書くことの意味

書くことの意味

2004年11月13日
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 この一週間は、不思議な形で流れた。

 月曜から水曜まで、大分へ出張。ばたばたしていて、睡眠時間4,5時間だったけれど、目の前に片付けなければならない具体的な仕事が山積みされると、とても気分転換になるというのが分かった。ずっと考え続けていたことからしばし解放されて、ほっとしたような、寂しいような心持ちになった。プラトンの「饗宴」を持っていったけれど、なかなか集中して読めなかった。

 木曜日。勤務先の人間関係のストレスで胃に穴があき、今月から休職して療養している友人を見舞う。夏前、仕事を辞めるかどうか相談を受けた時、「まだ、対処の方法があると思う。もう少し、様子を見たら」とアドバイスしたのだった。わたしの前では気丈に微笑んでいたが、帰りがけ握手をしたら、彼女の手があまりにもか細くなっていて、握手が終わっても10分近く、ただ手を握っていた。このまま手を離したら、彼女までどこか行ってしまいそうな気がして。何とか、勇気付けの言葉を贈りたかったけれど、情けないぐらい思いつかなかった。「自分も加害者だ」という思いが頭の中を何度も、こだました。本を読もうと思っていたけれど、どうしてもその気になれなかった。

 昨日から今日にかけて、「饗宴」を読み終えた。

 ソクラテスが、エロスの本質を演説する際、達識の婦人から次のように教えてもらったと語る。「美を観るべき器官(心眼)をもって美を観る人は、ここで、ただここだけで(中略)、真の徳を(中略)産出するに成功する」「真の徳を産出してこれを育て上げた者は神の友となることを許される」「人間が不死となれるものならば、彼にこそその特権が賦与される」

 2400年前に書かれた文章が、どうしてこれほどまで、自分の心情に響くのだろう。ここのところ、ずっと焦っていた自分が滑稽に思えてきた。文章が浮かばないというのはすなわち、まだ、観るべき美をきちんと「観切っていない」のだと腑に落ちたから。プラトンがこうやって、文章に遺しておいてくれたからこそ、遥かかなた先、遠い異国で生まれたわたしが深い共感を得て、納得できた。2400年の時を隔てて、同じ価値観を共有する。現代人であるわたしたちにとって、単に進歩が無いことだけなのかもしれない。しかし、その一方で、あれだけ古代において、今でも十分に通用しうる考えを編み出したソクラテスの慧眼の深さ、そしてソクラテス亡き後、きちんとそれを文章の形にまとめてくれたプラトンに思わず頭が下がる。どうして、あんなに科学の解明が進んでいなかった当時、あそこまで普遍的な思想にたどりつけたのか。・・それとも、人間の根幹にかかわる部分-例えば、肉体と魂の関係、亡くなったらひとはどこに行くのか、生まれ変わりはあるのか、あるいは、どうしてひとは同じ過ちを繰り返すのかといったこと-に的を絞れば、きちんと解明されていないという意味では、当時も今も、たいして変わりないのかもしれない。

 自分が真実とみなすものを立証するために、死を選んだソクラテス。敬愛する師を不本意な形で喪ったプラトンは、その死をどのように受け止めたのだろう。彼の味わった様々な思いを因数分解したくなる。最初は、悲しみやアテナイの裁判官に対する怒り、絶望で打ちひしがれたことだろう。しかし、死に遂げることによって、自分の真実を貫いたソクラテスに対し、思わず目を見張り、深々と息を吸い込むプラトンの様子も目に浮かぶのだ。彼の遺した文章を見ると、情に溺れたところはまるでない。どうやって、在りし日の師の思想、たたずまい、行動、言動を、後世に正確に伝えるかに、細心の注意を払っている。時代を超えて語り継ぐことが自分の使命であるという決意が、文章からひしひしと、感じ取れる。

 書くことの凄さ、そこに込められた人々の覚悟の深さを、再発見したように思う。当時はどうやって文字を記録したのかは知らないが(紙なのか、石版なのか)、もくもくと文字を刻み込んでいるプラトンの様子が目に浮かぶようだ。それに引き換え、今のわたしは、あまりにも未整理の状態だ。まだ、嘆く資格すら無いのだ。

 この2400年の間、数え切れない戦争や火災、地震、国の滅亡があった。そんな中、多くの人々が写本し、守り通してくれたからこそ、今、プラトンの文章が読める。やはり、地球はひとつの、巨大なぬか床なのだ。





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最終更新日  2004年11月14日 01時39分32秒
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