あい・らぶ・いんそん

葛藤4



「どういうつもりだ」

イヌクはソフィアに向かって大声で叫んでいた。

「いったい私はあなたのなに?」

イヌクは冷たく笑って言った。

「都合のいい女だ」

ソフィアの顔色が青ざめていく。

「あなたと知り合ってもう1年半になるわ。いつも私はあなたに

忠実だった・・。それなのに私は都合のいい女だけだったの?」

「ああ、そうだ。それはおまえも同じだろう。俺の金を目当てに

一緒にいるだけだ、今さらどういうつもりだ。」

どれだけ尽くしても、都合のいい女にしか思われていなくとも、

ソフィアはそれでも幸せだった。

たとえ都合のいい女でも、イヌクには自分しかいないという思いだ

けでソフィアは満たされていた。


ソフィアとイヌクは場末の飲み屋で知り合った。

やけになっていた頃、イヌクはよく場末の飲み屋に通っていた。

酔って眠り込み、それを介抱してくれたのが、飲み屋で働いていた

ソフィアだった。それから女にマンションを買い与え、生活を見る

ようになっていったのだ。ソフィアも貧しい暮らしの中で、すさん

だ生活から救い出してくれたイヌクをいつしか愛し始めていた。

イヌクもまた淋しさを紛らわすのに都合が良く、寂しいときは呼び、

めんどうくさければ会わずにすむ・・そんな関係だった。

ソフィアはやっとつかんだ幸せを、スジョンのために奪われたくな

かった。

自分の生活を奪われるかも知れないと言う恐怖が、ソフィアを逆上さ

せていた。

「こんどあいつに何かをしたら・・・俺は絶対におまえを許さない。

いいか、わかったな。それから今後、俺が呼ばない限り、ここには来る

な。」

今までに見たこともないイヌクの姿だった。

(これほど自分には冷たいのに、何故あんな女に・・・。

今に見ていて・・)

ソフィアは嫉妬に満ちた表情で部屋を出ていった。


「もしもし・・サム?ミスター・カンからの依頼よ」

ソフィアが情報屋のサムに電話をした。




ジェミンはパクとともにイギリスの投資会社に赴いていた。

心の奥でずっと何かが引っかかっていることに、ジェミンは苛立ちを

感じていた。

何かが霧の中で見え隠れしているような、そんな思いだった。

「待って・・・私ね・・・本当にあなたを、愛しているわ」

スジョンの電話の声にも、ジェミンは不安を抱いていた。

初めて離ればなれに過ごす時間が、果てしなく緩やかに流れていく

ように思えた。

「良い提案をもらったな。次の事業展開も大幅に見込めるし、パート

ナーとしては最高のランクだろう」

会議を終えてパクとジェミンはエレベーターに乗って話をしていると、

途中階で止まった。そこで来客を案内するかのように乗り込んできた、

一人の男を見た途端、ジェミンの脳裏に浮かび上がった場面があった。

「あのときの男だ・・・あのときの男が何故?」

P財閥の流通部門に投資を申し出たという投資会社の2人の社員が、

交渉に来たときにジェミンは同じエレベーターに乗り合わせた。そし

てそのとき彼らを案内していたのはイヌクだった。その時の男に間違

いがなかった。

「何かがある・・・」

ジェミンは力を込めて拳を握り、唇を噛んだ。

そしてスイヌクの顔が浮かび、スジョンの事がなおいっそう気がかりに

なった。



気がつくと、もう陽が沈んでいた。

スジョンは電話をもったまま、ただじっと座り込んでいた。

何を考え、何を思っていたのかさえわからずに、まるで心を失ってし

まったかのように呆然としていた。

この先の歩まねばならない漆黒の闇を思うと、涙が頬を伝った。

そして一人で過ごす2日目の夜が明けていった。

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