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突然の病が彼らを襲った。それは多分海外からもたらされたもの。免疫力の高い一族が、運んできたんだ。彼らは、その病原菌に弱い。感染は、そのまま、死を意味した。あちこちで、仲間が倒れた。長老が、とうとう、宣言した。「この街はもうだめだ。生き延びるために、症状の出ていない若い仲間よ、ほかの地域に伝えてくれ。決してこの街に入ってはならぬ、と。感染したものは、すみやかに、ここに来て死すべし、と。我々の病んだ仲間の墓場にするのだ。隔離、それだけが全滅をさける唯一の道。」渡り鳥がはこんできた鳥インフルエンザ。それはカラスにとって、死の病であった。感染した仲間が群れを離れること、健康な仲間を、この病の伝わっていない地域で生き延びさせること。賢い彼ら、誇り高き黒い鳥、オオソドリ、ハシブトガラスは、ここTOKYOを、死の街に選んだのだ。死骸は生ごみとして、巡回する清掃車が処理していたから。「最近、カラスを見ないわねぇ。」公園の老女がつぶやいた。
2005/04/02
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「雪が降ってきたね」と、その人は言った。窓の外も見ずに。「よくわかりましたね」と、私は驚いた。私が世話するこのコジマさんは、大変に物静かな人だ。独居老人のサポートサービス、それが私の仕事だ。こちらのコジマさんは、寝たきりというほどではないが、やはり動くのが不自由なようで、私は毎日二時間ほどの家事をしに通っている。妻に先立たれてもう十数年になるとか、事前の資料で知るばかりで、コジマさん自らは語ろうとしない。派遣先によっては、身の回りの世話より話し相手として求められていることもあるのだが。一人暮らしが長いせいか、コジマさんは自分できちんと家事をこなしているようだ。いつも部屋は片付いていて、私は頼まれていた買物を冷蔵庫に入れ、まとめられているごみを出し、…コジマさんは、その間、たいてい静かに本を読んでいる。手挽きのコーヒーミルで挽いた豆を、サイフォンで入れて、ゆっくり飲みながら。派遣されて三ヶ月になるが、この人とはほとんど話したことがない。「屋根がね、重くなった。」読んでいる本から眼を離すこともなく、その老人は言った。不思議な老人…不思議な人。「この辺では珍しいですね。」と、私は言った。この地方で雪が降ることはめったにない。「ああ、今年最初で最後の雪だ。」と、コジマさんは言った。そして、ふいに顔を上げると、初めて私と眼を合わせて「あなたは庭に出て、見てきなさい。まだ若いのだから。」と、言った。何か聞き返せるような感じではなかった。私は言われるままに庭に出た。(まだ若いのだから?)どういう意味だろう。降る雪を見ながら考える。庭石につもる雪。地面にとける雪。…不意に涙がこぼれた。どうしてわかったのだろう、私が昨日、愛した人と別れたことを。長く冷め切った関係に、自分からけじめをつけたことを。別れを告げたのではなく、告げさせられたのだ。この掌に降る雪が溶けるのは、ここに降るのを選んだ雪が悪いのだとでもいうように。「そろそろ入りなさい、雨に変わる。」コジマさんに声をかけられ、私はあわてて中に入る。「よくわかりますね。」と、私が言うと「わかるよ、この年になるとね。」と、老人は言う。眼は再び本に向けられている。「これから、だんだん、ぬくくなる。もうすぐ春だから。」-------------さて、元ネタは何でしょう?また、瞬殺か?
