ)のHomoneura tridentata、和名は未だ無い。体長は約5mm、シマバエ科としては大きい方である。シマバエ科のHomoneura tridentata.体長約5mm前縁脈はR4+5脈の合流部まで黒色の小剛毛列を持つ(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) ハエとなると、またややこしい検索の話になってしまう。まず、シマバエ科の特徴。鬚刺毛を欠き、後ろ向きの強い額眼縁刺毛を2対具え(下の写真)、触角第2節背面に1本の剛毛を持ち(下)、更に、脛節端付近の背面に1本の剛毛を具え(下)、且つ、後単眼刺毛が収斂する(3番目の写真)。写真のハエは確かに、その通りになっている。他に、触角刺毛に軟毛を持つ、Cu融合脈が翅縁に達しない、前縁脈に切れ目がない等の特徴があるが、これらは写真からは余り判然としない。しかし、まァ、シマバエ科で問題なし、としておく。横から見たH. tridentata.後ろ向きの額眼縁刺毛は太く長い触角第2節背面に短い剛毛が1本見える脛節端付近の背面に1本の剛毛がある(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) シマバエ科の属への検索は、(株)エコリスの「日本のシマバエ科 属への検索試案」を使った。この検索表の最初にある「C脈はR4+5脈の合流部まで黒色の小剛毛列を具える」でHomoneurinae亜科となり、更に「翅に模様がある場合,前腿節には櫛状の小剛毛を持つ」でHomoneura属に落ちる。このハエ、翅は殆ど透明だが、横脈(r-m脈とm脈)の周囲に僅かな曇りが見られる。略正面からみたH. tridentata.後単眼刺毛が交差しているのが見える横脈(r-m脈とm脈)の周囲に影が認められる(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) Homoneura属に関する論文としては、「Sasakawa & Ikeuchi (1985), A Revision of the Japanese Species of Homoneura」(Download可)がある。3部に分かれた長い論文だが、第3部にある検索表を辿ると、H. tridentataに落ちる。 この検索に関しては、少しややこしいので此処では省略する。写真のハエの顕著な特徴として腹部第5節に1対の黒斑が見られる(最後の写真)。検索表の最後のキーで漸くこの腹部第5節の黒斑の出て来たので、検索に誤りは無かったらしいと安心した。クリスマスローズの葉を舐めている.口器は複雑前腿節には櫛状の剛毛列がある.鬚剛毛は無い(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) 種の記載を読むと、何と、腹部第5節背面に1対の黒斑があるのは、日本ではこのH. tridentataのみとのこと(他に台湾に2種ある)。日本産ならば、検索表を辿らなくても、この特徴だけでH. tridentataと云うことになるのである。 しかし、検索表ではこの特徴は一番最後の段階に書かれている。恐らく、斑紋の様なものは変化し易く、それよりも、翅の構造や毛の生え方の方がより本質的な分類学的特徴なのであろう。H. tridentataの翅脈(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) しかし、双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に拠ると、シマバエ科に関しては上記論文が出版された後に新種がかなり記載されたとのこと。或いは、腹部第5節に黒斑を1対持つ新種が出たかも知れない。そこで、一応「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に、この点に関して御伺いを立ててみた。 何方からも異論は出なかった。また、バグリッチ氏もこのハエをH. tridentataとしているとのことである。H. tridentataとして問題無いと判断した次第である。腹部第5節背面に1対の黒色斑を持つ(写真クリックで拡大表示)(2009/08/17) 昼を過ぎて、またかなり暑くなって来た。気象レーダー像を見ると、近畿から北海道にかけて、彼方此方で雷雲が発達している。関東地方でも強い雨の降っている所が何個所かある。この辺り(東京都世田谷区西部)は余り雷雲の来ない場所だが、是非ともやって来て、ドンガラガッシャンと景気よくやって欲しいものである。
