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あ、新しい店ができた。久しぶりに通った道に、居酒屋ができていた。この場所は、その前は、輸入小物の店。その前は、子供服。その前はスポーツ用品店。くるくる経営者が変わっている。駅からの商店街と大通りをつなぐ路地で、大きな電化店が先にあり、場所はいいように見えるのだが。どうして、こうもつぶれるのだろう。この辺は、急速に人口が増えて、昔を知らない住民が多い。私が子供のころは、バスの通る大通りと、それに平行して地元商店街。大通りに面して電化店ができる前は、この路地は全くの裏通りだったのだ。昔、ここには祠があった。何を祀っているのか、誰も知らない。地主が代替わりして、売ったのだと思う。大通りと商店街をつなぐ路地に、どんどん新しい店ができ、それなりに栄えていたのだが。景気が悪いのは、不況のせいと、誰もが思う。だが、ここに店ができて、人の流れが変わってから、どういうわけか、大通りの電化店もつぶれてしまった。そんなふうに、“入れ替わりの多い場所”が、この路地の続きのあちこちにある。通りとしては便利なので、解せない話だ。今となっては、ここの祠が、なんだったのか、誰も知らない。
2004/08/12
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夏と言えば怪談、と、一人で始めた“自分企画:怖い話特集”、当初は七話upする予定でした。ネット友のJ○Nさんが、“怖がりの怖いもの好き”。これは是非とも泣かせちゃおう、と。私の場合、全くの創作はできません。まず、実話があって、組み合わせたり、言い方を変えたりして、加工します。自分では、“濃縮果汁還元”と呼んでいますが。だけど、怖い話って、しんどいっすね…。プロのホラー作家さんは、よく、いくつも書けるもんだと思いました。続けて書いていると、肩がこって…。頭も痛いし…。胸も苦しくなってきたような…。それなのに、キーボードを叩くのが、やめられない。PC前から、離れたくない、というか…。ネット依存ですか?違うと思いますね。パソコンの電源を落としたくないんですよ。ディスプレイが暗くなると…映るじゃないですか。私の肩に手をかけて、のぞきこんでいるモノが。そういう時はね、いつも、気づかないふりをするんですよ。そうすれば、あちらも、何もしてきません。でも…今、こう書いているのを読まれてしまいました。PCオフして、ディスプレイに映るモノと、目が合ったら…いや、今、ふりむいたら…で、アナタはどうします?アナタの肩越しに覗き込んでいるソイツも、これを読んでしまいましたけど?
2004/07/16
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夜中に、冷蔵庫の音が気になるとき、って、ありませんか?急に、音が大きくなって、気になり始めると、眠れない。最近、夜も暑いじゃないですか。夕べも寝苦しくてゴロゴロしてたら、耳についてしょうがなくなったんですよ、冷蔵庫の音が。そのうち、なんだか、人の話し声に聞こえてきたんです。外の声…にしちゃ、声が近いし、となりの部屋の声…にしても、変なんですよね。うち、いわゆる、バブルがはじけたマンションなんで、周りはほとんど空き部屋なんですよ。泥棒か、不法侵入者か、と、考え始めたら、気になって気になって。だんだん、真剣に耳を済ませはじめたんです。声は、低い男の声で、何を言ってるかは、よくわからない。でも、ぶつぶつぶつぶつと、何かをしゃべっている感じなんです。そのうち、(…のせいだ…)と、聞き取れたんで、もう、真剣に耳をそばだてたんですよ、そしたら、「聞いてんじゃねぇ!!」…びっくりしましたね。ええ、大きな声で、ハッキリ聞こえました。で、急に冷蔵庫のモーターの音がしずかになりまして。それからは、話し声は何も。もちろん、台所にも、どこにも誰もいませんでした。私ひとり…。なんだったんでしょうねぇ、アレは。
2004/07/13
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「ああ、疲れた」ミホはアパートの玄関でへたり込んだ。今日はもう寝よう。化粧を落として寝支度を手早く終えて、安眠キャップをかぶる。それは、リアルなニワトリの首だ。通称『安眠コッコちゃん』。かわいくもなんともないが、付けるのが義務だ。もっとも、ミホは、義務じゃなくてもコッコちゃんをかぶって寝ただろう。付けると熟睡できる。目覚めも爽快。目と耳を覆うようにぴったり着用する。雑音が遮断される。正確には、不必要なノイズだけが遮断されるのだ。例えば、寝ている間に侵入者がいたら、その物音は聞こえる。瞬時に視覚も補われる。だから、防犯上は安全だ。閉め切っても明るい部屋、うるさい場所で、コッコちゃんはノイズを遮断してくれる。ぐっすり眠れるのだ。そして、時間になったら、目覚ましが鳴る。もし、セットを忘れて、家族の誰かに起こされたとしたら、その声は聞こえるのだ。