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飛鳥京香/SF小説工房(山田企画事務所)
■機械生命(1994年)未完■
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yama-kikaku.com/
闇の中から機械的な音が響いていた。
「俺は俺なのだ」
それが彼の意識の目覚めだった。そして、彼は自分がこの星の歴史を書き換える人間になろうとは、まだ思ってもいなかった。彼の意識を巡る外殻部分が少しずつ作動し始めた。音は外側から聞こえて来る。
「こいつは、思ったより、大物かもしれんぜ」
ジム・アンダーソンは、削岩機のドリル部分についているカメラのモニターを見ながら、傍らで苦虫をかみつぶしているモリソンに呟くようにいった。
彼らのいるモハーベ砂漠は、地球のどんな場所よりも地球外に見えるのだ。何しろ、四方100キロメートル以内には町らしい町はなく、彼ら発掘局の人間二人の他は、すべてロボットばかりなのだから。
「ああ、…」
うめき声のような声をモリソンがあげていた。どうやら、それがジムに対する返答らしかった。モリソンもまた彼自らの手が、地球の歴史に触れようとしているとは思いもしなかった。
「発掘局の諸君、ごくろうだった。せっかくだが、君たちの獲物は我々に渡してもらおう」モリソンたちに不快を催させた声が、地底に響いた。二人のレシーバーから、その声は流れて来る。
「おい、あそこだ」
モリソンは、コックピットから背伸びして、キャーピーの上空に停止している磁気で作動するヘリコプターを見上げていた。
「あいつは…」
ヘリコプターの外殻には、不吉なマークが描かれている。
「ASS」地球外生物監視局。新しく米国大統領になったプラウベルが、鳴り物入りで成立した部署だった。
2010年を期して、米国大統領になったプラウベルは、密かに二つの施策局を創成していた。一つは過去へのフロンティアである地球の歴史を掘り返す部局-発掘局。そして、もう一つは、宇宙へのフロンティアと称しているASSである。特にASSについては、全世界政府に対する積極的な根回しがあったらしく、全世界政府に同等な部局が早々に作り出されていた。
当然のことながら、この二つの部局は決して仲がよいとは言えなかったのである。
「ASSが何用なのだ」
「いいかね、発掘局のお二人方、大統領令だ。君たち発掘品を渡していただこう」
威圧的なその声は、有無をいわさず、アンダーソンたちが掘り出したばかりの物(ブツ)を取り上げようという訳だ。
「いいかね。君たちのプランテーションに上陸する」
電磁ヘリは、流砂の上にあぶなかしげに建立されているプランテーションゼブラの上部ヘリポートに着陸しようとしていた。
ゼブラは、まるで海上におけるプランクトン都市のようにも見えた。が、この海は、砂漠の流砂の上に立てられた人工都市であった。
スキンヘッドに、サングラス風の偏向プロテクターを目につけ、メタリックな対防護服を着て、ブラスターを両手に持った一団がぞろぞろとはい出て来る。
「おいおい、ここで軍事演習かよ」
そのスキンヘッドの一団がずらりと二列に並び、何かを待ち構えるかのようにした。
そして、厳かに二メートル近くはある大男が、ヘリのハッチから身を乗り出して来た。
「ヒューウ、御大自らのお出ましかよ」
アンダーソンが軽口をたたいている。出て来た男はASS局長、通称デビルである。
デビルは、ヘリポートを横切り、コックピットへと降りるエレベーター部へ歩いて来た。後ろには護衛兵が連なっている。
「我が家に酔うこそ、長官」
アンダーソンがおどけた様子で、彼を迎え入れようとした。
「アンダーソン君、君と無駄話をしている暇は、このわたしにはないのだ。君の発見したお宝を我々の手に渡したまえ」
「ちょっと待ってくださいわ。我々の発見したのは、ジュラ紀の恐竜の骨格の一部なんだ。あんた方の領域の代物じゃない。何か間違っちゃいないか」
「モリソン君、我々には、それが必要なんだ」
「なんで、我々が発見したことをあんた方が知っているんだ」
「いいかね。我々のデータプリンターが、ここにある地球外生命が作動したことを突き止めたんだ」
「何だって」
