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 体育館には体育座りをする小学生が列を作り、まだ主役が登場する前のステージの上を見あげている。

 体育館に入る時に渡されたパンフレットには、『特別講演会~平等な社会を作るために』と書かれている。この講演会は小学生だけではなく父母などの一般の人たちにも公開されていて、赤川達も簡単に中に入ることができたのだ。
 この講演会を見にきた理由は、この講演会の講師が『ワリカン伯爵(完璧な地球作りプロジェクトチーム)』だからである。

 完璧な地球作りプロジェクトチームとは、なんか間違った理屈で完璧な地球を作ろうとたくらんでいる(おそらく)悪い奴らで、倒すべき敵である。そんな奴らが小学生相手に講演を行うというのだから、正義のヒーローダメ人間マンである赤川達はそれを潰さなくてはならないのだ。

「しかし、パンフレットに堂々と名前を書くとはね。」
「基本的に、彼らは自分たちを悪だとは思っていませんから。堂々としていますよ。」
 講演が始まるのを待っている時に赤川と司令官がそんな話をしていると、アカリは言った。

「ああー、早く戦いたくてウズウズするわ。どんな奴らだろうと叩きのめしてやるっ!」

 ・・バトルマニアなの?


「えー、それではこれより特別講演会を始めます。」
 司会役の先生らしき人がステージ脇のマイクで講演の開始を告げた。
「・・早速、本日の講師をお呼びします。完璧な地球作りプロジェクトチームのワリカン伯爵さんです。どーぞ。」
 ええー。・・伯爵に“さん”付けちゃったよ。なんか色々ツッコミ所があるよなぁ・・と赤川は思った。そもそも、なんでこの特別講演を主催した学校側は、こんな奴らに講演を依頼したのだろうか。

「学校側は完璧な地球作りプロジェクトチームをちゃんとした団体だと思いこんでこの講演を依頼したんでしょうね。何らかの方法を使って操っているという可能性もありますが・・きっと、ただ騙されているだけだと思います。」
 司令官は赤川の心を読んだようにそう言った。
「あんな胡散臭い団体、普通信じるか?」
「ま、人それぞれでしょう。」
 いやいや、だって完璧な地球作りだよ?有り得ないでしょう、と赤川は思ったが、まあ、その話はとりあえず置いておくことにした。今はとにかくこの講演をぶっ潰さなくてはならない。
 赤川がステージに注目すると、ステージの上ではすでにワリカン伯爵らしき男が現れていた。ただ今ご紹介にあずかりました、と結婚式のスピーチみたいなことを言っている。

 その時、赤川の隣で同じくステージのワリカン伯爵を見ていたアカリが呟いた。
「カ・・カ、カンちゃん・・」
「・・・カンちゃん?」
 赤川はそう聞き返した。あるいは“カカンちゃん”かもしれないが・・。
「アカリ、あいつのこと知ってるのか?」
 そう赤川が問いかけたが、アカリは答えられずにただ震えていた。

 ステージ上のワリカン伯爵を見て言葉を失っているアカリの代わりに、司令官が言った。
「あのワリカン伯爵は、アカリさんの元カレです。」
「えっ、元カレって・・。」
「一昨日別れた、元カレですよ。」
 司令官は普段と変わらない調子で言った。
「一昨日別れたって・・・」

 突然の話に赤川は言葉を失ってしまった。いったいこれはどういうことなのだろうか。アカリは、そのことを知っていたのだろうか?いや、知っていたらこれほど驚きはしないだろう。アカリは、彼がワリカン伯爵だとは知らなかったのだ。
 司令官は、ワリカン伯爵がアカリの元カレだと知っていたのだろう。いや、というよりもワリカン伯爵の元カノであるアカリをダメ人間マンに勧誘したということか?

 赤川がその疑問を口にする前に、司令官は答えた。
「いや、アカリさんと付き合っていた時は、まだワリカン伯爵ではなかったはずです。プロジェクトと何らかの接触はしていましたが、正会員ではありませんでした。・・・とにかく今は、ワリカン伯爵の講演の様子を見ましょうか。」

 司令官のその言葉で、赤川はステージに意識を戻した。


 ステージの上ではワリカン伯爵が「男女の不平等を改善するために、まずはワリカンから始めましょう」という持論を展開していた。その話が小学生相手の講演に相応しいかどうかは疑問だが・・。


「・・・許せないわ。」
 ワリカン伯爵の講演が半ば頃まで差し掛かった時に、先ほどまで震えていたアカリがそう呟いた。
「アカリ?」
「・・・装着!」
 そう叫ぶと、一瞬でアカリはダメ人間マンに変身した。いかにも戦隊ヒーローといった赤い全身タイツに包まれたアカリは、もの凄いスピードで走りだした。
「ちょっ・・待てよ!アカリ!」

 赤川がキムタクよろしく呼び止めた時には、アカリはすでにステージの上でワリカン伯爵と向かいあっていた。赤川達が居た場所からステージまで赤い筋が通ったように見えるほどの、人間離れしたスピードだった。

「・・すげぇ、変身したらあんな速く走れるんだ・・」
「ええ。自分ではわからないかもしれませんけど、赤川さんも変身したらあれくらいは動いてますよ。」
「ほんと、赤い閃光って感じだったもんなぁ・・・」

 赤川はステージ上のアカリを見ながら、自分もダメ人間レッドに変身して助けに入らなくてはと思った。
 ・・・しかし、思いながら、赤川は何か違和感を覚えた。ステージ上の全身赤いスーツに包まれたアカリを見て・・赤いスーツ・・・赤?

「って、赤?赤って、あれ?・・・ダメ人間レッドって俺じゃなかったっけ!?」


つづく

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