2005/03/04
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私は老いた。もうすぐ天寿をまっとうするだろう。この年になれば、人は仏門に入る。私も出家して隠居した。仏道に励み、御仏の慈悲にすがり、安らかに死を迎える、そのための修行をするはずなのだ。だが、私には、それが出来ない。南無阿弥陀仏を唱えることすら…。私は、悟ることができない。俗世を捨てた自然の中の、小さな庵での一人住まい。元々、出世もせず妻子も持たず、今の生活に入るのに、何の抵抗もなかった。むしろ、今の生活に安住している。だが、それは悟りの境地に達したからではないのだ。何かが私の心をつき動かす。不満でも後悔でもない。それなのに、何が悟りを妨げているのか。それは、私が覚えているからだ。大きな屋敷が一晩で焼失するのを見た。瓦礫の上に新しい家々が立ち並ぶのを見た。思えば、私の生きた時代は、動乱と混迷のさなかであった。戦乱・大火・地震・飢饉…。多くの人が死ぬのを見た。例えば、養和年間の飢饉。どんな財宝よりも食料の方が貴重になった。その上、疫病が蔓延し、人は道端で死んでいった。飢えと病で死んだ人々は数え切れないほどだった。私は試しに、左京地区の死体の数を、四月と五月の二ヶ月間数えてみた。結果、四万二千三百体以上。この期間の前後、さらに他の地域まで計算したら、どれほど膨大な数になることだろう。薪も不足し、人々は、たとえ寺院でも仏像でも打ち壊して燃料にした。そんなあさましい時代でさえ、手に入れたわずかな食料を、醜く争わぬ者もいる。本当に愛し合う者たちだ。少しでも多く相手に食べさせようとするので、より深く愛した方が必ず先に死ぬ。親子なら、親が子に食べさせて先に死ぬ。母親が死んでいるのに気づかずに、乳を吸っている幼子の姿。私の死とともに、その記憶も消えてしまう。書き残さずにはいられない。その欲望が煩悩なのかもしれぬ。時の流れを川とするなら、人の命は川面の泡だ。一瞬浮かんでははじけて消えていった。社会は、川がそこにあるように変わらず存在するように見えて、実は流れ行く水のように常に流動していた。その社会の上に成り立つ人々の暮らしが、安定しているはずもない。その生きにくい時代を生き延びて、時代という川の流れを、傍らで見ていた者、それが私だ。次々にはじける泡のような命を、記憶している者、それが私だ。朝に咲き夕にしぼむ朝顔の花、その花にやどる朝露の光。人の世の栄華など、そんなものかも知れぬ。それでも花は咲き、人は生きる。川の流れが尽きぬように、人々の暮らしも絶えることはない。私は、それを記録する。自らの悟りを得ることも無く、書くことにとらわれたまま死ぬのかもしれぬ。この方丈の庵で。--------私は、国文科ではないのですが、単位あわせのために取った講義が「方丈記」で、教授が”一般に言われている無常観だけの随筆ではない”と言ったのを覚えています。あまりよく研究したわけでもないのですが、高校の教科書に載っているような部分を読んで、「この人は、ルポライターじゃないのか?」と、思いました。この文章は、方丈記の最後の部分・養和年間の飢饉・冒頭文を組み合わせて作りました。解釈というよりは、創作に近いものだと思ってください。鴨長明がこういう気持ちだったとは限りませんので。----追記----この記事は小説なんで、関連性が薄いのですが、私がほぼ日参しているブログにガ島通信さんがあるのですよ。新潟震災の記事など、方丈記と相通ずるものを感じていました。「誰かがこれを伝えなければ」「この目で見たものをつたえなければ」という気持ちが鴨長明にはあったような気がするのです。私にとっては、方丈記前半の災害記録は、報道の原点のような気がしてならないのです。だから、最新記事の岡山で会いましょうにトラバさせていただきます…。リンク先は”この集会のコンセプトは『新聞の将来に危機感を感じる声が同業者内でもよく聞かれる。不安、疑問を持っている若い人がこの先新聞業界でどんな風に働いていくのか、みんなで集まって考えたい』”という集会が岡山で開催される、と、いうものです。
2004/12/03
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私がとある旅館で働いていたときのことです。そこは、夏のかきいれ時でも満室になることはないような小さな旅館、それでも近くに海水浴のできる海岸があって、そこそこお客がとぎれることはありませんでした。夕食は食堂です。お客さんが全員食べ終わって、やっと一段落。早く片づけを終えたいのが本音です。ところがその日は、一組、予約したのにいらっしゃらないお客さんがいました。このへんは4時をすぎると、観光する場所もありませんし、連絡はとれませんし、仕事を切り上げたいのと、心配なのとが半々で、やきもきしておりますと、他のお客さんがとっくに食べ終わって部屋へ引き上げたころになって、やっといらっしゃいました。通いのアルバイトはとっくに帰してしまった頃でした。大学生のカップルでしたが、地形なんぞを勉強なさっているそうで、あちこち見ていたら暗くなってしまい、道に迷ったそうです。