デビルは、天頂を指さした。衛星を指さしているのだ。
「いいかね。我々の対外惑星人探査レーダーは、ここにそれがあり、作動し始めたというデータを出したのだ。つまり、恐竜の骨の一部にそれがあるということだ」
「それじゃ、あんたは、恐竜の骨が、宇宙人だというのかね」
「そうかどうかは我々が決める。君たちの口を出す範囲ではない。いいかね。それが作動しているということは、一瞬一刻を争う。我々は、その骨を凍結し、至急近くにある我々の協力機関で調べることにする。それがどれほど危険なのか、判断がつかないのでね」
「それほど危険なのか」
「ああ、地球人の生命を脅かすほどにな」
ASSはすでにいくつかの外惑星から飛来したと思われる部分を収集していた。しかし、あくまでも、それは部分であった。いくつかのパーツを組み合わせた結果、肝心な部分が抜けていた。頭脳部分である。まだ、その外形もきわめて、人間に似てはいるのだが、圧倒的に人間と異なる部分があった。彼らの生命形態は機械だったのである。彼らはこの生命形態を、便宜的に『機械生命』と名付けていた。
「お、おれは…」
急に目覚めが訪れていた。まず、第一に思考様式に現れたことは、自己生命の保護である。何かがチッと鳴った。
アンダーソンの目には、亡くなった子供の姿に見えた。
「キッド、お前は生きていたのか」
「いかん、アンダーソン、離れろ」
彼らは、近くの生命体に、より保護したいという意識を送り込んでいたのだ。自分を保護させるために、親子という生命体の一番奥深いところの影響下に置くのだった。
「そいつは、子供じゃない。機械体たせ。わからんのか、アンダーソン」
アンダーソンの手が、そいつに触れた。
「いかん、乗り移ったな」
機械生命は流動体となり、アンダーソンの体の一部と化していた。
彼はアンダーソンの体を、瞬時に探索し、彼の脳床部位にたどり着いていた。そして、アンダーソンの自己保護機能を作動させたのだ。
「うぐっ」
奇妙な叫び声をあげたアンダーソンの体は、膨張し、姿が変わっていた。原始の人間の体だろうか。爬虫類の姿をとっていたのである。
「アンダーソン君、探したよ。我々の所有物を返してもらう。機械は所有者の一番効率よく働くのだ」
「所有者だと。貴様デビルが所有者だと。笑わすなよ。これは俺が授かった子供なのだ。いいか、今後一切我々に手を出すんじゃない」
「デビル君、ここは考えどころだぞ。我々と彼ら機械生命とが、手を結んで置くのだ。そうすれば争いはおきまい」
「と、いいますと…」
「わからんのか、デビル君。我々が彼らの成長を促すのだ。我々がバッアップするのだ」「彼らの地球支配が、早くはなりませんか」
「そこは、君、考えどころよ。彼らの目的と我々の目的を、配分することも可能かもしれん。お互いの利益を分配するのだ。そのためにも…」
「そのためにも、アンダーソンの手に渡った機械生命の一部を手に入れなければな…」
「我々との取引を有利にするためにも」
「が、彼らの行方は不明という訳か」
「お任せください。我々組織の全力をあげて」
「頭を使いたまえ、デビル君。君がここで大騒ぎすればするほど、悪影響を及ぼす。ここは一つ、別の手を打ちたまえ」
「君の組織は情報と手立てを与えて、後は民間の手を使うのだ」
「しかし、我々がそこらへんの私立探偵を使う訳ですか…」
「ふふん、君。人間の追跡には人間を使うのだ。大きな組織はどうしても動きが悪くなるものだ。効率を考えたまえ」
「効率ですか、わかりました。早速…」
アンダーソンは叫んでいた。
「いいか、その子の運命はお前の手に託す。頼んだぞ。その子は普通の子供ではないのだ。いわば、全人類の運命がお前の手に握られるのだ。ここは…、俺が敵を防ぐ」
「敵だって、一体あんた方は誰と…」
「お父さん…」
「いい、早く行け。お前はケンと逃げるのだ。そして…」
アンダーソンの表情がぐらんと揺れた。
「生き延びろ」
後の言葉はかすれていた。
「ち、ちょっと待ってくれ。俺のクライアントは、お前さんが敵と呼んでいる側だぜ」
俺にとっては、お前さん方は、追跡の対象。その俺が、お前の娘を連れて、クライアントから逃げるのか」
■未完
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