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HEY!HEY!HEY 観覧レポ
CX系の音楽番組“HEY!HEY!HEY!”の宇多田ヒカル公開収録
に行くことができたのです!
そのときのレポートです。
************************************
至高の幸福は、一本の電話によってもたらされた。
夜を徹して仕事をし、朝の七時に帰宅した土曜日。
「今日は夕方まで寝るぞー!」
と気合を入れてベットに潜り込んだのに、10時にかかってきた電話によって
その野望は脆くも崩れ去る。
電話(PHS)の着信表示を見る。
「ユーザー非通知」
出るのをやめて、寝ようと決意する。非通知の電話なんて、絶対にロクな
もんじゃない。なんかの勧誘かイタズラ電話か、大よそそんなところだろう。
とにかく、この睡魔を押してまで出なきゃならんものではないことだけは確かだ。
と、無視を決め込んだにも関わらず、どうも気になる。
虫の知らせ…ってなヤツだろうか。一応出て、誰からだか確認してからの方が
心安らかに眠れるかもしれない…と思い直し、受信ボタンを押す。
「もしもし?」
「もしもし、わたくし、東芝EMIの○○と申す者ですが」
「………………ハイ!?」
「現在、宇多田ヒカルにメールをくれたことのある方の中から無作為に、
HEYHEYHEY!への観覧希望者を募っているのですが…」
「????????はい!?」
「4月28日のお昼頃は空いてますでしょうか?」
「………はいはいはいはい!!! 空いてます!まったくもって空いてます!」
「では、おこしいただけますか?」
「もちろんです! 恐縮でございます」
「では後日、書面をお送りしますので、詳細はそちらでご確認ください。
では、当日、よろしくお願い致します」プツッ……ツーツーツー。
神様、今日ばかりはあなたの存在を信じます! 人間、地道に頑張っていれば、
いつかちゃんと報われるんですね!!
●4月28日 AM10時
顔を洗って髪をといて歯も磨いて、新品の靴下も下ろした! 先日、東芝EMIから
届いた書面を見ると「1時集合(時間厳守)」と書かれている。
家から収録場所の祖師谷大蔵までは、どんなに余裕を持って見積もっても、2時間の
道程と言ったところか…。
よし、家を出るべし!
万一、そう、万が一にでも遅れることは許されないのだ!
新品の靴を履いて、いざ出陣!!
●4月28日 AM11時10分
もう、祖師ヶ谷大蔵駅に着いちゃった。駅から、スタジオがある
“東京メディアセンター”までは、徒歩15分となっている。いくらなんでも、
今から行ったら浮かれポンチすぎる。
駅の近くの喫茶店で軽食を取る。
●4月28日 PM12時
まだ出立には早すぎる気もするが、なんたってわたしは、画期的な方向音痴である。
余裕をもって行動するに越したことはない。地図をクルクルと回しながら、
危うい足取りで歩き出す。
それにしても今日、ちょっと暑くないかい?
●4月28日 PM12時20分
近くまで来ていることは確かだ! 目印となっている“日本大学商学部”までは
これているのだ! 電信柱に張ってある住所を見る限り、番地まで合っているのだ!