2010.09.14
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一昨日、ベランダの椅子で一服していると、何か覚束ない飛び方をする5mm位の黒い虫が目の前にやって来た。殆ど空中を漂っている、と云う感じである。何時もの癖でつい左手が出て、隣の人の財布・・・ではなく、虫を捕まえてしまった。 何と、コガネムシの1種であった。恐らくハナムグリの類であろうが、見たこともない小ささ!! 最近は新顔の虫がよく現れる。これは大変結構なことである。掌で捕まえたヒラタハナムグリ.体長5mm程度と小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) さて、撮影を終わってデータをコムピュータに移そうとしたら、アリャ、知らない間に記録形式がjpg形式のBasic size(2896×1944)に変更されている。バッテリーを交換した時に何か妙なことが起こったのだろうか? 何時もはRaw形式(3872×2592)だから、画面の大きさが約1/2になってしまった。 ・・・と云う訳で、今日の写真が画質が良くないが(最大幅750ピクセル)、何卒御寛恕被下度候。小さくてもコガネムシはゴツゴツしていてカッコイイ鞘翅の上側は名前の通り真っ平ら(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) 保育社の甲虫図鑑で調べると、どうやらヒラタハナムグリ(Nipponovalgus angusticollis)らしい。コガネムシ科(Scarabaeidae)ヒラタハナムグリ亜科(Valginae)に属す。体長4~7mm、発生は4~8月、殆ど日本全土に分布するが、トカラ列島には別亜種を産するとのこと。 胸背、鞘翅、腹部の上側、或いは、写真の解像力が低くて良く見えないが、脚にも、爬虫類の様な鱗片がある。Raw形式で保存していれば、その部分だけ拡大出来たのだが、残念至極。正面から見ると平らなことが良く分かる一見眼の様に見えるのは触角(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) 名前の「ヒラタ」は、鞘翅の上側が平らなことから来ているらしい。写真を見ると、確かに「平ら」である。 図鑑の解説には、前胸背板の2縦隆条は前半のみ顕著でわずかに湾曲、と書いてある。背面と正面からの2枚の写真を頭の中で合成すると、あまり明瞭ではないが、それらしきものが認められる。 また、前脛節の外歯は5~7とある。下の写真では6本認められるから、この点でも問題ない。前脛節の外歯は6本認められる(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) このハナムグリ、所謂死んだ真似をする。実際はショックで気絶するのだそうだが、下はその最中の写真。ユスリカやチャタテムシ等は、手で捕まえた時に指に挟まれて潰れてしまうことが多いが、甲虫は頑丈な外骨格を持つからその程度は屁のカッパ、全く問題ない。だから死ぬことなど考えられない。 今日は残念ながら、真横から撮った写真がない。と云うのは、このハナムグリ、撮影中にいきなり飛んで逃げてしまったからである。普通のコガネムシやカブトムシは、先ずおもむろに?鞘翅を拡げてから、後翅を延ばして飛ぶ。しかし、ハナムグリ類は鞘翅を殆ど畳んだまま後翅を延ばして飛ぶことが出来る。だから、一瞬の内に逃げられてしまうのである。「死んだ真似」を演じているヒラタハナムグリ(写真クリックで拡大表示)(2010/05/16) これまで紹介した「庭を漂う微小な羽虫」には、今日のヒラタハナムグリの他にも、「ハネカクシの1種」、「デオケシキスイ亜科の1種」等、結構甲虫が多い。勿論、数の上から云えば、アブラムシの有翅虫やコナジラミ、ユスリカなどが多いのだが、これらは浮遊しているところを捕まえても種類が分かる可能性が殆ど無いので無視されているのである。 実は、前から知っていたのだが、野村周平他:「皇居における空中浮遊性甲虫の多様性と動態-2004年度地上FITによる調査」(2006)と云う論文がある。FITとは「Flight Intercept Trap」の略で、垂直に設置したシートの下に固定液のトレイを置いたものである。シートに衝突した虫が固定液に落ちて其処に溜まる仕掛けである。これの論文に拠ると、何と、総計63科、393種もの「空中浮遊性甲虫」が皇居で記録されている。 このWeblogで言うところの「浮遊」とは、普通の移動の為の飛翔ではなく、何らかの目的があってゆっくり飛んでいる、空中を漂っている状態を指している。この装置では「浮遊」ではなく「飛翔」している甲虫も捕まってしまう筈だから、此処で言う「庭を漂う微小な羽虫」には入らない種類が沢山入っていると思う。それにしても393種とは大変な数である。一番多いのはハネカクシ科で76種、次がゾウムシ科52種・・・、「庭を漂う微小な羽虫」シリーズをやっていれば、ネタ不足に陥る心配は無用かも知れない。