ま、どこに行っても楽しいような年頃ですから、なんやかやで遅くなったのでしょう。女将さんは、このへんの道は街灯も少ないから危ない、事故じゃなくてよかった、などと言いながら、夕食のお膳を手早く整え、食べていただきました。本当に、このあたりは民家も少なく、宿もうち一軒で、人通りもないのです。女将さんは女やもめで、高校生の娘さんが一人。娘さんは部活動の合宿で、その晩は、お客さんは四組だけなので、翌朝のお見送りも住み込みの私と女将さんだけで間に合うような按排でした。静かな夜でした。翌朝、一番最後にお帰りになったのは、前の晩に遅くなったカップルでした。女将さんが、よく眠れましたか、と、ききますと、ちょっと寝不足の様子で、隣の部屋で遅くまで飲んでいたらしい、話し声が気になって寝付けなかった、と、おっしゃいます。女将さんは、(それは申し訳ありません)と謝って、送り出そうとしたら、女性の方が「くつがない」とおっしゃるのです。見ると、玄関に揃えておいたはずの靴がありません。女将さんは、(先に出た団体さんがあわてて荷物に入れたのかもしれません、ちょっとお待ちください)と、奥に引っ込むと、娘さんの運動靴を持ってきて、(なんとかこの靴で町まで行って、代わりの靴を買っていただけませんか、こちらの不手際ですみません、靴代はこれで…)と、半紙にくるんだお金を渡しました。そのカップル、お互いの手前、事を荒立てるのは見苦しいと思ったようで、素直にその靴を履いてお帰りになりましたが…。私は腑に落ちなくて女将さんに聞きました。「あのお二人の部屋、両隣、空いてましたよね?どの部屋の話し声が聞こえたんでしょう。それに女将さん、朝、慌てて帰った団体さんなんて、いらっしゃいませんでしたけど?」すると、女将さんが、私の言葉を、しっ、とさえぎって、(よそで言うんじゃない、お客が来なくなるから)と、それきり何も説明してはくれませんでした。そういえば、女将さん、靴がなくなったとき、妙に手際がよかった…。そう思ったら、私はなんだか薄気味悪くなって、秋にその旅館を辞めてしまいました。
2004/08/10
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「ああ、暑かった。」とおばあちゃんが帰ってきた。「夏の法事はたまらないわねぇー。」どっこいしょ、と、座って麦茶を飲むと、おばあちゃんはおしゃべりを始めた。お坊さんがどうだったとか、誰と誰が来たとか…「そうそう、キミエちゃんに会ったわよ。」キミエちゃんは、おばあちゃんの妹にあたる。「墓地でね、お墓の後ろを通ってね、横顔を見て、『あ、キミエちゃんだ』と、わかったのよ。あちらは、私に気づかないみたいでね、そのまま、すっと行っちゃったわ。」おばあちゃんは、残念そうだけど、ちょっと待って。今日は、そのキミエちゃんの法事でしょう?「そうよ、そのキミエちゃんよ。お墓の後ろはすぐ壁なんだから、生きた人間が通れるわけないじゃない。」ボケたわけじゃないわよぉ、とおばあちゃんは笑って、また、麦茶を飲んだ。
2004/07/15
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昔は、小学校で「お泊まり会」なるものがあった。生徒が集団で校舎に一晩泊まるという行事だ。現在ではほとんど行われていないが…。夜中に、ヘイスケは目を覚ました。(トイレに行きたい…)。ヘイスケが寝ていたのは、教室の一番後ろ、扉の近くだ。教卓のそばで寝ているはずの担任・ナカムラ先生は遠い。間にはクラスメイトが寝ていて、足元が暗くてよく見えない。(どうしよう…)。その時、廊下に光が見えた。(あ!見回りの先生だ!)トイレに付いて行ってもらおう、そう思って、ヘイスケは周りを起こさないようにそっと廊下に出た。「どうした?」懐中電灯がこっちに向けられた。まぶしい。「トイレです」ヘイスケが言うと、光が顔からそれて、…(あれ?)担任のナカムラだった。(ナカムラ先生が当番の時間か、よかった)。知らない先生じゃなかったので、ヘイスケはほっとした。トイレは、廊下の突き当たり。ヘイスケのクラスは、学年の真ん中なので、他のクラスの前を通る。トイレとの間に、一つ、空き教室があった。そこは普段も使っていないので、今夜も、誰もいないはずだった。「おや?」ナカムラ先生が立ち止まる。「今、誰かいたぞ?ちょっと見てくるからトイレに行ってなさい。」ナカムラ先生は空き教室の中に入って行ってしまった。(行かないでよ!先生!一人でトイレなんて行けないよ!)ヘイスケは半泣きで追いかけた。一人の廊下に取り残されるなんて…。空き教室に入ると、中にぼんやり光るところがあった。ナカムラ先生は?先生が見当たらない。ヘイスケは光のもとを目で探した。光っているのは、入り口と反対の窓側に近い、黒板の横の壁のようだった。よく見ると、穴が開いているように見える。光はそこからもれているのだった。(へんだなぁ…あんな所に。先生はあそこに入ったのかな?)ヘイスケはそろーっと覗いてみた。穴に見えたのは、古い廊下のようだった。薄暗い電灯。と、人影が現れた。人影はヘイスケに気づいて話しかけてきた。