once 64 失言



「朝子、100%を目指そう」

突然の言葉に、朝子は戸惑った。「100%?」

「100%分かり合えれば、愛し合えば、・・・きっと終われる」

有芯は朝子の顔中余すところなくキスをすると、身体中を指と手のひらで触り始めた。

「くすぐったいよ・・・」

「朝子を全部知りたい・・・」

「こんないきなり、全部は無茶だよ・・・。それに終わりに向かうだけの愛情なんて空しいだけ・・・」

「俺たちに、終わり以外の未来があるのかよ?!」

有芯の悲痛な声に、朝子ははっとして硬直し、唇を震わせた。

「不倫だよな、これ・・・」

有芯は自分と繋がっている朝子を見つめた。

「明日も明後日も、お前はずっと俺の側にいてくれるか・・・? 俺のために旦那も子供も捨てられるのかよ・・・?!」

朝子は有芯から顔を背けた。有芯は朝子の肩を掴み身体を起こさせると、彼女を両手でがくがくと揺さぶり、言葉を続けた。

「お前が本当に俺だけを愛してるなら、今すぐ旦那と別れてこいよ?! それができないなら・・・空しいとか言うんじゃねぇよ!!」 

朝子は怯えた顔で有芯を見たが、やがてその目からは、幾筋もの涙がこぼれた。

「ご・・・・めん・・・なさい・・・」

有芯は、朝子の頬を伝いぽたぽたと腿を打つ涙を見つめながら思った。俺が欲しいのは、そんな謝罪の言葉じゃないのに。

「いいんだ・・・」

俺が、今日だけは愛し合おうと言って、朝子はその通りにしてくれただけだ・・・。有芯は自身の失言に傷つきながら、朝子を抱き締めた。彼女はガタガタ震えて今にも壊れてしまいそうで、彼は暴言を吐いた自分を呪った。

「いいんだ・・・俺が、お前を人妻と知ってて無理に抱いたんだから」

有芯は子供のように泣きじゃくる朝子をゆっくりと押し倒した。

「朝子・・・ごめんな」

朝子は激しくしゃくりあげ、濡れた目を有芯からそらしたまま、首を横に振った。

「こっち向けよ・・・」

「見れない・・・ダメ、だよ私・・・」

有芯は無理に朝子の顔を自分の方に向かせ、唇にキスをした。

「キス、しないで・・・私には・・・あなたに、愛される資格なんて・・・ない」

有芯は、傷ついた朝子に自分ができることを考えた。しかし、それは決して彼女が望まないであろうことで、有芯は深い絶望から逃れようと、朝子を抱き締めるしか術がなかった。

「・・・したい」

「・・・何を?」

「キス・・・とセックス」

「もうダメ、これ以上・・・やめて!!」

有芯は朝子の叫び声を聞かずに、キスをしてその身体を触り、彼女を再び快楽の渦へと巻き込んでいった。

有芯は絡まるように朝子と抱き合いながら考えていた。

このまま明日が来なければいい・・・。

永遠に、この部屋で二人一つになったまま、時が止まってしまえばいい・・・・・。




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