あま野球日記@大学野球

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2011.07.16
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カテゴリ: 近鉄バファローズ

前回 に続き、 「江夏の21球」 のこと。
今日のブログは江夏豊の女房役だった 水沼四郎 捕手から見た「江夏の21球」を。水沼四郎著『江夏の21球をリードした男』(ザメディアジョン刊)から一部を引用した。先日書いたブログ 「江夏豊自身が語る江夏の21球」 の、いわば裏返し版になる。

さて日本シリーズ「近鉄vs広島」第7戦(1979年11月4日)の9回裏、1点差を追う近鉄の攻撃が始まった。投手は7回途中からマウンドに立つ江夏。捕手は水沼。
本文中の(※注)は「あま野球日記」がつけた注釈。

■打者: 羽田耕一
<1球目>  シュート、センター前にライナーのヒット。
「スルスルーと入ってくる、力のないストレート (※注:江夏はシュートと言っていたが)。 やばい!と思った瞬間に、打球はセンターへ。江夏にはひとつだけ欠点があった。それは一発の可能性が低い打者に対し、ごくたまに、打ちごろのストレートを投げてしまうことだ。この球もそうだった」

■代走: 藤瀬史朗
打者: アーノルド
「9回のこの場面、盗塁の可能性は・・・。近鉄は危ない賭けをするだろうか。近鉄ベンチを見渡し、ランナーを見つめ、何か動きがあるかと探ってみる。

<2球目> シュート、ボール
「動く様子がない」 

<3球目> 速球、ボール
<4球目> ストライク
<5球目> 速球、ボール。
藤瀬が二盗を狙う、 水沼 捕手が二塁へ悪送球し、藤瀬は一気に三塁へ(無死三塁)

「藤瀬のスタートが遅れた! ヒットエンドランのサインが出ていたのだろうか。これなら刺せる。ボールをキャッチし、二塁へ送球。その瞬間に普段ではありえない失敗をしてしまった。あれだけ練習してきたのに、ボールを握り損ねたまま送球してしまう。これでMVPは消えたな (※注:水沼はこの試合、決勝点となる2点本塁打を打っていた) そのときの私の心境である」

「とりあえず、同点は覚悟してバッターに集中しよう」

<6球目> 変化球、ボール。四球。(無死一・三塁)


■一塁代走: 吹石徳一
打者: 平野光泰
<7球目> 速球、ボール。
<8球目> カーブ、(中途半端なスイングの)空振り。
<9球目> 速球、ボール。
一塁走者の吹石が二盗を決める。(無死二・三塁)

「吹石に走られるのは仕方がない。ディレードスチールで藤瀬が本塁に突入することを警戒し二塁には送球しなかった」

「とりあえず、守りやすい場面を作ろう」

<10球目> ボール(一塁が空いたため敬遠策)
<11球目> ボール。四球。(無死満塁)

「平野はよほど自分で試合を決めたかったのだろう、すごく怒っているのがマスクを通して伝わってきた。負けを覚悟した・・・」

■代打: 佐々木恭介

「左殺しの異名をとる代打の切り札だ。この場面で、スクイズは絶対にない。そう確信した私が要求した初球は、内角へのカーブ」

<12球目> カーブ、ボール。

「2球目はストレートのサインを出す」

<13球目>
速球、ストライク。

「江夏から投じられた瞬間、うわっ、これで終わったと、一瞬で思った。その球は羽田に打たれた力のないスルスルーと入ってくるストレートと同じ。コースはど真ん中。絶対にやられた、この場面ではあり得ない球だ。次の瞬間、ストライ~ク!!と球審の声が響いた。あの球を見逃すとは。これは何かあるかも。あまりに信じられない見逃し方で、私は疑心暗鬼に陥ってしまった」

「次のサインは・・・内角へのストレート。先ほどとはまったく違う、渾身のストレート。内角ギリギリ、これならいける。そう思った瞬間に、佐々木が強振した」

<14球目> 三塁線にファール。

「ファウル! 塁審の声が、近鉄ファンの歓声を突き破るように響いた。前進守備の三村の頭上を越えた打球は、わずかに三塁線を切ったのだ。ツキはまだこちらにある。しかし読めないのは、佐々木の打撃。あの甘いストレートを見逃し、スクイズもあると思いきや、厳しいコースを強振してくる」

「そのとき、衣笠がマウンドへゆっくり歩み寄っていった。そして江夏に一言二言ささやきかけている。江夏の揺れ動く心の中を、衣笠がなだめようとしているのだろうか。江夏の顔がさきほどとはまったく違った表情に変わった。何かが吹っ切れたような、引き締まった顔つきになった」

<15球目> カーブ、ファール。
<16球目> 速球、ボール。

「江夏のボールは、キレもスピードも出てきた。絶対に三振を取ってやる。私は江夏に最高のボールを要求した。最大の武器であるカーブだ」

<17球目> カーブ、空振り三振。(一死満塁)