「ボク?どうしたの?おしっこ?」それは女の人で、看護婦さんのような服を着ていた。だけど、服が、映画やテレビに出てくるような古臭い感じだ。何だか変だったけど、優しい声で話しかけられて、ヘイスケは尿意を思い出した。もう我慢できない。「ウン。」と女の人にうなずくと、その人は「こっちよ。」と、ヘイスケを、古い廊下へ誘い込んだ。入ってすぐがトイレらしい。灯りが暗くてぼんやりしている。ヘイスケは、用を足すことで頭がいっぱい。あやうく事なきを得た。女の人は、トイレの外で待っていてくれた。ヘイスケが元来た方に戻ろうとすると、女の人が「あらあら、寝ぼけてるのね?」と、反対の方、奥の方へ連れて行こうとする。そう言われるとヘイスケも、間違えたような気がしてきた。その時、「ヘイスケ!ヘイスケ!」と声がした。ナカムラ先生だ!ヘイスケは踵を返して、不思議な穴から飛び出した。空き教室に、ナカムラ先生と、クラスメイトのエイジがいた。ナカムラ先生が「ヘイスケ!黙っていなくなったらダメだろ!」と、言い、エイジが「オレが先生を起こして探しに来たんだぜ」と、言った。(ナカムラ先生、当番で回ってたはずなのになぁ。一緒にここまで来たはずなのに。)と、ヘイスケは思ったが、トイレも済んだし、何だかどうでもよくなって、そのまま教室に戻ってしまった。そのまま、ヘイスケはそのことをすっかり忘れていた。思い出したのは、20年後のクラス会だった。こんなことがあったなぁ、と、ヘイスケの話を聞いて、妙な気がしたのはエイジの方だった。(あの時、ナカムラ先生は、教室で眠っていた。ヘイスケが出て行ったのも知らなかった。空き教室に、そんな古い廊下なんてなかった…。)だが、それを口には出さなかった。ナカムラ先生も早や鬼籍の人。もし、存命だったら、話してくれたかもしれないが。ヘイスケたちが卒業して数年後、お泊まり会で「神隠し」事件がおきた。子どもが一人、いなくなったのだ。外に出た形跡もなく、とうとうその子は帰宅しなかった。それが、お泊まり会中止の原因だったのだ。だが、ヘイスケもエイジも、それを知ることもなく、二人ともやがて、すっかり忘れてしまった。
2004/07/14
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下の子が生まれたら上の子がやきもちを焼く、というのは、とりこしぐろうだったみたい。長女は、弟をすごくかわいがっている。「にゃーちゃん、にゃーちゃん」と、にこにこしながら弟の顔を飽きずに眺めている。「邦也」「くにや」「くにゃちゃん」「にゃーちゃん」かぁ。赤ん坊は、まだ手足をばたばたさせるばかり。じーっと見つめてくれるのが、うれしいのかしら。まだ視力が弱いせいだと思うんだけど。でも、いいおねえちゃんになってくれそうで、よかったわぁ。娘は、弟が、何を見ていても、くすくす笑っている。自分を見ないで、天井や、部屋の隅を見ているときも。よく、あきないわねぇ…。ふと、たずねてみた。赤ちゃん、面白い?「うん!」娘は、目を輝かせた。そして、「あのねぇ。赤ちゃんの目に白い猫ちゃんがいるー。」きゃっきゃ、と、娘は笑う。「おへやには、いないのにねぇ。ふしぎだねぇー。」
2004/07/12
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(遅刻しそう!)玲子はあわてて出かけようとした。玄関から出て、鍵を閉める。閉めようとした。(あれ?)鍵が回らない!中からはかかるが、回らない。(うそ?壊れたの?)玲子は一人暮らしだ。開けたままで、出かけるわけにいかない。(会社に電話しなきゃ。それから、鍵の修理をさがして…)携帯電話で、かけようとした。(あれ?)携帯がつかない!(電池切れぇ?こんな時にかぎって…)玲子は、固定電話を持っていない。携帯があれば充分だから。(どうしよう…遅れるって連絡入れなきゃいけないのに…)公衆電話は近くにない。鍵を開けたままでは、出かけられない。近所づきあいはしていない。玲子のアパートは独身の勤め人ばかり。ほとんどが出勤したあとだろう。(まだ、誰か残ってる時間かなぁ…)時計を見て、玲子は驚いた。12:31。(さっき、7時だったのに!)時計も故障だろうか。テレビをつけてみた。だが…映像が出ない!チャンネルが替えられない!(どうして?)コントローラーを振ったり、テレビを叩いたり、そのうち、やっと画像が映った。「六時のニュースです。」(夕方?!)一体、何がどうなっているのか。玲子は頭が痛くなってきた…。夜、同僚Aさんが玲子さんのアパートを訪ねてきました。無断欠勤なので、心配になったのです。玄関は施錠されており、テレビの音がしました。しかし、携帯電話をかけても、玲子さんは出ません。Aさんは不審に思い、不動産屋に連絡して、部屋を開けてもらいました。そして、発見しました。玲子さんが倒れて、冷たくなっているのを…。朝、出かける仕度をしている最中に倒れたらしい、と、いうことです。
2004/07/10