2010.05.18
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先日掲載したキチョウの蛹は、鳥に食べられることもなく、また、ヒメバチやヤドリバエに寄生されてもおらず、順調な経過を辿った。 蛹化直後の蛹を先ず示しておこう。これは、先日掲載した写真と同じものである。蛹化直後のキチョウの蛹.この日を蛹化1日目とする。緑色で透き通っている(2007/09/26 07:21) 蛹化直後は透明で緑色をしていた蛹は、次第に不透明になり、且つ、黄色を帯びてくる。蛹化後6日経った10月2日(7日目)の蛹が下の写真である。7日目の蛹.全体的に少し黄色になり、特に翅の部分で著しい(2007/10/02 13:24) その後は日一日と、黄色味が増してくる。以下、毎日撮った写真を示す。8日目(2007/10/03 14:01)9日目(2007/10/04 09:11) 蛹化後9日目になると、翅の部分と眼の辺りが、黄色と言って良い色になって来た。写真は無いが、透過光でみると、翅の部分では影を生じていた。10日目(2007/10/05 10:19)10日目を透過光で撮ったもの(2007/10/05 10:23) 10日目には色が益々濃くなり、翅の部分と眼は透過光では黒っぽく見えるようになった。羽化が近づいている様である。11日目(2007/10/06 07:06) 11日目の朝、蛹を見に行くと、蛹の殻を通して翅の黒い部分が明確に認められた。これまでの経験から、この翅の黒い部分が見えるようになった蛹は、半日以内に羽化する。タイマーをかけて、20分置きに見に行くことにした。 その後は特に変化は認められない様に見えた。しかし、肉眼では良く分からなかったが、上の写真とその約3時間後に撮った下の写真と較べてみると、腹部の白っぽくなった部分が増えている。白っぽくなるのは、蛹の殻と蝶の体の間に隙間が生じて空気が入った為であろう。上の写真の3時間後(2007/10/06 09:00) 背側から見てみると、もう腹部の模様がシッカリ見え、更に、隙間も出来ているらしく白っぽく見える。羽化は間近に迫った様である。少し背側から見てみた(2007/10/06 09:46) 上の写真を撮った後も何回か見に行ったのだが、肉眼的には何も変化が無い。一寸作業に没頭して、シマッタと思ったときには既に遅く、リッパに羽化して翅までチャンと伸びていた。羽化していたキチョウ(2007/10/06 11:11) 今回は不覚にも、蛹から蝶が飛び出すところを撮り逃がしてしまった。残念無念・・・。しかし、蛹から飛び出して翅が伸びる切るまでにどの位の時間がかかるのだろうか。どうも思っているよりもかなり短い様である。 ・・・と思っていたら次の日(10月7日:昨日)、幸にもその蛹から蝶が飛び出す瞬間を何とか捕らえることが出来た。当然写真の枚数が多くなるので、それはまた別の機会に譲ることにしよう。
2007.10.08
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数日前の朝、「北米原産シオンの1種(紫花)」に茶色っぽい小さな生き物が居るのに気が付いた。ツッ、ツツッと小刻みに素早く移動する。ネコハエトリか何かの幼体かと思って良く見ると、何と、小さな蛾であった。ゴボウハマキモドキ.翅端まで僅か5mmの小蛾(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17) 此の蛾、翅端まで5mmと小さいが、一寸した訳があってその名前を知っていた。ハマキモドキガ科のゴボウハマキモドキ(Tebenna micalis)である。前翅に光を反射して銀色に光る部分が幾つかあって、小さいながらも特徴のある昼行性の蛾である。吸蜜中のゴボウハマキモドキ(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17) 此の蛾、昨年の秋に近くにある世田谷区の家庭菜園で撮影したことがある。しかし、その時は種類を調べる時間が無く、その儘放置しておいた。