夢のまたゆめ
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町の中でふと見かけると、虫唾の走るような感情にかられる花がある。胡蝶蘭。別に胡蝶蘭にかぶれたとか、刺されたとか、そのものに不愉快な思い出があるわけではない。ただ、記憶の中の不愉快な出来事にその花が使われたというそれだけ。男が女に胡蝶蘭を贈った。ただそれだけ。男は私の愛した男だったが、女は私ではなかったというだけ。花はとばっちり。パブロフの犬!!心の奥にぎりぎりとナイフを突き立てられたような記憶。心の痛みから抜け出せない限り、胡蝶蘭を見るたびに心の中がざわざわと波立つ気分になるのだろう。記憶を捨てられたらいいのに。いや、そういう記憶を持つようにならなければ良かったのに。恨めしく思えるときがある。長く生きてきた証しか。これが人生なのか。駅前の喫茶店の出窓に胡蝶蘭が飾られている。朝見る花じゃないな、と思ったりして見ている。
2005年08月30日
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