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これから、贈り物は全部コーヒー豆にしてもらいたい。父がそう言い出したのは喜寿を過ぎてからだった。 コーヒー好きの父は、自分で豆を挽き、毎日飲む。豆代もばかにならないから、と父は言う。「すぐなくなるので、豆はいくらもらってもありがたい。お前の家の近所のコーヒー店、あそこが安いからよろしく頼む。安い豆でいいからな。」 さて御中元。件のコーヒー店で、私は困ってしまった。「豆はどれがいいんでしょうねぇ?色々ありますねぇ。」「そうですね、好みですからね。」「何でもいいと言われているんですけど……。」「それなら、ブルーマウンテンはどうでしょう?自分で買われる方は少ないので、贈り物にいいと思いますよ。」「なるほど。他の豆より高いですねぇ。それをお願いします。」 受け取った、と父から電話。「あんな高い豆もったいない。」「値段なんか気にしないで。今度行ったら飲ませてね。」 数日後、久しぶりの実家。挽き立てのコーヒーを淹れながら父は言う。「ブルマンは旨いが、私には贅沢すぎる。次は安い豆でいいからな。」(たまにはいいのに)と私は思う。 ブルーマウンテンは美味しかった。私はコーヒーの味にはこだわらない。だから、父が淹れてくれたコーヒーはいつも美味しい。ローストした豆を飲む分だけ手挽きで挽く。淹れるのはアルコールランプのサイフォン式だ。(今まで豆の銘柄なんて気にしてなかったけど)挽き立ての香りを嗅ぎながら私は思う。(またこれを買ってあげよう)。 そして御歳暮。再びブルーマウンテンを贈る。やがて、父からまた電話。「あのな、遠まわしに言うと通じないので、悪いがはっきり言わせてもらうけどな……。コーヒー豆は、同じ銘柄の中でも味に差があってな。私は根が貧乏性だから、割安で質のいい豆にあたると嬉しくなるわけでな。店によって、この銘柄はいい、というのがあるわけで……。私の場合は、本当にいいブルマンの味がわかるから、値段に見合った味でないと、旨いが……どうもな……。」「お父さん。」と、私は言った。「お薦めの銘柄は何ですか?」「あー、あの店は……ブラジルだなぁ。」それじゃ次はブラジルにしよう。またごちそうになりに行くからね。
2004/06/10
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私は生まれたとき、呪いを受けました。『16歳の誕生日に糸車のつむに指を刺して死ぬ』、と。良い魔法使いが呪いの効果を変えた。『死ぬのではなく、百年眠るように』、と。やがては目覚める。その時、私の両親も知人も生きてはいないでしょう。しかし、私は生き返る。死ぬわけではないのです。それで、充分ではないですか?私の両親にとっては充分ではなかったようです。国中の糸車を焼き捨てた。決して私が糸車に触れることのないように。なぜ、両親は、糸車を焼いたのでしょう?なぜ、私に、糸車の操り方を覚えさせようとは考えなかったのでしょうか?16歳の誕生日前なら、怪我をしてもいいのです。失敗して指を刺しても、魔女の呪いは効果がない。16歳の誕生日のその日だけ、糸車に触れなければいい。私は糸車を知らなかった。決して危ないものではないのに。さわると危ない部分がどこなのか、知らなかった。だから、「つむ」で指を傷つけたのです。目覚めた時、私の前には、生涯の伴侶が立っていました。両親も知人も、みな、私とともに眠ったので、私が眠りにつく前の百年前と、何も変わらなかった。私は夫を愛しています。私は両親に感謝しています。でも…胸のうちに湧き上がる消せない疑問。(私は本当に幸せですか?)
2004/05/30
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彼が煮詰まっているのは知っていた。その日も、退社時間をとうに過ぎても彼は机に向かっていた。残業組も彼にキーを預けて全員帰宅した。それが最後だった。翌朝、彼の机には、人間大の繭があった。「繭になるタイプだとは思わなかったなぁ」「きれいねぇ、意外だわ」そして同僚は彼を日陰の窓際に移した。「孵るかねぇ」「繭は、孵化率が低いからね」そこには同じような繭が並んでいる。「うちの課は多いね」「動く人間が少なくなりすぎたんじゃない?」「あ、一番古い『窓際さん』が来月異動だって」「働く人間と交代かぁ」「異動がきっかけで孵ることもあるらしいよ」昼休み。昼食に出た社員のうち、一番早く持ち場に帰った若手が発見した。中堅社員の一人が昼休み前と同じ姿勢で、机に向かって硬直している。「おい、蛹だよ」「繭と蛹が同じ日に出るなんて、珍しいな」「蛹は、動かさないんだっけ?」「そうそう」同僚は、蛹のある机の周囲にテープを張り、近寄る者がないようにする。「主任が蛹じゃ、当分、仕事にならんな」「まあ、すぐ孵るよ。蛹だから」その日は全員定時に帰り支度を始めた。廊下に出ると、人影が。やや白髪交じりの男が、歩いている途中のまま固まっている。「やあ、となりの課長はまた脱皮ですか」「何回目だっけ、すごいよなぁ」と、話しながら一団が通り過ぎようとしたとたん、となりの課長がずるん、と皮を脱いだ。「あ!君!そういえばこの間の件だが…」何事もなかったかのように仕事の話。話しかけられた者も職場に踵を返す。「…何か、思いついたんだな」「新発想を考え付くにも色々なタイプがいるけど、ああやって何度も思いつくのがすごい」「脱皮タイプは、考え始めてからまとめるまでが早いし」無人のフロアに蛹と繭。今夜も飲み屋でひとしきりいつもの会話が繰り返される。(…新しいアイディアが出ない会社は発展しないってのはわかるけど、俺はアイディア出す繭なんかにならなくてもいいよォ。フツーの人間で生きていられればさァ。会社は繭にも給料くれるけど、ずっと孵らないこともあるんだぜ…。そしたら一生、繭のまま窓際さ…。)