今年の夏近くなって、写真の整理をしていたとき、漸く種類を調べる気になり、ゴボウハマキモドキであることが分かったのである。ハマキガ科かと思って探したのだが、ハマキモドキガ科であった。逆立ちに近い格好で吸蜜することが多い(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17) 名前の通りゴボウの葉を食べるので、ゴボウの害虫として知られているとのこと。しかし、ゴボウばかりでなく種々のキク科植物に寄生し、特にアザミに多いらしい。この辺りにはゴボウは生えていないし栽培もされてもいないが、アザミはかなり生えているので、そう言う所で発生しているのかも知れない。 ハマキガ科幼虫には名前の通り食草の葉を綴って中に潜むものが多い。しかし、図鑑に拠ると、本種の幼虫はゴボウの葉面に糸を張って葉肉を食して片面の表皮を残す、と書いてある。「モドキ」と付くからではないが、葉は巻かないらしい。ゴボウハマキモドキの顔.真っ正面からは撮っていない(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17) 前翅の光を反射する部分の配置には個体差がある。上向きに留まった状態で、上に丸い半円状に分布する事が多い様で、世田谷区の家庭菜園で撮影した個体(未掲載)はそうなっていたが、此処に示した個体では光を反射する斑紋の数が少なく明確な半円形を成しては居ない。ゴボウハマキモドキは前翅の間から後翅が見える様な翅の畳み方をすることが多い(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17)同じ様な写真だが、オマケにもう一枚(写真クリックで拡大表示)(2009/10/17) Web上にはゴボウハマキモドキの写真が余り多くないので、少し多目に貼って置いた。拡大するとかなり荒れた感じに見えるが、これは荒れているのではなく、蛾が小さい(翅端まで5mm)ので鱗粉が一つひとつ見えているからである。
2009.10.21
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今日は久しぶりに庭の雑草を紹介することにした。調べてみると、このWeblogで草本植物を最後に取り上げたのは2008年11月末のアメリカイヌホオズキで、約1年半前のことである。草本には随分無沙汰をしてしまった。 今日紹介するのはトキワハゼ(Mazus pumilus=M. japonicus)、植木鉢の中に寄寓していた比較的小さな個体である。植木鉢の中に生えていたトキワハゼ左右に見えるのはツボスミレの花(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) トキワハゼはゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)に属し、この辺りの都会の雑草に多い帰化植物ではなく、在来種である。 最近は温暖化とやらで、子供の頃は見なかった雑草が生えているが、このトキワハゼは昔から我が家の庭に生えていた。花に結構風情があるので、時として抜かないで残しておいた様な気もする。トキワハゼの花.斜めから見ると良く形が分かる(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) 花は、如何にもゴマノハグサ科でござい、と云う形をしている。尤も、この様なシソ科に近い2唇形ではなく、4裂した花冠を持つオオイヌノフグリもゴマノハグサ科だから、ややこしい。正面やや上からみたトキワハゼの花.幅は約7mm(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) 花を良く見ると、下側に位置する花冠の内側には、一見花糸の様な小さな突起が沢山ある。しかし、図鑑に拠れば、ゴマノハグサ科の雄蕊は「4本で2本が長いかまたは2本で、花冠の筒に裂片と互生してつく」とあるので、これは単なる飾り?らしい。花の中を覗いてみた.奥に見えるのは柱頭で雄蕊はその裏にあるらしい(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) 上の写真で一番奥に見えるのは雌蕊(柱頭)であろう。これでは雄蕊が何処にあるのか良く分からないので、今、庭に出て花を裂いてみた。雄蕊は4本で何れも花の奥の方にあった。 上の写真を良く見ると、柱頭の上部に胡麻塩模様の一寸違った感じの部分がある。どうもこれが葯の様で、その殆どは柱頭の後に隠れているらしい。