あーしゃ♪の部屋~雑貨マニアの部屋♪

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■わすれられたピアノ■

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■わすれられたピアノ■


 山の上の小学校の倉庫の奥には、古いふるいアップライトのピアノが一つありました。そのピアノは50年前にこの小学校が出来たのと同時にこの学校にやってきましたが、30年前に大きな新しいグランド・ピアノがやってきて、もう使われなくなっていました。それからずっと倉庫にしまわれたままで、長い間忘れられていました。
 今年、山の上の小学校は、子供の数が減って、廃校になることが決まりました。3学期の終業式の後、色んなものの整理が始まりました。使えるものは、他の学校やいろいろなところに寄付することになっています。そして最後に校長先生は倉庫の中に入りました。
「おや、こんなところにピアノがあるぞ」
校長先生は近寄って、ピアノのふたを開けてみました。ピアノの鍵盤は古くなっていてちょっと黄色くなっていましたが、全部そろっていました。校長先生は一つの鍵盤を押さえてみました。
『ビョ~ン』
 長く放って置かれたピアノは、何とも言えない音を鳴らしました。
「う~ん、このピアノはまだ使えるんだろうか…」
 そこで校長先生は、音楽の先生に相談することにしました。音楽の先生はちょっとピアノを弾いてみて言いました。
「校長先生。このピアノはもう使えませんよ。捨てなければいけませんね」
 校長先生はその言葉を聞いて、ちょっとガッカリしました。
 そのとき、校長先生は思い出しました。実は校長先生は35年前、初めて先生になった時に、この学校で先生をしていたのです。その時に使っていたのがこのピアノでした。
 そう思うと校長先生は余計に残念になりました。
 何とかこのピアノがまた使えるようにならないかと考えました。校長先生は知り合いのピアノの調律師さんに相談してみることにしました。調律師さんとは、ピアノの音を合わせたり、悪いところを直したりする人です。
 校長先生が連絡を取った次の日、調律師さんは山の上の小学校にやってきました。ピアノの置いてある倉庫に行くと、調律師さんはさっそくピアノを弾いてみたり、中を開けて調べたりしました。
「どうですか?」
 校長先生が尋ねました。
「もしかすると、きちんとは直らないかもしれませんが、また使えるようにはなるかもしれません。私の家に持って帰って修理してもいいですか?」
「もちろん。よろしくお願いします」
 校長先生はピアノが直るかもしれないと聞いてうれしくなりました。
 調律師さんがピアノを持って帰ってから一週間がたちました。校長先生は山の上の小学校で最後の仕事をしていました。そのとき、調律師さんから電話が掛かってきました。
「あれからあのピアノを調整していたのですが、やるだけやってみましたので、一度見に来てもらえますか?」
 調律師さんはそう言いました。校長先生は、仕事が終わったら調律師さんの家に行くことにしました。
 夕方、校長先生が調律師さんの家に行き、さっそくピアノを見せてもらいました。ピアノはピカピカに磨かれて、倉庫に置かれていた時とは見違えるようでした。校長先生はそっと音を鳴らしてみました。
『ポ~ン』
 ピアノはとてもよい響きがしました。
「素晴らしい! こんなにいい音が出るようになるなんて…」
 校長先生は感激しました。ところが調律師さんは言いました。
「実はこの高い音の辺りが、どうしても狂ってしまうんです…」
 調律師さんがその鍵盤を押さえると、ちょっと変な音がしました。それは校長先生にも分かりました。
「するとやっぱりこのピアノはもう使えないんですか?」
「いいえ。実は私の知り合いで、ジャズ音楽のピアニストがいるのですが、その人がこのピアノを気に入って、譲って欲しいと言っているのです。彼の話では、このピアノのクセがジャズの音楽に合うそうなのですが、校長先生、どうでしょうか?」
 調律師さんの話を聞いて、校長先生は喜びました。普通ではもう使えないピアノが、まだ誰かの役に立てるのです。
「もちろんです。是非、その人に使ってもらってください」
 こうして長い間忘れられていたピアノは、またジャズ音楽のピアノとして活躍することになりました。
☆おわり☆


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