2004/05/02
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「次男だからっておさがりばかりじゃかわいそう」と、おばあちゃんが言ったので、ぼくはママとおばあちゃんと、お洋服を買いに行った。「なんでも好きなの選んでいいからね。」と言われて嬉しかった。デパートで、ぼくは「これ!」と言ったら、ママは「これは女の子のなのよ」と言った。赤いお花のシャツだ。何で?と思ったけど、「じゃぁ、これ!」と、別のにした。おばあちゃんが「また、女の子のだわ。えいちゃん、そでがちがうのよ。別のにしなさい」と言った。金魚のシャツ、かわいいのに。何でも好きなの買っていいって言ったのに。ぼく、鼻の頭が熱くなって、目がぷくっとしてきた。そしたら、ママが「えいじ、コレは?緑のカメさんよ」と言って見せてくれた。ミドリガメ!うん、これにする。次は、ズボンだ。「これ!」ママも、おばあちゃんも困っている。「…えいちゃん、これは、キュロットスカートって、女の子のなんだよ…」うそだ、ズボンだよ?青くて、おまたが赤のたてよこじまの、かっこいいズボンだよ。「前に、おしっこするチャック、ないでしょ?女の子のだよ」ずるい!ずるいずるいずるい!なんでも好きなのって言ったのに。ぼくが選んでいいって言ったのに。お兄ちゃんはいつも新しいお洋服なのに…。目がじわっとしてきた。うわーん。わーん。わーん。ズボンはとうとう買えなかった。夜、ちょっと目が覚めたら、パパとママとおばあちゃんが話している。「えいちゃんは、女装するようになるんじゃないの?」と、おばあちゃん。「どんなの選んだんだ?」と、パパ。ママが、「赤い大きなハイビスカスのシャツと、和風柄の金魚のシャツと、青のデニム地で別布の赤のタータンチェックが動くと見えるようなキュロット。センスがいいのよ、あの子。それに、毎日花に水をやってるじゃない?花が好きなのよね…。」うん、あのお花はかっこよかった。なんで女の子のなんだろう?(大人になったら)とろとろしながら、ぼくは考えた。(自分で、好きなお洋服を買うぞ…)。テーマは『スカーティスト』
2004/04/06
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北風と太陽が、旅人のマントを取る競争をして、太陽が勝った。世間は「さすが太陽さんだ」とたたえたものだが、中に、「ばかじゃないの」と、つぶやくものがいた。それは野原の小さな草だった。(どちらが偉いか、なんて、決めようとするのもばかげてるし、それをマント剥ぎ競争で決めるというのもばかばかしい。上に立つものがそんなことでは困るわい)、と続く言葉は飲み込んだものの、草の不遜な発言を、ご注進に及ぶ者がいて、太陽はもとより北風までもが、すっかり怒ってしまった。「生意気な草を懲らしめよう」太陽と北風は結託した。野原を太陽がカンカン照らし、蒸発した水分を北風が運んで、雨が野原に降らないようにした。みるみるしおれる小さな草。だが、世界は太陽と北風だけが支配しているわけではない。南に運ばれた暖気の固まりは、とうとう台風になってしまった。台風は北上し、野原を嵐が襲った。台風一過。地面に張り付いた草は、再び起き上がった。そして、小さな花をつけた。北風がたちまち襲い掛かり、小さな草の小さな花を吹いて吹いて散らしてしまった。太陽と北風はやっと溜飲を下げた。しばらくすると、草は綿毛の種をつけた。あわてて北風が吹き飛ばす。すると、種は楽しそうに風に乗り、未知の土地へと旅立っていった。
2004/03/31
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大通りに新しいゲームセンターが出来た。最近のゲーセンは、開放的で明るい。通りから中を見通せる作りだ。親子連れやカップルも大勢いて、にぎわっている。私も中に入ってみた。私が好きなのはクレーンゲームだ。オープンしたての店はとりやすく設定されている。それでも景品によって取れ方は違う。チープな景品をざくざく取れる台。景品補充直後がとりやすい台。取りにくいように積みなおすので、補充直後はかえってとりにくい台。そんな台は、他の客がくずした後を狙う。ゲーセン限定景品の台は、とれそうでとれないように積み方が工夫されている。クッションのような大物もあり、一回のゲーム代が高い。「とりやすい、ちょろい台」を物色しながらゲーム台の間をうろつく。他にもそんな客がいる。時間つぶしに人のゲームを見ている親子。なけなしのこずかいを、どれに使うか迷っている子供。そんな中に、いた。