柱頭の左右に見える管状の構造と思しきものは、恐らく花糸であろう。真横から見たトキワハゼの花.結構平たい(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) トキワハゼの花は幅約7mm、花冠の長さは約1cmとかなり小さい。同属のムラサキゴケ(最初「紫後家」と変換されてしまった)も似た様な花を着けるが、幅は1cm以上ありずっと大きい感じがする。また、後者は走出枝を出して匍匐するので、植物全体の見た感じも随分違う。真上からみたトキワハゼの花.萼の付け根まで約10mm(写真クリックで拡大表示)(2010/04/19) 今日、飼育していたチャタテムシの幼虫が羽化した。幸いなことに、極めて特徴的な種なので、一目で種が判明した。次回からは、チャタテムシの話が続くかも知れない。
2010.04.24
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この頃はすっかりサボり癖が付いてしまい、気が付くと前回の更新から1ヶ月近くが経っている。まァ、ネタらしいネタが無かったのだから仕方がないが・・・。 実は、先月の25日にトベラの葉裏にチャタテムシの卵塊を見付けた。しかし、チャタテムシの卵塊の上には母虫が張った網がかかっていて余り綺麗な写真にならないし、やはり孵化した虫を撮らなければ面白くないであろう。そう思って、孵化を待っていた。 卵の内部には既に黒い筋が見えていて、孵化は間近と思ったのだが、これが中々孵化しない。昨日になって、漸く4頭が孵化したので、早速写真を撮り掲載することにした次第。トベラの葉裏で見付けたチャタテムシの卵塊卵の長径は0.50~0.55mm(写真クリックで拡大表示)(2010/02/25) チャタテムシの卵塊を我が家の庭で見付けたのはこれが始めてである。卵は全部で12個、今まで見た卵塊に較べるとかなり小さい。チャタテムシの種類により違いがあると思うが、普通葉裏に見られる卵塊は20~30位のものが多いと思う。 卵の長径は約0.50~0.55mm、卵塊の上にかかっている網の主要部が3×4mm位だから、肉眼では殆ど何だか分からない存在である。孵化したチャタテムシの初齢幼虫体長は0.75mm.卵塊の傍から離れない(写真クリックで拡大表示)(2010/03/12) 孵化した初齢幼虫は体長0.75mm、ルーペ代わりの+3度の強老眼鏡を掛けても、単なる粉と殆ど区別が付かない。それでも何やら動いているので、漸く虫だと分かる程度。ストロボの光を浴びて、右往左往していたが、卵塊から遠く離れることはなかった。チャタテムシの幼虫は可愛い.如何にも赤ちゃんと云う感じ(ピクセル等倍、拡大不可)(2010/03/12) このチャタテムシの種類は当然分からない[羽化するまで観察しヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)であることが判明した]。我が家でチャタテムシを見たのは、月桂樹の葉裏に集団で居たのと、空中を浮遊していたものの2回だけで、何方もウスイロチャタテ科に属すと思われる。しかし、この科の虫は何れも小さく、成虫の体長は1.3~2.2mm(「富田・芳賀:日本産チャタテムシ目の目録と検索表」に拠る)だから、初齢幼虫が0.75mmと云うのは幾ら何でも大き過ぎる。 葉裏に産卵してあるのだから、成虫が葉裏で生活するホソチャタテ科かケチャタテ科の可能性が高いと思う。しかし、確証は全く無い。奇跡的に運が良ければ、このまま成長を観察出来るかも知れないが、全部無事孵化したとして12頭、トベラの木全体に分散してしまえば、先ず見付からないだろう(ホソチャタテ科やケチャタテ科の虫は集団を作らず単独で生活する)[ホソチャタテ科(Stenopsocidae)であった]。寂しいのでもう1枚出すが、実は後ピン写真(ピクセル等倍、拡大不可)(2010/03/12) 尚、ホソチャタテ科、ケチャタテ科の虫や、チャタテムシの卵塊、或いは、母虫が網を張っているところ等を御覧になりたい方は、こちらをどうぞ。 今日の気温は20℃を超え、昼過ぎには22℃近くまで上昇した。春も直ぐそこまでやって来た、と云う感じである。このまま、暖かい日が続けば良いのだが・・・。[追記]この幼虫は無事成虫にまで成長し、ホソチャタテ科(Stenopsocidae)のヨツモンホソチャタテ(Graphopsocus cruciatus)の幼虫であることが判明した。表題や本文中にある[]の中は判明後に追加訂正したものである。以下に、その後のヨツモンホソチャタテ幼虫の成長記録一覧を示しておく。 内 容 掲 載 日 撮 影 日 2齢幼虫 2010/03/23 2010/03/22 3、4齢幼虫 2010/04/19 2010/04/10 5齢幼虫 2010/04/25 2010/04/18,20 6齢幼虫 2010/04/29 2010/04/20 成 虫 2010/05/11 2010/04/20,24