なのに…なのにどうしても見つからない!! 目の前にあったファミリーマートに
飛びこんで、店員に聞いてみる。
「東京メディアセンターってどこですか?」
2人いた店員さんは顔を見合わせ、苦笑とも嘲笑ともつかない笑いを鼻の頭に浮かべた。
ちょっとムッとする。
「この店の右手に公園があります。そこを突っ切って、右に曲がっていただれば
すぐですよ」。
よどみなく、スラスラと出てくる説明。
そうか…さっきの笑いは、別にわたしの方向音痴っぷりを嘲った訳ではなく、恐らく、
本日幾度となく同じ質問を浴びせ掛けられてきたことに対する苦笑だったのだろう。
●4月28日 PM12時40分
“東京メディアセンター”と書かれた大きな看板の下には、
“テレビ東京・TBS・フジテレビ”の文字が並んでいる。いくつかの社屋が立ち並び、
その外側の囲いをさらに囲むようにして、いくつかの人垣ができている。
どれがお目当ての列なのやら…と逡巡していると、20歳前後の男性が
「ミスチルの観覧希望の方ですか?」と声をかけてきた。
「いえ」と事実を端的に述べて、先を急ぐことに。
とにかく、入り口を確認しないことにはなんとも不安なので、前へ前へと進んでゆく。
そして、一番前方(入り口付近)にできていた列の、最後尾の人に聞いてみた。
「この列は、なんの列ですか?」
若い3人組の女性、答えて曰く
「1時集合のです」
「あっ、じゃあ宇多田ヒカルのです?」
その言葉を耳にして、女性の顔がパッと輝く。
「ウタダヒカルなんですか!?」
おいおい、質問してるのはこっちでしょうが。
「いや、わたしは宇多田ヒカル観覧で1時集合と言われたんですが…」
“やった、やった”と、手に手をとって喜び合う3人のうら若き乙女たち。
一抹の不安は残ったが、とにかくその列の最後尾についた。
●4月28日 PM1時
手に名簿を抱えたスタッフが、並んでいる人ひとりひとりの名前と整理番号を
確認し、身分照合を終え次第、黄色いカードみたいなものを渡してくれる。
という訳で、わたしの手元にもそのカードが。
とにもかくにも、この質札みたいなくたびれたカードが、宇多田ヒカルの下へと
我らを誘う通行手形となるらしい。
ありがたや、ありがたや。
●4月28日 PM1時10分
“厳守”であるはずの1時を回ったのに、なんのアナウンスもない状況にやや
いらついていると、後ろからわたしの肘をつつく者がいた。
「もしや、知った顔がいたのか? ひょっとして、ファンサイトの人!?」
と思い、やおらふり返ると!
……………会ったことも見たこともない、20歳前後の女の子の顔があった…。
「あの…1人? だったら、一緒に行かない?」
そう、実はさっきからわたしも気になっていたのだが、わたしの元にEMIの方から
連絡があったときは同伴者に関する話は何もなかったのに、周りを見渡すと、
2~4人のグループで来ている人たちもいるのだ。
その件に関してその娘に聞いてみたら、
「たぶんその人たちは、HEYHEYHEY観覧希望の応募者じゃないかな? わたしも以前、
観覧希望出して当たったことがあったの。でもそのときは、ヒスブルとaikoだった
かな、ゲストが。全然わたしの好きな人じゃなかったから、ちょっと退屈だった」。
なんでも彼女が言うには、番組関連経由で観覧希望を出す場合は、その収録日の
ゲストが誰かは解らないらしい。つまり、今日ここに集まっている人たちの大半は、
自分が誰の収録に立ち会うか知らないということなのだ。なるほど、これで
さっきの女の子たちの反応が納得いく。
なにはともあれ、わたしも1人でちょっと寂しい思いをしていたところである。
その娘の申し出は、願ったり叶ったりだ。
お互い雑談を交わして、時間をつぶす。
●4月28日 1時30分
ようやく、並んでいた列がソロソロと動き出す。正面の門をくぐり、
倉庫の脇の通路を通って、いくつかの建物の内のひとつへと。
狭く薄暗い階段を上ってたどり着いた先は…7~8枚の畳が無造作に置かれた、
ガランとした洒落っ気のない部屋だった。
やや、拍子抜けしている一行に向かい、黒いスーツを召したスタッフらしき人が話す。
「まだぁ、前の収録が終わってませんのでぇ、みなさん、それまでここに待機して
ください。なお、収録場所のスタジオは大変狭いのでぇ、貴重品などを除いて、
荷物はなるべくここに置いておくようにしてください」。
宇多田ヒカルへの道のりの、なんと長く険しいことよ……。
ま、ここまで来て文句を言ってもしょうがない! 同行することになった女の子と、
来たるべき収録の瞬間についての予想談議に花を咲かす。
わたし「やっぱり(歌手は)チャッと来て、すぐ歌って帰っちゃうものなの?」
女の子「前ね、ヒスブルのときは3度撮り直ししたの。一度は本人が歌詞を
間違ってたみたいなんだけど、それ以外にも、カメラワークが良くなかったとか、
なんかそんなんでけっこう取り直しするみたいだよ。でも、別に好きでもない人の同じ
歌を3回も聴かされたから、そのときのわたしは思いっきりダレちゃってた(笑)!」
そうか…取り直しをするってこともあるのか。ってことは、
わざと取り直しをせざるを得ないような状況を作り出せば、至福の時間は長くなるってことか…?
などと、良からぬ考えが頭をよぎったりする。
歌うのは一曲だけかな? なんか話したりしてくれるかな?