黙々と景品を取り続けるオバサン。表情は、花粉症のマスクが顔を覆っていてわからない。硬貨を機械にどんどんつぎこんで、ざらざら景品を落としている。子供が気づいて寄ってきた。「ありえねー!」などと騒ぎ始めると、とたんに返金を押してゲームをやめ、景品を回収して黙ってゲーセンを出て行った。グッズを集めているようには見えない。なんでもいいから見境なく取っているようだ。あんなに取ってどうするのだろう?換金できるわけでもないのに…。オークションにでもかけるのだろうか。その日はそれで過ぎた。だが数日後、別の店で(あれ?他のゲーセンでも見かけたぞ?同じオバサンか?)いや、違う。だが雰囲気が似ている。花粉症のマスク。大量の景品。気をつけていると、あちこちのゲーセンに、同じような「オバサン」がいる。他の客とは空気が異質だ。ゲーセン荒らしのオバサン組織でもあるのだろうか?景品を換金する手段があるのだろうか?何故、不自然なほど多くの景品を取るのだろう…。とうとう、気になって、ひとりの「オバサン」のあとをつけてみた。「オバサン」は、繁華街を離れ、人気のない小道へと。気づかれないようについていく。誰もいない袋小路で「オバサン」は、立ち止まった。と、…。「オバサン」の背中が、ぱく、っと割れた!そして、景品の袋を包み込むように、オバサンの体はくるりと裏返り…しゅ、っと空中に消えてしまった…。
2004/03/29
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暇だ。定年退職して、貯えもそこそこ。子供は独立し、妻との仲もそこそこ。悠々自適とは言うが、日がな一日することがない。仕事で培った知識もノウハウも、日常生活では何の役にもたたず、再就職やボランティアもする気がないし、ただただ時間を持て余している。今までは仕事で使っていたパソコンに向かい、目的もなくインターネットをするようになって、初めて個人のホームページなるものをのぞいてみた。何だこりゃ。大半は、雑感やら、詩やら、他愛もない雑談。日記を世界に発信して、どうしようというのだ。また、それを読む者もいるんだから、あきれたもんだ。日々感じることを書くのが悪いとは言わんが、もっとこう、一本筋が通ったことを書けんものか。そう思ったら、自分でもホームページを立ち上げていた。思いつくままに書き連ねるのは、大抵仕事を通じて感じていたことである。今までの人生がそれ中心だったから仕方ない。しかし、ハウツーというわけでもなく、いわば、随想である。他人の役に立てるために書いているのではない。自分のためのものだ。だが、カウンターが回っているところをみると、読む人がいるらしい。あきれたもんだ。我ながら、じじいの繰言と思うのに、書きためるにしたがって、カウンターの回転が速くなってきた。どうやらファンもいるようだ。気が知れんな。「こんなわけのわからんホームページ、書く奴の気が知れん」と自分でも思っているのに。『徒然草』の冒頭文を現代風に焼き直してみた。兼好法師は、多分、こんなじじい。
2004/03/25
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帰宅すると、彼女はテレビを見ていた。いや、見入っていた。「おかえりなさい」着替えながら、俺は言う。「面白いのやってるか?」「うん」番組は、自然ドキュメンタリーらしい。食虫植物が虫を捕らえている。「変よね。動いて、食べ物を捕まえるのに、植物のままなんて。どうして動物に進化しなかったのかしら。」そうつぶやくと彼女は立って、食卓に向かう。俺の食事だ。そして、「今日のニュースはね、事件と、外国で事故。」新聞を開く前に報告のように話す。それが日課になっている。ふーん、と聞き流しながら、俺は思う。(また、日がな一日テレビを見て過ごしたらしいな)。彼女は、ほとんど外出しない。以前、退屈しないのか、と聞いたら、退屈したら寝てしまう、と、言う。何も食べずに寝ていることもあるらしい。こういうのを「引きこもり」と、言うのだろうか?最低限の近所づきあいは無難にこなしているらしいのだが。外出の必要がない生活だ、とは、言えるかもしれない。無農薬野菜の宅配を注文しているし、その他の食材は週一度まとめ買いをすれば済む。それにしても、家にばかりいるのでは、健康が心配だ。「退屈なら、犬を飼ったらどうだ?」と、言うと「ダメ」。「どうして?」「犬はねぇ、外に出ないと死んじゃうのよ。毎日散歩させないと。」だから、いいんじゃないか、と、思うが、それ以上は言えない。「猫はどうなんだ?」「毛が抜けるから、イヤ。」彼女は緑茶を飲んでいる。先に食事を済ませたのだろうか。以前、動かないから食べないの、と、言っていたっけ。そういえば、食べているのをあまり見たことがない。つけっぱなしのテレビが解説を続けている。“食虫植物も普通の植物と同じで、虫を食べなくても枯れる事はありません。養分が足りなくて、育ちが悪くなることはあります。動くのが面白いといって動かしすぎると、疲れて弱り、枯れてしまう事もあります…。”
2004/03/21