2010.03.13
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今日もまたアブラムシの話になってしまった。ワタムシ、最近全国的に有名になった「雪虫」である。昔は雪虫などという言葉は、東京では聞かなかった。 しかし、この雪虫、結構ややこしい。北海道ではトドノネオオワタムシが有名な様だが、「綿毛」を被っているアブラムシの有翅虫には多くの種類がある。 基本的に、トドノネオオワタムシやリンゴワタムシの属すタマワタムシ亜科の産性有翅雌は雪虫の潜在的候補である。しかし、その総てが雪虫と言えるほどの「綿毛」を被っているのだろうか。ヒメリンゴの枝上を歩くワタムシ(2007/11/26) ワタ(綿)に寄生するアブラムシ亜科のワタアブラムシは別として、和名に「ワタ」の付くアブラムシはタマワタムシ亜科以外にもいる。実際、マダラアブラムシ亜科に属すエノキワタアブラムシの有翅虫は多量の綿毛を被って、飛んでいるところはまるで雪虫だが、このワタムシが沢山飛ぶのは春から夏にかけての様だから、ワタムシではあっても、雪虫の候補には成り得ない。同様に、その他のマダラアブラムシ亜科のアブラムシも、寄生転換を行わないからその有翅虫が晩秋に大挙して飛ぶとは考えられず、雪虫の候補にはならないであろう。 また、トドワタムシやカンショワタムシは、無翅虫は著しい綿状物質が体を覆っているが、有翅虫はそうでもないらしい。背側から見たところ(2007/11/26) 更に、「ワタ」が名前に付かないアブラムシでも、無翅虫が多量の綿状物質にまみれている種類がかなりある。この様な種類の有翅虫が「綿毛」を被るのかは、これまた良く分からない。 色々調べてみたが、結局、晩秋に飛ぶ「綿毛」を帯びる有翅虫が総てタマワタムシ亜科に属すか否かは分からなかった。枝を下るワタムシ.そのまま下の方に行って見えなくなってしまった(2007/11/26) 一般論では完全に行き詰まった。しかし、此処に掲載したワタムシがタマワタムシ亜科に属すことは、ほぼ確実である。多くの他の亜科とタマワタムシ亜科では、翅脈の分岐や走り方が異なるのである。ヒラタアブラムシ亜科とは少し似ているが、やはり違う。翅脈に関する文献は持っていないが、図鑑と自分の写真を良く見比べてみれば、これは明らかである。 此処に掲載した写真を見てみると、どうも2種類の様に見える。大きさが違うし、飛んでいるときの印象も違った。しかし、翅脈に関しては何れもタマワタムシ亜科の構造をしている。ボケに留まったワタムシ.上の個体よりも大きいし触角も長い(2007/12/05) 写真のワタムシがタマワタムシ亜科に属すとすると、一体その内のどの種類であろうか。このワタムシは、どうも我が家のヒメリンゴやカイドウがお目当ての様に見える。何れもリンゴ属(Malus)の植物である。・・・とすると、リンゴワタムシ、サンザシハマキワタムシ、リンゴネアブラムシ等が候補に挙がる。 リンゴワタムシは300以上ものサイトで雪虫の候補として挙げられている。しかし、調べてみると、この外来のアブラムシの日本に於ける生態は良く分かっていない様である。タマワタムシ亜科のアブラムシは例外なく宿主転換を行い、晩秋に1次寄主に戻る産性有翅虫が雪虫の候補となる。しかし、このアブラムシの2次寄生について書いてあるサイトは一つも見つからなかった。どのサイトでも、リンゴの根や樹皮などで越冬し、その後は葉茎部に移ると書かれている。しかも、有翅虫は6月、或いは、9月に移住すると言う。これは有翅胎生雌であり、リンゴからリンゴへの移住である。これでは晩秋に飛ぶ雪虫にはならないではないか!! 良く分からないが、リンゴワタムシは雪虫とは関係がない様な気もする。広辞苑に雪虫の正体としてリンゴワタムシが挙げられているのが「リンゴワタムシ説」の起源らしい。しかし、この項目を書いたのはたして昆虫学者なのだろうか。国語学者が有名なリンゴワタムシ(名前の響きがよいし・・・)を根拠なく雪虫の候補として挙げたのがそのまま無批判に転載され続け、こうゆう事態になった可能性もなくはない。上の写真と同一個体(2007/12/05) リンゴネアブラムシは、「日本原色虫えい図鑑」に拠ると、1次寄生がアキニレで、リンゴは2次寄生だと書いてある。