エジプト再訪録 5



ナイル
さて、いよいよアスワンにやってきた。
さっそく観光に繰り出す。

アスワンではホテルなどがある「街」
の部分と、遺跡が点在する「観光スポット」がナイル川で分断されている。
そのため、観光スポットへ行くためには
どうしても「フルーカ」と呼ばれる
帆掛け舟に乗る必要があるのだ。

旅人は、帆掛け舟乗り場などを探す必要はまったく無い。
街を歩けば、数メートルごとに「フルーカ?」「ヘイミスター!フルーカ?」とエジプト人達が群がってくるのだ。
さて、値段交渉である。
商談が成立したら、ほぼ一日フルーカをチャーターする事になるので、慎重に選ばなければならない。
値段よりも人柄で選んだフルーカは、大当たりであった。

さっそくフルーカに乗り込み、ナイル川を横断する。
がんがんに照りつける太陽の下、ゆらゆらと川を渡るのは爽快だ。
もうこのままナイル川を堪能しててもいいな、なんて考えていると、
船は第一の観光スポットに到着した。

船が岸に着いたら、「じゃあ行ってらっしゃい」と言われるだけだ。
好きなだけ遺跡を見て、好きな時間に戻ればいい。
実に気楽なのである。
おいらは遺跡をゆっくり堪能し、日記を書き、またのんびりと船に戻った。

「ただいま~」と帰っていくと、なぜかそこにはフルーカの船員二人の他に
もう一人座っていた。
これがかわいいイギリス人の女の子なのだ。
「れれれれ?どーゆうこと?」と聞くと、
なんでも彼女はもう1年ほどエジプトを旅していて、もうすぐ帰国するらしい。
で、以前この船長と一緒にナイル川を下ったのが、一番すばらしい思い出になったんだそうな。
んで、帰国する前に、もう一度このフルーカで川を下って帰りたいと思い、再びアスワンにやってきたのだとゆう。

「じゃまはしないんで、一緒にこのフルーカに乗っていてもいい?」
彼女はそんな事を言うではないか。
むさい男だったらすぐさまナイル川に蹴落とすところだが、
「うん♪じぇんじぇん問題ないよ~ん♪」
と答えたのは言うまでも無い。

そこから先は、観光なんてそっちのけ。すっかり彼女との会話に夢中になって、
ゆらゆらとナイル川を揺られていたのである。

そうして一日の観光も終わりに近づき、夕日がナイル川を紅く染めるころ、
彼女からこんな提案がなされた。

「明日から、私はこのフルーカで川を下ってカイロまで行くの。
よかったら一緒に行かない?

ううう~ん、なんと魅力的な提案であることか!
ナイル川をゆらゆら揺られてカイロまで行く?
川沿いの村々を尋ねながら、夜は船で寝て、ゆっくりゆっくりと・・・・・。
思わず「OK!行こう!」と言いかけてふと気がついた。
え?ゆっくり?
それって何日かかるんですか?
「うーん、2週間くらいで着くかなぁ~」

無理っす。おいらは悲しいサラリーマン。
2週間も船に揺られてたら、ドイツに帰るころにはクビになってます。
それに、アスワンからカイロまでの飛行機のチケットも持ってるし・・。
第一、アスワン観光の最大の見所、「アブシンベル大神殿」を見ていないし・・。


「じゃあ、ルクソールまで一緒に下って、そこから列車で帰ればいいじゃない。
アブシンベルには明日の午前中に行ってもらって、午後から出発すればいいし。
ね、お願い、一緒に行きましょうよ~」

けっしてモテモテなわけではない。
彼女の目的は「船の料金」を二人で半分ずつにして節約したいって事なのだ。
それは良くわかっているが・・・・・。
それにしても魅力的な話なのだ。
うーん、どうする?

                               つづく


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