もっともミホは一人暮らしだから、万が一の時は会社からの電話で起こされることになるが…。ミホが深く眠るにつれて、コッコちゃんが鳴り始める。クククク…ココココ…コケ、コケコ…クワっとコッコちゃんが目を見開いて、「マジメニナンテ、ヤッテランナイワヨネー!!」ククク…コココ…クワッ!「バカニシテンジャナイッテー!!」コッコちゃんの声はミホには聞こえない。だが、思い切り叫んだ爽快感は、無意識に残っている。脳みそマッサージ、と、俗に言われているコッコちゃんの効果だ。コッコちゃんは、固有名詞は言わない。「死ね」や「殺す」のような反社会的な言葉も言わない。それに、声はコッコちゃんが出しているのであって、ミホには責任がない。ミホの住んでいるアパートのような集合住宅の夜は、かなり騒々しいことになるのだが、寝ているものは皆、コッコちゃんを使っている。それに、熟睡した人間は、ささいな物音にはイライラしないのだ。朝、ミホのベッドには、コッコちゃんが生んだ卵が…それは、カラフルな模様がついていて、イースターエッグのようだ。本物の卵と間違えるのを防ぐためだ。もっとも、割ったらすぐわかる。この卵には黄身がない。孵化するものではないのだ。そして、白身もすぐ、空気に触れると分解して消えてしまう。食用でもないのだ。ほっておけば卵自体も、自然に空気に消えてしまうのだが、ミホは専用冷蔵庫に卵を保管した。大抵の人が卵を貯めているだろう。それは…。ある秋晴れの吉日に、全国的祝日が施行される。夜明けと同時に「コケコッコー!!!」卵投げの始まりだ。ルールは一つ『戸外に投げること』。外に出られない人も窓から投げる。人に当ててもかまわない。殻は薄く、当たっても痛くない。一瞬白身がどろっと出るが、空気に触れれば分解して消える。嫌われ者は集中攻撃を受けるが、それもご愛嬌。うっぷんを溜め込むよりずっといい。この日のために、みな、自分の卵を溜め込む。タマは多い方がいい。そして、祭りは一日続く。日暮れまで。ニワトリの祭りだから…。
2004/06/19
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喫茶店の入り口に掲示があった。“当店でのデータ交換はおことわり申し上げます。”最近は、どの店もそうだ。書いただけで、効果があるのだろうか?いや、ないだろう。それほどに、データ交換は広まっている。席についてしばらくすると、ひとりの男が離席した。トイレに立ったらしい。店を出たのではないのことは、持ち物がテーブルに残されているのでわかる。それは…携帯電話。彼の携帯電話がテーブルに置いたままだ。しばらく様子を見る。今日は、他に立つ者はいないようだ。オレは、自分もトイレに行くふりをして、通路を歩きながらその携帯を取った。そして、自分の携帯電話をテーブルに。携帯をすり替えたのだ。洗面所で。男の携帯からデータをすばやくロードする。席にもどると、男は着席していた。ころあいを見て、彼もオレのデータをロードするのだ。そうすれば…データ交換終了。その店での食事を終えて、オレは店を出る。駐車場に、男の車がある。いや、今はオレの車だ。車は、キーレスエントリー。携帯電話をキーにして乗ることが出来る。男の携帯はオレが持っているから、オレの車なのだ。オレは、その男の家へむかう。初めてだが、よく知っている家。家の鍵も携帯電話だ。誰かいる。男の妻だ。「あら、あなた。今日は早いのね。」「ああ。」この女も、自分の夫の顔をろくに見たことがないらしい。顔や血液型や指紋は、個人を識別する役に立たない。携帯の情報が全て。男の記憶も全て携帯電話の中。オレはその記憶も全てロードした。男の記憶、所有物、人生、全てを交換したのだ。携帯を持つものが、その男となる。それがデータ交換だ。個人情報のシステム管理を、あまりにも性急に行った結果がこれだ。人々が、“自分”というものを、こんなにも安易に手放すとは、為政者は思わなかったらしい。取締りの手段が追いついていないのが現状だ。それに、この問題に真摯に取り組んでいる開発者もいないのではないか?犯罪は増加せず、むしろ減少傾向にある。おそらく、犯罪者は携帯電話によるデータ管理ではないからだ。非・携帯型データ管理に載れば、一生“自分”というものから逃れられない。昨日までの自分を容易に捨てられるというのは、ストレスレスで快適なのだ。その証拠に、自殺率は急減している。困るのは、支配する側だけ。誰がこの自由を手放すか。夜、オレは男の妻を引き寄せる。「おや?君は男だったのか。」「あら、何よ、いまさら…。」妻は笑うが、わかるものか。昨日の妻と目の前の妻、同じ人間だという保証がどこにある。
2004/05/31