だから我が家の雪虫とは関係無さそうである。 この虫えい図鑑には、カイドウハマキフシと言うカイドウの葉を不定型に巻く虫えいが載っている。我が家のカイドウは毎年春先にアブラムシに寄生され、葉がしわくちゃになっている。どうも、これの可能性が高い。寄生するのはリンゴハマキワタムシ(Prociphilus crataegicola)と書かれている。このリンゴハマキワタムシは、アブラムシ図鑑にも載っていないし、Internetで検索しても出てこないが、学名で検索すると、何と、サンザシハマキワタムシのことであった。すると、我が家の雪虫は、このサンザシハマキワタムシの産性有翅虫である可能性が高い。 しかし、此処に掲載した雪虫は2種類の様である。この内の何れがサンザシハマキワタムシであろうか? 或いは、何れもサンザシハマキワタムシではないのだろうか? 九州大学の日本産昆虫目録データベースを参照すると、タマワタムシ科には58種もの種類が登録されている。一方、「日本原色アブラムシ図鑑」に載っているのは、僅か12種。しかも、雪虫として有名なトドノネオオワタムシも我が家の雪虫の候補であるサンザシハマキワタムシも載っていない。 結局のところ、雪虫の種を判別するのは、素人には無理と言うことであろう。随分時間がかかったが、まァ、順当な結論と言う他ない。
2007.12.10
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昨日は、待ちに待った春らしい晴天で、我が家の狭い庭にも春がやって来たことを漸く実感出来た。虫も色々飛んでおり、新顔も現れたが、気温も高く非常に敏感で、中々写真を撮らせてくれない。今日は、辛うじて1枚だけ撮ったユスリカの1種を紹介する。 ユスリカ科(Chironomidae)エリユスリカ亜科(Orthocladiinae)のフタスジツヤユスリカ(Cricotopus bicinctus)、体長2.5mm、翅長は1.9mmの小さなユスリカである。 ユスリカ科は日本産だけで1000種以上もある大きなグループで、しかも小型種が多く、私が同定することなどとても不可能である。実は、少し前に我が家の庭ではない所で撮影した同種を、双翅目のBBS「一寸のハエにも五分の大和魂」で見ていただいたところ、ユスリカの専門家であるエリユスリカ氏がフタスジツヤユスリカであることを教えて下さったのである。 氏に拠れば、かなり前の調査だが東京の都市河川ではこの時期[冬]最優占種になっており、冬期に出現するものは腹部の斑紋が殆ど認識できなくなり全体真っ黒となる個体が増える、とのこと。今日の個体は、氏が示された図(drawing)とソックリの斑紋をしているが、先の個体では一寸模様が違っていた。フタスジツヤユスリカ.この次に横から撮ろうとしたら逃げられた体長は2.5mm、翅長は1.9mmと小さい(写真クリックで拡大表示)(2010/04/10) このフタスジツヤユスリカは、我が家から500m程離れた川や泉のある所では屡々見かける。しかし、駅前商店街から大して離れていない我が家の様な場所で見るのは初めてである。 ツヤユスリカ(Cricotopus)属には、この様な黄色と黒のトラ模様でツヤのある種類が少なからず居る。ユスリカと言えば、灰褐色の模様に乏しい種類を思い浮かべるが、中にはこの様な綺麗な種類も居るのである。写真1枚でも紹介した所以である。
2010.04.11
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昨年の大晦日にツマグロヒョウモンの越冬幼虫を掲載したが、実はその時、植木鉢の下にもう1種類越冬している虫を見付けた。この虫、余り世間様に歓迎される質の虫ではない。しかし、拡大して見ると思いのほか綺麗なので、これも一興かと思い、掲載することにした。 クロゴキブリの若齢幼虫である。掲載するつもりが無かったので、写真は1枚しか撮っていない。クロゴキブリの若齢幼虫.体長5mm2本の白帯があり、触角の先端部も白い(2007/12/31) 昭和3年に建った昔の家にはクロゴキブリが沢山居た。何しろ、昔の木造建築の構造は東南アジア等にある高床式の床を70cm位に低くした様なものなので、ゴキブリは何処からでも侵入できる。身を隠す隙間も無数にあった。昔の我が家は、ゴキブリから見れば正に格好の住処であったに違いない。 これが20年程前に鉄筋コンクリートの西洋長屋に建て替えられた。ゴキブリの侵入できる隙間は何処にもない。ゴキブリも、昨今は住み難くなった、と嘆いているに違いない。御蔭でゴキブリ母さんも室内に入って産卵できず、ウロウロしている間にベランダ辺りで産気づいたらしい。 普段は越冬中の虫には同情的なのだが、やはりゴキブリには余り同情心が起こらない。このゴキブリの幼虫、塵取りに掃き入れられ、バケツ、ポリ袋を経て世田谷区の焼却場へ送られてしまった。
