風光る 脳腫瘍闘病記

Hの結核



「おかえり、どうだった鹿島、楽しかった?」よく見ると姉の首すじに無数の引っかき傷がついている。

「お姉さん、ユメと救助犬ごっこしたでしょ?止めときなよ~死ぬよマジで」

救助犬ごっこというのは海に行った時、わざとユメの前で溺れたふりをする。

「きゃぁ~ユメ~助けて!溺れる~」するとユメは救助犬さながら私めがけて犬かきをして助けにきてくれる。そこまではいい。問題はそこからだ。

私の元にたどり着いたユメは前足を私の両肩にバシバシ乗せてこようとする。←本人は助けてるつもり。

「ちょっと、ユメ、やめて、爪が痛いっ離れて!あたしを沈める気か!」

それでもユメはバシバシしてくる。私はマジで溺れそうになりそれ以来、救助犬ごっこはしていない。

「だって楽しいじゃん」ユメといる時の姉はホント楽しそうだった。

「これ愛ちゃんの部屋に隠しといてもらえる?」渡されたのは鹿島の海での写真だった。

「Hにばれるとやばいからね」

「分かった」私は本棚の奥に写真を置いた。

しばらくは普通の日々が続いた。そんなある日、姉が

「愛ちゃん、話があるの」と神妙な顔つきで私の部屋に入ってきた。

「何?」

「実はHが結核になっちゃって今度、入院する事になったの」

「結核!?」Hには悪いがいい薬だと思った。

「ごはんもろくに食べないし昼夜逆転の生活して、酒、たばこ飲んで、結核になるの当たり前だよね」姉もこの意見には賛成だった。

「・・・って事はあたしも結核検査しなくちゃ駄目じゃん!」

「結核かぁ・・・なんか縁があるな・・」←オーストラリアでも検査をした。

「入院てどれぐらい?」

「3ヶ月」

「3ヶ月!?」私もこれにはびっくりした。そんなにも入院するのか、結核って。

「という訳なのでユメの散歩とかもうちょっと頼むけどいい?」

「いいよ」「ユメ~、公園行ってボールポンッしようね♪」

Hのいない3ヶ月は楽しかった。お姉さんの精神状態もよかった。でもHが退院してからHもしばらくは規則正しい生活を送っていたが次第に昼夜逆転の生活に戻ってしまっていった。

「うるさいって言ってんのがわかんないのかぁ~」私はその声で飛び起きた。

姉達の部屋に行くと姉がキレてHに暴力を振るっていた。時間は夜中の2時。姉は安定剤を飲んでおりそれプラス、ワインも飲んでいた為、ものすごい修羅場になっていた。

私は

「今、何時だと思ってるの?隣の人に迷惑じゃん。ケンカするなら外の公園でしてきて」でも姉はHを押し倒してHのTシャツをボロボロに引き裂いていた。←姉は力がすごい。

二人はケンカを止めようとはせず大声で騒ぐ一方だった。頭にきた私はバケツ一杯の水を二人にぶっかけてやった。

「いい加減にしなよっ、隣の人に迷惑だって言ってんでしょ!」

それから頻繁に夜中に姉がキレてHに暴力を振るう様になっていった。

今日も隣の部屋では怒鳴り合っている。私は仕事で朝が早い。

「うるさいから静かにしてよっ」姉は逆にキレて

「うるさいんだったらお前が出てけ!」と言ってきた。

「二人とも出て行け!」Hは家を出ていった。実家にでもいくのだろう。

私も頭を冷やしにマンションを後にした。

「さぶっ」季節は12月。コーヒーを買ってすぐ帰るつもりだったのでパジャマのまま出てきたのだ。

マンションに帰ってドアを開けようとしたら鍵が閉めらていた。

「よかった。鍵持って出て」私は鍵でドアを開けようとしたが信じられない事に中からチェーンをかけられていた。

「うそでしょ・・・」

12月。姉は私をマンションから閉め出したのだ。私は泣きながら近くの公園に行った。

「寒い・・・」その日、私は外で一夜を明かした。

朝方マンションに帰るとチェーンは外されていた。姉は眠っていた。私は姉を叩き起こし罵倒した。

「鬼!悪魔!ふざけるなっ!普通あそこまでするか?ボケッ!殺す気か!?お前が死ねっ!」

この発言に切れた姉は私に掴みかかって私はあっという間に廊下に押し倒されてしまった。姉の目は血走っており鬼の形相をしていた。姉は私の髪の毛をわしづかみにし廊下に頭を十数回打ちつけてきた。

「殺してやる」姉はそう言って、その手を止めようとはしなかった。

その時ユメがこっちにきた。私はユメに

「ユメは向こうに行ってなっ!!」と厳しい口調で言った。それを聞いた姉は「ユメに何かしたら承知しないからね!」

「は?あたしがユメに危害を加えるとでも思ってんの?」姉は

「思うね」と吐き捨てた。私は何よりそれがショックだった。ユメに危害を加える訳がない。けど姉は本気で私がユメに危害を加えると思っている。

くやしくて涙がとまらなかった。


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