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豪華客船の旅は高価と思いがちだが、調べればかなりお得なプランもある。長旅の一部だけ、安い船室に乗るのである。往路か復路のどちらかを船にする。宿泊・食事込と考えれば、ちょっと贅沢、ぐらいである。若いカップルが、二泊三日の客船の旅に参加した。日本一周の一部を、旅行の帰りに使ったのだ。二人は、船の旅は初めてだ。客船では、どんな生活リズムの客にもあうように、早朝から深夜まで食事が用意されている。それがどれも旨い。「食べきれない、でも、美味しいー。」夕食後、甲板で彼女が言った。彼が何か答えようとしたとき、横から「いいわね、若い人は」と声がした。彼が見ると、上品な初老の婦人だ。「船は、全部味わおうとしちゃだめ。自分に合う時間を切り取るようにしなきゃ。」とにこにこ笑っている。船旅というものは、狭い空間に閉じ込められるため、知らない間柄でも仲良くするのがマナーらしいと、若い二人もわかってきた所だったので、彼は婦人に尋ねた。「どちらまでですか?私達は明日までです。」「私はねぇ、ずっと乗ってるのよ」と、微笑みながら婦人が答える。「夫が亡くなったら、一人きりでいると寂しいでしょう?船では、皆が家族のようでしょう?だから、降りないことにしたの。」「では、日本一周なさるのですか?」「日本だけじゃないわ、世界一周も、この船でずっと旅をするつもり」彼は(すごい金持ちなんだな、旦那の遺産かな)と思ったが、言うのは失礼なので言葉を捜していると、彼女がぶるっと身震いした。婦人が、「ああ、冷えてしまったわね、それじゃ」と言うので、彼は軽く会釈して彼女と船室に戻った。「誰と…何を話していたの」と、彼女。「?そばにいたのに」と、彼。「聞こえなかったの」そういえば、甲板には風があった。声が流れてしまったのか。「あのおばあさんは、旦那さんに死に別れてからずっとこの船に乗って旅をしているらしいよ。」「ふぅん…」窓の外は海。陸の灯りも見えない闇。心地よいうねりに身をゆだねる。今だけはこの世に二人きり。「…結婚しようか…」陸に戻ると、日常は瞬く間に過ぎる。船の上の約束どおり、それから二人は月日を重ねた。ふと、彼が思い出す。「そういえば、あのおばあさん、まだあの船で旅をしているのかなぁ?」すると、妻がためらいがちに言う。「あの時、私はね…」「ん?」「怖くなかったから、言わなかったんだけど… 私には、そのおばあさん、見えなかったの…。」人からテーマを頂いて書いています。これは『船』というお題で書きました。
2004/03/09
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出会い系サイトで、女性になりすまし、あとから「俺の女に何をする」と脅す『現代版美人局』があるそうだ。『オレオレ詐欺』もそうだが、こういうなりすましを信じてしまうのは、「それを信じたい心」があるからである。人は、信じたいことを信じる。それにつけこむ者がいる。ネットで「小学生」を名乗っていても、本当の小学生の場合と「子供だから大目に見て欲しい大人」の場合がある。ネットは虚像なのだ。そこまで書いて私は一息ついた。マイクに向かって音読ソフトの起動コマンドを言う。機械の女声がページを読み上げる。時々画面に目をやって、推敲する。ほとんど動けない体。入力は専用マイクを使っている。音声入力ソフトだ。できた原稿をネットにアップする。このわずかな動きも、だんだんつらくなってきた。(こうやって、社会とつながっていられるのも、あとわずかの間かもしれない)再びベッドに横たわり、私は思う。そうなれば、残った生命力も、急速に衰えていくことだろう。
2004/03/07
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ぼくのおじいちゃん、うんどうかいがだいすき。ぜったいおうえんにくるよ、って、おじいちゃんがいってくれた。ぼくはおじいちゃんとやくそくしたんだ。かけっこがんばるよ、って。あしたは、いよいようんどうかい。ぼくはおじいちゃんにいった。「あした、ぜったいおうえんにきてね」って。「おおきなこえでおうえんするよ」って、おじいちゃんはにこにこ笑った。ぼくはちょっとこまってしまった。「あのね…」「れんしゅうでは、かけっこ、いつも負けちゃうんだ」するとおじいちゃんがこう言った「じゃ、これかられんしゅうするか?」どきん!おじいちゃんとひみつくんれん!やった、これからとっくんだ!ぼくはおじいちゃんとうんどうじょうにいった。ラッキーなことにだれもいない。「まず、スタートダッシュのれんしゅうだ」おじいちゃんのごうれいにあわせ、なんどもよーいどん!とれんしゅうした。「うでのふりかたがかんじんだ」おじいちゃんコーチのいうとおり、りくじょうせんしゅみたいにうでをふった。「それじゃ、50mはしってみよう」よーいどん!すごい、すごい!はやかった!「おじいちゃん、かぜになったよ!」おじいちゃんはこどものころ、かけっこがとくいだったんだって。いまはあしがわるいけど、むかしはひとにおしえていたんだって。うんどうかいは三等だった。「えらい、えらい」とおじいちゃんは言った。パパもママも「はやくなったね」とおどろいていた。ぼくはこっそりおじいちゃんに言った。「あのね…」「らいねんは一等とりたいんだ」「じゃ、らいねんもとっくんしよう」やくそくだよ、おじいちゃん!
2004/03/01
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