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…うちの学校の、 職員玄関、 きらい…夕方になると、中年のおばさんが立ってる。玄関から、校舎の中をにらんでじー、っと。怖いのは、おばさんの立ってる所。傘立てと壁の間…10センチぐらいの。何で職員玄関が「鬼門」にあるんだろう?鬼門の玄関は、霊が入って来るんだよ。生徒昇降口が鬼門にあるより ましだけど、あたしは放課後、部活で、学校のまわりを毎日走るから…外周道路を五周。職員玄関のある方向の曲がり角、正門に向かう道に入ると 突然、…車は、無免許だった…その時、職員玄関に引き寄せられて校舎の 中から 出られないいつまでも 走り つづける 夕方になると…
2004/03/12
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えつこは、さんすうがちょっとにがてです。(わからないわけじゃないんだけど。)「メロンゼリーが4こ、ブドウゼリーが3こあります。ぜんぶでいくつですか」これはかんたんです。(えつこ、メロンゼリー好き。ブドウゼリー大好き。7こもあるんだ、いいなぁ)こたえは「7こ」、と、かきました。「ももゼリーが5こ、りんごゼリーが5こあります。ぜんぶでいくつですか」(ももゼリーきらい。りんごゼリーきらい。10こもあるんだ、いやだなぁ)えつこはこたえに「きらいです」とかきました。「みかんゼリー16こ、いちごゼリーが9こあります。ぜんぶでいくつですか」(みかんゼリーもいちごゼリーもすきだけど、25こもたべられない)えつこはこたえに「おおすぎます」とかきました。どうしてさんすうでは、へんなことばかりきくのでしょう?えつこはふしぎでしかたありません。せんせいは「さんすうは、すうじでこたえるのよ」といいました。(でも、たべないぶんや、たべきれないぶんまで、かぞえなくてもいいんじゃないのかなぁ)さて、がっこうがやすみのひ。だいすきな いとこのけいくんとようくんがえつこのうちにあそびにきました。おみやげはゼリー。おおきなふくろにゼリーがいっぱいです。けいくんがりんごゼリーを5こたべました。ようくんがブドウゼリーを4こたべました。えつこはみかんゼリーを6こたべました。いちごゼリーとメロンゼリーは三人が1つずつたべました。(たくさんたべたぁ、かぞえてみよう)「りんごゼリーが5こ、ブドウゼリーが4こ、みかんゼリーが6こ、いちごゼリーが3こ、メロンゼリーが3こ、ぜんぶでいくつですか」21こです!そのひから、えつこはさんすうがとくいになりました。たべないぶんや、おおすぎるぶんは、けいくんとようくんにわけてあげるからです。あたまのなかでね。この記事にトラバしました。
2004/02/28
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妻を殺したい。そう感じるのは夕食の時だ。「…固いな…」「え?」「味噌汁の大根が固い」「あら?煮えてなかった?」「旨いな、歯ごたえがあって。ああ、旨い」食後に一人でビールを飲みながら、ふつふつと怒りがわいてくる。(何故、あそこで「ごめんなさい」と一言いえないんだ…)。妻は台所で洗い物だ。空になったビール瓶を手に妻の背後から忍び寄る。ビール瓶を振り上げて、そのまま頭部めがけて振り下ろす。翌日、遅くなる予定だったが早く帰れた。「ごめーん、夕飯ないのー」と、妻。「ガスコンロにかけるだけのなべやきうどんがあったよな、あれ、作ってくれ」できたうどんを食べていると、七味唐辛子のパックが煮込まれている…。台所の妻の横で、やかんが沸騰している。ゆっくり背後から近づいて、やかんの熱湯を…。「やだ、また私殺されちゃったの?」と、妻。「あらやだ、唐辛子ないなーと思ってたのよ、ごめーん。」「もうちょっと、心を込めて謝れよ。」と、私。殺人はゲーム上の話だ。DVを起こす前に、仮想世界で発散し、妻は間接的に、私の怒りの理由を知る。コミュニケーションツールである。「お前はやらないのか?ストレス発散になるし、口に出せない不満を伝えられる。ただのツールだぞ。」妻は「ふふ」と笑っただけだった。
2004/02/26
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珈琲会社の公募に出したら、試供品が送られてきた。参加賞だ。もらえるとは思わなかったから、かなり嬉しい。夫の帰宅を待ちかまえ、玄関で言った。「簡易ドリップ珈琲の試供品もらったの。食後に飲もうね。」アロマリッチな商品らしい。いつものようにカフェオレで淹れる。夫は「せっかくならブラックで飲みたかったのに。香りを楽しみたいから。」「あら?じゃ、二つもらったから、次はブラックで淹れるね。」「一つで二杯淹れちゃったのか。薄くなって、かえってもったいないぞ。」翌日の夕食後はブラックで淹れた。まず夫に渡すと「お前の分は?」「ん、私のもあるよ。」「そうか、おいしいな。」「おいしいね。」本当はね。私の分は、インスタントコーヒーなのよ。
2004/02/23
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