「内角をえぐるような完璧な球道。そして佐々木のバットが空を切る。思わずガッツポーズ。完璧だ。江夏でしか投げられない、最高のカーブだった」


■打者: 石渡茂

(※注:以下にある水沼のコメントは 「江夏の21球を演出してしまった、石渡茂のスクイズ失敗」 にも一部引用していますが、とても興味深い文なので、長文ですがほぼそのまま引用します)

「続くバッターは石渡茂である。石渡と私は中央大時代のチームメイト。野球部の寮でも同室で、お互いのことは何でも知っている仲だった。そんな石渡がバッターボックスに入る。私は再びゆっくりと球場を見渡す。先ほどよりさらに大きくなった近鉄への声援。ベンチにいる西本幸雄監督、コーチの顔をじっと見つめる。監督の傍らには、この試合中ずっと有田修三が立っていた。だれからサインが出るんだ。やってくるなら、この場面でしかない」

「石渡に一言つぶやいてみた。『いつやるんだ? スクイズしかないのぉ』。普段なら冗談交じりに返してくる石渡が、この時はじっとグラウンドを見つめ、何もしゃべろうとしない。私の声に耳を貸さない、いや、全く耳に届いていなかったかもしれない。絶対に何かある。スクイズがあることは確実だった」

「でも、どのタイミングで・・・。もう一度、近鉄ベンチを見つめる。はたして初球から動いて来るのだろうか。一呼吸おいて江夏にサインを出す。初球は様子を探るためのスローカーブ」

<18球目> カーブ、ストライク。

「石渡はしっかりと見逃す。ベンチもランナーも動かない。やってくるのはいつだ。再度、ゆっくりと近鉄ベンチを見る、石渡の様子をうかがう。スクイズがあるから早めに追い込もう。そう考えた私は、江夏にインローへ食い込むカーブを要求した。江夏のカーブがこのコースに決まれば、例えスクイズであっても失敗する可能性が十分にある。石渡の息遣いが聞こえてきそうなほどの静寂感」

「セットポジションから、ゆっくりと江夏の足が上がったその瞬間、横目で三塁走者を確認した。その一瞬、目を疑った。三塁ベース付近にいるはずの藤瀬の姿が、すでにそこにはない。 次の瞬間、猛然と突進してくる姿が目に映った。『やばい、来た!』。異常に早い藤瀬のスタート。

<19球目> カーブの握りのまま、外角高めにウエスト。石渡はスクイズを試みたが空振り。三塁走者の藤瀬が三本間に挟まれてアウト(二死二・三塁)

「藤瀬の姿をつかまえた瞬間、私はとっさに立ち上がりウエストボールの構えをとった。カーブを要求し、カーブの握りで、カーブの腕の振り。そしていきなり走り出したランナーと、とっさに立ちあがったキャッチャー。江夏の投じたスローカーブは、飛びついた石渡のバットを外れ私のミットの中に収まった。江夏だからこそ成し得たカーブでのウエストボールだった」

「バッターの石渡も、ランナーの藤瀬もまさか外してくるとは思わなかったろう。私自身も、まさか仕掛けてくるとは、まさかウエストしたところに、江夏が投げ込んでくるとは考えてもみなかった。藤瀬が走った瞬間に、何も考えずにとっさに立ち上がったのである。もし江夏が、要求どおりのコースにカーブを投げてきたら、確実にバットに当てられていただろうし、空振りをしたとしても、ボールは転々とバックネットに転がっていただろう」

「江夏にも藤瀬のスタートが見えていたのだろうか。もし藤瀬のスタートがもう少し遅ければ、私も江夏も外すことができただろうか・・・。すべての偶然が重なり、近鉄の最後の一手を封じた瞬間だった。投球動作の途中で、狙うコースを変えるのは不可能に近い。彼の手首の柔らかさが、その奇跡的なウエストボールを生みだしたのだ」

「2アウトをとったが、なおもランナーは二・三塁。ピンチに変わりはない。しかし私はこの時すでに、勝利を確信していた。石渡からは、動揺からか打ってやるという気迫を感じ取れなかったのである。近鉄のベンチは、先ほどと打って変わって静まり返っている。西本監督の顔を、もう一度ゆっくりと見る。全身の力が抜け、ガックリとしているのがグラウンドからでも手に取るように分かった」

試合が再開された。

<20球目> 速球、ファール。

「低めのストレートを石渡がファウルで逃れる。あと一球、あと一球でこの試合が終わる。これで最後にしよう。そう決めてサインを江夏に送った」

<21球目> カーブ、空振り三振。石渡の空振りした体勢は大きく崩れた。

「江夏の気持ちのこもった渾身のストレートが、ミットをめがけて一直線に飛び込んできた。石渡のバットが、音を立てて空を切った瞬間、私は両手を突き上げ江夏のもとに駆け寄って行った。優勝だ、勝ったぞ! 日本一だ!」


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Last updated  2011.07.16 23:13:18
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