2008.01.20
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先日、朝のコーヒーをいつものベランダで飲んでいると、直ぐ横のアヤメやペラペラヨメナなどが茂っている辺りで、ガサゴソと音がする。また、カナヘビ君かな?と思ったら、羽化したばかりのツマグロヒョウモンの雌がヤブの中から這い出してきた。 ツマグロヒョウモンの幼虫は矢鱈に目につくのだが、蛹は殆ど見つからない。こんな茂みの中で蛹化していたのなら見つからないのも当然である。羽化したてのツマグロヒョウモンの雌(2006/09/27) 流石に羽化したては綺麗である。ツマグロヒョウモンは既に第1回目で紹介したが、その時の写真はボロボロに近くなった雌が産卵している姿であった。もっと綺麗なのを出したいと思っていたところなので、早速写真に撮って掲載することにした。アヤメの葉の上を歩いていて転けそうになったツマグロヒョウモン(2006/09/27) アヤメからペラペラヨメナ、ペラペラヨメナからアヤメへと羽をハタハタ開閉させながら渡り歩いている。羽は既に充分伸びているが、触角はまだ少し曲がっているし、足元が覚束ない。アヤメの葉から滑り落ちそうになってしがみついたり、ひっくり返って裏側に回ったり・・・と大変そう。アヤメからペラペラヨメナに渡り歩くツマグロヒョウモン(2006/09/27) 少し経って手を貸してやったら、一寸飛んでツルバラの上に留まり、そこでまたハタハタし始めた。 2時間くらい後に見てみたら、まだ同じところでハタハタやっている。気温が低いので中々チャンと飛べるようにならないらしい。 そのうち雨が降り出した。どうしているかなと思ってカーテンの間から覗いてみたら、もう姿は見えなかった。
2006.09.29
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先日、羽化したヒロヒラタアブを見送った後、ハナモモの葉裏に余り見かけない「アブ」が潜んでいるのを発見した。 体長1cm弱、胸の辺りに白い筋が見える。もう気温が低いせいか、余り動かない。面白そうな被写体だったが、自分の背より高いところに居たので角度を変えられず、同じ様な写真しか撮れなかったのが残念であった。ミスジミバエ.胸に3本の白縦帯がある(2006/11/16) コムピュータに移して見てみると中々綺麗な「アブ」である。しかし、羽の形や翅脈の入り方、頭部の構造等が普通のハナアブ、ヒラタアブ等とは一寸異なる。 胸に3本白い縦筋があるので、これを手がかりにして調べてみたら、どうやら「ミスジミバエ」と言う種類らしい。アブではなくミバエの1種であった。ミスジミバエ.眼にストロボの光が反射して光っている(2006/11/) ミバエというのは、その幼虫が果実の中に入り込んで食害し腐らせてしまう、非常に有害な昆虫として知られている。沖縄で問題を引き起こしたウリミバエ(ウリ類、トマト、マンゴー等を食害)やミカンコミバエ(柑橘類、グァバ、マンゴー、パパイヤ、トマト)などは徹底撲滅の対象であり、これらが根絶されたおかげで、現在安心してマンゴー、ニガウリ、シークァサー等の沖縄の農産物を内地に持ち込めるようになったのである。上記写真の部分拡大.普通のアブとはかなり構造が違っている。ストロボが反射している部分の色は複雑(2006/11/16) しかし、このミスジミバエの幼虫がどんな悪さをしているのかは、調べてみたが良く分からなかった。落下したカラスウリの雄花を食べるという話もあるが・・・。まァ、何れにせよ我が家に大した被害を与えている形跡はないし、一市民として撲滅に協力すべき程の有害昆虫とも思えないので、そのままにしておいた。 このミスジミバエ、何故か2日後も同じところにとまっていた。それ以降は居なくなってしまったが、成虫越冬だから、屹度また何処かの葉裏にしがみついているのだろう。 果たして、あのミバエは来春まで生き長らえることが出来るであろうか? 寒いのが苦手な私は、「越冬」と聞くと、妙に同情したい気持ちになってしまうのである。
2006.12.03
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