などと、様々な希望的観測を巡らせているうちに、案外時間は早く過ぎていった。
●4月28日 2時
ガヤガヤと騒がしかった室内が、突如とシンとなる。どうやら、入り口に
スタッフがやってきて、なにやら説明を始めたらしい。
「これから、整理番号(郵送されてきた書類に書いてあった)を呼びますので、
呼ばれた番号の人はすみやかに廊下に出て並んでください。全員が並び終え次第、
収録場所へと移動します」。
とのことで、番号順に廊下に出て、列を作ることに。わたしの番号は50番。本日、
ここに集ったのが200人弱とのことだったので、まあまあ前の方ということになる。
全員が2列になって並び終えたところで、移動開始。
さて、ここに来てわたしは、突如、緊張のせいでお腹がいたくなってきてしまった。
この気分は…そう、受験前の感覚に似ている。校舎を思わせる無機質で薄暗い廊下や、
錆の浮いた窓枠などが一層そのときの気分を想起させる。
しばらく進むと、またストップがかけられる。収録の準備が終わるまで、まだここで
待機していろとのこと。
今回のこの足踏みは、気持ちを落ち着かせるうえでありがたかったかもしれない。
●4月28日 PM2時10分
列が前進を始めた。今度こそ…今度こそ正真正銘の、収録場所への移動のようだ。
スタッフの弁当などが詰まれている廊下を抜け、機材の脇をすり抜けて暗幕の向こうへ…。
「せっま~い!!」
あちらこちらから、歓声が上がる。
この「狭い」という言葉を、歓喜の情とともに発する機会は稀だろうが、
このときばかりは、皆が皆、欣喜雀躍としてこの言葉を口にしていた。
ホントに狭い!! もう、どれくらい狭いかって言うと、ステージと最前列の
観客の距離が1メートルくらい。そして、列と列の間隔は、限りなくゼロに近い。
つまり、人と人がほぼ密着した状態。これで、皆が興奮しない訳が無い!!
さて、整理番号の列順に隅から詰めていくのだが…わたしのポジションは、前から
3列目のステージどまん前!
イエーースッッッ!!
●4月28日 PM2時20分
AD、という人なのだろうか。ガタイの良いお兄さんがステージに立ち、
噂に聞く「手を振ったら拍手してください!」的練習がスタートする(本当に
やるもんだったんだ!?)
「手は、頭の上で叩いてください。あと、歓声! キャーでもヒューでも良いんで、
なんか声を出して下さいね。じゃ、行きます。本番前、3,2,1、ハイッ」
…わー、きゃー、ぱちぱちぱち……。
「えー、もっともっと出して欲しい! みなさん、この倍は出せるはずです!!
それに何ていったって、今日出る人は、すごい人です!!! もっともっと大きな声で、
出迎えてください!!!!」。
いやいや、お兄さん、絶対に心配無用だって。ここにいる人たち全員、もう
テンションのたがが外れる寸前ですもの。
「ちょっとちょっと、どうしよう! だってあそこだよ! 近すぎるよ!
わたし、本人が出てきたら倒れちゃうかも!!」
とは、わたしの隣の、高校生くらいの女の子の弁。
解る、解るぞ! わたしだって、何かが体の中からこみ上げてきて、今にも
はちきれそうになっちゃってるもの。
ふと、胸の前で両手をハッシと組んでいる自分に気がつき吃驚!
「うわっっ!? 何だ、この手はッ!!??」と思ってしまった。
これまで漫画などで、期待に目を輝かせながら胸の前で手を組んでいる少女の描写
などを見るにつけ、「こんなヤツ、いねーって!!」と突っ込んでいたのに、
今のわたしは、まさに絵に描いたようなウキウキ状態。
「ちなみに歌は、2曲収録しますんで、よろしくお願いします!」
この一声に、またまた群集から大歓声が上がったのは、言うまでもない。
●4月28日 2時30分
「はい、それじゃあそろそろ、ご本人が登場します」との声で、固唾を飲む群集。
沈黙、沈黙、静寂。
刹那! ステージの右手の奥の方から嬌声が上がる。と、次の瞬間には、
歓声のドミノ倒しのごとく、その嬌声は左手の方へと伝播していく。
アアアアアア!! 見えたよ、わたしにも見えたよ、小柄な宇多田ヒカルの姿が!!
