エジプト生活 26 (最終話)






送別会を終え、カイロに移動するために駅に向かう。
駅までは友人たち、職場の人たちが総出で見送りに来てくれた。
一人一人と握手を交わす。
しめっぽいシーンが好きじゃないおいらも、さすがに感傷的になった。
彼らには本当に助けられた。
言葉も通じず、右も左もわからないおいらが一年間暮らしてこれたのは
ほとんどが彼らの助けによるものだ。
涙が込み上げてくるのをググッとこらえつつ、おいらは列車に乗り込んだ。

ただ一つ気残りだったのは「バックリーさん」の顔が見当たらないことだった。
バックリーさんは特に親しい友人の一人で、とうもろこし屋の
屋台をやっていた男だ。
見送りの人たちの中に彼が居ないのだ。
送別会にも来てくれていなかった。
どうしてだ?バックリーさん。別れの挨拶もせずに去ることになるじゃないか!

何か彼を怒らせるような事をしただろうか?
ラガップさんにあげたテレビ、そういや彼も欲しがっていたな・・・・。
うーん、バックリーさん、だからって見送りにも来てくれないなんて。

やがて列車はゆっくりと動き出した。
座席の窓から皆に手を振る。
エジプトの列車の走り出しはかなりゆっくりだ。
見送りの人たちは、ホームを歩きながらついてくる。
その時、見送りの人たちが振り向き叫んだ。
バックリー!

おいらは慌てて乗車口へ走った。
開けっ放しの乗車口から身を乗り出すと、小柄なバックリーさんが
全力で走ってくるのが見えた。
手に何か持っている。
「ろっくん!ろっくん!コレ!おまえが欲しがってた帽子だ!」
列車のスピードは徐々に早まる。
おいらは乗車口から懸命に手を伸ばした。
バックリーさんも走りながら、懸命に手を伸ばす。
ギリギリのところで、おいらの手はその帽子をつかんだ。
もう涙は止められない。
彼らの姿が遠のいていく。
おいらは日本語で叫んだ。
ありがとう!!

それは、エジプトでよくかぶられている、白い網目の帽子だった。
エジプトの思い出としてそれが欲しかったのだが、その帽子は買うもの
ではなく、母親や奥さんが作るものであるそうで、お店などを探しても
どこにも売っていなかった。
そういえばそんな話をした事があったっけ。
バックリーさんは俺のために、その帽子を誰かに作ってもらってきて
くれたのだ。
そうして息を切らして、駅まで走ってきてくれたのだ。

ありがとう。ありがとう。
感謝の気持ちで一杯だった。
エジプトでの一年が走馬灯のように蘇る。
もろこしegypt9egypt6egypt7egypt1


さらばエジプト!
おいらは心に強く誓った。
必ず再びここを訪れよう、
彼らにまた会いにこよう、と。

                          エジプト生活 おしまい。

お付き合い頂いたごく少数の(T-T)みなさま、ありがとうございました。
あ、ぐだぐだ日記はまだつづいちゃうよん。


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