と思うと同時に、「キャー!」とも「ギャー!!」ともつかぬ声を上げ、
アホみたいに、ピョンピョンと細かく飛び跳ねていた。
自分の中に、こんなに制御の利かない一面が潜んでいたことに、わたし自身、かなり
驚いてしまった。我を忘れて叫んでいる人物が自分だとは、にわかに信じがたかった。
ステージの中央に立ち、猿山の猿と化した群集を、やや戸惑いながら一望した彼女の
第一声は、
「わたし、人前に出て歌うの久しぶりだから、ちょっとドギマギしちゃってるよ」
だった。
「かわいい~」
「ほそ~い」
などの声援が飛び交う。
が、目の前の宇多田ヒカルとのコミュニケーションを願う我々のほとばしるような想いを断ち切るように、
「じゃ、すぐ本番いきま~す! 本番10秒前、9、8…」
と、ADの声が飛ぶ。
カウントが1になると同時にイントロが流れ、歌が始まる。
ライブのように、観客が声援を飛ばしたり体を揺らすことはない。
直立不動、微動だにせずじっと聞いている。
彼女の“うた”は、ただただ素晴らしかった。
曲が終わると同時に、一斉に湧き上がる大歓声と拍手。それは、事前に要求されて
いたからではなく、そこに居合わせた全員が、内からこみ上げる衝動に
素直に従ったが故の当然の結果だった。
その拍手と歓声に包まれ、厳格なる“プロ”の歌い手はスッと消え、再び、
はにかみ屋で茶目っ気たっぷりの女の子が現れた。
彼女は、ふぅっ、と息を大きく一つ吐き出すと、安堵したような表情を見せ、
観客の反応を伺うようにして客席を見回す。そして、そこに並んでいる
恍惚の顔たちを確認して安心したのか、表情がほころんだように思えた。
次の曲の収録にいくまでの間に、簡単なメイク直しやカメラチェックなどが
あり、例のADさんとおぼめしき人が出てきて、スタッフに指示を飛ばす。
さてさて、そうこうしているうちに、次の曲を撮らねばならぬ時間が迫って
きたらしい。
「本番10秒前、9、8」
という、一曲目のとき通りのカウントが始まり、それが終わると同時に拍手が
沸き起こる。そして、静寂の後に流れ出すイントロと、そのイントロに絡むように
始まるうた。
曲も終盤(と思われるあたり)に差し掛かると、この至福のひと時が終焉を迎えつつ
あることに対する寂寥感ばかりが募ってきてしまい、ひたすら
「まだ終わるな、終わってくれるな」
と願っていた。が、当然ながらそのときは訪れる。
歌い終えた彼女は、快心のできだったのか、はたまた観客へのサービスなのか、派手なガッツポーズを見せ、まだカメラが回っていることに気が付きテレ笑い。
スタッフに促された彼女は、
「またね!」
の一言を残し、スタジオから消えた。
●4月28日 PM3時
彼女が去って魔法が解け、夢の劇場は、元の薄暗くひたすら蒸し暑い空間に戻る。
それにしても、なかなか次の指示が与えられない。観衆の熱気で、以前よりさらに
熱さと湿度を増したスタジオは、まるで蒸し風呂のよう。
早く外に出たい…と思ってたら、観客の中の誰かがつぶやいた。
「今、たぶんモニターチェックしてるんだよ。そこで気に入らない点とかあったら
取り直しをしなきゃならないから、解散させられないんだよ」。
………なるほど! 皆の間を
「もしかしたら、取り直しか!?」
という期待感が走る。
●4月28日 3時10分
番組スタッフがステージに上がり、
「みなさん、どうもご苦労様でした。みなさんのおかげで、問題なく素晴らしい
収録ができました。ご協力、ありがとうございます!」
と、われらの労をねぎらってくれる。が、一同は失望のため息。
残念、取り直しは成らなかったか…。
●4月28日 3時15分
荷物を置いていた控え室に戻った一行は皆、今しがた体験した事柄に対する
感動と歓喜を、改めて分かち合う。
そこでもスタッフが「ご協力感謝いたします」と労をねぎらったうえ、土産の
ストラップ(青地に白で《HEY!HEY!HEY!》の文字入り)を配ってくれた。
なにはともあれ、これでわれらはお役御免。三々五々と、その部屋を後にする。
●4月28日 3時20分
東京メディアセンターの囲いから出ると、入り口の外には、まだ長蛇の列が
できていた。この人たちは誰の収録なのだろう、と思い聞いてみると
「解らない」との答え。逆に「そっちは誰だったの?」と聞かれたので
「宇多田ヒカル」と答えると「え~、マジ!? いいな~」と、期待通りの
リアクションが!
心地よい優越感を覚えながら、そして30分ほどの夢のひと時を反芻しながら、
何度も何度も反芻しながら帰路についた (5/1 記)
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